第十七話 チュートリアル突破記念のSSRのキャラって後々使わない事が多いよね
───領地───
人族の国はいくつかの領地に分かれており、それぞれの領地には領主がいる。領主にはその領地に住む人々の安全を守る義務がある代わりに税金を徴収する権利がある。領地には領主が住んでいる領街を作る義務がある。─────maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
馬車に揺られること3日。俺達は領地『ローブオ』にある領街『サンド』に来ていた。大量のプレゼントを貰ったため『サンド』には寄る必要は無かったがフランが「風呂に入りたい!ベッドで寝たい!」とわがままを言ったため一泊することにした。
『サンド』の街に入るために門で手続きをする。門番がいくつかの質問をしてきた。
「この街に来た目的は?」
「宿泊です」
「滞在日数は?」
「一日」
「身分証明が出来るものを提出しろ」
「どうぞ」
この門番口悪いな。
俺とフランは素直にギルドカードを渡す。色々な機械らしきものにカードが通される。
「ほらよ」
若干ニヤつきながら門番がカードを返してくる。
俺はカードに手をつけず門番の腕を思いっきり捻りあげた。
「グァッ、何しやがる!?」
痛みに呻く門番の袖から渡してきたカードとは別のカードが落ちる。それはさっき渡したはずの俺たちのギルドカードだった。
「すり替えるならもっとうまくやるんだな」
「……クッ」
俺達は本物のギルドカードを拾って街に入った。
街の中は一見普通の街に見える。しかし、道を通る人達の目が死んでおり活力が無い。事前に聞いていた通り、まともな街でほ無いようだ。
手頃な宿を探しながらフランと話す。
「あの機械、ぶっ壊したか?」
「うむ。お主の読み通りじゃった」
門で手続きをする前にフランには門番の思考を読むように言っておいた。そして、何か不信な事をしたらばれないように妨害をしろとも言っておいた。
「あの機械でわしらのデータを悪用するつもりじゃったらしい」
「門番があれじゃ憲兵も信用できないな。予定通り一泊したらこの街を出るぞ」
「了解じゃ」
☆ ☆ ☆ ☆
次の日の朝。俺達は予定通り街を出た。宿は一泊一万Gする割りにベッドが粗悪で、風呂も自分で沸かしたお湯を使うタイプのものだった。値切って半額にさせたがそれでも高い。食事は食べられない程ではないが味が悪く、やはり高かった。ただでさえ朝のテンションが低いフランのテンションがさらに低くなるのも無理はないだろう。
しかも、街にいる間はスリに三回強盗に五回会った。それに関しては想定の半分だし許容範囲内だろう。
「やっぱり、録な街じゃなかったな」
「まったくじゃ。これなら寄らん方がマシじゃったわい」
森に向かいながらフランと愚痴る。
「それにしても、お主は昨日も夜遅くまで街を歩いていたようじゃの?正気か?」
「正気だ。こういう街でしか手に入らない情報とかがあるんだよ。録な情報は無かったが」
どれだけ探ってもこの街の黒い所しか見えてこなかった。あの街は予想以上に録でもない街らしい。どこかで使えるかもしれないから全力で集めたが、どうしたものか。
頭の中で情報をまとめていると、隣でフランが空を見つめて恍惚の表情を浮かべる。
「ふかふかのベッドに温かい温泉……、ああ、オダリムは良かったのう」
