第六話 宝箱の中身

 レベルが限界に達してしまった問題は解決した。

 進化という、最高の手段によって。


 残された問題は――。

 

 あの宝箱。

 開けるか、否か。

 あの宝箱に触れただけで罠が発動したんだ。開けたときにも罠が仕掛けられてる可能性だってある。

 安全をとるなら開けるべきじゃない。

 

 まあ、開けますけどね。

 折角頑張ってネズミ倒したんだから。


 それに、今はネズミが何匹来たとしても負ける気がしない。


 意を決して宝箱の取手を掴む。

 ネズミは……来ないな。


 よし、開けよう。


「グゲ……?」


 罠はなかった。

 そこはまず、一安心だ。

 宝箱の中に入っていたのは……丸い水晶?


 キラキラして綺麗だけど。

 宝箱の中で、水晶が淡く光っている。

 部屋に置いておけば幻想的でおしゃれな照明になりそう。


 いや、それよりも何なんだ、これ。

 推定ダンジョンにある宝箱の中に入っていたんだから、ただの綺麗な置き物なわけないしな。


 一旦、持ってみたが、なんともない。

 急に爆発する、なんてこともない。

 ただ、淡く光っているだけ。


 もしや、本当にただのライトっていうオチ?

 間接照明?

 何かに使えたりしないの?


──────

 スキルオーブを使用しますか?

──────


 おおっ?!

 目の前にまたゲームみたいなウィンドウが出現した。

 急に出てくるな。ビビるから。

 ネズミのドロップアイテムには何の反応もしなかったのに。


 それだけこの水晶が特別ってことか?

 

 えっと、スキルオーブ?

 今まで聞いたことのない言葉に少し困惑する。

 この水晶って魔法的なアイテムなのか?


 使用しますか、と言われても。

 使ったら何が起こるのか知らないと判断のしようがない。名前から連想はできるが、スキルに関する何かなのだろうか。

 

 …………。

 そして、そんな説明はしてくれないってわけですか。


「グギャ」


 いやまあ、使うけどね。

 折角大量のネズミを倒して手に入れたんだ。

 使えるのに、このままここへ放置するのは勿体無い。持っていくのは無理だし。


 けど、どうやって使えばいいんだ?

 念じる系?

 

 えー、使用します!


「グゲ!?」


 オーブが急に光り出した。


 え、大丈夫? 爆発したりしない!?

 持っていたスキルオーブが眩しいぐらいに光を放ち――。


 ……って、ああ!

 溶けるように消えてしまった。


 近くに落としたりもしていない。

 よく分からないが、使用できたってことでいいのか?


 身体には特に変化は感じられない。

 ステータスも確認しておくか。


──────

『ヤマト』

 種族:ホブゴブリン

 レベル:1/20

 職業:

 スキル:暗視 治癒 アイテムボックス

──────


 特に変化は……っ!?!?


 はあっ!?

 スキルの項目にとんでもないスキルが増えてる!?

 は、え!?


 いやいや、落ち着け。

 どうせ見間違い……マジだ。

 ある。

 なんかスキル増えとる。


 進化したことで増えたスキルは治癒のみ、だったはず。


 そうか。

 スキルオーブはスキルを増やすことが出来るアイテムってわけか。驚くべき神アイテムだ。


 まあ、どうせ暗視みたいなよくわからないスキルだろって。

 ……アイテムボックスだ。


 うん、つまらん冗談はこれぐらいにしといて、マジだ。

 本当にアイテムボックスだ。


 これってあれだよな。

 俺の知識が正しければ、アイテムを異空間に収納できるスキルだよな?

 もしくはそれに類するスキルで間違いないよな?


 期待させてから落とすとかないよな?


