第六話 ギャンブルは程々に

───呪い───

呪いとはスキルによって武器にかけられた状態異常のことである。武器に呪いをかけると、その武器以外を装備出来なくなり、その武器は壊れなくなる。呪いを解くには呪いをかけた者より大きい魔力の者のスキルで解く必要がある。─────maoupedia より抜粋






☆   ☆   ☆   ☆







「勝者!キムラ・ホウリ!」



 試合場が沸き立ち、あっちこっちから歓声が聞こえてくる。



「おい、あいつ本当に木刀で勝ちやがったぜ!」

「信じられねー、しかもナップに相手勝ちやがった!」

「あいつ一体何者なんだよ!」



 周りがうるさいが、とにかく勝てて良かった。本当に良かった。また明日も生きることが出来る。

 しみじみしてるとフランが駆け寄って来た。



「お疲れ様じゃ」

「おう、お疲れ」

「しかし、相手が転んでくれて助かったの。あれがなかったら危なかった気がするぞ」



 フランと話をしてると、ナップも柵の中から出てきた。

 心なしか顔が沈んでいる。



「俺が……、負けた………?いや、そんな筈はない……。何かの間違いだ……」



 ぶつぶつと何かを呟いている。まあ、俺には関係ないけど。



「何言っておるのじゃ?お主に負けたからこうなったんじゃろう?」

「え?そうなの?」

「お主、本気で言っておるのか?」



 まあ、だとしても俺は正々堂々戦っただけだ。何もやましい事はない。



「正々堂々ってなんじゃっけ?」

「ルールを破ってないからセーフだ」

「……まぁ良い、ナップよ約束は覚えておるな?さっさと10万G渡すのじゃ」

「ああ…、この袋の中に入っている。もっていけ」  

「10万Gって何のことだ?」

「ああ、お主は知らなかったんじゃな。お主がナップに勝ったときにナップから10万G貰うと約束しておったのじゃ」

「へー、そんな約束してたのか」



 

 金が増えるのは良いけどもう少し吹っ掛けても良かったんじゃないか?



「初心者がいきなり大金を持っても良い事は無い。これぐらいで十分じゃ」

「あ、何かごめん」

「何を謝ってるのじゃ?」

「実は───」

「ここに居ましたか」



 後ろから受付に居たお姉さんが来た。手には重そうな袋を持っている。



「これは配当金の200万Gです。お受け取り下さい」

「20万はミルさんに渡しといてください。残りはギルドに預けられますか?」

「出来ます。引き出す時はカウンターでギルドカードを提示してください」

「じゃあ、それでお願いします」



 思った以上に稼げたな。これぐらい有ればしばらくは大丈夫だな。



「……お主、一体何をした?」

「何、ちょっとギャンブルをやっただけだ」



 100%勝てるギャンブルをな。



「一体何があったのじゃ?」

「それはな……」





☆   ☆   ☆   ☆


フランの試合前の出来事





「おーい野郎共!ギャンブルするぞー!」

「おー、いいな!いつもので良いか?」

「ああ、どちらがどのぐらいの早さで勝つか。一番近い奴が掛け金を総取り、参加金は一人2万Gだ」

「でもよー、あの女にかける奴いねーだろ」

「そうだな。今回は早さを見極める事になるな」

「誰か仕切ってくれる奴はいないか?」

「ギャンブルですね。私が仕切りましょうか?」

「お、受付のクレムさん。あんたなら公正に仕切ってくれるな」

「わかりました。では、賭けに参加する人はこの紙に名前を書いてください」

「俺も参加して良いか?」

「お前はあの女の連れじゃねぇか。お前みたいな初心者が2万Gも払えるのか?」

「確かに今はそんな金は持ってない」

「じゃあ帰りな。金が無いんじゃ話にならねぇ」

「おいおい、勘違いするなよ。金(・)は無いんだぜ?」

「……どういう事だ?」

「俺は金の代わりに、『竜の涙』を賭けよう」

「りゅ、『竜の涙』だと!?あの伝説級のアイテムをお前みたいな初心者が持ってる訳ねぇだろ!」

「とある方法で入手してな。奪われない為に安全な場所に保管してあるけどな」

「そんなの信じられるか!口から出任せ言ってんだろ!」

「そう言われると思って証人のミルさんを連れてきました」

「何だいホウリ君、もうすぐ試合が始まるから手短に頼むよ?」

「俺、さっき『竜の涙』見せましたよね?」

「確かに見たよ。これで良いかい?それじゃあ、僕はもう行くから」

「ありがとうございます」

「マジかよ……」

「これで証明になったか?」

「ミルさんが言うなら間違いねぇ」

「それでは、賭けは成立と言うことでよろしいですね?」

「俺らは問題ねぇ」

「俺も問題ありません」

「では、サインをお願いします。ここに書かれていることを守らなかった場合はギルドからの除名等の罰があるので気を付けてください」






☆   ☆   ☆   ☆







「───ということだ」



 簡単に言えば参加金を『竜の涙』で代用したってだけなんだがな。結果は知っての通り。


   


