第八話 シニタクナーイ

───スキル───

スキルとはその人が持つ能力のことである。スキルには二種類ある。スキルには鍛練することで入手できるものと、神殿で入手出来るものに分けられる。スキルの中にはユニークスキルがというものがあり、普通のスキルよりも強力である。    ──────Maoupediaより抜粋







☆   ☆   ☆   ☆






 



 俺がこの町に来て二日目の朝。疲労が残っていないか確認する。とりあえず、疲労は残ってないみたいだ。

 部屋を出ると、眠そうに目を擦っているフランがいた。



「おはよう。よく眠れなかったのか?」

「おはようじゃ。よく眠れたから心配はいらん。規則正しい生活が久しいだけじゃ。すぐに良くなる。」



 そう言ってあくびをする。

 大丈夫ならいいが、あまりに酷いようなら無理やりにでも目覚めさせるか。

 食堂でフランと朝食を食べつつ今日の予定を確認する。



「で、今日は森に行くんだったか?」

「そうじゃ。森の名前は『ポロック』。主なモンスターはゴブリンやブロンズウルフとかじゃな。詳しくは移動しながら話す。」

「道具屋とか武器屋には寄るのか?」

「道具屋には寄るが武器屋には寄らん。気になるなら休みの日にでも行ってみるか?」

「休みあんの?」

「休まんと効率よく戦えんからの。」



 パンをちぎりながらフランが言う。

 武器屋は気になるが休みがあるなら別にいいか。



「森まではどのくらいかかるんだ?」

「わしがこのワープクリスタルで連れて行くから時間はかからん」


 

 そう言ってフランは懐から青みがかったクリスタルのようなものを取り出した。

 ワープか。安全かつ早く移動出来るのはありがたいが。



「ワープクリスタルって珍しいのか?」

「登録したところにすぐに行ける魔法道具なんじゃが、いかんせん消費MPが多くての。珍しいんじゃが価値事態は低いんじゃ。」

「消費MPってどのくらいだ?」

「1㎞につき1000」

「効率悪いな。」



 バカみたいにMPがないと使い勝手が悪いだけか。フラン以外に満足に使える奴はいないだろうな。



「街の中からは結界があって使えんから街の外にはでる必要があるがな」

「この街って結界あるの?」

「この街は入るのは容易いが中で犯罪等をやるのは難しいんじゃよ。結界も防犯対策のひとつじゃな」



 観光が盛んな街だし、ストレスなく出入りできるようにしているのか。その代わり中の防犯をしっかりしているわけだ。



「じゃあ、この街は安全なんだな?」

「細かいいざこざはあるが、比較的安全じゃ」

「街でいきなり刺される何てことも無いんだな?」

「そんなこと普通は無い」



 フランが俺をジットリとした目で見て来る。

 街の治安が良いのは良いことだ。夜も安心して熟睡出来るって素晴らしい。



「じゃあ、とりあえず道具屋に向かおうぜ。この世界の道具屋は結構気になってたんだよ。」

「うむ、そろそろ行くか。」



 この世界に来てから初めて冒険者っぽいことにわくわくしながら宿を後にした。





☆   ☆   ☆   ☆




 

「らっしゃい!」



 道具屋に入ると威勢の良いおばさんがカウンターにいた。

 道具屋の中には瓶詰めの液体や弓矢の弦や矢など雑多なものが置かれていた。中には地球では見かけない物もある。

 こういうのを見ると改めて異世界に来たんだって実感するな。

 

 

「フラン、買っとけば良いものってあるか?」

「うーむ、HPやMPはわしが何とかするからポーション系はいらん。それ以外で必要なものを買うと良い」



 ポーション系はいらないのか。それでも、一応何本か買っていくか。

 それにしても色々と種類があって目移りするな。

 あ、この魔道具便利そう。こっちの素材は使い道がさっぱりわからないな。



「おい、早く決めんか。このあとギルドによってギルドカードも受け取らないといけないんじゃぞ」

「わかってるって──ん?」



 ほこりを被っている棚にあるものに目がとまった。

 直径1センチぐらいの銀色の玉が沢山入った袋だ。これってもしかしなくても……、



「おばちゃ~ん、これってパチンコの玉?」

「そうだよ。だけどパチンコを使う人が少なくて、三年も前から売れてなくてねぇ」



 よっしゃ!これは運が良い! 



