最強の鬼人になって現代ダンジョン人外無双 幼馴染助けて異世界転生したからとりあえずダンジョン攻略したけどここ地球だったの?

バナナきむち

第一話 人間やめてる?

 夢であってほしいという願いは、不毛だ。

 そう願ってる時点で夢なわけがない。

 ただの現実逃避だ。

 

 それはもう痛いほど分かっている。

 うん。

 分かってる。

 俺も、もう高校2年生ですから。

 俺もね。

 わかっているんだけどね。

 

 そうは言っても思わずにいられない。

 

 ――これ夢じゃないの?


「グギャァァアアアッ!?」


 静かな洞窟の中に、鈍い音の後、聞いたことのない不気味な声が響く。

 声の主は緑肌の気持ち悪いモンスター。

 まるで小学生低学年ぐらいの子供のような体躯をしているが、確実に人間ではない。

 言ってしまえば、妖怪だとか魔物の類。

 

 モンスターは叫ぶのを止め、痛みを堪えるように自分の頭を抑えてプルプル震えている。

 気持ち悪いモンスターが洞窟の中で頭抱えて震えてるなんて、想像しただけで地獄絵図だ。


 それも知らない洞窟の中。

 そんなの、誰だって現実逃避したくなるだろう。


 今の俺も、泣きそうになるぐらいには夢であってほしいと思ってる。

 けど。


 ――夢じゃないんだろうなぁ。


 ズキズキとした鈍い痛みを訴える後頭部を撫でながら、小さな岩をイスの代わりにして座り込む。


「グギャ……」


 自分の耳に届くのは悲し気な鳴き声。

 

 俺――海崎大和が過去17年間の人生において、未だかつて聞いたことのないような汚いだみ声だ。


 さて、ここで受け止め難い、衝撃の事実がある。

 

 この声、なんと俺の口から出てる。

 俺の口から、出てる。


 俺が喋ると。

 

「グゲ……」


 この通りだ。


 というか、俺以外の口から出ようがない。

 ここには俺以外いないのだから。

 

 静かな洞窟に俺一人。

 いや、一匹と言った方がいいのかね。

 最初は、耳がおかしくなったのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

 もう本当に驚きというか……認めたくない。


 これ俺の声なの?

 意味がわからない。現状の全てが。


 「グギャ?」

 

 夢か?

 いや、この頭の痛みは夢じゃありえない。

 さっき結構な強さで壁に頭ぶつけたからな。

 夢なら覚めてる。


 確認がてら、頬でも叩いてみるか。

 さっき頭ぶつけたときは正気じゃなかったからな。確認は必要だろう。

 出来るならそれでこの夢が覚めてくれることを願おう。


「ギャッ」


 うん、痛い。

 やらなきゃよかった。


 ということは。

 この洞窟は夢じゃないってことだ。

 そして、この声も。恐らく、現実。

 

 だが、初めから俺の声はこんなだったかと言えば、違う。

 断じて違う。

 

 良い声ってわけじゃなかったけど、普通の男子高校生ボイスだったはずだ。

 

「グゲゲ……」

 

 至って真面目に慣れ親しんだ日本語を喋ろうと口を開いたら、出てきたのがこの意味の分からないダミ声である。本当に意味わからん。

 声どころか、日本語喋れないんだけど。

 どう頑張っても言葉というよりも、鳴き声になる。


「グギャ……ギャア」

 

 目が覚めたら日本語喋れなくなっていた件について。


 はっきり言って絶望だ。

 まさかこんなにも自分の耳を疑う日が来ようとは。出来れば来ないでほしかった。


「ゲギャギャ……グ、グギャ」


 もう何を喋ろうとしても変な鳴き声にしかならない。

 恐らく、俺の今の口の構造が言葉を喋ることに向いていないのだろう。


 一先ず、喋るのは諦めよう。

 

 声がどうとか、そんなことはどうでもいい。現状、大した問題じゃない。

 どうでもいいのだ。


 むしろ声だけ、だったらどれだけ良かったか。

 

 俺はまだ、現実逃避をしていたらしい。

 そろそろ現実を、受け入れなければならない。


 

 まず確認しとくが、俺は日本に暮らす男子高校生の海崎大和。

 スポーツ万能だったりとか、成績が特別優秀だったりもしない。

 超能力とか魔法みたいな特別な力なんてもっていない、もう至って普通の日本男児。

 そのはずだ。


 座り込んだ自分の身体を見下ろす。

 腰に何かの皮を巻いた深緑色の身体が見えた。

 

 おかしいな、俺ってば人間だったと思うんだけどな。こんな緑色ボディだったかね?

 それに高校生にしては体も随分小さい。

 等身から変わっとる。

 

 いつの間にか着ていた野性的な腰巻はどこかの民族やら原始人が身に着けていそうな感じ。

 少なくとも、現代社会を生きる真っ当な男子高校生の俺が身につけているような代物では無い。


 子供のように細くて非力そうな手足、小さな手には短いが黒く鋭い爪が生えていて、皮膚の質やら何から何まで、明らかに人間のものとは違う。

 

 自分の額を触ると、角のような小さな突起が2つ。牙まで生えてるし、まるで鬼だ。

 

 鏡がないから確認はできないが、俺の予想が正しければ、顔は緑色で醜悪な顔をしているんだろうな。

 実際に見たわけじゃないし、案外可愛らしい顔をしている可能性もあるが、正直言って望みは薄そうだ。

 

 この体こそが、俺が半狂乱になるまで驚いて、壁に後頭部をぶつけてしまった理由。

 めっちゃ痛かった。めっちゃ叫んじゃったしね。

 神様に落ち着けとツッコミ入れられた気分だ。

 

 そう、ここにいる気持ちの悪いモンスターというのは、俺のことだ。

 ……声がどうとか、本当に現実逃避に過ぎなかった。


「グギャ」


 俺、普通の男子高校生だった気がするんだけど。


 どうやら、俺は意識を失っていた間に人間を止めていたらしい。

 というかゴブリンになってた。

 は? って感じだ。


「グギャギャ……」


 こんな洞窟の中でゴブリンになってましたって、どんなドッキリだ?

 だとしたらネタばらし遅いよ。


 そんでもって、この浮いてるの何?


──────

『ヤマト』

 種族:ゴブリン

 レベル:1/10

 職業:

 スキル:暗視

──────


 うーん…………やっぱり夢かね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る