第二話 これがステータスか

 うん、なんだこれ。

 近未来感が凄い。SF映画みたいだ。

 書いてる内容は、どっかのゲームで見たことあるような感じだけど。

 

 視界の端にずっと映っていた謎のプレートみたいなものに視線を合わせる。

 もしかしなくても、これって俺のこと書いてるんだよな。


──────

『ヤマト』

 種族:ゴブリン

 レベル:1/10

 職業:

 スキル:暗視

──────


 今の俺のステータスを表してるっぽいが。


 なんか、パッとしないな。

 これと言った特徴がないというか、欄に空白すらあるのはどうなってるの?


 とりあえず書いてる内容の確認をしようかね。

 えーっと、ヤマトは俺の名前だ。

 苗字が抜けてたり、カタカナ表記なのは、一先ず無視だ。

 それよりも。

 

 種族がゴブリン、か。

 …………ゴブリンかぁ。

 

 まあわかってたけど、改めて突きつけられるとなんかショックだ。

 俺本当にゴブリンになったんだな。

 

 いや、何となく、察しはついてる。なんで俺が人間をやめているのか。

 

 このステータスなんて、地球にはなかった。

 あってもゲームの中の存在だった。

 

 ゴブリンなんてのは、まさに空想上の存在。言ってしまえば異世界の存在だ。


 普通の男子高校生が異世界に行く話はライトノベルとかで読んだことある。

 

 これは、所謂あれだろう。


「ギャギャッ」

 

 異世界転生、ってやつ?


 正直、自分で考えてもアホらしいと思うが。でなきゃゴブリンになってる理由が説明つかない。

 

 そう思ったのも。

 これが決定的な理由だが。

 最期の記憶が確かなら、俺は一度死んでいるから。


 幼馴染と学校へと向かっていた最中に、突然今まで経験したことのないデッカい地震が起きた。

 いや、もう本当にデカかった。

 立っているのがやっとの状況。

 

 その時、地面が割れた。

 俺たちのすぐそばで。

 

 天変地異。

 地割れってやつだろう。あんな規模のは映像でも見たことないが。

 隙間に挟まるとかじゃなかった。

 突然、足元に谷が出来た感じだった。

 

 落ちてしまったら、余程打ち所が良くなければ致命傷は免れない。

 そんな深さ。

 

『あっ……』



 俺の横には、揺れで体勢を崩した幼馴染がいた。

 

 そのまま彼女が地面の割れ目へ落ちそうになって。

 俺は手を伸ばして。


 彼女の手を掴むことが出来た。

 必死になって彼女を引っ張り、彼女が奈落に落ちることはなかった。

 安心したのも束の間で。


 次の瞬間、俺を襲ったのは身体が宙に浮く感覚。

 

 尻もちをついた幼馴染が目に入った。

 彼女の手を引っ張って踏ん張るには、俺の体重は軽すぎたのだ。

 そのまま奈落の底へと落下。

 記憶はそこで途絶えてる。

 

 うん、死んでるよな俺。

 あれで生きてたら超人だよ。

 さっきまで死んだ記憶やら身体がゴブリンになってるやらでパニックだったが、今はだいぶ落ち着いている。これも壁に頭をぶつけたおかげである。


 整理すると、一度死んだはずなのに生きている。これは転生していると考えよう。

 そんでもってゴブリンになってる。

 俺、ゴブリンじゃなかったし。人だし。

 そもそも地球にゴブリンはいないから、ここは異世界で確定だ。


 要するに異世界転生しているのだ。

 まさか、俺が異世界転生するとはなぁ。


 いやしかし、改めて思い出しても、そうとしか考えられない。

 人間じゃなくてゴブリンになってる理由は皆目見当もつかないが。


 まさかこの歳で死ぬとはな。

 あいつは助けられたからよかったんだが……そうか。

 もう、あいつとも会えないのか。

 

 そう考えると、寂しいな……。

 

 ここ異世界っぽいし。

 仮に会えたとしてもゴブリンじゃ俺だと分かってもらえないしな。

 再会は絶望的だろう。

 

 人助けして来世がゴブリンとか報われない。

 そんな不憫なやつがこの世にいるのか。

 

 うむ、俺のことだ。

 俺なんか悪いことしたかね。


 なんでゴブリン?

 こればっかりは本当にわからん。なんでゴブリンになってんの?

 

 転生するなら人でいいだろ人で!


 だらだらと自堕落な生活を送ってはいたけど、学校にはちゃんと行っていたわけだし、勉強も人並みにはやってたし、犯罪やら悪いことなんてしたことない。

 何なら、死ぬ直前に物凄い善行を積んだ気がするんだが。

 

 幼馴染を助けた点を神様は評価して下さらなかったのだろうか。

 

 いや、まあね。

 記憶を持ったまま転生したのが、ご褒美と言われちゃったら、それまでだけどさ。


 それにしたってゴブリンはねぇ?