「いつの間にそんなことしておったのじゃ?」

「お前が自重しないと悟った後に直ぐに行動した。どうせ勝つなら一稼ぎしておこうと思ってな」

「じゃが、それだけで200万G貯まったのか?」

「勝たないといけなくなった後、勝ち金と『竜の涙』を商品とした賭けをする事を書いた紙を受付の人に渡してたんだよ。内容は『ナップが勝てば商品を全員に分配。参加金は10万G』」



 ナップが負けると思っていなくて賭けに参加した奴が結構居た。おかげでそれなりに儲かった。



「それで200万G手にいれた訳じゃな。ところで、お主『竜の涙』などいつ手に入れたんじゃ?みっちゃんから貰ったのか?」

「あ?そんな物無ぇよ?」

「有りもしない物を賭けたのか!?」



 物凄い形相でフランが迫ってきた。



「負けなきゃ良いんだよ。どのみち負けたら終わりだったし。」

「……お主、前の世界でもこんなことしてたのか?」

「最近はしてないな。する必要もなかったし」



 日本に帰ってきてからはそういうことはめっきりやらなくなったな。そもそもやりたくてやってた訳じゃないし。



「まあ、良いじゃねぇか。金は有っても困るものでもないし」

「それもそうじゃが……。わしの配慮が無駄になってしまったのう……」



 

 なんだ、そんなこと考えていたのか。



 

「それなら大丈夫だ。俺は無駄遣いはしないタイプだし、必要なもの以外は買わないんだよ」

「……まあ、そうじゃの。お主には要らぬ心配だったかもしれんの」

「じゃあ、ギルド長に一言挨拶してから宿に戻るとするか」



 ギルド長に声をかけようと探していたら、向こうから声をかけてきた。



「よう!なかなか楽しい試合だったぜ!お前らの今後が楽しみだ!」

「は、はぁ。ありがとうございます」



 俺の背中をバンバン叩きながら褒めてくれた。俺はジンジンした背中を抑えながらお礼を言う。



「ギルドカードは明日の朝頃には出来ているはずだ。受け取ったらそのままクエスト受けても良いぞ」

「わかりました。明日の朝取りに行きます」



 ギルド長は『じゃあな』と言うとガッハッハと笑いながら戻っていった。



「なかなか、豪快な人みたいじゃな」

「そうだな。用事も済んだし、そろそろ行くか」

「じゃな」


 

 俺達はギルドを後にした。






☆   ☆   ☆   ☆







 宿に戻ってくると食堂は冒険者で賑わっていた。宿の娘さんが世話しなく働いているが、俺達が入ってくると愛想よく出迎えてくれた。



「いらっしゃいませ。食事でしょうか?宿泊でしょうか?」

「食事だ。席は空いているか?」

「はい、こちらの席へどうぞ」



 女将さんはそう言うと空いている席に俺達を案内した。

 テーブルは二組用なのか少し小さめで両側に簡素な椅子が置かれている。

 俺達が席につくとメニュー表が差し出された。



「注文決まったら呼んで下さい」



 そう言うと女将さんは厨房の方に戻っていった。



「やっと何か食えるな」

「会ってから、わしもお主も何も食べておらんからな」

「まあな。俺は空腹に関しては我慢が利く方なんだが、それでも腹は減るしな」



 そう言ってメニューを見る。

 どれどれ、『ホロホロ鳥のソテー』に『オーク肉のステーキ』。さすが異世界、見たこと無い料理ばかりだな。

 えーっと、他には『ハチミツ付きパンケーキ』に『毒草のサラダ』、ってちょっと待て!



「『毒草のサラダ』って何だよ!?」

「ここでは毒草は普通に食べるぞ?『解毒』のスキルを使えば毒草も無害化出来る。味も結構いける」



 マジかよ。じゃあ、必死こいて食べられる野草覚えなくても良いわけだ。

 少し気になるな。頼んでみようかな?



