第三話 第一村人発見
しかし邪魔だな、このステータス。
現状の確認も終わり、気持ちの切り替えは済んでないが、目覚めた洞窟の探索を始めた。
しかし、歩き始めて早々に問題が発生して、足が止まった。
ステータスが邪魔だ。
どこを向いてもずっと視界に入ってくる。上を見ようと、下を見ようとお構いなしだ。
これだと、仮に獲物を見付けても、戦闘に支障をきたす。
ただでさえ、喧嘩とかしたことないのに。視界にデバフ喰らってるのはキツい。
どうにか消せないもんか。
あっ、消えた。
消したいときに消せるのね。
ずっと視界に陣取ってたのが消えてスッキリだ。
そういや、職業取得不可の警告も消せたな。
これで気兼ねなく探索を再開できる。
「グギャ」
しかし、静かだ。
どこかから地上に通じていればいいんだがな。
一切の光が差し込まない洞窟。
ヘルメットと迷彩服を身に着けた探検隊がライトを片手にお宝でも探していそうだ。
因みにお宝がありそうな雰囲気は全くない。お宝どころか野生動物が住処にしていそうである。
異世界なら魔物の住処か。
今のところゴブリンの巣説が有力である。
根拠は俺。
見た限り一本道。未だ通路が分岐していたりしない。
路が真っ直ぐじゃないから先も見えないし、一体どこまで続いているんだろうか。
お仲間らしきゴブリンは見当たらん。
まあ、歩いてればどっかには着くだろ。
「グギャ?」
スキルの暗視のお陰なのか、今の俺は暗い洞窟の中でも結構先まで見渡せる。
その視界に何かが動いているものがあった。
というか、その何かが向かってきてる。
あれは……ねずみ、か?
こんな洞窟の中ならネズミぐらいいても不思議じゃないけど。
何となく拍子抜けだ。
折角、異世界に来たのに最初に会う生き物がねずみとは。
まあ、何もいないよりもマシか。
それに、あまり強そうじゃないのも良い。
ネズミなら最初の獲物にちょうど良いだろう。
だが、あれは魔物なのか?
パッと見、普通の動物だが、倒してレベル上がるかな。
うーん、こっち向かって来てるし、あまり考えてもいられないな。
殺るか。
動物を殺すなんて忌避感を覚えそうなもんだが、不思議なことに全くない。
むしろ、早くあのネズミを倒したくてたまらない。
ゴブリンの狩猟本能みたいなもんか?
人間だったときにはなかった感覚だ。
まあいい。
考えるのは後だ。
早いところ、レベルが上がるのか試しておきたい。
あいつを倒してレベルが上がるならオーケー。俺の知るゲームとかと同じシステムと考えていいだろう。
上がらなければ上げる方法を考えないとダメになる。
丁度よく獲物が近づいて来たなら狩らない選択肢はない。
このまま横を素通りされても困るし、俺から仕掛けるべきだよな。
近づいて気付いたが、俺の知ってるネズミよりかなりデカい。
サイズ的には小型犬くらいだろうか。海外ならあれぐらいのもいるのかね?
あれに勝てるだろうか。
不安だ。
見た目は普通にただの動物だが、ここは異世界。
あいつが滅茶苦茶強い可能性だってあるのだ。
火の玉ぐらい出したって不思議じゃない。
ただ、ここで逃げてちゃ、今後何とも戦えない気がする。
やるしかないのだ。
悪いが、俺の糧になってもら――。
「キシャッ!」
「グゲギャッ!?」
あっぶな!
素通りかと思いきや、急に飛び掛かってきやがった。
走ってきた勢いそのままに襲いかかってきたネズミを、慌てて横に跳んで避ける。
前言撤回、こいつは魔物だ。
飛び掛かってくる瞬間見えたけど、ネズミの癖にすんごい牙あった。ネズミみたいなモンスターだ、こいつ。
俺に攻撃を避けられたねずみは振り返り――。
「キシャアア!!」
うわ、めっちゃ威嚇してきてる。
やる気まんまんだ。
小さい体のどこからそんな自信が出てくんのか知らんが、俺と戦うつもりらしい。
敵意半端ないし、こちらに向かってきていたのも、最初から俺が目的だった可能性が出てきた。
上等だよ。
やってやろうじゃねえか。
こちとら初めからそのつもりだ。
けど、どうする。
武器とかあればよかったんだが、生憎今の俺の装備は謎の毛皮のみだ。
武器とか持ってない。
強いて言えば、拳ぐらいだ。初戦闘には、少々心許ない。
だからといって、ここで止めるつもりもない。
やったこともないボクシングのような構えをとる。
今まで読んできた格闘漫画たちよ、オラに力を分けてくれ。
「キシャアっ!」
「っ!」
こちらが仕掛ける前にネズミの方からまた飛び掛かって来た。
大口を開けて俺の首元に一直線だ。
素直に噛まれてたまるか!