「じゃあさ、まとめ買いするから割り引きしてくれない?」

「本当かい?置き場所に困ってたから助かるよ。お金なんていらないから全部持っていってちょうだい。」



 そう言うとおばちゃんは同じような袋を5袋持ってきた。

 ホクホク顔でそれを受けとってアイテムボックスに入れる。これで指弾の精度が上がるぜ。



「ありがとうおばちゃん!愛してるぜ~!」

「こっちこそ売れ残りを持ってってくれてありがとね。それと、その台詞は本当に好きな人にとっておきな。」



 とりあえず、パチンコ玉以外に最下級のHPとMPのポーションを10本ずつ購入してギルドに向かった。

 




☆   ☆   ☆   ☆





「ポーションはいらんと言うたじゃろ。わしを信用しておらんのか?」



 ギルドに向かう途中でフランが不満を言ってきた。

 


「信用してない訳じゃない。ただ、お前がいないと回復出来ないんじゃ何かあったときに対応出来ないだろ?だから一応な?」

「だったら良いが……」



 まだ不満そうだな。もう少しフォローしておくか。



「冒険のときは頼りにしている。それに、フランがいなかったらこの世界のことは何一つわからなかったんだ。これでも感謝している。」

「うぅ……、そうストレートに言われると照れるのう。」



 機嫌が直ったようだな。じゃあ、早くギルドに向かうと───



「おい、てめぇがホウリだな?ちょっとそこまで面貸せや。」



 ───したかったんだがな。どうやらそうもいかないらしい。

 比較的人通りが少ない通りに出た辺りで、いかつい顔をしたチンピラが立ちはだかってきた。後ろには子分らしき奴が二人がニヤニヤと笑っている。



「今からギルドに向かう途中なんだ。後にしてくれないか?」

「ほう?このロッカ様に逆らうのか?」

「親分の言うことが聞けないのかちゅーん?」

「痛い目見たくなかったら素直に従っておいたほうがいいずらよ?」



 ちょっと待て、子分の語尾で親分がどうでもよくなったぞ。



「おいおい、恐怖で声も出ねぇのか?」

「さっさと面貸せちゅーん」

「親分を待たせるなずら」



 これツッコンだ方が良いのか?そっとしておいた方が良いのか?

 まあいいや、面倒だからそっとしておこう。



「お主の子分、語尾変じゃないか?」

「じじい言葉のお前が言うな。」



 お前は一番人の事言えないだろ。というか、そっとしておこうとした瞬間に台無しにしたな。



「子分と比べて親分のキャラ薄くないか?」

「それを言うなよ。俺も多少思ってたけど」

「お、お前ら親分の悪口は言うなちゅーん!たしかに、俺たちの名前の方が親分の名前より覚えられてるけどちゅーん!」

「1日1回は『名前何だっけ?』って言われるけどそれでも親分はすごいんだずら!バカにしたら俺たちが許さないずら!」



 こいつらが一番バカにしてるだろ。



「ちなみに君たちの名前は?」

「サブレだちゅーん」

「ロランだずら」



 親分が道の隅で『の』の字を書いていじけているのを子分二人が宥めて何とか連れてきた。

 


