第十三話 ガチャは悪い文明
───神殿───
神殿とはスキルを授かったり、神に祈りを捧げたりする場所である。各街に1つはあり、神殿には神官が複数と神殿長1人で運営している。国からの援助や信者からのお布施で成り立っている。国の中でも重要な機関のため政治にも大きな影響力を持つ。
☆ ☆ ☆ ☆
武器屋での買い物を済ませた後、俺達は神殿に来ていた。
神殿は街の中心にあり、冒険者や一般人関係無く様々な人が訪れるため、人で溢れている。
「宿から遠いから来たことが無かったんだが、賑やかだな。もっと静かな感じを想像していたんだが。」
「スキルを授かるのも祈りを捧げるのも神殿でしか出来んからの。賑わうのは当たり前じゃ」
「それもそうか」
初めてのスキルに胸を踊らせながら、俺は人でごった返している神殿に足を踏み入れた。強撃?あまり使わないからノーカンで。
神殿に入り最初に目に留まったのは神殿の一番奥にある大きいステンドグラスだった。天から舞い降りた人物が人々に光を振り撒いている用に見える。恐らくここで信仰されている神なんだろう。
「フラン、あれってもしかして」
「そうじゃ、みっちゃんじゃ」
「やっぱりか」
あのクソみたいな神がこんなに神々しく描かれているのは何か納得いかない。
「そう言うでない。みっちゃんだって優しい所があるんじゃぞ?」
「例えば?」
「これじゃ」
そう言ってフランは錠剤が入った瓶を手渡してきた。
瓶のラベルには『神様特製スキルデール』と書かれている。
「何これ?」
「みっちゃんからの贈り物『スキルデール』じゃ。飲むと神殿でスキルを授かる時に追加でランダムに1つスキルを獲得できる」
「おお、それは有難い!」
何だよ、あの神にも結構優しい所有るじゃん。これは素直に感謝して────いや、待て!
俺は唐突にフランの肩をガッと掴む。
「な、なんじゃいきなり!」
「フラン、この薬を神から貰ったのか?」
「そうじゃ、お主に『ごめんね』って伝えるようにと言われておる」
「ということは、
「……あ」
フランは『やっちゃった』という顔をした後、顔を斜め下に背けた。
「ナンノコトジャ?ワシニハワカラン」
「もう遅せぇよ!神に連絡をとれ!あの野郎に言いたいことが山ほどある!」
「木刀の事か?」
「それが5割、残りは別にある。結構大切なことだ」
「う~む、しかしのう……」
「ちなみに、今の俺達の残金は2032Gだ」
「そ、それを言われるとのう……」
あの後、壊れた設備をフランのスキルで直したんだが、あの騒ぎで客の大半が居なくなった事から迷惑料として防具を正規の値段で買い取った。
「……わかったわい。今夜、寝る前にわしの部屋に来い。みっちゃんに繋ごう」
「助かる」
あの野郎に文句の1つでも言わないと気を鎮めることが出来ない。思いっきり文句を言ってやろう。
「とりあえず、今はスキルだな。これを飲めば良いのか?」
「そうじゃ、1錠飲む毎に1つスキルが手に入る」
「じゃあ、全部飲めば良いのか?」
「1度に飲み過ぎると死ぬから止めておけ。お主なら2錠なら良いじゃろう」
なんだ、制限付きか。それでもありがたいが。
「スキルを授かるには神官の許可が必要なんだよな?」
「そうじゃな。手頃な神官を見つけるとするか」
手が空いていそうな神官を探す。だが、神官は全員神の教えを説いていたり、スキルの説明をしていたりで手が空いている人は見当たらない。
「困ったな。時間がかかりそうだ」
「そうじゃな。お祈りでもして時間を潰すか?」
「俺はあいつに祈りを捧げたくない」
出直す事を考え始めた瞬間、奥の重々しい扉が音をたてながら開いた。神殿にいる全員が一斉に扉の方に視線を向ける。
中から他の神官より神々しく、長い金髪の一際綺麗な女性が表れた。青い衣装を身に纏い、上から純白の衣を羽織っている姿は、まさに神に使える者と言えるだろう。
女性が表れた瞬間、信者達が一斉に詭き、敬うような声があちこちから挙がる。
「し、神殿長様じゃぁ。神殿長様がお見えになったぞぉ」
「ありがたや、ありがたや」
「なんと神々しいお姿なんだ……」
そんな声が挙がる中、神殿長は真っ直ぐこっちに歩いて来た。
「お、おい、何かこっちに向かって来ておらぬか?」
「そうだな」
「妙に落ち着いておるのう。まさか、お主の知り合いか?」
俺が答えるよりも先に神殿長が俺の前で止まり、軽く頭を下げた。
「ホウリ様、よくおいでくださいました」
川の流れのように滑らかで透明感のある声で神殿長が話す。
なるほど。今はそういう流れか。
フランに『余計なこと喋るな』という合図を送って、恭しく詭く。