拳を握って、空中のネズミへとがむしゃらに右腕を振るう。幸運なことにネズミの牙が俺に当たるよりも俺の殴りの方が早かった。
カウンター気味にヒットしてネズミが吹っ飛んだ。
クリーンヒットである。
咄嗟に身体が動いたが、前世の俺より反射神経良さそうだな、このゴブリン。
それに効いてるみたいだ。
ダメージがデカいのか、動けなくなってる。
あいつにもレベルなんてのがあるなら、そこまで高くないのだろう。
ゲームじゃないんだ。
あいつのターンなんて与えない。遠慮なく追撃させてもらう。
怯んでいるところを思いっきり蹴り上げる。サッカーボールを蹴るみたいに全力で。
油断は出来ないし、しない。窮鼠猫を噛むなんて言葉もあるんだ。
「ヂュウッ!?」
吹っ飛んだネズミが壁に当たり、そのまま地面に落ちる。
今のはかなりの手ごたえを感じたぞ?
これで起き上がってこられたら、逃走を検討するレベルには。
「ヂュ……」
「ッ!」
小さな鳴き声の後、ネズミは小さな石を残して光になって消えてしまった。
あれ?
「……グゲ?」
確認してみても、ネズミがいた場所に残っているのは小さな石だけ。
倒した……のか?
消えちゃったんだけど。
まあ、勝てたってことでいいだろう。
前世の感覚で考えちゃいかん。
異世界なんだし、死体だって消えるさ。
全身の力が抜けそうになるが、気は抜けない。
次が現れないとも限らないからな。
けど、異世界の初戦は無事勝利だ。
相手はネズミだが。
脳みそから色々なホルモンどばどば出てる気がする。興奮冷めやらん。
ありがとう、今まで読んできた格闘漫画たち!
周りを警戒しつつ、死体のあった場所に近づく。
死体は残らないんだな。
代わりに変な石が残ってる。
まさか、これはあれか?
異世界で倒したモンスターが落とす石なんて『あれ』ひとつだろう。
触っても大丈夫だよな。
石の正体に当てをつけて、とりあえず手に取ってみる。
「グゲ……?」
うん、なんともないな。
白く霞んだ石。
あいにく、石とか詳しくないが、この世界でもあまり価値は高く無さそうだ。
なんか色が濁ってて汚いし。
恐らくこれ、魔石ってやつだろう。
魔力が籠ってる的な石の。
だが、使い道みたいなのは全くわからない。
もう少し大きければ武器に使えたんだけどな。小さすぎてそれも無理だ。
投げつければ牽制にはなるかもだけど、当てられる自信がない。
持っていくにも、ずっと手に握ってるわけにもいかないしなぁ。
放置でいいか。
ポイっと捨てておいた。
推定、魔石はこれでいいとして。
気になるのはレベルだ。
密かに期待していたレベルアップをお知らせするファンファーレ的なのも聞こえない。
ネズミ一匹じゃ足りなかったか?
とりあえず確認してみるか。
──────
『ヤマト』
種族:ゴブリン
レベル:3/10
職業:
スキル:暗視
──────
うおおおおおおおおおお!!
レベルが上がってる!
1から3まで!
ネズミ一匹倒しただけで上がったのは嬉しい。
レベルアップか。
何かが増えたというか、漲ったような気がしなくもない。
あまり実感は湧かないが。
何かは、変わったのだろう。
これがレベルアップ……!
いや、何か変わった?
少し力は上がった気もするが、微々たるものだ。
まあレベルが1から3になった変化なんてそんなものなのだろうか。
少なくともネズミ倒したらレベルが上がることはわかった。
この調子でレベルをどんどん上げていきたい。
問題は、俺の最大レベルが恐らく10だということ。
思いの外、俺の限界は近いかもしれない。
まあ、一先ずは。
「グギャ」
ネズミ狩りだ。
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