第十五話 ハハッ(高音)
───木村鳳梨───
木村鳳梨とは、この神に呼び出された勇者である。現在は勇者の魂を持っていないので厳密には勇者ではない。九歳から高校入学するまでは父親と一緒に世界を旅していた。現在の能力はその頃に培われている。力をつける事も学んだが一番学んだ事は『今ある力で勝つ』事である。
☆ ☆ ☆ ☆
休日の日、俺とフランは魔法屋に来ていた。魔法屋とは魔法の事を学べるところであり、魔法道具等も売っている所だ。魔法で悩んだらとりあえずここに来れば解決する。
俺としては神殿に行った後に向かいたかったが、それどころでは無かった事とフランから『MPを大量に使うからもう少しレベルが欲しい』と言われたから見送る事にした。
「ここが魔法屋か」
「そうじゃな」
魔法屋の内装は一言で言えば普通だった。受付があり、ロビーの椅子で待っている人がちらほらいる。奥には魔法を学ぶ教室や魔法を試す広場に繋がる廊下がある。
俺達は受付に向かう。
「魔法の講習を予約しているキムラ・ホウリです」
「キムラ・ホウリ様ですね?少々お待ちください」
受付は紙の束を取り出してペラペラと捲る。そして、何かを確認した後に紙に判子を押した。
「『キムラ・ホウリ』様と『フラン・アロス』様ですね?確認が取れましたのでロビーでお待ちください」
そう言われたので、俺達は時間までロビーの椅子で待つ事にした。
それにしても、魔法か。スキルも武器もいまいちの結果に終わったから、せめて魔法だけは自由に使いたいな。
これで魔法も残念だったら俺は泣く。
「心配せんでもお主の魔法の適正は高い。最低でも2つ以上の属性魔法が使えるじゃろう」
「フランは見ただけで適正が分かるのか?」
「うむ。わしが『鑑定』を使えばそいつの大抵の事が分かる」
「じゃあ、教えてくれよ」
「教えてやっても良いが……」
フランがイタズラっぽく笑う。
「それでは面白く無くなるじゃろ?」
「それもそうか。野暮な事を聞いたな」
「かまわん。それでも、悪いと思ったのならディフェンドのケーキを……」
「予約が取れたらな」
「よし!」
フランが小さくガッツポーズをとる。こうして見ると普通の女の子にしか見えないな。
少し時間がたつと、ロビーに声が響いた。
『初心者魔法講習を受講する皆様は第一教室にお入り下さい』
よし、ようやく魔法を使えるな。
俺達は第一教室に向かう。おっと、大事な事を忘れてた。
「フラン、くれぐれも目立つなよ?」
「……わかっとる」
「今の間は何だよ」
フランの返事に不安を覚えつつ第一教室に向かう。
☆ ☆ ☆ ☆
教室の中も普通だった。12個の机と椅子が規則正しく並んでおり、一番前には教壇と黒板がある。黒板には『適当に座れ!』と大きく書かれている。
元の世界の教室に似ており、高校の授業を思い出して少し懐かしい思いになる。
「どこに座る?」
「……どこでも良い」
フランは教室に入った時から少し機嫌が悪いな。
この感情は『怯え』や『怒り』、『悲しみ』なんかの負の感情がごちゃ混ぜになっている感じか?