「あの街と比べるな。オダリムは5段階評価で5が取れる街だぞ?」
「サンドはどうじゃ?」
「2」
「あれより酷い街があるのか……」
高いとはいえキチンと泊まれるし、飯も栄養は取れる。治安は悪いが街を歩いていていきなり矢が飛んでくる事もない。実は住めなくは無い街だ。
「ちなみに、1はどんな街じゃ?」
「食事には毒が入っていて死んだ奴の身ぐるみを剥がしてきたり、街を歩いていると問答無用で殺しにかかってくる奴がいたり、刃が木で出来ている剣を十万Gで売ってくる街」
「おかしいのはあの街ではなくお主自身であることがわかった」
解せぬ。
☆ ☆ ☆ ☆
『サンド』の街を出て、俺達は道なき道をぶっ通しで歩いていた。森のなかでは方角が分かりにくいため、数メートル歩く度に方角を確認するのだが、フランのスキルで方角が常に分かるため普段の倍以上の速さで進行できている。
森を歩き始めて数時間後、途中で大きくてキレイな湖を見つけた俺達は休憩をすることにした。
湖の水面には青々とした木が映っており、優しい風が細かい波を作る。
「フラン、お茶を作るから適当に枯れ木を集めて来てくれ」
「了解じゃ」
ヤカンと紅茶のパックを取りだし湖から水を汲む。フランが戻ってくるのを待ちお湯を沸かす。お湯が沸き次第カップに注ぎ入れ紅茶パックを入れる。それを二つ作り一つをフランに渡す。
「ほらよ」
「ありがとうじゃ」
キレイな湖を見ながら紅茶を飲む心地よい時間が過ぎていく。フランをチラリと見るとさっきまでの不満そうな顔は消え、穏やかな表情に変わっていた。それを見つつ、俺も穏やかな気持ちで紅茶を口に運ぼうとした瞬間、
「キャアアアアアアアア!」
森の奥から女の子が叫び声が響いた。
「なんじゃ!?」
「知るか!とにかく行くぞ!」
俺達はカップを置き、すぐさま声のした方向へと走る。
少し開けた場所に出ると女の子が金色の狼のモンスターに襲われているのが見えた。モンスターは今にも少女に襲い掛かろうとしている。
「フラン!」
「分かっとる!」
フランに叫ぶと腰のポーチからパチンコ玉を取りだしモンスターに向けて弾く。
パチンコ玉は真っ直ぐとモンスターのこめかみに命中する。
「グルルル……」
モンスターは鬱陶しそうにこちらに視線を向ける。パチンコ玉が効いている様子は無い。
俺はチラリと女の子がいた方に視線を移す。そこには、女の子の姿はなかった。恐らく、フランが『フルステルス』で姿を隠したのだろう。
改めて俺はモンスターの姿を確認する。金色に輝く毛並みに口から覗く鋭い牙。
「よりにもよってゴールドウルフかよ……」
前にフランが言っていた『シルバーウルフ』よりも更にレアなモンスター『ゴールドウルフ』。
ゴールドウルフの特徴は素早さが高く、攻撃力も並みじゃない程に高い事だ。更に最大の特徴として……
そこまで考えた後にゴールドウルフの体がバチバチと電気を帯び始めた。
俺は考えるよりも早く体を伏せる。瞬間、俺の喉があったところをゴールドウルフが通りすぎる。伏せてなかったらのどを食い千切られていただろう。
「やっぱ『雷装』か」
魔装には応用があり、魔法を体に纏うことでステータスを上げるという技術がある。攻撃力を上げる『炎装』、守備力を上げる『木装』、敏捷性を上げる『雷装』、魔力を上げる『水装』、すべてのステータスを上げる『風装』がある。