「この度はお招きいただき誠にありがとうございます。神殿長様のお心遣いに感謝いたします」
明らかに神殿関係者でない俺に神殿長が話し掛けた事によっぽど驚いたのか神殿内の視線が一斉に俺に向く。
神殿長はニコリと微笑んだ。
「では、神殿長室にご案内します」
そう言うと、神殿長はクルリと向きを変えて扉の方に歩きだした。
俺は一定の距離を保ちつつ神殿長の後をついていく。俺達が扉をくぐると同時に扉はひとりでにバタンと閉まった。
部屋の中は以外にも簡素な作りをしていた。接客用のテーブルとソファー、本が隙間なく詰まった本棚があり、仕事用と思われる机には書類が山のように積まれていた。
神殿長はソファーに勢いよく座ると大きくため息をついた。
「あー疲れた。ほんと、やってられないわ」
そこにはさっきのような神々しい姿はなく、ソファーに寝っ転がる怠け者の姿しか見えなかった。
俺はハーッとため息をついた。
「とりあえず、自己紹介はしろよ。俺はともかくフランとは初対面だろ」
「それもそうね。初めまして、この街の神殿長やってる『コレト・ガーナ』っていいます。よろしくね♪」
「わしの名前はフラン・アロスという。よろしく頼む」
フランはさっきとのギャップに着いてこれないのかまだ少し混乱している。
「えーと、その、二人はどういう関係なんじゃ?」
「ただの飲み仲間だ。神殿長というのは初めて知ったけどな」
「ホウリ君話聞くの上手くてね。ついつい愚痴っちゃうのよ」
「信者が酒を飲んでも良いのか?禁止されておったと思うが?」
「あー、私はここで働いてるだけだから信者じゃないのよ。だから全然おーけー」
「う、うむ……」
まだギャップに着いてこれてないフランに変わって俺が話す。
「ところで、何で俺達をここに連れてきたんだ?」
「ん?意味なんて無いよ?」
「はぁ?」
「いやね、最近、仕事に次ぐ仕事で休憩する暇も無くてね。さすがに休みたいなーって思ってたらホウリ君が見えてね。休む口実にしちゃおうと思ったのよ。お客さんをもてなしていたとか言っておけば誤魔化せると思って♪」
「何かと思えば、そんなことで呼び出したのか……」
悪びれずにさらっと話す。
この後、あること無いこと噂が立つに決まってる。それをもみ消すのがどれだけ大変だと思ってるんだ……。
「そう言う事なら俺達は行くぞ。こっちも暇じゃ無いんだ」
「そう言えば神殿に何か用なの?」
「ちょっと、スキルを貰おうと思ってな。だが手頃な神官が居なくて困ってたところだ」
「じゃあ、私がやってあげようか?」
「いいのか?」
「いいよ。そんなに手間でもないし」
神官を待ってたらいつになるかわからねぇからな。
「ありがとう。助かる」
「いいって、私もサボれるし」
「お礼に今の発言は聞かなかった事にしといてやる」
コレトはゆっくりと起き上がって1枚の紙を手渡してきた。
「これは?」
「職業の一覧表。まずは職業を決めないとね」
「ああ、そんなのもあったな」
「職業によって取れるスキルとかステータスの上がり方が違うから慎重に決めてね」
コレトから紙を受け取りざっと見てみる。
木刀しか使えないから魔法使いや弓使いは無理。今は火力が足りてないから攻撃力が上がりやすい職業がいいな。
「そう言えば、フランの職業ってなんだ?」
「わしか?わしは魔導師じゃな。魔力が上がりやすい」
「コレトは?」
「私は
「なるほど」
だとすると、俺は……
「決めた。サムライにする」
「サムライか。攻撃力と敏捷性が上がりやすい職業じゃな」
「攻撃力と防御力が上がりやすい戦士にするか迷ったんだが敏捷性の方が後々必要だと思ってな」
「癖が少なくて悪くない職業だと思うわ。じゃ、次はスキルについて説明するよー。とりあえず、これ読んで」
コレトがさっきとは別の紙を渡してくる。
「それに必要な事はかかれてるからよく読んでね。理解したら私に言ってね」
「適当じゃねぇか。そんなことで神殿長が勤まるのか?」
「君達以外は誰も見てないし別に良いじゃん」
そう言ってそのままソファーでゴロゴロする。
本当、何でこいつが神殿長なんだよ。
とりあえず、渡された紙を見るが、回りくどい上に解りづらいので箇条書きでまとめる。
・スキルはレベル10、20、30、50で神殿から授かれる
・授かれるスキルは選べるが選択肢は人によって違う
・スキルは熟練度があり、進化する事もある(強撃→轟撃)
・職業によって授かれるスキルは変わる
・持っているだけで効果があるスキルもある
・スキルによっては努力することで手に入るものもある(忍び足、跳躍etc.)
