第五話 ホウリVS ナップ

────魔法使い────

魔法を使い戦う者の事を言う。魔法の適性を持つ者は10人に1人と言われており、魔法使いは非常に重宝されている。魔法には属性があり、魔法使いは1人に1つの属性を持っている。稀に2つ以上属性を持ってるものがおり、その者は『神子』と呼ばれる。魔法には1~5レベルまであり、一般的な魔法使いは生涯でレベル3を使えるまでになると言われている。────────────Maoupediaより抜粋







☆   ☆   ☆   ☆





 試合が終わると、フランがドヤ顔しながら戻ってきた。正直、すげーうざい。

 話し合いをするために、俺はフランと試合場の隅に移動する。



「俺が言いたいこと分かるか?」

「うむ、完勝だったので褒めてくれるであろう?さあ、存分に褒めるがよい」

「そうじゃねぇよ!俺は目立つなって言ったよな?新人が一人でAランク四人を完勝しといて、目立たないわけないだろ!」

「まあまあ、落ち着け。深呼吸でもしてリラックスするんじゃ」

「誰のせいだと思ってんだよ…」



 俺達が隅でこそこそしていると、不意に声をかけられた。



「おい、そこの女。ちょっとこっちに来い」

「おいナップ、まだ完全に傷が癒えてないだろ?あまり動くなよ」

「いや、俺はもう大丈夫だ。お前は他の奴の事を頼む」



 仲間の静止を振り払い、ローブの男が

 あいつは、確かナップとかいう奴だっけ?フランに何の用だ?まさか、さっきの試合に文句言いに来たのか?まあ、俺は関係無いから良いか。フランには身をもって因果応報という言葉を学んで貰おう。

 ナップはフランを試合場の一番目立つところに連れていった。心なしか顔が険しい。


 

「それで、何のようじゃ?」

「……………」



 ナップはしばらく黙っていたが、意を決した様に口を開いた。




「フランさん、俺と結婚してください!」




 その時、全員の時が止まった。が、すぐに歓声が上がる。



『ヒューヒュー!』

『いいぞーナップ!それでこそ男だ!』

「貴女の戦っている姿に一目惚れしました!」

「お、おい、一旦落ち着くのじゃ……」

「貴女を必ずや幸せにしてみせます!」

「う、うむ…」



 フラン、すげー困ってるな。まあ確かにいきなり知らない奴からプロポーズされたら困るよな。しかも、人が大勢居る所での公開プロポーズだし、そりゃ恥ずかしいよな。

 しかし、違う方向で面倒な事になったな。この状況をフランはどう切り抜けるかなー。ニヤニヤしながら見るとしよう。



「お返事を頂けないでしょうか?」

「う、うむ…。そうじゃ!」



 フランが俺を見て、なにか思い付いたような顔になった。

 あれ?何かまた嫌な予感がするぞ?



「わしは既に愛するダーリンがおるんじゃ。悪いが断らせてもらう」

「ダーリン?そいつは誰です?」

「もちろん、あいつじゃ」



 フランが真っ直ぐ俺を指差す。

 と、同時にナップが俺に迫ってくる。



「フランさんのフィアンセ?こんな弱そうな奴が?」



 マズイ!誤解を解かないとヤバイことになる!



「違いま────」

「そうじゃ。わし達は愛し合った仲なんじゃ。のう、ダーリン?」



 そう言ってフランは腕を絡ませてくる。

 同時にナップが殺気を込めた目を向けてきた。



「こんな奴のどこが良いのですか!?」

「ダーリンはステータスには表れない強さがある。そこが良いのじゃ」

「こんな奴より俺の方が強いです。フランさん」

「いや、確実にお主より強い。何なら試合してみるか?」

「良いでしょう。俺がこんな奴に負けるとは思いませんがね」



 何か、勝手に話が進んでる気がする。ここで止めないと、なし崩しに試合をすることになる。それだけは避けないと。



「おい、ちょっと待て。一旦、俺の話を────」

「では、彼に勝ったら俺と結婚してください」

「それぐらいお安い御用じゃ。一生、お主だけを愛す事を誓おう」



 コイツらは人の話を聞かないのか!勝手に話を進めるんじゃねぇ!

