第七話 裸の付き合いって言うとなんかいやらしい

───アイテムボックス───

アイテムボックスとは生物以外のアイテムを異空間に収納できるものである。特別なスキルではなく誰でも使えるものである。アイテムボックスは一人につき十種類までアイテムを収納することができ、種類によって入る数が決まっている。なお、アイテムボックスの中のアイテムの説明を見ることができるが、表示されない情報も有るため『鑑定』で詳細を確認しておくことが重要。

─────maoupediaより抜粋





☆   ☆   ☆   ☆






 俺たちは冒険エリアを抜けて、観光エリアに向かっていた。

 何でも、銭湯は風呂以外も充実しているらしく観光客なども多く来るため観光エリアにあるらしい。

 あ、重要な事を忘れてた。



「どこかに服屋は無いか?」

「何故じゃ?」

「着替えが無いのに気付いてな」

「銭湯に売っておるから心配せんでもよい。品揃えも充実しておるぞ」

「だったら、いい機会だし替えの服を何着か買っておくか」



 観光エリアに近づくにつれ賑やかになってきた。昼間も賑わっていたが夜のほうが活気が有るような気がする。

 昼間は出ていなかった屋台から串焼きが焼けるいい匂いがしてくる。

 


「夜の街も雰囲気良いな」

「そうじゃろう。わしもこの雰囲気が大好きじゃ」



 フランは楽しそうに街を見渡している。

 そうこうしていると見知った顔ぶれが見えてきた。



「あれは……『銀の閃光』か?」

「そうじゃな。ナップもミルもおる」



 そこには、さっき戦った『銀の閃光』のメンバーがいた。

 さすがにフードや鎧は着ておらず、ラフで動きやすい格好をしている。

 あんなことの後だしスゲー会いずらいな。

 とりあえず、声をかけてみるか。



「こんばんは。奇遇ですね」

「お、お前は!さっきの初心者!」

「おいナップ、失礼だぞ!」



 やっぱり嫌われてるな。主にナップに。


 

「皆さんも銭湯ですか?」

「ああ、そうだ」

「じゃあ、一緒に行きませんか?」

「ちょうど良い。俺もお前に話があったんだ。」



 話?何の事だ?フランを渡せって言うことなら喜んで渡すんだが。



「お主、今余計なことを考えたな?」

「滅相もございません」



 勘が鋭いな。いや、スキルか?まあ、どっちでも良いか。



「話って何ですか?」

「ここじゃ話しにくい。風呂の中で話そう」



 ますます分からなくなってきた。てっきりフランの事かと思ったんだが。違うのか?



「私はフランちゃんと話したいな」



 

 『銀の閃光』唯一の女性がフランに抱きついて撫でまわす。

 フードを被っていたから分からなかったがモデルみたいに綺麗な顔立ちをしている。髪はサラサラとした銀髪で手入れに気を使っているのがわかる。



「子犬みたいでかわいい~。」

「あまり触るでない!」

「わたしの名前はシース・メレン。よろしくねフランちゃん。」

「だから触るな~!」



 フランは嫌がっているが、シースは構わず撫で回している。

 そうこう考えているうちに銭湯が見えてきた。

 周りの建物とは違い木造の壁で出来ており、屋根は瓦屋根の日本でも見る一般的な銭湯だ。屋根にはでっかい煙突が付いていて煙がモクモクと出ている。日本の銭湯と違うのは入り口が暖簾ではなく引き戸になっているところか。扉にはでっかく『ゆ』とかかれている。



「The 銭湯って感じだな」

「分かりやすくて良いじゃろ?」


 

 中に入ると風呂の入り口があった。男湯は青、女湯は赤の暖簾で分けられている。右に行くと休憩所や卓球等のゲームがある、左に行くと服とか軽食を売っている。



 

