第四話 宝部屋
「キシャアッ!」
飛び掛かってきたネズミもどきを、避けることなく拳で迎え撃つ。
来ることが分かってれば、対処もやりやすい。
ネズミ狩りとは言ったけどさ。
まさか本当にネズミしかいないとは思わないでしょ、この洞窟。
これで何匹目だっけ。
最初のあいつを皮切りに、結構な頻度でネズミが襲ってくる。
全員漏れなく飛び掛かってくるのはなぜだろうか。彼ら逃げたりしないんだよね。
殺意高すぎじゃない?
レベルが上がるから別に構わないけどもさ。
それから、新たな発見もあった。
毎度、襲ってくるネズミに大した違いはないが、倒した後、偶に小さい牙みたいな物を落とす奴がいたのだ。
これはあれだ。
ゲームで言うところの、ドロップアイテムという物じゃなかろうか。
死体が残らないところも含めて、本当にゲームみたいな世界だな。
ゲームみたいな世界なら、レアなアイテムでもあればいいんだけど。
こんな洞窟にあるわけもないか。
魔石はそこまでレア度の高い物じゃあないのだろう。みんな落とすし。確定ドロップアイテムというやつだ。
けど、牙は偶にしか落とさないから魔石よりはレア度が高いのかもしれない。
まあ、それも全て放置なんだけどね。
勿体ない気もするが、仕方ない。
持っていけないんだもん。使い道ないし、邪魔になるだけだ。
それに、ネズミ程度が落とすアイテムにそれほど価値があるとは思えないしな。
お陰で、結構な数の石を道に落としてきた。
気分はヘンゼルとグレーテルだ。
これで迷わないね。
この洞窟、一本道だけど。
ま、彼らのお陰でレベル上げも順調。
汚い石と汚い牙のことなんてどうでもいいのだ。
今のでまたレベル上がってるか、確認しておくか。
──────
レベル:5/10
──────
おお、上がってるな。
早くも5レベルだ。
弱いときにレベルアップしやすいのは、世のゲームと同じなのかね。
しかし、ううむ。
なんだか、素直に喜べないんだよな。
それというのも、思っていた以上にレベルアップによる成長が少ない。
若干、力が強くなった。
残念なことに、本当に若干だ。
1から5まで上げてだぞ。
レベル5でこの程度って。
10まで上げてもそんなに強くはなれないんじゃないかと不安で仕方ないんだが。
というか、あんまり変わらなそう。
ここから急に強くなるビジョンが見えん。
種族的な限界っていうのもあるのだろうか。
まあ、確かに滅茶苦茶強いゴブリンなんて想像できないけどさ。
異世界に来たっていうのに、些か夢が無さすぎじゃないかね?
このまま洞窟でネズミ狩りし続ける一生なんていやだぞ。
だがしかし、まだ、上限が10だと決まったわけじゃない。表記的にはそうなんだけども。
なんとかなると願いたい。
それも10まで上げてみたらわかるだろう。
今は黙って洞窟探索とレベル上げ……。
なんだ、これ?
「グギャ?」
考えながら歩いていたら、変な物を見つけてしまった。
いや、特段変というわけじゃないんだが、洞窟にあるのがおかしいのだ。
両開きの大扉。
洞窟の途中にある、どこかに続く扉だった。
なんでこんな所に扉なんかあるんだ?
急すぎてなんだか、不気味だ。
無視して先に進むことも出来る。
ただ、それは出来ないし、それはありえないだろう。
この洞窟に関して何かわかるかもしれないし、好奇心が抑えられない。
いい加減、変化のない洞窟に嫌気が差してきていたのだ。
明らかな人工物。
この扉だけ、周りの洞窟と雰囲気が全く違う。
間違っても、ゴブリンの巣にあるような物じゃない。
いよいよもって、予想は外れだな。さっきまでも完全にネズミの巣だったけども。
拍車が掛かった。
ゴブリンの巣じゃないなら、俺はなんでこの洞窟にいたのだろうか。
ここがゴブリンの巣だったら、説明も付く。
しかし、その気配もない。
今のところネズミしかいないしな。
もしかしたら、ゴブリンの体に俺の魂が入り込んだとかではなく、俺の身体がゴブリンに変化した可能性もある。
それなら他にゴブリンがいない説明もつくしな。
うーむ、よくわからん。
つまり、考えても無駄ってわけだ。
どっちだろうとどうでもいいしな。
とりあえず、こんな扉があったら開けるしかないだろ。扉の先には何があるか気になるし。
ここから外に出られるかもしれない。
鬼が出るか蛇が出るか。
周囲にネズミがいないことを確認して、扉を静かに押してみる。
重そうな見た目に反し、扉はあっさり開いた。
恐る恐る、中を覗く。
うわ、すご。
広がる光景に目を見開く。
遺跡みたいな雰囲気の少し広めな部屋だ。
どこかの遺跡に繋がってるのか?