目の前のゴールドウルフは敏捷性を上げる『雷装』、最悪のパターンだ。相手の攻撃はある程度なら予測で避けられるが、いずれは当たる。しかし、こちらの攻撃は遅すぎて当たらない。まともに戦っては勝ち目はないだろう。
「うん、いつも通りだな。」
俺は木刀を腰に差してゴールドウルフとの距離を取り回避に専念する。ゴールドウルフは俺の方に向き直ると再び体をバチバチと放電させる。
チャンスは一瞬、ミスれば死ぬ。俺は『加速』を使い相手の一挙手一投足を見逃さないように集中する。
ゴールドウルフの放電が一際大きくなった瞬間、右にステップを踏んだ。さっきよりも低めの軌跡で突進してきたゴールドウルフをかわした事を確認すると、俺は真っ直ぐ森に向かって走った。森に入るとそのまま木を盾にしつつジグザグに走る。
さっきの戦闘でわかった事だが、ゴールドウルフは雷装をしている時、速すぎて小回りが利かないみたいだ。それを利用してゴールドウルフの直線に入らないように走る。俺は必死に後ろから聞こえる音を頼りに即座に進むべき道を選択する。
「……よし」
数分間森の中を走ると目的の場所、さっきの湖までなんとか辿り着くことができた。俺は湖を背にして仕舞っていた木刀を取り出して構えながらゴールドウルフを待つ。
草むらをガサガサとかき分けながらゴールドウルフが姿を現した。ゴールドウルフは俺の事を見つけるとグルルと低く唸り体に雷を纏う。それを見て俺も体中に魔力を纏い、ステータスを上昇させる。
ここからはさっきよりもタイミングが厳しくなる。さっきよりも注意深く観察しながら木刀を構える。ゴールドウルフも何かを感じ取ったのか、低く唸りながら様子を見ている。
「………フッ」
「……グルルル」
にらみ合いすること数分、先に動いたのはゴールドウルフだった。ゴールドウルフは一際放電を大きくすると俺の喉元に飛びかかってきた。
俺は素早く木刀を噛みつかせ自分の身を守る。さらに、ゴールドウルフの勢いを殺さないように後ろに倒れこみ木刀ごと巴投げの要領で後ろの湖に蹴り投げる。だが、
「ぐッッ!」
蹴る瞬間にゴールドウルフの纏っていた雷が俺の体に流れ込む。
足に魔力を集中させていたとはいえ、かなり痛てぇ!だが、湖に投げ込むことは出来た。
仰向けに倒れながら湖に目を向ける。ゴールドウルフが溺れながらバチバチと放電しているのを確認するとポーションを飲みながらゆっくり立ち上がる。まだ、終わってない。
湖の放電が急に止み、数分してからゴールドウルフが湖から上がってきた。
「きたか」
「グルルル…」
体をブルブルと水滴を飛ばして忌々しそうにこちらを睨む。さっきの放電で『雷装』のためのMPはほとんどない筈だ。さらに、結構水を飲んでいるようで弱っていた。
対する俺は木刀は湖の中、ポーションを飲んだが即効性は無くまだダメージが残っている。つまり、小細工なしのタイマン勝負ということになるということだ。ゴールドウルフもそれを感じ取ったのかニヤリと笑った……ような気がする。
向かい合った俺たちは同時に吠える。
「はああぁぁぁぁ!」
「グオォォォォォ!」
そして俺は正々堂々と
「爆ぜろぉぉぉぉぉ!」
小型の爆弾を投げつけた。爆弾は地面に当たると、ゴールドウルフを吹き飛ばし体制を崩す。
「踊れゴールドウルフ!死のダンスを!」
「キャイーン、キャイーン」
正々堂々?最終的に勝てばよかろうなのだァァァァッ!