いや、これ以上表情を読み取るのはよそう。人には知られたくない事の1つや2つあるしな。
俺達は一番後ろの席に座った。今のところ俺達二人しか居らず、気まずい雰囲気が流れる。
……まずはこの雰囲気を何とかするか。
俺は席を立つと、黒板の方へ行きチョークを手に取った。
「何をするんじゃ?」
「まあ、見とけって」
そう言うと黒板の文字を消して、絵を描き始める。チョークの線は徐々に輪郭を作り出し、見覚えのあるネズミのキャラクターを作り出した。
『ハハッ(高音)』
「それはマズイ!みっちゃんよりも強い力で消される!」
『何のことかな?僕の名前はミッ○ーマウス。魔法の国のネズミだよ(高音)』
「…………」
フランが言葉を失う。掴みはOKだな。俺は少しミッ○ーのポーズを描き変える。
『元気が無いフランちゃんのために、この魔法の杖で不思議な事を(高音)』
そこまで言うと、黒板に新しいキャラクターを描いた。チョークの線は新たにどこかで見たICPOの捜査官になった。
『待てー、ルパー○!今日こそ逮捕だー!』
『あらら、とっつあんに見つかっちまったよ』
声を変えながらミッ○ーの顔をベリッという効果音と共にルパ○三世に描き変える。
『あーばよ、とっつあん。お宝の杖はいただいたぜ』
その瞬間、ルパ○が持っていた杖が白い糸によって奪われた。
俺は新しく編み編みのマスクを付けた全身赤色のキャラクターを描いた。
「誰だお前は!?」
『銭○と共にルパ○を逮捕する男、スパイ○ーマッ!』
キチンとBGMを口笛で再現する。
瞬間、フランが叫ぶ。
「アウトじゃ!伏せ字が一言で3つも使われるなど許されるか!」
『伏せ字が3つだと……?許せるっ!』
「お前がある意味一番アウトなんじゃよ!」
よしよし、いつもの様子に戻ってきたな。
その後も、青いタヌキが騒いだり、スーパーなサイヤの人が暴れたり、どこかの団長が希望の花を咲かせたりした。
『だからよ、止まるんじゃねぇぞ……』
こうして即興の俺の黒板芸は終わった。瞬間、周りから大きな歓声が沸き上がった。
「ブラボー、おおブラボー!」
「いいぞー、ホウリー!」
「楽しい劇だったぜー!」
「ホウリ君素敵!」
いつの間にか人が周りに集まっていたみたいだ。
その中の一人、ダボッとしたローブを身につけたやせ形の緑の髪の男が俺に近付いてきて、俺に握手を求めてきた。
「ホウリ、感動的な劇だった……、ありがとう!」
「うん、楽しんで貰えて良かったよ」
涙を流しながら握手をした後、観衆に向かって叫ぶ。
「ほら、散った散った!今から講習始めるぞ!」
そう言われると、観衆はわらわらと教室から出ていき、数人が教室に残った。
「ほら、お前らも早く座れ!さっさと始めるぞ!」
促されて、俺達は席に着いた。そして、男が黒板をおおざっぱに消した後、名前を書く。
「お前らに魔法を教える『ティム・カルテット』だ。この時間だけだがよろしく頼む」
そういった後、名前を消して水槽を描いく。横からは蛇口が生えている。
「誰かのせいで時間が無いから手早くいくぞ」
「頼むからこっち見ないで」
「じゃあホウリ、魔力とMPの違いを言え」
「MPは魔法が使える回数みたいなもので、魔力は魔法の強さってところか」
「その通りだ」
ティムは水槽の中にMP、蛇口に魔力と書く。
「MPは水槽の中の水で蛇口大きさが魔力と考えれば良い。魔力が大きくてもMPが少ない奴もいる。逆もまたしかりだ。では、MPは何に使うのか?」
そう言うと、教壇の下から飴と透明のクリスタルを取り出した。
「勿論魔法だ。多くのスキルでも使用するが今回は魔法について説明する」
「せんせー、それはなんですか?」
「これは、指示飴と指示クリスタルだ。これで魔法の適正を計る」
指示クリスタルって言いづらいな。
「指示飴は適性の属性によって味が変わる。火は甘く、水はしょっぱく、雷は酸っぱく、木は苦く、風は旨い味がする。無味の奴は味がしない」
そう言ってクリスタルと飴を配っていく。
「クリスタルは魔力を込めると色が変わる。火は赤、水は青、雷は黄色、木は茶色、風は緑に変わる。クリスタルはある程度魔力制御出来ないと使えないからとりあえず飴で試してみろ」
そう言われて、皆一斉に飴を口の中に入れる。神妙な顔で味がしないか一生懸命舐めている。
俺はフランに毒が入っていないか見てもらって俺も飴を口に入れる。
口に入れた瞬間、甘酸っぱい味が口に広がる。火と雷の適正反応だ。
「どうやら、火と雷の適正があるみたいだ」
「おお、2つとはやるではないか。複数の適正があるというのは珍しいんじゃよ」
「それは嬉しいな。お前も舐めてみるか?」
「わしは止めておくわい。わしが舐めると全部の味がして変な感じになるんじゃ」
「そういえばお前は全属性もちだったな……」
まともに喜ばせてくれないのか……。なんか悲しくなってきた。
「それじゃあ、大体の特性はわかったと思う。大体の者はなかったはずだ。だが安心してほしい。適正が無くても魔法が使える方法がある。それはこれだ」