「じゃあ、休憩所で待ち合わせな」

「うむ。また後でな」




☆   ☆   ☆   ☆





 風呂の中は体を洗う所といくつかの湯船にサウナと日本と大して変わりはない。強いて言えば観光客が多いから日本の銭湯より広いぐらいか。

 体を洗った後、一番大きい湯船に浸かる。一日の疲れがじんわり溶けていく。

 ほっこりしてると隣にナップが来た。



「いい湯ですね~」

「そうだな」



 まずは世間話で場を和ませよう。



「剣士のお二方とミルさんは一緒じゃないんですか?」

「ボローネとパンクはサウナで我慢比べをしている。ミルは審判として連行されていった」

「どちらが強いんですか?」 

「大体は審判のミルがぶっ倒れて終わるから知らん」

「た、大変ですね……」

「まあ、そんなことはどうでもいいんだ」



 唐突にナップが話を変えた。ここからが大事な話だろう。

 ナップが神妙な顔で口を開く。



「まずはその気持ち悪い敬語をやめろ」

「わかった」

「……あっさりやめるんだな」

「本人にやめろと言われたんなら無理にやる必要もないしね」



 あっさりと敬語をやめた俺を見てナップが若干困惑している。



「話はそれだけ?」

「いや、ここからが本題だ」



 だろうな。これだけならわざわざ二人で話したいなんて言わないだろう。



「単刀直入に言おう。お前は何者だ?」

「………………」



 うーん、どう答えるべきか……。



「どういう意味?」

「そのままの意味だ。お前には奇妙な点が多すぎる。」

「例えば?」

「低レベルで俺に勝つとかだ」



 やっぱり不味かったか。フランのインパクトが強いしあまり目立たないと思ったんだが、本人にはやっぱりばれるか。



「あれは運が良かっただけだよ」

「ほう?走りながら小石を弾いて全て的確に杖の先に命中させたことも運が良かったからか?」

「それは……」



 どこまで答えた方がいいか……。下手すると変なやつとして見られるだろうし……。

 よし、適当な事を言って誤魔化そう。



「実は俺は神の使いなんだ」

「嘘つけ」



 一蹴された。



「神の使いは圧倒的な力を持っていると聞いているし、その多くは神殿に属している。お前みたいなのが神の使いな訳無いだろ」

「あ、神の使いは居るんだ」

「知らないで言ったのか……」



 ナップがジト目で見てくる。

 が、直ぐに真剣な目になった。



「真面目に答えろ。」

「……………………」



 これは茶化すのは無理そうだな……。どうするか……。

 よし、今度はリアリティーを出しつつでっちあげよう。



「実は、俺の親はサーカスをやっていて────」



 それから、俺は笑いあり涙ありのハートフルストーリーを二十分ほど語った。



「────というわけ」

「なるほどな」



 納得したようにナップが頷く。

 何とか誤魔化せたようだ。



「質問いいか?」

「いいよ」

「普通、人は十歳になるとステータスが与えられるのは知っているな?」

「もちろん」



 知ってるわけない。



「レベルを10まで上げるのは比較的優しい。さらに、スキルを授かるのもレベル10だ。だから、普通はレベルを最低でも10は上げる」



 ふむふむ、なるほど。



「だが、お前のレベルは明らかに10未満だ。その理由は何だ?」



 今日ステータスを持ったからです、とは言えないよな……。



「その質問には答えられない」

「そうか。ならいい」

「以外だね。もっと追及されると思ったんだけど」

「聞かせてもらっている立場だしな。無理に聞くのも悪いしな」



 余計な追及をされないのはありがたいな。



「話はこれで終わり?」

「俺からの話は以上だ。聞かせてくれてありがとな」



 一応納得してくれたようだな。とりあえずひと安心だな。 



「俺からも一つ質問いいかな?」

「何だ?」

「初めて会った時と態度違くない?」

「どんな形であれお前は俺に勝った。勝者に敬意を払うのは当たり前だ」



 低レベルにも敬意を払うなんて律儀な奴だ。

 ナップが湯船から立ち上がる。



「じゃあ、俺はもう行く」

「俺はもう少し浸かっていくよ」

「そうか」



 ナップが出口に向かったが突然振り向き指を指した。



「次は必ず勝つ」



 その台詞は試合前の台詞と似たようなものだったが、今度はライバルとして認めてくれた感じがした。



「次も負けねぇぞ?」



 俺も初めて出来たライバルに言葉を放った。

 フッと笑った後にナップは脱衣場に向かう。

 