『オダリム』の街を出る前に、いくつかの攻撃手段を用意していた。その一つがこの小型の爆弾だ。
俺は持っていた小型の爆弾を次々とゴールドウルフに投げつける。ゴールドウルフが避けても爆風で体勢がが崩れ次の爆弾が当たる。その結果、十数発の爆弾を投げつけると「キャウン……」という声の後ゴールドウルフは光の粒となって消えた。
「勝ったッ!チュートリアル完!」
そう言ってゴールドウルフがいた場所にビシッと指をさす。満足した俺はドロップした毛皮を拾ってさっきの広場に戻ろうとする。すると、
「あ」
「…………うわぁ」
木の陰からドン引きしたフランが覗いていた。
「オオカミを湖に叩き落した後、爆弾を何発も投げつけるなど流石のわしでも引くぞ…」
「いくつか言っておくと、爆弾を十数発耐える奴を素手で相手したくないし、湖の放電の様子からあいつのMPがまだ残っている可能性があったから接近したらやられるかもしれなかった。結果的にああするのがベストだ」
「ああ、そうか……」
理由を言ってもフランはドン引きしていた。こっちも死にたくはないので反省はしない。
「そういえば、あの女の子はどうしたんだ?」
「ああ、お主が見ておるわしは実体ではない。『水月』みたいな感じの幻覚のスキルを使っておる。お主がさっきの場所まで戻れるか心配でやってきたんじゃ」
「そうか、木刀で木に傷をつけて道標にしていたから迷わないとは思うが、一応頼めるか?」
「うむ、では行くか」
☆ ☆ ☆ ☆
フランの案内でさっきの広場まで戻ってくる。そこには泣きじゃくる女の子をフランが優しくなだめていた。さっき傍にいたフランはいつの間にかいない。
さっきは詳しく見れなかった女の子の外見を観察してみる。年は12歳ぐらい、髪は長めの金髪で、顔はきれいに整っている。今は可愛らしい印象だが、大人になると綺麗な女性になるだろう。だが、顔や髪は土などで汚れており、服は所々破れている。ここに来るまでの道中が過酷だったことがありありと思い浮かぶようだ。
「その子の様子はどうだ?」
「余程怖かったんじゃろうな、かなり取り乱しておる。わしではどうしていいか分からん」
「そうか」
女の子はフランを抱きしめながらわんわん泣いている。まずは落ち着かせないとな。
おれはヤカンと紅茶パックを取り出す。そして、香りが高く心を落ち着かせるものを選び紅茶を淹れる。紅茶の香りが高くなるにつれて女の子はこちらに興味を示し始めた。俺は女の子に優しく声をかけた。
「お砂糖はいくつ入れる?」
「………みっつ」
紅茶を淹れたカップに角砂糖を三つ入れて女の子に渡す。女の子はカップを受け取ると少し飲み、少し表情を綻ばせた。俺はアイテムボックスから飴を取り出し女の子に差しだす。
「飴玉食べる?」
「……うん」
女の子は飴を受け取ると口の中に入れ、飴を転がした。
よし、だいぶ落ち着いたな。俺はフランと紅茶を飲みつつ飴を食べ終わるのを待つ。
「そうだフラン、木刀を湖に沈めてしまったんだが、ここにワープとかできるか?」
「簡単じゃ。ほれ」
そういうと、いつの間にかフランの手に俺の木刀が握られていた。俺はフランから木刀を受け取るとアイテムボックスの中に仕舞う。そして、女の子が食べ終わったのを確認すると女の子に話しかける。
「君の名前を聞かせてくれないかな?」
「………」
女の子の表情が辛そうになったのをみて、俺はすぐに質問を変える。
「お父さんやお母さんはどこかな?」
「………」
女の子の表情が更に辛そうになったのを見て俺はまた質問を変える。
「どうしてこんな森の中にいるのかな?ここは魔物が多くて危ないよ?」
「怖い人たちに追われていて……、必死に逃げてたらここに……」
「なんじゃと!?」
声を荒げるフランを手で制しながら女の子に尋ねる。
「なんで追われているの?」
「わかんない……」
「いつから追われているの?」
「今日の朝から…」
「君はどこから来たの?」
「『サンド』から…」
なるほど、事情は大体わかった。