 いや、待てよ?ここでわざと負けたら厄介払い出来るんじゃないか?ここまでのフランの性格から、冒険の最中も厄介事を持ってくることは明白…。だったら、ここで押し付けた方が良いんじゃないか?

 よし、そうと決まれば、わざと負けて試合を終わらせよう。

 俺が決意を固めると、フランが手招きしてきた。俺はフランと隅に移動する。



「お主、分かっておるな?」

「分かってるって。全力で戦えば良いんだろ?」



 全力でやった結果なら、負けても仕方ないよね。



「そうか、ならばやる気のあるお主にもっとやる気を出す魔法の言葉を言おう。」

「魔法の言葉?」




 フランは満面の笑みでこう言った。



「負けたら殺す」

「必ず勝ちます」



 やるからには全力で勝たないとね。



「それでよい。ところで、お主はあの魔法使いに勝つ算段は有るのか?」

「ステータス的には勝てないだろうな。だが、これは試合だ。一撃当てる方法ならいくらでもある」

「ほう、それは楽しみじゃの」



 そのためには必要な事がいくつかあるな。まずは…。



「フラン、いくつか聞いていいか?」

「何じゃ?」

「あいつの使っていた魔法はレベルどのくらいだ?」

「魔法のレベルは3じゃな。あの若さなら4以上の魔法は使え無いと思うぞ?」

「あの威力の魔法を撃つにはどのくらいの時間がかかる?」

「最低でも三十秒は魔力を込める必要がある。最大威力で撃つとなると一分は掛かる」

「発動までの時間が一番短い魔法はどのくらいで発動する?」

「『火球』というのが一秒未満で発動できる」

「『火球』は連続で使用出来るか?」

「出来るぞ。むしろ連続で使用出来るのが強みじゃ」

「魔法は杖の先から出るのか?」

「『流星群』みたいな例外はあるが、基本的には杖の先から魔法を出す。レベル3なら例外は無かったはずじゃ」

「魔法を当てるのは難しいか?」

「簡単ではない。魔法使いは魔法を当てる訓練を重点的にやる」

「そうか…」



 必要な情報は集まった。あとは…。



「フラン、俺が柵の中に入った後にナップと三分ぐらい話をしてほしい」

「?、よくわからんが別に良いぞ」



 よし、ここで出来ることはこれぐらいだな。

 皆の元へ戻ると、ギルド長に声をかけた。



「相談の結果、ナップさんとやる事になりました」

「わかった。ハンデはどうする?」

「ナップさん一人ならハンデは要らないです」

「そうか。まあ、怪我はするなよ?」

「分かってますよ」



 負けたら怪我ところじゃ済まないけどな。

 木刀を手に持って柵の中に入ろうとするとナップに声をかけられた。



「おい、お前まさか木刀で戦うつもりか?」



 痛いところをつかれたな。『馬鹿にしてるのか?』ってまた怒鳴られるかな?



「実は…、誤って呪われた木刀を装備してしまいまして…。これ以外装備が出来ないんですよ…」



 一瞬の静寂の後、試合場は笑いに包まれた。



「ギャハハハ、あいつとんだ間抜けだぜ」

「どうやったら呪われた木刀なんて装備するだよ」

「それでナップに挑もうって言うんだろ。どこまで間抜け何だよ」



 ひ、人が一番気にしていることを…。確かに無用心に装備した俺も悪いけど…。



「ホウリと言ったか?お前色々大変なんだな…」



 対戦相手に同情された。



「それでも、悪いが手加減することは出来ない。お互いに精一杯頑張ろう」

「やめて!優しさが痛い!」



 ちくしょう!目にもの見せてやる!

