第十四話 オーセノトーリニー

───魔王───

魔王とは魔族を統べる王の事である。魔王は代々、一番強い魔族が成り、魔王を倒した魔族が次の魔王となる。なので、最初の頃は下克上が頻繁に起こっていたが、最近はめっきりと減っている。ちなみに、フラン・アロスは500年前に就任した20代目の魔王である。






☆   ☆   ☆   ☆






 夕飯を食って風呂に入った後、俺はフランの部屋の前にいた。

 いよいよ、あのクソ野郎と話が出来る。このチャンスを絶対にものにしてみせる!

 気合いを入れてコンコンとフランの部屋をノックする。



「入ってよいぞー」

「じゃまする」



 同じ宿だから当たり前だが、フランの部屋は俺と似たような感じだった。ただ1つ違うのは部屋の床一面に大きな魔方陣が書いてあるということだ。



「なんだこれ?」

「みっちゃんと連絡を取るための魔方陣じゃ。この中に入れば、みっちゃんと連絡が取れる」



 そう言ってフランは魔方陣の中に入ってチョイチョイと手招きをする。俺は気を引き締めて魔方陣の中に入った。



「では、みっちゃんに繋ぐぞ」



 そう言うと、フランは魔方陣に手を触れて魔力を注ぎ込んだ。

 魔方陣は魔力を注ぎ込まれると徐々に輝き始めた。そして、ザザザッというノイズが発生した後、徐々にクリアになっていった。



(ザザザッ───ザザッ──ザッ─プルルルルルルル、プルルルルルルル、プルルルルルル)



 電話!?これ電話なのか!?

 いや、もうツッコまないでおこう。これ以上は体が持たない。

 コール音が何回か鳴った後、ガチャという音と供にあのムカつく声が聞こえてきた。



『やあ、まーちゃん。最近、連絡無かったから退屈だったんだよ。今日はどんな話を聞かせてくれるのかな?この前のケーキ屋の話は結構面白───』

「よう、久しぶりだな」



 饒舌だった神が俺の声を聞いたとたん、急に静かになった。

 そのまま数分たった後、やっと神が口を開いた。



『まーちゃん、ホウリ君には内緒にしておいてって言ったよね?』

「すまん、口が滑った」

『……まあ、いいや。で?ここまでして私と話したいって事は何かあったの?』

「あるに決まってるだろ!この木刀の事だ!」



 そう言って木刀を取り出す。神に見えてるかは知らないけど気分の問題だ。



「この木刀のせいで俺がどれだけ苦労したと思ってんだ!何とかしろ!」

『んー、それに関しては悪かったと思ってるよ』



 全く悪びれない声で神が言う。



「悪いと思ってんなら何とかしろ!」

『それは無理かなー』

「何でだ!フランからお前にしか解けないって聞いたぞ!」



 神は困ったように言う。



『それね、私が本気だして強化しようとして失敗したものだからね。直接私が下界に行かないとダメなんだ』

「じゃあ───」

『だけどさ、私って神じゃん?色々と忙しくて下界に行っている暇は無いんだよね。分かってくれない?』

「じゃあ、俺が木刀をそこに送れば良いじゃないか」

『その木刀は私が本気だして作った物だよ?まーちゃんが100人居ても足りない程のMPが要るし、扱いに失敗したらドカンだよ?それでも良いの?』



 クソッ打つ手なしか。



「わかった。木刀は諦めよう」

『?、随分とあっさり引き下がるね?もっとごねると思っていたよ』

「フランに呪いを解くようなアイテムを渡していない時点で解くのが難しい事は薄々わかってた」

『それは良かった。話はこれで終わり?』

「いや、ここからが本番だ」



 そう、俺にとってはここからが大事なんだ。



「神、お前が隠している事を全部話せ」

『隠している事?なにそれ?』



 あくまでしらばっくれる気か。



「お前は最初に言ったよな?『魔王が侵略してきているから世界を救って欲しい』って」

『言ったね。嘘はついてないよ?』

「そうだな。でも、

「どういう事じゃ?」



 フランが不思議そうに首を傾げる。



「こいつが意図的に何かを隠してるって事だ」 

「みっちゃんが?なにを?」

「それを今から聞く」

『いやだなー、私は何も隠してないよ?』



 まだ認めない気か。だったら叩きつけてやるか、決定的な矛盾を!