俺が少し考えているとフランが女の子の手を握りしめた。
「わしらに任せておけ!すぐにそいつらの息の根を――――」
「待て、話はそう簡単じゃない」
「む?どういうことじゃ?」
「それを今から聞く」
俺は女の子に向き直り、目を真っ直ぐ見詰めて尋ねる。
「君は『神の使い』だね?」
「!?」
女の子が明らかに動揺している。フランは困惑している様子で俺に尋ねる。
「いやいや、こんな小さい子が神の使いな訳ないじゃろ。それに、最近神の使いが現れたという話はわしは聞いておらんぞ。お主の勘違いではないのか?」
「根拠はいくつかある。まず、『サンド』の街で奇妙な噂を聞いた」
「噂じゃと?」
「あそこの街は貴族と神殿が結託して領民から搾取してるんだが、それが最近ひどくなっているらしい」
「そんなの気まぐれじゃろ」
「それだけだとな。奇妙なのは徴収する税金に反比例して、奴らの生活が質素になっているという事だ」
「それは奇妙じゃのう?なぜじゃ?」
「さすがに時間がなくて分からなかった。だが、碌なことじゃねえだろうな」
今まで贅沢していた奴らが急に質素な生活を始める、何かを企んでいるのは明白だろうな。
「お主はどう思う?」
「最悪のシナリオだと、国家転覆とかもありえる。この子がそのカギなんだろうな」
まあ、この子が『神の使い』という前提だがな。だが、街を出るときに憲兵が慌ただしくしていたから誰かを探しているのは間違いないだろう。
「もう一つの根拠だが、この子の服を見てくれ」
「土で汚れておるな。それに所々破れておる」
「そうだな。だが、問題はそれじゃない。服を『鑑定』してみてくれ」
「どれどれ、ってなんじゃと!」
フランの表情を見る限りあってるみたいだな。
「この服に1000万Gの価値があるのか!」
「そうだ、その服は品質が高い。あの街に住んでいてこんな高品質の服を着られる。身分が高いのは間違いないだろう」
そんな身分の高い子が護衛も連れずに森に来る筈がない。おそらく、逃げているというのは本当だろう。
「それを踏まえた上での最後の根拠だが、あの街の貴族にこの子であろう名前がなかった」
「全員名前と顔を確認したのか?」
「そうだな。時間はそれほどかからなかった」
まあ、ここまで言えば分るだろう。
「つまり、あの街でこの子の存在が隠されている。これは明らかにおかしいよな?」
「なるほど、この子の存在は重要だが外に知られたくはないと。たしかにきな臭いのう」
「他にも可能性あるがな。だから、この先はこの子の口から聞きたい」
俺は再び女の子に向き直ると女の子は再び怯えた表情をしていた。
「……あの人たちに言うの?」
「それは無いよ。今俺が君に聞きたいのは覚悟だ」
「……覚悟?」
「そう、君が両親の事も含めて事情を正直に全て話してくれれば、君を追っている人たちをなんとかしよう。話さなくても次の街までは送るよ。どうするかは君が決めるんだ」
「…………」
「厳しいことを言うようだけど、君の場合逃げても追手はずっと追ってくる。それを踏まえた上でどうするか考えてほしい」
「…………」
俺がそう言うと、女の子は少し俯きながら考え込んだ。
俺は木の幹に寄りかかって女の子の答えを待つ。すると、目の前にフランが現れた。その表情は怒りに染まっている。
「おい」
「なんだ?」
「今のはなんじゃ」
「言葉通りの意味だ」
瞬間、フランが俺の胸ぐらを掴み木に叩きつける。
衝撃で一瞬息が出来なくなるがなんとか耐え、フランを見据える。
「わしとお主なら奴らを殲滅する事が出来るはずじゃ!」
「……そうだな」
「なら何故やらん!?あの子は親の事を聞かれたとき物凄く辛そうな顔をしておった!奴らが何かしたのは明白じゃ!それを聞き出さすなど、人のトラウマをほじくりたいのか!」
俺は激昂しているフランの手首を掴む。
「とりあえず離せ。苦しくて話し辛い」
フランは舌打ちをすると、胸元から手を離した。
「フラン、いくつか言っておく事がある」
