第五話 はじめての進化

 あー、死ぬかと思ったー。

 

 連戦に次ぐ連戦も終わり、うるさかったネズミの鳴き声も止んで静かになっていた。部屋には大量のドロップアイテムが散らばっている。

 俺は一体、どれぐらい戦ってたのかね。

 少なくとも30匹は倒した気がする。

 

 いつから俺はネズミ駆除業者になったんだろうか。

 そもそも、この洞窟のどこにあんな数のネズミいたんだよ。


 いや、数もそうだが問題はタイミングだな。

 俺が宝箱さわった瞬間にぞろぞろと部屋にやって来やがった。

 今回のことでより、確信した。

 この宝箱といい、大量のネズミといい、もしかしなくてもダンジョンだろ。この洞窟。

 

 まさかこんな罠部屋みたいなのがあるとはな。

 まあ、ネズミも来なくなったし、少しはここで休めるだろう。

 

 てか、痛い。

 めっちゃ痛い。

 油断してたわけじゃないんだが、結構噛まれたり引っ掻かれてしまった。

 全身傷だらけである。


 戦ってる最中はそうでもなかったのに、落ち着いたら痛くなってきた。アドレナリンは偉大だったらしい。

 くそぉ。


 これぐらいで済んで良かったと思えばいいのか。

 

 宝部屋のトラップに掛かって大量のモンスターに襲われるとか、絶対に死ぬルートだろうし。

 相手がネズミじゃなかったら確実にそうなってた気がする。

 けど、生きてる。

 というか、本当によく生きてたな。俺。

 まあ、これで心置きなく宝箱を開けられるってもんだ。


 いや、その前に。

 まだあったな。

 確認しないといけないことが。


 俺は戦っている間、命のやり取りに快感を覚えていた。

 戦えば戦うほど、強くなる。

 一度のレベルアップの変化は微々たるものだが、最初に比べれば確実に強くなった。

 その充足感に満たされていたのだ。


 何度もネズミを倒して気付いたんだが、モンスターを倒すのは…………気持ち良いのだ。

 変な意味じゃなく。

 なんだろうな。

 経験値的なのが入ってくるからなのかな。

 細かいことはよくわからん。


 それを連続で繰り返して少々ハイになっていたのは確か。


 だが、それもここまでか。

 

 戦いの途中で、レベルが限界に到達した。マックスだ。

 この部屋に入る前はレベル5だったしな。

 あの数を倒したのだから、当然といえば当然。

 

 俺という器がいっぱいになってしまって、どれだけネズミを倒しても溢れてしまっていたのが感覚で理解できた。


 ステータスを開いて、レベルを確認しても、それは正しかった。

 俺の異世界成長譚もここでおしまい……。


──────

 レベル:10/10 ☆★

──────

 

 あれ。

 レベルが10になっているのは予想してた通りなんだが。

 なんか、めっちゃ点滅してるのは何故だ。

 クリスマスのイルミネーションみたいになってる。そんな色鮮やかじゃないけど。


 これはもしかして何か、あるのか?

 レベルマックスになった恩恵が。


──────

レベルが最大です。進化しますか?

──────


 うおおおおおおおおおお!?!

 いや、あるんじゃないかとは思っていたけど、まさか本当にあるとは。

 頑張ってレベルを上げてきて良かった。

 

 俺をゴブリンに転生させた神様がいるならブン殴ってやろうと思っていたが、進化できるなら話は別だ。

 

 進化。

 上位の存在に変化出来る、あれだろう。

 つまり、強くなれるのだ。


 こんなのしないわけがない。

 俺の異世界成長譚はこんなところで終わらないのだ。


 迷わず、YESだ!


「グギャ…………」


 う、うおおおお?

 身体が熱い。

 心臓が物凄い勢いで鼓動している。

 なんか全身から蒸気みたいなのも出てるし。


 身体が作り変わっていく。

 ゴブリンから、更に別の存在へと。

 だが、不思議と恐怖や不安はなかった。

 

 変化は数分続いた。


「グ、グゲ?」


 終わった、みたいだな。

 これで進化完了か。案外あっさりしてるんだな。


 喋れるようになるんじゃないかとも思ったが、それは無理と。まあ、それはあまり期待もしてなかった。

 そんなことよりも身体の変化はどうなってる?