「神、俺にはこの街に沢山の知り合いが居るんだ」

『そうみたいだね。まーちゃんから聞いているよ』

「その中にはな

『……へー』

「その魔族曰く、『人族との対立?そんなの500年前に終わってるよ』らしい。ちなみにその魔族からプレゼントとしてネックレスを貰った」



 俺は胸にかけているネックレスを取り出す。透明なクリスタルが飾ってある綺麗なネックレスだ。その魔族の故郷の特産品らしい。



「じゃあ、神が嘘を言っていたのか?それは違う。今も人族を支配するべきと言う魔族も居るには居る。少数派だがな。拡大解釈をすれば驚異と言えるだろうな」

「しかし、何故みっちゃんはそのような誤解を産むようなことを?」

「さあな?それこそ『神のみぞ知る』ってやつだろ。で、どうなんだ?」



 神は黙って俺の話を聞くとようやく口を開いた。



『……そう言う設定のほうがRPGっぽいでしょ?』

「……みっちゃんらしい理由じゃのう」



 フランが苦笑する。だが、俺は全く笑えない。



「神、あくまでしらを切るのか?」

『別にしらを切ってないよ?』

「じゃあ、もう1つ質問だ。この世界に人族が生まれたのは何年前だ?」

『そんなの知ってる筈ないじゃないか。私はこの世界以外にも別の世界も管理してるし、1つの世界を細かくなんて把握してないよ』

「いいや、お前が知らない筈ない。何故なら……」



 これが最大の矛盾だ!くらえ!



「この世界を発展させたのは、

「な!?なんじゃと!」

『それは君の推測だよね?証拠はあるの?』



 証拠もないのにこんな事を言うわけ無いだろ。



「フラン、技術の発展に必要な物は何だと思う?」

「発展に必要な物?んー、なんじゃろうな?」

「それはな、『知識』だ」

「知識?」

「火を使う『知識』があれば、食料等の加工が楽になる。金属を扱う知識があれば強力な武器等がつくれる。『知識』があれば様々なことが出来る」

「なるほどのう」



 フランが納得したように頷く。



「フラン、話は変わるがこの世界の一番古い人族の記録は何年前だ?」

「古い記録?たしか……1000年前の記録が一番古い筈じゃ」

「俺が確認できた一番古い人族の記録も約1000年前だ」

『それが何だい?』

「変なんだよ。1000年前の記録はあるが、

「どういうことじゃ?」

「まるで、ってことだ」



 ちなみに、俺が確認できた一番古い記録は『魔石の運用方法について』というものだった。地球では壁画等なのに対してこっちは字で残っている。これもかなり不自然だ。



「これについて、お前はどう弁解するつもりだ?」

『……仮に私が他の世界から人をつれて来たとするよ?でも、君の世界とは限らないよね?』



 まだ認めねぇ気か。だが、甘い!