 俺が柵の中に入ると、予定通りフランがナップに話しかけた。



「ナップとやら、ちょっと良いか?」

「何ですか?フランさん?」



 よし、今のうちに…。



「お主との約束の件じゃが、わし達からも条件を出す。」

「別に良いですが、条件とは何ですか?」

「わし達は初心者なのじゃが、何せ今はお金がない。そこで、ホウリが勝ったらわし達に10万Gを渡す事を約束してもらう」

「それくらい安い御用ですが、それだけで良いのですか?」

「ホウリにはそのくらいで十分じゃ。それ以上はいらん」

「そうですか。話は以上ですか?」

「あと一つだけ良いか?」

「何でしょう?」

「いいたくないのなら言わなくて良いが、お主はわしの何処に惚れたんじゃ?」

「そうですね…。容姿もそうですが、戦う姿がとても美しいかったからですかね。色々な女性を見てきましたが貴方ほど美しい方は居ませんでした」

「うむ…、面と向かって言われると照れるのぅ………」



 よし、これで準備OKだな。

 ん?何かフランの顔赤くないか?何かあったのか?



「フラン、どうかしたのか?」

「いや、なんでもないぞ。ただ、ナップと話をしていただけじゃ」

「そうか?それなら良いんだが…」



 まあ、気にしててもしょうがないか。俺は出来ることをするだけだ。



「それで、準備は出来たのか?」

「おう、バッチリだ」



 多分、これが最善の手だろう。これで勝てなかったら諦めるしかない。

 俺がフランと話していると、ナップが話しかけてきた。



「少しいいか?」

「何ですか?」

「俺はこの試合に勝ってフランさんを手に入れる。そのためにお前を倒す」

「は、はぁ…」

「それだけだ。」



 そう言うとナップは柵を破壊して入っていった。こいつは破壊しないと柵の中に入れないのか?

 それはおいといて、この人やる気凄いな。フランと戦う前とは気迫が違う。

 しかし、参ったな。これで勝ちにくくなった。

 この人はフランとの試合の時は少なからず油断していた。だから、フランに攻撃が当たらなかったときに焦って前と同じ攻撃をして負けた。 

 まあ、フランなら油断されてなくても勝ってたと思うけど。だけど、今は目的が出来た事とフランとの試合の事があるから相手の油断は期待出来ない。



「それじゃあ、始めるか。」

「よろしくお願いします。」



 まあ、考えててもしょうがない。やれるだけやったんだ。覚悟を決めよう。

 俺は木刀を握りしめて構えた。





☆   ☆   ☆   ☆






 「それでは、『ナップ・シュトレン』対『キムラ・ホウリ』の試合を行う。ルールは先程と同様に一撃受けた方の負けということにする。それでは、試合開始!」



 試合開始の合図と同時にナップは俺とバックステップで距離をとった。おそらく魔法を放つまでの時間稼ぎだろう。



「させるか!」



 俺はナップと距離を詰めようと走る。しかし、ステータスの差が大きいのか俺とナップの距離は一向に縮まらない。

 くそっ、ナップの奴をフィールドの端に追い詰めようとしても追い詰められないように上手く立ち回ってやがる。早く仕留めないとさっき見た魔法が撃たれてしまう。というか、何で相手はバックステップなのに追い付けないんだよ。どれだけステータス差が激しいんだよ。

 俺の全力疾走も虚しくナップの杖が光り、ナップの動きが止まった。



 「時間切れだ!『炎の息吹き』!」

 「初心者相手に全力出すなんて大人げないぞ!」

 「手加減出来ないと言った筈だ!」



 杖の先から炎の魔法が放たれる。が、



「まあ、対策してるんだけどね」

「え?」



 炎は俺のすぐ横を通り過ぎていった。というか、直撃してないのに熱い!これ、直撃したら消し炭になるぞ!?何てもの撃ってきてるんだよ!

 俺は呆然としているナップとの距離を詰め木刀を叩き込む。



「くらえ!」

「ぐっ…!」



 ナップはかろうじて杖で防御して後ろに距離をとった。



「お前、何をした?」

「どうしました?何かありました?」

「惚けるな。魔法を放つ瞬間に急に狙いが逸れた。お前が何かしたんだろ?」

「教えるわけ無いでしょう?今は試合中ですよ?」

「ぐぬぬ…」



 ナップは悔しそうな顔をすると、バックステップをしながら杖に魔力を込め始めた。俺は走って追いかける。



「くっ…、『火球』!」



 杖の先から無数の火の玉が放たれる。だが、上手く狙いが定まらないのか俺の所にはほとんどこない。俺は木刀で自分のところに来た火の玉を捌いていく。



「無駄無駄無駄無駄ァ!」

「くそっ、なぜ当たらない!」



 ナップの顔に焦りが表れる。

 よし、このまま行けば勝てる。死ななくてすむ。



「ん…?あっ!?」



 唐突にナップが動きを止めた。気付かれたか?