「ブベラッ」



 と、同時に横から来た何かに吹っ飛ばされた。



「ナァァァァァァップ!」



 湯船から急いでナップの元へ向かい状態を見る。

 そこにはさっきのカッコいいライバルの姿はなく、白目を剥いて泡を吹いている重傷者がいた。というか、かなり危ない状態だ。



「何が飛んできたんだ……ってミルさん!?」



 横を見ると、そこには同じ用に泡を吹いて倒れているミルの姿があった。

 ミルが飛んできた方向を見るとパンクとボローネがサウナから出てくる所だった。



「この程度で音をあげるとは情けないな」

「これもひとえに筋肉が足りないからだな」



 何言ってんだこいつら?いや、そんなことはどうでもいい。



「何があったんですか?」

「ミルがいつも勝負の途中で倒れるから鍛えてやろうと思ってな」

「そしたらこうなった」



 一番知りたいことが分からない!

 というか、こんなことをしている場合じゃねぇ!



「二人とも危ない状態です。お二方は回復系のスキルとかありませんか?」

「筋肉さえあれば!」

「そんなもの必要ない!」

「もう嫌だこの人達!」



 結局、他の客に回復してもらい二人は一命をとりとめた。

 余談だが、このあと二人の記憶が無くなりひと悶着あったようだがそれはまた別のお話。





☆   ☆   ☆   ☆






 疲れた……。疲れをとるために銭湯に来たのに更に疲れた……。

 フルーツ牛乳を飲みつつ休憩所でフラン達を待つ。

 待っている間に色々と考える。

 今一番の問題はステータスの低さと攻撃手段の少なさだな。ステータスは敵を倒していくとして、攻撃手段の少なさはどうするかな。早急に魔法を覚えたいところだな。

 色々と考えているとフランが休憩所に来た。相変わらずシースに撫で回されている。

 ん?フランの髪がさっきより綺麗になっている?



「フラン、さっきより髪が綺麗になってないか?」

「ああ、こいつに色々と借りたんじゃ。わしは別に良いと言ったんじゃがな」

「ダメよフランちゃん。女の子なんだからもっと身だしなみに気を付けないと。せっかくこんなに可愛いんだし」

「えーい、撫でるな!」



 こうしてみるとこいつら姉妹みたいだな。



「と、そうだった。ホウリ君に話があるんだった」

「何ですか?」



 フランを撫でながら俺のほうに視線を向けてニッコリと笑う。

 


「ホウリ君、『銀の閃光』に入らない?」



 んー、どうするべきか。

 99%断るつもりだけど少し話を聞く位ならいいか?



「フランも誘われたのか?」

「うむ」

「どうするつもりだ?」

「お主に任せる」



 完全に丸投げか。俺のサポートが目的みたいだし当たり前か。



「理由を聞いても良いですか?」

「フランちゃんが可愛いからよ」

「おい」

「冗談よ」



 クスクスといたずらっ子のようにシースが笑う。



「まあ、説明するまでもなくフランちゃんを誘ったのは強いからよ。筋肉バカの二人の剣撃を回避する動体視力、『水月』というレアなスキルとそれを扱える程のMPの量、私達を一掃するだけの魔力、どれをとっても魅力的だわ」

「俺を誘った理由は何ですか?」

「君を誘った理由はね参謀として欲しかったから」

「参謀?」

「そう。私達を適切に動かす参謀。君にはその才能があるみたいだし」



 才能ねぇ。そういう風に簡単なものなら良かったんだけどなぁ。



「返事を聞いてもいい?君も手っ取り早く強くなれるし悪い話じゃ無いと思うんだけど」



 うーん、やっぱり断ろう。



「お誘いは嬉しいのですが、お断りさせていただきます」

「そう、それは残念ね。せめて、フランちゃんだけでも置いていってくれないかしら?」

「別に良いですよ?」

「やめい!」


 

 

☆   ☆   ☆   ☆





 『銀の閃光』と別れて街を散策しながら宿に帰る。



「一つ聞いても良いか?」

「何だ?」

「何故奴の誘いを断ったんじゃ?」

「色々と目立ちそうだから」



 チゴの実のジュース片手に答える。果実だけの優しい甘さが口の中に広がる。



「お主、何故そんなに目立つことを嫌うんじゃ?」


 