 ああ、そうだ。

 1回使ってみればいいんだ。


 そしたら、クソスキルか使えるスキルなのかを判断できる。

 幸い、治癒と違って怪我がなくても発動しているのかわかりやすい。


 丁度いいことに、この部屋にはネズミどものドロップアイテムが大量に落ちてる。

 こいつらを収納出来れば、もうヘンゼルとグレーテルしないで済む。

 勿体ないしね。


 よし、やってみよう。

 

 使い方は…………なんか分かる。

 治癒の時と同じだな。

 この感覚。

 使ったこともないのに、アイテムボックスの使い方が理解できている。

 脳みそに勝手に情報を刷り込まれてるみたいな。

 これがスキルを取得するってことなのか。


 まあ、便利だからどうでもいいけど。

 

 よし、やってみよう。

 ネズミのドロップアイテムに手をかざして念じる。

 

 ――アイテムボックス。


 すると、この部屋に散らばった謎の石や、小さな牙がすべて一瞬で消えてしまった。

 この時点ですでにテンションぶち上げだが、まだ落ち着け。まだ確かめないといけないことがある。

 

 落ち着くために深呼吸して、もう一度念じると右手の上にたった今消えたはずの謎の石が1つ出現した。

 

 静かに天井へと拳を突き上げる。ガッツポーズである。

 まさかアイテムボックスなんていうスキルを使えるようになるとはな。

 スルーしないでこの部屋に来てよかった。


 さて、お試しで出したドロップアイテムはアイテムボックスに仕舞っておいて、と。

 

 これ凄いわ。

 異空間からの出し入れ自由自在。

 本当に魔法みたいだ。


 いいの? こんなの使えるようになっちゃって。

 

 大量のネズミにはビビったが、あれだけの数を相手しただけの価値はあった。

 スキルオーブ。何度でも言うが、とんでもない神アイテムである。

 

 1つ難点を上げるとすれば、使ってみるまでどんなスキルが手に入るのかわからないぐらいか。

 そんなこと気にならないけどな。


 もっと大量にないだろうか。

 大量のスキルがあれば、ホブゴブリンだろうと関係なしに強くなれそうだ。

 

 まあ、こんなこと考えなくても、スキルが増えるなんていうレアアイテムがそう何度も手に入るわけもないか。

 今回は運が良かった。

 そう思っておこう。


 そろそろ、この部屋出るか。

 宝箱以外には気になるものはないし。

 

 洞窟探索、もといダンジョン探索を再開するとしよう。

 

 部屋を出たところに、ネズミが洞窟の奥から走ってくるのが見えた。

 さっきの戦いで狩りつくしたと思ったんだけどな。


 丁度いい。ホブゴブリンの力を試させてもらおうかね。


「キシャー!」


 飛び掛かってくるデカネズミ。俺がホブゴブリンになっていてもお構いなしらしい。

 もはや慣れたものである。


 タイミングを合わせて、全力で拳を振るう。


 グチャッ!


「グゲッ!?」

 

 ネズミの頭が俺の拳に当たって潰れた。

 一瞬にして、非常にグロテスクな現場になってしまった。

 思わず自分の手を二度見である。


 ……おお、消えた。

 

 よかった。

 すぐに消えてくれたからいいが。

 でなきゃ後片付けが面倒くさい感じになっていただろう。


 この世界のシステムに初めて感謝した。

 

 にしても、俺の力は滅茶苦茶、強くなっていたらしい。

 進化ヤバ!

 変わりすぎだろ。

 レベル1でこの強さか。


 レベルは、上がらない。

 流石にホブゴブリンになると、ネズミ一匹倒したぐらいでレベルは上がらないか。


★★★

 

 しばらく歩いて、下へと続く階段を見つけた。

 うん、完全に予想通りだ。

 予想通りすぎて驚きはあまりない。


 ダンジョン。

 差し詰め、ここは第一層といったところか。


 確証があるわけではないが、ここを降りたらネズミよりも強い敵に会えそうだ。

 ネズミを倒すよりはレベルの上りも良いだろう。

 

 それに、まだ外に出るのは不安だ。

 ホブゴブリン程度じゃあ、人間に出会ったら殺されてしまうかもしれない。俺の知るファンタジー世界ならそうだ。ドラゴンに出会いでもしたら即死だろう。


 強くなれることがわかった以上、更なる進化を目指して先に進ませてもらおうじゃないか。

 いざ行かん。

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