「なんじゃ」
吐き捨てる様にフランが言う。
「お前は追手を蹴散らした後、どうなると思う?」
「どうじゃと?蹴散らして終わりじゃろ?」
「さっきも言ったが話はそう簡単じゃねぇんだよ。さっきも言ったが相手は貴族だ。恐らく、次の追手を差し向けられるだけだ」
「ならば来たやつを片っ端から______」
「ずっとか?俺の使命は
「う……な、ならわしだけでこの子を守り、お主は修行をすればよい」
「追手は24時間毎日襲ってくるぞ?常に気を張る生活を何年もお前とあの子は送るのか?この問題は根本に居る貴族をなんとかしないと解決しないってさっき言ったよな?」
「う……じ、じゃが、お主なら解決出来るのじゃろ?」
「ああ」
「なら………」
腕を組みながら今度は俺がフランを睨みつける。
「もう一つ言っておく。さっきの話はほとんどが憶測の域を出ない。確実なのはあの子が『神の使い』であると言う事だけだ。黒幕の姿が完全には見えてない」
「は?『サンド』の領主では無いのか?」
「いや、本当に最悪の場合は国が絡んでいる可能性がある」
「国が?何故国絡みでそんなことを?」
「さあな?魔族を滅ぼすとか色々理由はあるんじゃないか」
「なんじゃと!急いで魔国に戻らねば!」
ワープクリスタルを取り出そうとするフランを腕を掴んで止める。
「あくまで可能性だ。どのみち情報が少ないからあの子に事情は聞かないといけない」
「それはわかった。じゃが、あの子の親の事を聞く理由にはならんじゃろ」
フランは少し納得したようだが、まだ疑念が籠もった目で見てくる。
「最後に一つ言っておく。さっきも言ったが俺が聞きたいのは覚悟だ」
「覚悟じゃと?」
「人に助けを求める場合、求めた方が何もせずに任せっぱなしなのは違うと俺は思っている」
「…………」
「俺は人に任せっきりで何もしない奴等の末路を見てきた。全て録な結末じゃ無かった。そいつらに何が足りなかったか。何かを差し出す覚悟だ」
今度は俺がフランの胸ぐらを掴み顔を近付ける。
「覚悟が無い奴が助けて欲しい?甘ぇんだよ」
「…………っ!離せ!」
フランが俺の手を振り解きながら木に叩きつける。俺は一瞬また息が出来なくなるが構わず続ける。
「それに、あの子のトラウマは大きい。今、少しづつ向き合わないと大変なことになるぞ?
「!?」
フランは目を見開いた後、目を反らして歯をギリリと食いしばる。
「………お主の考えは分かった。じゃが、納得した訳ではない」
「最初から納得してもらおうとは思ってねぇよ」
フランは忌々しげに舌打ちをしたあと、明後日の方向を睨みつけた。だが、それ以上は何か言ってくる事はなかった。
俺はちらりと女の子の方を見る。女の子は先程とは違い、何かを決意した目をしている。
俺とフランは女の子の前に行き答えを聞く。
「答えは出たかな?」
「……うん、全部話す」
「勇気を出してくれてありがとう。それで、何があったのかな?少しづつで良いから話してほしいな」
「うん、えっとね―――」
☆ ☆ ☆ ☆
女の子の話が要領を得なかったから要約すると
女の子は『サンド』の領内にある村に住んでいて両親と仲良くくらしていた。だが、半年前に盗賊団が村を襲って女の子の目の前で両親を斬り殺した。女の子は捕まりアジトに連れ去られたが、盗賊団を追っていた兵士団に助けられたらしい。
その後、女の子は『サンド』の街で保護されていたが、ある日、神殿に連れて行かれこう言われた。
「貴女は今の名前を捨てて『神の使い』として生きていかなければなりません」
その日から神殿に監禁され、貴族としての振る舞いを叩き込まれたらしい。
「なるほど。大体の事は分かった。だけど、どうやって逃げたしたんだ?」
「えっとね、仲のいい『ラマンジェ』って言うお手伝いさんが逃してくれたの」
「あーなるほどな」
ってことは、その人は最低でも逮捕、最悪の場合打首ってところだな。いや、厳重な警備の中でこの子を逃がせる位の人ならとっくに逃げているか?
