第七話 side:幼馴染

 あの日、世界はおかしくなってしまった。

 世界中を襲った未曽有の大災害は、私の大切な人と一緒に平穏な日常も奪い去っていった。


 外を闊歩するのは、邪悪な化け物。

 大災害以降、世界中にあふれた怪物は大勢の人間の命を奪った。

 もう、今までの生活には戻れない。


 平和だった毎日はもう戻ってこない。


★★★

 

「おはよっ、やまと」

「おう、おはよーあかね」

 

 いつもの通学路をいつもと同じ相手と歩いて学校へと向かう。

 そんないつもと変わらない日常。


「眠そうだね。また夜遅くまでゲームしてたの?」

「おお、当たり。さすがあかね」

「もうっ。ちゃんと寝ないと授業中に眠くなるよ?」

「大丈夫大丈夫……ふわぁ」


 隣を歩くのは、海崎やまと。

 小さな頃からの幼なじみで、私の大好きな人。

 毎日一緒に登下校してるし、私の努力もあって今のところやまとにわるい虫はついていない。

 クラスメイト以外は、当然のように私とやまとが付き合っていると思っているだろう。

 

 残念なのは、そんな事実がないこと。


 むう。

 叶うなら現実に出来ればいいんだけどな。

 今のところ、上手くいっていない。


 女としては意識してくれてると思うんだけど。

 せめて卒業までには……。


「ん……地震か?」

「あれ、そうみたいだね。……結構大きい」


 怖い。

 日本という国に住んでいれば、何度となく体験することになる地震だ。

 しかし、今回の揺れはいつもより激しい。


 ミシ……ミシ…………。


 変な音がした。

 直後、更に大きな揺れと共に地面が割れた。


「えっ!? きゃっ」

「おお!?」


 一瞬にして、足元に大きな谷が出来あがった。

 落ちたらひとたまりもない。


 私は大きな揺れと地割れによって体勢を崩していた。

 それは運悪く、地割れの方へと。


「あっ」


 ――落ちる。


 そう思った瞬間、私はやまとに腕を引っ張られて、地面に尻もちをついていた。


 お礼を言おうとした。

 そう思った。

 だって、下手したら死ぬところだったんだから。

 だが、言葉は出なかった。


 顔上げると、私を助けた彼の身体が、さっきの私と同じ体制になっていた。私を無理に引っ張った反動だと、気が付いて目を見開く。

 

 ただ彼は、心底安心したような顔で私を見ていた。


「よかった」


 心からだとわかる、安堵の声。

 今彼は落ちいくというのに。私を助けたせいで、自分が死にかけているというのに。

 そんなことを言った。

 彼のその言葉を聞いて、慌てて手を伸ばしても、もう手は届かない。


 

「ああ…………あああ……」


 彼は暗闇の中に落ちていった。


「な、んで?」


 現実を受け入れられない。


「いや……」


 全身の血液がすべて抜けてなくなってしまったみたいに、身体に力が入らない。


「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 遠くで警報のサイレン音が響いていた。


★★★


 人生最悪の日。

 この日、世界は変わってしまった。


 未曽有の大災害は、ただの始まりに過ぎなかったのだ。

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