「フラン、この前のスペシャルコースの最初のメニューは?」

「たしか、ババロアじゃったな。また、あのババロアを食べたいのう」

「外を出るときに足に履くものは?」

「靴じゃな」

「座る時に使う道具は?」

「椅子じゃな」

「1週間は何日だ?」

「7日じゃ」

「食べる前に何て言う?」

「いただきます」

「国を治める人を何て言う?」

「国王」

「別の言い方で」

「キング」

「これは何て読む?」



 紙に漢字で『木村鳳梨』と書いて見せる。



「きむらほうり。お主の名前じゃな……って、さっきからなんじゃ!当たり前の事ばかり聞きおって!」

「そうだな、当たり前のことだ。

「……あ!」



 フランも気付いたようだな。



「確か、俺に翻訳スキルは無かった筈だな?」

『……そうだね』

「つまり、この世界と俺の世界は根本的に言語や文化が似ている。言語や文化が似ている事を偶然で片付けるつもりか?」



 俺の追求に神が諦めたかのような口調になる。



『……そうだよ。君が居た世界から私が500人程連れてきたんだよ』

「500人!?結構多いのう」

『少ない位だよ。この世界はあっちの世界と比べて危険だからね。人数は多いに越したことはないと思ったよ』



 よし、なんとか認めさせたな。

 だが、神は少し笑うと俺にこう言った。



『で?だからなに?君が居た世界から人を連れてきた、これが分かったからなんなの?』

「……1つ確認するぞ?お前が俺が居た世界から人を連れてきたのは1000年前か?」

『そうだよ。大体、1000年位前だよ』

「……俺の世界でな、10年前に集団失踪事件があった。失踪した人数は約500人」

『それで?』

「分からないのか?あの世界で10年前に失踪した奴等がこの世界の1000年前に現れたんだ」

「?、どういうことじゃ?」

「つまり、この世界と俺が居た世界では100ということだ。理屈はわからないがな」

『そうだね。それで?』



 ここまで来たらあと少しだ。



「フラン、お前が魔王になったのは何年前だ?」

「500年前じゃな。それがどうした?」

「フランが現れて500年はこの世界が平和になった。つまり、お前は戦争が終わって500年立ってから行動を起こした。考えられる理由は『不測の事態が起こった』か『タイムリミットが迫っているか』だ」

『……………』



 相変わらず神は言葉を発しない。重々しい空気が流れる中、俺は話を続ける。



「だが、どちらも不自然な話だ。魔王を退治したいならば適当な奴にチート能力でも与えて退治すればいい。だが、お前はそれをしなかった」

『…………』

「タイムリミットが分かっているなら早々に手を打っているはず。だが、俺は明らかにいきあたりばったりで呼ばれた」

『……計画がないっていう証拠は?』



 ボソリと神が呟く。

 俺はため息を吐きながら木刀を付き出す。



「事前の用意があったらこんな面倒な武器を渡すはずがない。魔王を倒せと依頼するのに、こんなハンデを背負わせる必要はない。大方、焦って他の武器と取り違えたんだろ?」

『…………』



 再び沈黙する神。これは、図星だな。

 だが、逆に好都合かもしれない。ここから先は推測が混ざっちまうが、畳み掛けるなら今だ!



「どちらも不自然。なら、考えられる事は1つ。『まだタイムリミットに余裕はあったが不測の事態で無くなった』」

『…………』

「お前が何を企んでいるかは知らない。だが、お前は俺に全てを話す義務がある!さあ、全部話せ!」



 人差し指をビシッと突き立てて空中に向ける。気まずい沈黙が辺りに流れるが、暫くすると神が話し始めた。



『……流石だね、ホウリ君』

「そりゃどうも。それより、キチンと話す気になったか?」

『そうだね。君にも無関係な話じゃないし、話しておこうかな』



 



☆   ☆   ☆   ☆





 神の説得も出来たようだし、ここまでの話を軽くまとめておくか


1.木刀はどうにもできない

2.この世界は地球人が発展させた

3.この世界は地球よりも時間の流れが100倍遅い

4.全部神のせいでこうなった


 こんなところか。



「で、何から説明するんだ?」

『何から話そうかな……、とりあえず、魔王と勇者について話そうか。ホウリ君に質問、勇者と魔王って何?』

「魔王は魔族を統べる者のことで、勇者は魔王を倒す力があるものじゃ無いのか?」

『その答えは正確じゃない。魔王と勇者というのはね、特別な魂を持っている者だよ』

「特別な魂?」



 どういうことだ?



『魔王には魔王の魂が、勇者には勇者の魂が宿っている。それぞれの魂を持ったものを魔王や勇者と呼ぶんだ』

「ということは、魔王や勇者は生まれながらに決まっていると言うことか?」

『普通はね』

「普通は?」



 何か含みのある言い方だな。



『確かに魔王や勇者は生まれた時に決まる。けど、例外があるんだ』

「例外?」

『魔王や勇者はね、同族に倒されると、倒した者にその魂が移るんだ。しかも、魂が移った者は元々魂を持っていた者と比べて数倍の強さになる』

「な!?なんだと!?」



 だとすると……、ヤバイことになるじゃねぇか!



『気付いたようだね?』

「ああ、500年前に魔王と勇者の最後の戦いがあった。その戦いはこの世界の半分以上が死ぬ壮絶な戦いだったらしいな?結果は相討ちだったらしいが……」

『そう。このままいくと、魔王と勇者の戦いの余波でこの世界が滅びる』



 クソッ、世界が滅びるのはマジだったのか!