どの道、この子の為に自分を犠牲にしてるんだ。凄くいい人に違いない。
「その人はどこにいるの?」
「『他の奴に罪を擦り付けて来る』って言って食べ物とお水をくれたっきり」
「思ったよりゲスかった!」
大罪を人に擦り付けるとか人間のやる事じゃねぇ!
「いや、お主も大概じゃからな?」
「否定はしない」
とりあえず、聞くことは聞いたな。後は、
「君の名前を聞かせてくれないかな?」
「いや、でも………」
「名前を言っちゃいけないって言われたか?安心しろ。もうあんな奴等の言うことを聞く必要は無いんだから大丈夫だ」
「うん……わかった」
女の子は笑顔を作って名前を口に出す。
「私はね、『ノエル・カタラーナ』って言います。お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
「俺の名前は『キムラ・ホウリ』、よろしくな」
「わしは『フラン・アロス』じゃ。よろしくの」
「ホウリお兄ちゃん、フランお姉ちゃん、これからよろしくおねがいします」
ノエルがぺこりとお辞儀をする。会ったばかりだからしょうがないが、まだ壁があるな。次の街に行くまでに何とか壁を取り除きたいな。
これで、聞きたいことは聞けたか?いや、まだ一つあったな。
「ノエル、ステータスを見たいんだが良いか?」
「んー?良いよ?」
即答か。ステータス情報がどれだけ大切か分かってないみたいだな。後で注意しとこう。
「フラン、頼めるか?」
「うむ」
フランが空中に手をかざすとノエルのステータス画面が可視化される。えーっと、どれどれ
ノエル・カタラーナ ♀ 職業 なし
LV 8 経験値 12/280
HP 65/65
MP ∞/∞
攻撃力 8
魔法力 6852
防御力 18
魔防御 300
敏捷性 11
武器 無し
盾 無し
防具 無し
アクセサリー 無し
スキル セイントヒール 神の使い
魔法 無し
神の使い
神に認められた人間が得るスキル。
MPが∞になる。 消費MP無し
…………何これ?MP∞ってなに?何で上級スキルのセイントヒールが最初からあるの?ものすげえチートじゃねぇか。
というか、何で俺の周りにはチート持ちばっかいるんだよ。ナップもあんな感じだが、まともに戦うとなるとかなりヤバイ奴だしな。俺の武器は木刀なのに……。
「どうしたのホウリお兄ちゃん?」
「いや、ちょっと神を呪っているだけだ」
今度こそ聞くことは聞いたな。
「色々と話してくれてありがとう。約束通り追手と黒幕を全力でぶっ潰してやる!」
「うむ、わしらに任せておくがよい!」
「うん!よろしくお願いします!」
とりあえず、まずはノエルが見つからないようにするのが先だな。俺はノエルに尋ねる。
「ノエル、髪の色変えても大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
俺はノエルの頭に手を乗せると
「よし、これで少しは誤魔化せるだろ」
「ほー、そのような使い方もあるのか」
フランが関心したように頷く。まあ、このスキルの真骨頂は別にあるんだがな。
ノエルは最初は白くなった髪を見て少し驚いたようだが今はキャッキャッとはしゃいでいる。気に入ってくれたようで何よりだ。
こうして、ノエル・カタラーナが仲間に加わった。
☆ ☆ ☆ ☆
「ホウリ一つ聞いてよいか?」
「なんだ?」
「あの街の貴族の顔と名前を全て調べたと言っておったが、何故そのようなことを調べておったのじゃ?」
「この領地はな、元々高品質の砂糖を生産していたんだ」
「ふむふむ」
「だが、今の領主に変わってから別のものを栽培するように命じられたらしい」
「あー、なるほど。それが許せないお主はその領主を何とかしようと思ったわけじゃな」
「ああ、そうだ。その領主に地獄を見せてやる………」
「思いっきり私怨じゃがの」
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