そう言って教壇の下から丸まった紙を取り出した。
「これは『
そう言って
「俺は火の適性しかないが、風の魔方陣にMPを込めることで───」
魔方陣が光ると小さな竜巻がヴォンと音をたて魔方陣から巻き起こった。教室にあるあらゆる物を巻き込んだ。そして、徐々に勢いが落ちていき、ついには勢いが止まった。
「このように風の魔法を使う事ができる。だが、この
「それでは、今から実践に移る!全員、速やかに広場に集合!」
☆ ☆ ☆ ☆
広場には魔法の的にするのであろう案山子が大量に置いてあった。可愛く顔が書かれている物や厳つい顔の物など様々な案山子がある。魔法屋で働いている人たちの手作りらしい。
そこにティムが仁王立ちで待っていた。後ろにある大きな岩の存在感が凄まじい。
「おーし、皆集まったな。これからお前らに教えるのは『MPの使い方』だ。MPの使い方を知ることは魔法が使えなくても非常に重要だ。たとえば」
ティムが後ろにある二メートルはある岩に向かって構える。
「……ハァッ!」
岩に向かって正拳突きを繰り出す。すると、ドォッという音と共に岩にヒビが入った。
皆が『おおー』と歓声をあげる。だが、ティムは真っ赤な顔をしながらぷるぷると震えていた。辛うじてうずくまってはいない。
「こ、これがMPを操作することで得られる力だ。ひ、非力な俺でもこ、これだけの力が出せる」
もう見てられねぇや。
「フラン、見つからないように痛みが治まる程度まで回復してやってくれ」
「うむ、わかった」
フランが遠くからヒールをかける。すると、痛みが引いたのか少しだけ顔が元に戻る。
「……では、まずはMPの流れを感じてみよう。私と手を繋ぐ事でMPの流れが感じとり易くなる。一人一人やってみよう」
と言ってティムは一人一人と手を繋ぎ始めた。このペースだと俺まで来るのに五分はかかるな。
その間、フランと少し話す。
「フラン、ある程度進んだらしれっと終わった組に並んでおけ」
「何故じゃ?」
「万が一でもお前の正体がバレるとマズイからだ」
「うーむ、問題ないと思うが?」
「問題しか起こしていないお前が言うと説得力が無い」
フランを何とか説得して終わった組に並ばせる。
「最後は……、ホウリか」
「よろしくお願いしまーす」
「じゃ、手を出せ」
言われた通りに手を出す。そして、ティムが手を握る。
「今からわざとMPの流れを乱す。それでMPの流れを感じろ」
「わかった」
目を閉じて集中する。いくぞ、という声の後、俺の体の中の何かが大きく揺らぐのを感じた。
「感じたか?それがMPの流れだ。それを忘れるなよ」
「わかった」
ティムは手を離すと岩の前に戻る。
「今皆が感じたのがMPの流れだ。これを放出し体に纏う。これを『魔装』という」
そしてコンコンと岩を叩く。
「MPを操作する事、それ事態は訓練でどうとでもなる。やっておいて損はないだろう」
ティムが言い終わった後、一人の生徒が手を挙げる。
「じゃあ、どうすればMPを放出出来るんですか?」
「さあ?」
生徒の質問をバッサリと切り捨てる。もう少し言い方を考えろ。
言い知れぬ空気の中でティムが弁解するように言う。
「あー、勘違いしないで欲しいんだが、別に面倒くさくなったわけじゃないぞ。MPの放出のやり方は人それぞれだから他人が教えるものじゃないんだ。だから自分で感覚を掴んでもらう」
「どのくらいで掴めるものですか?」
「それもバラバラだ。すぐに掴める奴もいれば何ヵ月もかかる奴もいる」
なるほど、魔法を使うのもそれなりの練習がいるわけだな。
「じゃあ、各々MPの操作の練習してろ。さっきも言ったが出しかた自体は人によって違うから何回も試す事が重要だからな」
そう言うと、ティムは岩に寄りかかり、大きくアクビをする。
「あからさまにやる気がないのう」
「出来ることが無くて暇なんじゃないか?」
さっきの話が本当なら、教官に出来ることはほぼない。初心者が悪戦苦闘している様子をただ見ているだけなのは非常に退屈だろう。
それはそうと、俺も練習するか。えーっと、MPを手に纏うイメージで……。
「あ、出来た」
目には見えないけど何となく分かる。手を今まで感じたことがない何かが覆っている。
MPを纏った手をフランに見せてみる。
「フラン、出来てるか?」
「うーむ、出来ておる」
あっさり出来ちゃったよ。こういうのってもっと時間がかかるものだと思ってた。
「初めてにしては安定しておるのう。普通なら出せても纏うことは難しいはずじゃ」
「……一つだけ心当たりがある」
「何じゃ?」
「親父との旅で『気』を操る事を教わったんだが、それをやってたからかもしれない」
「『気』?」
「『気』を操れると多少だが、身体能力が上がる。そのお陰で切り抜けた危険も沢山あったなー」
さすがに極めるまでは出来なかったが、使い物になる程度には今でも使える。久々に修業しようかな?