・人によっては1度に複数のスキルを授かれる
・ユニークスキルは生まれ持つ以外には手に入らない
・鑑定でステータスを見ないと判明しないスニークスキルもある
こんなものか。以外に注意するべきことが多いな。
「コレト、2つ良いか?」
「なあに?」
「スキルって選び直せるのか?」
「それは無理ね。スキルを消す事は出来るけど選び直しは無理よ」
「スキルの選択肢って毎回変わるのか?」
「レベルが上がる度に増えていくことはあるけど減ることはないわね」
「わかった。じゃあ、よろしく頼む」
「おっけい、ちょっと待ってね」
そう言うと、コレトはソファーから立ち上がってシワになった服を手で伸ばした。そのまま大きく伸びをして軽くストレッチをする。
そして、『コレト・ガーナ』から『神殿長』にスイッチを入れ換えるように頬をピシャリと叩いた。
「それでは、私の手にお触れください」
そう言って俺に手を差し出す。さっきも見たが、惚れ惚れするほど変わり身が早い。
俺はコレトの手をとる。絹のようにすべすべした肌感触が伝わってくる。
【神よ、この者にサムライの称号と新たなる力を授けたまえ!】
頭に声が直接染み込む用な感覚の後、俺の意識は闇へと消えた。
☆ ☆ ☆ ☆
気がつくと、俺は真っ暗な闇の中にいた。右や左を見ても光は無い。
これは、意識だけどこかに飛ばされてる感じか。となると、スキルをとるまで帰れないな。でも、どうやってスキルを取ればいいんだ?
どうするか迷っていると突然、光の板がピロンという音をたてながら表れた。
光の板を見てみると『スキルを選ぶ』と書かれていた。とりあえず、『スキルを選ぶ』を押してみる。すると、光の板に入手可能なスキルがズラーと並んだ。恐らく、100個以上はある。
めんどうだが、一つ一つ見ていくか。
えーっと、『聞いた音の音階が分かるスキル』、『食べても太らないスキル』、『時計を見なくても正確な時間が分かるスキル』etc……
絶妙にいらねぇ!ほとんど戦闘で使えないものばっかじゃねぇか!
クソっ、望みはサムライのスキルだけか。何かいいスキルは……、お、これ良いじゃん。
───加速───
このスキルを使用すると一定時間、敏捷性を+50する。
消費MP 50
消費MPが少し高めなのがネックだが、悪くはないな。欲を言えば攻撃力をあげるようなスキルが良かったが、それは別の機会だな。
俺は『加速』を選択する。すると、板からカードのような物が表れて俺の胸に吸い込まれるように消えていった。多分、これでいいんだな。
後は『スキルデール』なんだが、あの薬本当に効果あるのか?
半信半疑でいると今度は青みがかった板が表れた。よかった、ちゃんと効果があった。
青い板にはこう書いてあった。
初心者応援キャンペーン
今ならランダムスキルガチャが二回無料♪
今なら神様のありがたーい教えのオマケつき♪
──ガチャる 残り2回──
ソシャゲじゃねぇか!何で普通に出来ねぇんだよ!あの野郎に聞くことがまた増えたじゃねぇか!