 少し身長が伸びただろうか。目線が高くなってる。

 それとゴツくなったような感じがするな。力も強くなっていそうだ。

 

 奇妙な感覚だ。

 急激に身体が変わったというのに違和感もなく、それが馴染んでいる。

 人間がこんな変化したら成長痛とか半端ないと思うんだが。

 痛みとか皆無だ。

 

 問題があるとすれば、腰に巻いてる毛皮がキツくなったきたぐらいである。

 早急に代わりを用意せねば。

 次に進化できたときに着られなくなりそうだ。


 ステータスも見てみるか。

 どんな種族になったのか気になるし。


──────

『ヤマト』

種族:ホブゴブリン

レベル:1/20

職業:

スキル:暗視 治癒

──────


 種族は、ホブゴブリンね。

 そのまんまゴブリンの上位種って感じだな。ゴブ系卒業ならずか。

 まあ、進化は進化である。どれぐらい強くなったのか、早く試してみたい。


 今の俺は不思議な万能感にあふれている。

 今なら何でもやれそうな感じだ。

 まあ、慢心はしないようにしないとだな。

 ゴブリンであることには変わりはないのだから。

 今の俺はまだドラゴンに踏み潰されたらぺちゃんこだ。


 ただ一つ言えることは、ゴブリンだったときよりも確実に強くなってる。

 壁にぶち当たったと思っていたところへの、この進化だ。テンション上がらない方がおかしいだろう。


 ネズミなんていくらでもかかってこいって感じだ。


 強くはなってるが、進化するとレベルは1からになるらしい。

 力が落ちたわけじゃないのはわかるが、レベル1だとなんか不安である。

 はやくレベルを上げたい。

 

 それと、ホブゴブリンになったことで上限が20になってる。

 種族によってレベルのMAXは違うんだな。


 また限界まで上げたら進化できると良いんだが。

 しばらくはそれを目標にレベル上げするか。


 さて、次はいよいよ気になるスキルだ!

 暗視のとなりに新たに増えた謎のスキル。

 治癒。

 進化したら新しいスキルまで手に入ってしまった。

 ホブゴブリンになったからホブゴブリンのスキルが手に入ったってことか。多分。

 

 なんだこのいかにも俺を癒やしてくれそうな神スキルは。

 

 効果は多分、傷を治せるって感じで間違いないだろう。名前の通り。

 どの程度の傷まで治せるのかは、要実験になってくるだろうが有用スキルであることには変わりない。


 治癒。なんと良い響きだろうか。

 このスキルは可能性に満ちている。

 

 傷を治せる。


 戦闘時にも役立つだろうが、それだけじゃない。

 更に大きいのは、魔物の俺でも人間との友好関係を築けるかもしれない、という点だ。


 例えば、傷ついた人間がいるとしよう。

 そこへ颯爽と現れた俺が傷を治してあげれば、このゴブリンは良い奴なんじゃないかと思ってくれるはずだ!

 

 この世界の人も、傷を治してくれた相手をすぐに殺そうとは思わないだろう。

 俺が魔物とはいえだ。

 

 ふっふっふ。

 異世界での生活にも希望が見えてきた。まだ初日だけど。

 

 実験の為にも早速スキルを使ってみたい。

 

 発動の仕方は感覚でわかる。

 なんだろうな。

 治癒するためだけの腕が一本増えたみたいな感覚だ。

 実際には、そんな腕はない。感覚の話である。

 

 って、あら。

 今気付いた。


 傷が、ない。

 

 さっきまで全身傷だらけだったのに、完全に治ってる。まだ治癒スキルは使っていない。試しに治してみようと思ったんだが。

 そういえば、どこも痛くない。

 いつの間に、と思ったが、進化だろうな。

 

 進化したら傷も治るらしい。

 ありがたや、ありがたや。

 スキルの検証が出来ないのは残念だが、まあ、いいだろう。

 怪我なんてしないに越した事ないし。


 このスキルは、怪我したときに試そうじゃないか。

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