「まあ、『気』と『MP』って結構似てるから出来たんだな」
「良かったではないか。憧れの魔法に一歩近づいたぞ」
「それもそうだな。とりあえず、教官に見せてこよう」
意気揚々とティムの元へ向かう。ボーっとしていたティムは俺の拳を見るとそのまま俺の元へ向かってきた。
「教官、どーよ。ものの数分で『魔装』をマスターしてやったぜ!」
「そうか。じゃあ、次は魔法の使い方だな」
「なんか、反応薄くないか?もっと『な、何だってー!ものの数分で出来ただと!?』とか無いの?」
「お前なら出来ると思ってたからな。それに、少しセンスがあればこれぐらい普通だ。後な、お前は『魔装』をマスターしたと言っていたが────」
ティムは顎に手を当てながら言った。
「まだ半分しかマスター出来てないぞ?」
「……マジで?」
「マジだ。ホウリ、木刀を取り出せ」
俺は言われるがまま木刀を取り出す。
この街では『俺=木刀』の図が広まってしまっている。非常に解せない。
「その木刀にMPを纏ってみろ」
「木刀に?」
言われた通りに木刀にMPを纏わせようとする。
えっと、さっきと同じ要領で……。
「……って、うわっ!」
「難しいだろ?上手くやらないと武器にMPが弾かれちまう。それが出来れば『魔装』をマスターしたと言ってもいい」
……やっぱり難しいな。数時間は練習する必要がありそうだ。
それにしてもマスター出来たと思ったんだがな……。少しだけショックだ。
「そう悲観するなって。MPは形を自在に変えることが出来る。刃の形を作って木刀に纏わせれば……」
「木刀で物が切れる!」
「そういうことだ」
なるほど、これが出来れば大幅な戦力強化になる。頑張ってマスターするぞ!
「『魔装』は後で良いだろ。とりあえず今は、」
「魔法だな?」
ティムが頷く。そして、何かにふと気づくと俺に尋ねてきた。
「そういえば、お前は魔法の適性あるよな?」
「ありますよ?」
「そうか、ならいいんだ。今から説明しよう」
ティムは手のひらを上に向ける。
「と言っても、口で説明だけなら簡単だ。『放出したMPを自分の適性の属性に変換する』以上だ」
そう言うと、手から炎の柱がボオォと上がる。
「これも、人によってやり方が違う。アドバイスをするとしたら、初めは少しのMPで練習した方が良いという事だな。習うより慣れろって言うし実際にやってみろ」
そう言うと、岩にもたれ掛かる。だが、目線はしっかりとこちらに向いている。分かるところは指導してくれるんだろう。ありがたいな。
と言うわけで、実際にやってみる。手のひらを上に向けて、MPを少し出す。そして、そのMPを炎にするイメージを……
すると、放出したMPが一気にボワッと燃え上がり、霧散してしまった。
それを見ていたティムが口を開く。
「そうだ。属性変換は容易いがそれを維持する事が難しい。そして、それは消費するMPが多いほど難しくなる」
ちなみに、と言ってティムはハンドボール位の炎の球を出現させた。
「これが、初級の『火球』だ。これぐらいの大きさが無いと魔法としては使えない」
そう言うと炎の球を消した。俺が出した炎を維持できたとしてもビー玉位だな……。道のりは長いみたいだな。
「じゃあ、そろそろ講習が終わる。俺が出来るのはここまでだな」
「ありがとう助かったよ」
「仕事だしな。気にすんなって」
そう言うと、ティムは肩を叩いて一言『頑張れよ』と言うと広場の皆を集め始めた。
後は反復練習あるのみだな。絶対に魔法を物にしてみせる!
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