 フランが串焼きを頬張りながら聞いてきた。



「んー、このぐらいなら話しても良いか」

「前の世界の事か?」

「ああ」



 ジュースを全て飲み干す。

 フランが期待した目で俺を見てくる。正直そんなに面白い話でもないんだがな。


「前の世界では親父と妹と色々な所を旅していたんだ」

「何の旅じゃ?」

「親父は『お前にとって必要なことを学ぶ旅』って言ってた。あまり意味はわからなかったけどな」



 その旅で学んだ事が今役に立ってるのは事実だ。何回死にかけたかわからないけどな。



「その旅の途中で武器OKの何でもありの大会があってな。その大会の優勝商品が必要だったんだ」

「ほう」

「俺は大会に出て優勝を目指した。俺より強い奴しかいなかったが色々と作戦を立てて何とか勝ち進んだんだ」

「ほうほう」

「その作戦が色々とひどくてな、目立ち過ぎたんだ」

「ふむふむ」

「その結果、大会の控え室で他の参加者に心臓を矢に貫かれて死んだ」

「ふむふ───ん?」

「結局、大会は不戦敗で優勝商品は手に入れることは出来なかった」

「いや、ちょっと待てい!」



 フランが血相変えて話を遮る。口から串焼きが飛んできて汚い。



「し、死んだ!?お主、死んでおるのか!?幽霊なのか!?」

「落ち着け。その後、親父に蘇生してもらったからちゃんと生きてる」

「お主の父親は何者なんじゃ。死者を蘇生させるなどわしにもできんぞ……」



 フランが頭を抱える。そういえば、神の野郎も生き返らせるスキルはないと言ってたな。



「まあ、そんなことはいいんだ。その後、親父に言われたんだよ。『目立つことはそれなりのリスクがある。そのリスクに見合う実力とメリットがあるか考えろ』ってな」



 『銀の閃光』は有名なだけに入ったらあいつらに恨みがある奴の標的になるかもしれない。さらに、俺にはそれをあしらうだけの実力が俺にはない。メリットもあるがデメリットがでかすぎる、ということだな。



「ちなみに、優勝商品は親父が優勝者から譲ってもらったから問題はなかった」

「話を聞く限り問題しか見当たらないんじゃが。一度死んでおいて問題ないはないじゃろ。というか、その話が話せる範囲とは、お主はどんな経験をしてきたんじゃ」



 曖昧に笑ってごまかす。フランは何かを察したのかそれ以上聞いてくる事はなかった。



「それに、もうひとつ理由がある」

「なんじゃ?」

「これが最大の理由なんだが……」



 俺はフランを真っ直ぐ見つめて言った。



「お前、魔王だろうが」

「……あ」

「『……あ』ってなんだよ!ものすごく大切な事だろうが!さては忘れてやがったな?」

「………………ソンナコトナイヨー」

「嘘つけ!」



 フランの正体を極力明かさないために既にあるパーティに入るのは避けたい。もしパーティを作るとしても一から作って信用出来る奴に教えるという感じにしたい。



「別にばれても良いのではないか?」

「よくねぇよ!もう少し魔王の自覚を持て!」



 ギャーギャーと言い合いをしているといつの間にか宿に着いた。

 宿に入ると自分の部屋に直行する。今日はもうなにもしたくない。

 



「おやすみ」

「おやすみじゃ。今日はゆっくり休むが良い」



 俺はベッドにダイブすると3秒で意識を手放した。





☆   ☆   ☆   ☆






みっちゃん、今良いか?



───待ってたよ、まーちゃん。彼はどうだい?見込みある?



見込みはあるぞ。戦いも馴れておるし実力を埋めるための工夫も出来る。十分わしを倒せるだけの能力はある。あとはステータスだけじゃな。



───へぇ、それは頼もしいね。



それはそうとみっちゃん、ホウリに呪いが付いた木刀を渡したようじゃが、何か意図が有るのか?




───いや、あれは私のミスだね。お詫びとして神殿に行くときにホウリ君にこれを渡しておいてよ。




む?これは……。



───これじゃ埋め合わせにはならないけど無いよりは良いよね?



助かる。ホウリも喜ぶじゃろう。




───使いすぎは良くないからね。




そこは気を付けるとしよう。それじゃあ、わしも休むするかのう。




───お疲れ様。ゆっくり休んでね。




うむ。みっちゃんも頑張るのじゃぞ。

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