「と、とりあえずてめぇに用があんだよ。面貸せや。」

「ホウリ、ここはわしがぼこぼこにして……」



 杖を取り出そうとしたフランを手で制する。



「こいつらは俺に用があるみたいだ。俺が行く。」

「へっへっへ、それでいいんだよ」

「おいホウリ!お主ではこいつらは……」

「いいから俺に任せてろ」



 チンピラに向き直って挑発的に言う。



「面でも何でも貸してやるよ。さっさと連れてけよ」



 さっき買ったパチンコ玉が腰に着いていることを確認する。戦闘になっても逃げられるな。

 こうして俺はチンピラに連れられ路地裏へ入っていった。






───5分後───






「はっはっは!お前話がわかる奴じゃねぇか!気に入ったぜ!」

「当たり前じゃないか!兄弟!」



 俺はロッカと肩を組んで路地裏から出てきた。



「じゃあな兄弟!今度酒でも飲もうぜ!」

「おう!じゃあな!」

「さよならちゅーん」

「さよならずらー」



 チンピラ達が上機嫌で帰っていく。とりあえず、何とかなったな。

 フランを見ると目を丸くしている。何を言いたいかはだいたいわかる。



「……何がどうなったらああなるんじゃ?明らかに好意的ではなかったじゃろ?」

「ああ、簡単にまとめると金を出せと脅されたから言いくるめて仲良くなった」

「さっぱりわからん。何をどう言ったら仲良くなるんじゃ」

「ああいう人は身内以外から褒められるのになれてない。そこから攻めたんだよ」



 ああいうチンピラは周りから嫌われている事が多い。それを利用して褒めちぎって仲良くなる。

 ただし、お世辞っぽいと逆に相手を怒らせるから注意だ。



「それなら、逃げるかわしに任せても良かったじゃろ?なんで面倒な事をしたんじゃ?」

「この世界の事が何もわからないから少しでも情報が欲しいんだよ。知り合いが多いと情報も集まりやすいからな。」



 フランが関心したように頷く。

 


「お主は色々と考えてるのう」

「これぐらいしないとお前を倒せないからな」



 まあ、どれだけ情報を集めてもこいつには勝てる気はしないけどな。



「かなり足止めされたし、早くギルドに向かおうぜ」

「それもそうじゃな」



 その後は何のアクシデントもなくギルドにたどり着いた。





☆   ☆   ☆   ☆





「こちらがギルドカードです。身分証明の変わりになりますのでご利用ください。また、再発行は出来ませんのでご注意下さい」



 昨日の受付のお姉さんからギルドカードを受けとる。紙でも木でもない不思議な感触のカードだ。カードにはステータスとスキルとランクが表示されている。

 俺達のランクは事前に言っておいた通りEみたいだ。


「ギルドカードのステータスやスキルは一部を非表示にすることができます。ぜひご活用ください」



 手の内を全て見せる事はないわけだ。これは便利だな。



「クエストは受付横のクエストボードをご参照下さい。では、ご武運を祈っております」

「ありがとうございました」



 受付を離れてクエストボードを見てみる。

 薬草の採集やゴブリンの討伐、モンスターの捕獲なんていうのもある。



「何を受ければ良いんだ?」

「それならゴブリン討伐と薬草の採集を受けると良いな」



 ゴブリンは繁殖力が強すぎて常に依頼が出てるらしい。薬草はポーションの材料に使われるからいくらあっても足りないとのこと。



「ゴブリンは雑魚じゃし、薬草はそこら中に生えているからクリアも難しくないしおすすめじゃ」

「じゃあ、それにするか」



 本格な戦闘とか久しぶりだし、まずは簡単なクエストが丁度良いな。



「しかし、あまりにも簡単じゃとつまらないのう」

「おい、今なんて言った?」



 フランから不吉な言葉が聞こえたんだが気のせいだよな?

 ん~、と少し悩んだ後パチンと指をならした。



「よし、良いことを思い付いた」

「それは十中八九悪いことだ!」



 フランの顔が試合場の時の悪い顔になってる。これは絶対に録なことを考えていない。

 な、なんとか回避しないと……。

 俺はお腹を押さえてうずくまった。

 


「あいたたた……。フラン、急にお腹が痛くなった。今日はゆっくり休みたい……」

「心配はいらん。『セイントヒール』」



 フランがそう言うと俺の体が暖かな光に包まれた。




────セイントヒール────

全ての病と異常状態を治しHPを全回復させる。


消費MP 3000




 畜生!仮病が効かねぇ!



「あ、ありがとな……」

「礼には及ばん。それでは行くぞ。」



 フランがキラキラとした目をしながら俺の手を引いた。

 まだだ!まだ諦めるな!必ず打開策があるはずだ!



「フラン、先にこの街を探索しないか?きっと楽しいぞ?」

「そんなもの休日にやれ」



 デスヨネー。

 クソッ、諦めてたまるか!



「フラン、あのな……」

「ええい、往生際が悪い。諦めてついて来い」

「嫌だ!俺はまだ死にたくない!」

「人聞きの悪いことを言うな。多分死ぬことはないはずじゃ」

「多分って何だよ!」

「お主なら大丈夫じゃ。多分!」

「多分を強調するな!」



 結局危なくなったら助けてくれる事を約束して渋々街を出た。

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