はぁはぁ、少し落ち着こう。この思いは今夜ぶつけよう。今はスキルの方が重要だ。
とりあえず、あの野郎が絡んでる以上はまだ何かあるだろう。慎重にガチャるをタッチする。
すると、いきなり青い板が消えた。『失敗したのか?』というよりも先に『またあの野郎が何かしやがったか』という思いが先行する。
瞬間、目の前に直径が三メートル程の魔方陣が表れた。魔方陣は輝き出したかと思うと光をどんどん強くしていき、遂にはバチバチと電気を放出し始めた。そして魔方陣の中央から2枚のカードが表れて俺の目の前まで移動してきた。
恐る恐るそのカードに触れると、頭の中で声が響く。
────スキル『○○○○』『△△△△』を手に入れました────
無駄にクオリティーが高けぇ!どこに力を入れてんだよ!
まあ、スキルは普通にゲットできたからよしとするか。それにしても『○○○○』と『△△△△』?どんなスキルだ?説明を見るか。
……ほうほう、『○○○○』は使い勝手が良いとは言えないが中々面白いスキルだな。戦闘向きだ。
でもって、『△△△△』は……、うん、全部からランダムだし、しょうがないな。いや、待てよ?あれと組み合わせたら……以外に使えるな。
結果的に当たりでは無いが外れでも無いな。どっちも使い方次第では使えるスキルだ。
確認を済ませるともう一度青い板が表れ、一言だけ書かれていた。
帰る?
───帰る───
シンプルだな。さては、さっきの演出で力尽きたな?
とりあえず帰るか。俺は『帰る』ををタッチする。すると、板が輝きだし、俺を包み込んだ。
☆ ☆ ☆ ☆
気がつくと、俺はコレトの手を握っていた。周りを見渡すとスキルを選ぶ前のままだ。
「どれくらい経った?」
「1分も経ってないぞ」
フランが答える。
俺としては2、30分位たった感じだが、全く経ってなかったか。
仕事が終わったからなのか、コレトが再びソファーに寝っ転がる。
「それで、何のスキルを選んだの?教えてよ」
「普通、自分の手の内を明かす冒険者はいねぇよ」
「えー、良いじゃんケチ」
「ケチって言われてもな……」
フランをチラリと見る。フランも少し期待した目でこっちを見ている。あまり、フランには見せたく無いんだが、まあいいか。
「わかったよ。見せれば良いんだろ?」
「本当?やったー。ホウリ君はどういったスキルを選ぶのか結構気になっていたんだよね」
「あんまり期待するなよ?」
二人の期待の視線が向いているのが分かる。
正直、結構ショボいから期待されても困んだがな。机に手を触れながらスキルを発動させる。
「『
すると、茶色の机が触れた所からみるみると黒くなっていき、10秒ほどで机が全て真っ黒になった。
「え?これだけ?」
「これだけ」
───
触れた物質の色を黒か白に変える。元に戻す事もできる。
消費MP 10
二人は顔を見合わせて微妙な表情をする。
「えーっと、他には取れなかったの?」
「いくつか取れたが、全部こんな感じだぞ?」
「あ、うん、そっか」
机に手を触れて色を元に戻す。
コレトが哀れむ用な目でこっちを見てくる。
「何かホウリ君見てると、私ももっと頑張らないとって思えてきちゃった」
「おう、適度には休めよ」
やる気になった理由が分かるだけに素直に喜べないな。
「じゃあ、俺達はもう行くから」
「入口まで送るわ」
「頼む」
俺達は再び身なりを整えている間にフランと話す。
「フラン、認識阻害のスキルと走る準備しといてくれ。俺が合図を送ったら認識阻害スキルを頼む」
「?、わかったが何故じゃ?」
「扉を出たら分かる」
何もなければ良いんだがそうもいかないだろうしな。
「準備出来たわ」
「それじゃあ、行くか」
コレトが扉の前に立つと扉が独りでに開き始めた。扉が開き始めると一斉に信者達が扉の前に殺到する。
「神殿長様!その者達は何者ですか!」
「神殿長様とどのような関係なのですか!」
「まさか、神殿長様のフィアンセですか!」
「神殿長ちゃん、遂に結婚するんだね!」
あーあ、やっぱりこうなったか。ここの神殿長は人気が高いとは聞いていたが、まさかここまでとはな。
信者達が行き先を塞ぐように押し掛けて来るのを見て、コレトが口を開く。
「皆様、私のお客様が困っておられます。道を開けてはくれませんか?」