「勇者と魔王の戦いを止める事は出来ないのか?」

『やろうとしたけど無理だったね。磁石みたいに引かれあっている感じなのかな?「これが俺の使命だ!」みたいな感じで全く聞き入れてくれなかったよ。一応お告げとかしてみたんだけどなー』



 こいつが無理って言うのなら無理なんだろう。だが、そうなると1つの疑問が生まれる。



「なら、500年戦いが起こっていないのは何故だ?」

『それはね、まーちゃんの魂に細工して、「魔王の魂」を封印して貰っているわけ』

「なるほど、フランもお前が用意したわけだ」



 フランが強いのは魔王を倒す必要があったからって訳だな。

 俺はフランをチラリと見てみる。目があったフランが肩をすくめながら話し始める。



「確かに、わしはみっちゃんに言われて魔王になった。ついでに戦争も止めてくれと頼まれたのう」

ゴミも何もしてなかった訳じゃ無いんだな」

『ふふーん、もっと褒めてもいいんだよ?』

「褒めてねぇよ。というか、何でそんな危険なものを作ったんだ?」

『作ったといったら、語弊があるね。あれはね、出来てしまったんだよ』

「出来てしまった?」

『この世界を造る時に、出来てしまったんだ。分かりやすく言うと「バグ」って感じかな?』



 なるほどな。こいつが作った訳では無いんだな。



「質問いいか?」

『良いよ』

「同族にやられたらそいつに魂が移るんだよな?その他はどうなるんだ?」

『お、いい質問ですね』



 ○上さんか、お前は。



『まず、魔王や勇者が他の魔族や人族にやられるとどうなるかだけどね、わかんない』

「は?」

『正確には「前例が無い」だけどね。やったことが無いからわかんない』

「じゃあ、もう1つの場合はどうなんだ?」

『これは初期に前例があってね。勇者が魔王を倒したり、魔王が勇者を倒したりするとね、魔王と勇者の魂が混ざり会うんだ』

「そうなるとどうなるんだ?」

『爆発して弾け飛ぶ』

「……え?」

『予想がついてると思うけど、爆発の威力は魂のエネルギーが多いほど大きくなる。仮に今その爆発が起こったら、この世界の全てが吹き飛んで君の木刀しか残らない』

「この木刀そんなに硬てぇのか!?」



 いや、今はそんな事どうでも良い。どうでも良くないけど、どうでも良い。



「じゃあ、俺がフランを倒したらヤバイじゃねぇか!」

『その点は大丈夫。私の目が届く範囲で倒してくれれば魂どうしが混ざる前に回収出来るから』

「だとしても、俺がフランと戦ったらその余波でこの世界が滅ぶじゃねぇか!」

『だから君を呼んだんだよ』



 そしてここに繋がる訳か。



「どういうことだ?」

『たしかに、君が言う通り勇者にチート能力を与えて退治すれば手っ取り早い。けどね、その余波で世界が滅んだら意味がない』

「俺がチート能力を持ってない理由は分かった。だが、何故俺を選んだんだ?」

『そんなの言うまでも無いでしょ?君が呼ばれた理由はね、君のお父さんから「小さい力で大きい物を倒す」事を学んだからだよ』

「親父!?」



 親父も一枚噛んでるのか!?



『思い出してみなよ。お父さんとの旅はいつも逆境から勝つことをやらされていたでしょ?しかも、最小の力で』



 そうだった。親父との旅はいつも逆境からのスタートだった。あの旅では色々な技術や考え方を学んだが、基本は逆境から最小の力で勝つことを強いられていた。あれは、このためだったのか!