 物語の最初に倒す雑魚キャラだよ、ゴブリン。

 

 せめて、人じゃないにしても、エルフとか獣人、魔族とか人に近い種族ならまだしも。

 ゴブリンは、ない。

 

「グゲ……」


 異世界に転生したらやりたい事とかあったんだけどな。

 今のところ全部むりそう。

 

 神様にもらったチート能力で俺つえー。

 そもそも神様に会ってない。

 

 赤ん坊の頃から魔力を知覚して特訓しまくりの魔力量チート。

 ゴブリン的に今の俺が赤ん坊なのかわからん。

 まず、魔力感じない。

 

 現代知識で知識チートとか、賢いゴブリンなんて真っ先に討伐対象だ。

 そもそもゴブリンじゃ、知識を活かせそうな場所にいけない。

 

 うむ、殆ど出来そうにない。

 


 「…………グギャ!」


 気合を入れるように立ち上がる。

 いつまでもうじうじ考えていても仕方ない。

 

 折角もらった命。折角の異世界だ。

 

 ゴブリンではあるが、生きてることに変わりはない。

 まあ、何とかなるだろ。


 幼馴染は助けられたんだ。

 これは、そのご褒美。

 

 今世は、ゴブリンがいるファンタジーな世界なんだ。魔法だってあるかもしれない。

 存分に堪能してやろうじゃないか。


 早速、この洞窟の探索から始め――。


「……」


 うん。

 まだ座っとこ。

 

 ステータス確認の途中だった。

 えーっと、名前と種族は見たから……レベルか。


──────

 レベル:1/10

──────


 改めて、本当にゲームみたいだな。

 敵を倒したら上がったりするんだろうか。

 魔物とかな。

 

 いや、今は魔物側の視点で考えないと駄目か?

 俺ゴブリンだし。

 俺の知るゴブリンは人間と敵対してるし。この世界でもそうなら、害獣みたいな扱いだろう。


 人間を倒せばレベルが上がる、とかだったら困るんだが。倫理的に。

 俺の精神衛生上よろしくない。


 ゴブリンなんかが存在する世界だ。外敵になる存在の数は地球の比じゃないだろう。

 

 オークやコボルト、スライムにドラゴン。

 ゴブリンのいる世界にいそうな外敵なんて思い浮かべただけでキリがない。


 その上、人間がいるなら人間も敵にカウントしないといけないとか。

 正直吐きそう。


 レベルを上げて強くなれるなら、積極的に上げていきたい。

 ……人を殺すのは嫌だが。

 この世界のシステムが俺に優しいことを祈ろう。

 

 レベルを上げないという選択肢は今のところない。

 いきなりドラゴンに遭遇して踏み潰されたりしたらたまったもんじゃないからな。

 弱いままじゃ生きていけないだろうし。

 

 まあ、まだレベルを上げる方法もわからないんだが。


 このあとは、獲物になりそうな弱そうなのを狩ってレベルが上がるか実験だな。

 そんな都合の良い獲物がいたら、な。

 

 次が職業なんだが……空白だ。

 無職ってことかね。

 まあ俺働いてないけど。

 ここで言う職業って警察官とか、弁護士とかじゃないよな?


 これから何かの職に就けたりするのかね。


 何か条件を満たせば職業が手に入ったりとか。

 ドラゴン手懐けたら竜騎士、みたいな。

 

 もしくは希望制?

 なりたい職業になれる的な。それなら楽でいいけど。

 だとしたら何が良いかな。

 

 剣士、魔法使い、それこそ竜騎士なんてカッコいいし強そうだ。ドラゴンいないけど。


 ううむ、定番の賢者というのも捨てがたい。

 色々思い浮かぶが。

 異世界に来たからには魔法は使いたい。


 魔法剣士なんてのもありか?


──────

職業は取得不可です。

──────


 うおっ、警告みたいなの出てきた。

 無職確定ってこと?

 ホワイ?


 取得できないのは俺がゴブリンだからって感じだろうか。

 なんか納得いかないな。

 それこそ、何か条件があるのか?

 剣持ってないのに剣士は名乗れない的な?

 まあ、そっちであることを祈ろう。


 とりあえず消えてくれ、この警告。

 邪魔だ。

 よし、消えた。

 続きを見ていこうじゃないか。

 

 そんで唯一のスキルが、暗視ね。

 ……うん。


 道理で明かりのない洞窟の中なのによく見えると思ったよ。


 これでステータスは全てチェックできた。

 あとは洞窟探索、レベル上げのための獲物探し、だが。

 

 流石、ゴブリンといったところか。

 弱くね?


 改めて、パッとしない。

 戦えるか不安になる貧弱さだぞ。

 

 もっと、もっとさぁ。

 なんかないもんかね。俺を転生させてくれた神様とかがいるならさ。強そうなスキルぐらいサービスしてくれたって良かったんじゃないの?

 ゴブリンなんだしさ。

 せめてそれぐらいの……。


「グゲェ……」


 うむ、これが現実逃避である。

 ないものねだりしてないで、行くか。

 

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