コレトが言葉を放った瞬間、信者達がザッと横に避け、出口までの道が出来た。その光景を見て海を二つに割ったモーゼを思い出す。
そのまま悠然と出口に向かう。俺達もその後に続いた。出口に向かう途中、信者達からの殺意や疑念といった様々な感情が俺達に向けられる。俺達はなるべく気にしていない風を装って出口に向かう。
出口まで進むとコレトは深々と頭を下げた。
「この度は誠にありがとうございました。また会える日を楽しみにしております」
「こちらこそ、神殿長様に会えて光栄でございました。また、何かあればお呼びください。微力ながら力になりましょう」
「ふふ、その時はよろしくお願いいたしますね」
コレトは微笑むと神殿長室まで戻っていった。ギギギと重々しく扉が閉まっていく。完全に扉が閉まる瞬間、俺は叫んだ。
「今だ!」
「うむ!『フルステルス』!」
───フルステルス───
対象を選び、選ばれた対象は周りから認識されなくなる。
消費MP 5000
信者達の視線が俺達から外れたのを確認すると、フランに叫ぶ。
「宿まで全力で走れ!」
「わかった!」
脇目をふらずに宿を目指して走り出す。信者達は俺達を見失ってガヤガヤと騒ぎだした。
「あいつらどこ行きやがった!」
「隠れてないで出てこい!」
「神殿長様との関係を説明しろ!」
万が一捕まったら何をされるか分かったもんじゃねぇ!
聞こえてくる怒声を背に俺達は宿まで全力で走り出した。
☆ ☆ ☆ ☆
「おかえりー、って何かあったの?」
「ゼェゼェ、いつものトラブルだ……」
「はぁはぁ、ひどい目にあったぞ……」
全力疾走で宿まで走ると、そのまま宿に飛び込んだ。宿に入った瞬間にスキルを解除してもらう。
とりあえず、何か手を討たないとヤバイな。
「ディーヌ、悪いけど1つ良いか?」
「なあに?」
「この宿で今日神殿で起こった事を誰かが話したらさりげなく『ホウリが神殿長の依頼で神殿にいったらしい』と言ってくれ」
「別に良いわよ」
「助かる」
とりあえず、今出来ることはこれだけだな。
ほっと一息ついているとフランが不思議そうに聞いてくる。
「何故、自分から招待を明かすんじゃ?」
「俺は顔が広く知られているからどのみちばれる。だったら『神殿長に依頼されて神殿にいった』ということにして少しでもヘイトを下げておきたい。幸い、俺は国営の機関に依頼された事もあるから今回もそれだと思われるだろう」
「なるほどのう」
フランが納得したように頷く。
「しかし、凄い人じゃったのう。この街におる全ての信者が集まっておるかと思ったわい」
「半分あってるな」
「どう言うことじゃ?」
「あれはな、信者は信者でも『コレト信者』なんだよ」
「は?」
フランが意味がわからないと言う顔をする。
「要はファンクラブなんだよ。あそこに居た奴等の大半は『コレトファンクラブ』の会員なんだよ」
正式名称『神殿長様を愛でる会』。その名の通り神殿にひたすら通って神殿長を愛でる会。会員は一万人だったか?
「…………」
「お前の言いたい事は分かる」
むしろ、言葉に出来ないのは分かるって感じか?
この街にはファンクラブが数多く存在している。ほぼ本人の無許可で。
「そう言えば、フランのファンクラブもあるぞ?」
「なんじゃと!」
正式名称『フランちゃんはぁはぁ(*´д`* )』。最近出来たばかりのファンクラブで既に会員が千人を越えている。関わりたくないファンクラブの1つだ。
「………………」
「言葉が出ない気持ちは分かる」
自分の知らない所でファンクラブが出来てるなんてかなりショックだろうしな。
「……お主のファンクラブは無いのか?」
「俺のは出てくる前に潰している」
「わしのも潰してくれ!」
「かなり時間がかかるぞ?この街を出るまでに無くせるかわかんねぇぞ?」
「それでも構わん!」
すげぇ必死だな。まあ、これくらいなら良いだろう。
「分かった分かった。何とかしてやるよ」
「恩に着る!」
雑談はこれぐらいにするか。
「じゃあ、今から飯食って風呂に入ったらお前の部屋に集合な」
「うむ、みっちゃんに連絡を取れば良いんじゃな?」
「そうだ。あのクソ野郎に言いたいことが山のようにある」
絶対にあの野郎の企みを暴いてやる!
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