「親父はどこまで知ってるんだ?」

『さあ?私は君のお父さんに何も話してないし』

「じゃあ、親父は自分でこの情報をキャッチして、動いていた訳か?」

『話はそう単純じゃ無いんだよね』

「どういうことだ?」

『君がお父さんと旅に出たのはいつ?』

「あっちの時間で八年前……あ!」

『そう、君のお父さんは

「なんじゃと!?」



 今まで黙っていたフランが声を荒げる。



「みっちゃんよりも先に動いていたじゃと!?そんなこと可能なのか!?」

『「可能だろうな(ね)」』



 俺と神の声がハモる。



「親父なら出来るだろうな」

『むしろ、最初から君のお父さんに相談すれば良かったよ』



 俺達があっけらかんと言ったのを聞いて、フランがキョトンとしている。



「そんなに凄いのならば、ホウリの父親に頼めば良いではないか?」

『……まーちゃんは残酷な提案をするね?』

「そう言うなって。親父知らない奴が聞いたら当然の反応だろ」

「え?そんなにヤバイ人なのか?」



 フランが訳が分からないのかという表情をする。



『極端に言うとね、百万Gを取り返す依頼に999,999Gを要求する人なんだよ』

「おそらく、この世界を救う事を依頼するとこの世界の80%を要求するだろうな」



 つまり、代償がでかすぎるということだな。この場合だと、世界の80%を要求するだろう。竜○もびっくりだ。



『つまり、世界が救われても本当の意味で救われなくなるんだよね』

「初期段階に相談してたらかなり軽く済んだんだがな」

「……凄すぎて言葉に出来んわい」



 親父の旅に同行させられていた理由はこれか。



『まあ、そう言った訳で君には最小限の力でまーちゃんを倒して貰いたい』

「わかったよやれば良いんだろ?それしか方法が無いしな」



 俺がやるべき事は分かった。だが、もう少し聞いておくことがあるな。



「いくつか質問するぞ?」

『いいよ』

「俺は不測の事態が起こったからタイムリミットが短くなったと読んでいるが、当たっているか?」

「当っているよ」

「じゃあ、不測の事態ってなんだ?」

「まーちゃんの魂の劣化が思ったよりも早い事だね。タイムリミットは最短で30年だね」




 30年か。長いとも短いとも言えないな。



「勇者と魔王が最後に戦った後、大規模な爆発が起こったという記録がないが何故だ?」

『相討ちになると混ざらずに何処かに行っちゃうんだよ。魔王と勇者の戦いは3回あったけど、最初の戦い以外は相討ちになったんだよね』

「だから爆発が無かった訳か」



 少し不思議だったから納得した。



「じゃあ、俺がフランを最小の力で倒せば良いんだな?」

『あー、それなんだけどね』



 何だ?まだ何か有るのか?



『君はまだ勇者じゃないから』

「は!?どういうことだ!?」

『だってー、手元に勇者の魂が有るわけじゃ無かったしー。有るならこんなに回りくどい事をしないじゃん?』

「くっ、それもそうか……」



 まずは勇者の魂の入手が先か。



「倒すって、殺す必要があるのか?」

『いや、相手が敗けを認めた瞬間に手に入るから、殺す必要は無いね』



 良かった。殺す必要が有るならめんどくさくなるところだった。



「勇者の魂の有りかは分かるか?」

『もうちょっとだけ時間がかかるかな』

「分かった。わかり次第連絡を頼む」

『オッケー』



 今はこんなところか。いや、まだあったな



「あと1つ良いか?」

『なんだい?』

「あの、スキル選択画面はなんだ?」

『ん?ああ、あれね。君の世界で流行ってるらしいからね。楽しかったでしょ?』

「普通で良いんだよ!あんなところに力を入れてるから魂の在処も───」

『あ、あれ?電波が悪いみたいだ……、もう切るね!』

「この野郎!逃げんじゃねぇ!」

(プツン、ツーツーツー)



 クソッ、逃げられたか。まあいいか、必要な事はほとんど聞けたし。 

 フランを見ると頭を抱えていた。



「……色々あって頭の整理がついてないわい」

「だが、やるべき事は決まった。まだ不明な部分も多いが大まかな方針は余り変わらないな」



 いくら最小の力と言ってもまだまだ足りない。今後の目標は初めの通り強くなることだな。



「じゃあ、俺はもう寝る。お前も早く寝ろよ?」

「わかっとるわい」



 俺はフランの部屋のドアノブに手をかける。



「お休み」

「お休みじゃ」



 思ったよりも深刻な現状に頭を悩ませつつ、俺は自分の部屋に戻った。

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