いや、この部屋から更に繋がっていそうな雰囲気はない。行き止まりだ。
完全個室。
誰かが住んでたような感じもない。
あるのは、部屋の中心に鎮座する謎の箱。
そう、箱。
それもお宝の入っていそうな豪華の装飾の施された物が。
俺は、そっと扉を閉じた。
あれ、宝箱だよな。
見た目が完全に宝箱のそれだ。
尚の事、わからん。
やっぱりゴブリンの巣だったりするのか?
お宝をため込んでるパターンとかありそうではある。
だとしたら、ありがたくいただくんだが。
こんな如何にも宝箱の部屋です、みたいな部屋になるかね。部屋のど真ん中に宝箱をドンと置いてあるような。
この部屋まじで宝箱しかないし。
まあ、可能性としてありそうなのは、ダンジョン。
モンスターがいて、宝部屋があって。
非常にそれっぽい。
もしも、どこかに次の階層へと繋がる階段みたいなのがあったら確定だろう。
ここ異世界だし。
ダンジョンがあっても不思議では無い。
大丈夫だよな?
あの宝箱あけて。
まあ、あけるけどね。
宝箱の中身確認してみない事には何もわからん。ここで宝箱を開けない奴なんているわけがない。
改めて決意を固め、部屋に入り宝箱まで向かう。
うむ、完全に宝箱だな。これ。
近くで見ても、海賊が持っていそうな宝箱だ。
さて、失礼しますよ、と。
「キシャアアア!」
「キシャアアア!」
「グゲッ!?」
宝箱に触れた瞬間。
個室の外からねずみが威嚇をするように鳴き声をあげながら部屋に入ってきた。
なんだこいつら!?
一匹や二匹ではない。
大量のネズミが部屋になだれ込んできている。
どっから湧いてくんだこのネズミども。
いつの間にか大量に部屋を埋め尽くしていた。
なるほど。
ようやく理解した。そして、どこか納得もしていた。
これは罠だ。
宝箱に引き寄せられた愚か者を大量のネズミで包囲する。
こいつらにそんな知能があるのかわからない。いや、ないだろう。
が、状況から考えて罠としか思えない。
ハメられている。
これは、さっきの予想が当たっている可能性が高くなってきたな。
どうしたもんか。
ネズミによって退路は塞がれてしまった。
逃げることはできない。
くそが。
ただまあ、それなら戦うだけだ。
どいつからでも、掛かってきやがれ。
俺が構えるのと同時に、ネズミたちも動き出した。
飛び掛かってくるやつから殴り飛ばしていく。
1匹、2匹、落ち着いて拳を振るう。途中から数えるのをやめた。
強さは今までの奴らと変わりない。
ただ、数が多すぎる。
「キシャッ!!」
ぐっ。
腕にネズミが噛み付いていた。
噛みついているそいつを地面に叩きつけ、踏みつける。
この世界に来て初めてのダメージ。
だが、怯んでいる暇なんてない。間髪入れずに飛び掛かってくるネズミへと拳を振るってネズミを叩き落す。
こいつらを倒すことに集中するんだ。
止まったら死ぬ。
一体、何匹倒したらいいのか。
わからない。
ただ倒し続けるだけだ。
宝箱に釣られて罠にかかって、大量の敵に囲まれる。間抜けすぎる。
軽く絶望してもいい状況だと思う。
下手したら死ぬかもしれないのだ。
しかし、絶望はしていない。
何故だろうか。
楽しい。
俺は今、心からそう思っている。
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