「おい、お前手から何か飛ばしているだろ?」

「なななななな何のことととかな?」

「分かりやす過ぎるだろ…」



 ナップの言う通りだ。俺はナップとフランが話している間に小石を目一杯ポケットに詰め込んだ。右手で木刀を持って、左手で小石を持つ。ナップが魔法を放つ瞬間に小石を杖の先に当てて魔法の軌道を変える。これだけ。



「小賢しい手を…」

「一生懸命考えた作戦だったんだけどなー」



 この作戦のデメリットは小石が尽きると打つ手が無くなること。さすがに小石を拾う隙は無いだろうしな。



「だが、種が判ればなんて事はない。くらえ『火球』!」



 この作戦のメリットは───



「何!?」



 メリットは、バレたとしても問題ないということだ。



「あれれ~?さっきと変わってないぞ~?」

「何故だ!何故当たらない!」



 理由は簡単、相手が右に軌道を修正したら右に、左に修正したら左に余計に動くように小石を弾いたから。これだけ。



「『種が判れば…』何でしたっけ?」

「この野郎…」



 だけど、この作戦は基本的に守りのための作戦だ。この状態が続けば小石が尽きてやられてしまう。

 だから、



「はぁっ!」

「くっ!」



 攻めて攻めて攻めまくるしかない。間合いを詰めて殴る!



「オラッ!」

「くそっ!」



 ナップはバックステップで逃げる。ナップも俺の小石が尽きればなす術がない事が分かっているんだろう。



「逃げるな!卑怯者!」

「お前にだけは言われたくない!」



 バックステップで逃げるナップを俺が追いかけるという鬼ごっこが続いた。



────数分後────



 クソッ!魔法使いのくせに足が速いじゃねぇか。全く追い付けないぞ。

 ナップは笑みを浮かべた。



「ふっ、そろそろ飛ばすものが無くなって来たんじゃないか?」

「そそそそんなこと無いよよ?」

「だから、分かりやす過ぎなんだよ」



 バレたか。確かにこの調子で行くと、三分ももたない。



「はっはっは、俺の勝ちだ!」



 ナップが勝ち誇った瞬間、



「うぉっ!?」



 ナップが地面に空いていた穴に躓いて尻餅を着いた。よっしゃ、今だ!



「オラッ!」

「くそっ!」



 俺が降り下ろした木刀をナップは杖で防いだ。が、



「読めてんだよ!」



 俺は小石を弾いていた左手でナップの顔を思いっきり殴った。



「ぐふっ」



 威力は大したこと無いが、



「勝者!『キムラ・ホウリ』!」

「よっしゃぁーーーーーー!」



 これで死なずに済んだー。良かったー。





☆   ☆   ☆   ☆






「お疲れ様じゃ」

「おう、お疲れ」

「しかし、相手が転んでくれて助かったの。あれがなかったら危なかったの」

「ソウダネー。アブナカッタネー」

「…もしかしてお主、あれも計算していたのか?」

「ナンノコトカナー」

「そうかそうか。はっはっはー」

「そうなんだよ。はっはっはー」

「…………………」

「…………………」

「…全て吐け」

「…はい」

「それで、お主は何をしたんじゃ?」

「大したことはしてねーよ。小石拾って、試合場に数ヶ所ナップが引っ掛かる位の穴掘っただけだ。まあ、引っ掛からなさすぎて焦ったけどな」

「三分で穴まで掘っておったのか?」

「まあ、穴堀のコツがあるんだよ」

「そうか。とにかく勝てて良かったのじゃ」

「全くだ」

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