「と言っても、解毒に失敗する事もある。現に毎年何人か死人が出ておる」



 一気に食う気が失せた。そんな物騒な物を店で出すんじゃねぇよ。



「わしは毒抵抗のスキル持っておるから頼むとするか」



 フランが手を上げて女将さんを呼ぶ。



「注文は決まりましたか?」

「『キロキロ鳥のソテー』と『オークのステーキ』、『毒草のサラダ』と『パンの盛り合わせ』、『ハチミツ付きパンケーキ』をくれ」

「俺もパンケーキ食いたい。ハチミツ多めで」

「なら、パンケーキは二つで」

「わかりました。少々お待ちください」




 女将さんは紙に書き加えると、厨房へと戻っていった。



「お主、甘党じゃったのか?」

「人より少しだけな」

「それは意外じゃのう」

「まあ、いいじゃねぇか。そんなことより、これからの話をするぞ」

「それもそうじゃな。これからの事なんじゃが……」



 少し悩んだ後にフランは口を開いた。



「お主はとにかくステータスが低い。まずはレベルを上げるぞ」

「具体的な方法は?」

「この街から東に行ったところに森がある。そこで上げようと思う。出てくる敵のレベルは高めだがわしもおるし大丈夫じゃろ」



 少し心配だがこんなチート魔王と一緒なら大丈夫そうだな。



「俺は魔法とかスキルとか覚えたいんだけど」

「それはある程度レベルが上がってからじゃな。レベル2ではろくなものをおぼえられん」



 そっか。早く魔法で無双したいなー。



「お待たせしました、『キロキロ鳥のソテー』と『オークのステーキ』、『毒草のサラダ』と『パンの盛り合わせ』です。『ハチミツ付きパンケーキ』は食後に持ってきますね」



 女将さんが、沢山料理が乗ったお盆を器用に持ってきた。

 ステーキがジュウジュウと音が立てていて、ソースの濃厚な匂いが食欲をそそる。




「それでは頂こう」

「そうだな」



 いただきます。

 ステーキにナイフを入れるとスッと抵抗無く切れた。

 一口サイズに切って口に入れる。



「うめぇ!」



 肉が口の中でホロホロととろけた。ステーキに掛かっているソースは野菜の旨味が凝縮されていて、肉の脂と良く合っている。

 パンもふかふかで、濃い目のステーキと相性が抜群だ。

 


「うむ、このサラダも美味いのう。お主もどうじゃ?毒は入っておらぬようじゃぞ?」



 フランがサラダを頬張りながら聞いてくる。

 毒が入っていないなら食べようかな?



「少し貰おうかな」

「ほれ」



 フランがサラダを渡してくれた。

 毒草のサラダは一見すると普通の小松菜やレタスに見える。そこに茶色のドレッシングが掛かっている。

 少し躊躇った後思いきって口に入れた。

 毒草の少し苦味のある味と共にドレッシングの少し香ばしい味が来て美味しい。あっという間に全て食べてしまった。



「なっ!?全て食べたのか!?」

「ああ、悪い悪い。美味すぎて全部食っちまった」

「ぐぬぬ、少しは悪びれろ」

「悪かったって。代わりに少しステーキやるから」

「まあ、それなら良いが……」



 切り分けたステーキをフランの皿に取り分ける。少し不満そうだったがステーキを口に入れるとニコッと笑顔になった。



「このステーキは美味いのう」

「そうだな。正直、想像以上だった」



 結構量があったが、空腹のせいもあってぺろりと食べてしまった。



「おまたせしました~。『ハチミツ付きパンケーキ』です」



 おっ、来た来た~♪



「お主、分かりやすく機嫌がよくなったのう」

「?、これぐらい普通だろ?」



 むしろ、何でテンション上がらないの?

 まあいいや。そんなことより、今はパンケーキだ。

 オーソドックスな丸いパンケーキがバターを乗せて皿に乗っている。脇には蜂蜜が入った容器がある。

 ホカホカのパンケーキに黄金色のトロリとした蜂蜜をかける。

 茶色のパンケーキが蜂蜜に染まっていく。

 フォークを入れて切り分けられたパンケーキから蜂蜜が垂れる。我慢できずに口に入れる。蜂蜜の濃厚な甘味とパンケーキの素朴な味が混ざり合い華麗なハーモニーを奏でている。



「俺は今生きているんだよな……」

「どうした?今にも泣きそうじゃぞ?」

「気にするな、生きている喜びを噛み締めてるだけだ」



 こうして、異世界初めての食事は過ぎていった。




☆   ☆   ☆   ☆




 あー、食った食った。後はもう寝るだけだな。



「どこに行くんじゃ?」

「もう寝るから部屋に行くんだが?」

「お主は行かんのか?」

「行くってどこに?」

「そりゃあ勿論温泉じゃ」



 この街温泉あるのか?



「観光地じゃからな。こういった娯楽は豊富じゃぞ」

「へー、そういうことなら行ってみるか」



 異世界じゃそういうの期待してなかったから結構楽しみだな。

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