第四話 冒険者ギルド

────冒険者ギルド────

冒険者を管理する機関。各街に1つはある。依頼や登録はここで行う。依頼にはランクがあり、高ランクほど難しくなる。国からは独立している機関であるため、ある程度自由に活動している。王都に本部があり、各街に支部がある。冒険者に登録すると、冒険者カードを貰え、身分証として使えるためとりあえず登録する人も少なくない。──────────Maoupediaより抜粋






☆   ☆   ☆   ☆





 冒険者エリアは多くの酒屋や鍛冶屋、食料品店が並んでいる。商店エリアでは見なかった物が多い。以外にも冒険者以外の人も多く歩いている。商店エリア以上に賑わっているかもしれない。




「そりゃそうじゃ。ここは生活に必要な物がそろうから住民は基本的にここで買い物をする。商店エリアの店は割高じゃしの。ここなら安価で手に入れることが出来るんじゃ」

「確かに、商店の木の実は500Gと結構割高だったな。ここだと200Gもしないみたいだし」



 多分味とか違うんだろ。日本でも一粒五万円の苺とかあったし。



「さあ、着いたぞ。ここが冒険者ギルドじゃ」



 ギルドはしっかりとした木で出来た二階建ての建物で両開きの扉が付いていた。扉の横には剣と盾をモチーフにしたギルドの紋章が飾られていた。

 中に入ると、すぐに職員が居るカウンターがあった。カウンターの横には依頼が貼り出されている。中には何十人かの冒険者がいて、すぐ奥には丸いテーブルや椅子などが多数あり、そこで酒を飲んでいる。酔っ払いの怒号や笑い声でギルド内は活気に溢れていた。

 俺たちはとりあえず、カウンターに向かった。カウンターには青い服と赤いネクタイをして、眼鏡をかけている真面目そうな女性が座っていた。服の胸元とネクタイにはギルドの紋章が施されており、一目でギルド職員だとわかる。



「すみません、冒険者の登録をしたいのですが…」

「わかりました。では、こちらに名前と職業とレベルを書いてください。文字は書けますか?」



 そういえば、この世界の文字って日本語だよな?この街の看板とか店の文字とかおもいっきり日本語だったし。何か補正がかかってるのか?それとも元々日本語に近い感じなのか?

 後でフランに聞いたところ、どうやら後者らしい。神は文字とか言葉とかが近い世界から召喚したと言っていたそうだ。そこはありがたいな。



「はい、書けます」

「わしも書けるぞ」

「では、書きながらで構わないのでギルドの説明を聞いてください。まず、ギルドとは………」





────1時間後────





「つまり冒険者とは報酬やアイテムのために戦う訳ではなく時には自己を犠牲にして…。」

「な、長い…」

「わしもここまで長くなるとは思わなかったぞ…」



 

 かなり長かったから箇条書きにすると、


・ギルドに登録するとギルドカードが発行されて、冒険者になれる。

・ギルドカードにはランクや倒した魔物の数、職業などが記載される。(職業は教会でなることが出来るらしい。よって、俺は今無職。)

・ランクはF~Sまであって、一つ上のランク依頼まで受けられる。

・ランクを上げるには依頼を達成してポイントをためる必要がある。(同ランクの依頼で1ポイント、一つ上の依頼で2ポイント。必要なポイントはランクによって異なる)

・ポイントを貯めるとギルドの試験があり、それに合格すると、ランクが上がる。

・ギルドでは魔物の素材を買い取ったりしている。



 と言うところだ。10分で終わりそうな話なんだが、どうしてこうなった…。



「…と言ったところです。これでかなり簡単ですが、説明を終わります」



 これで簡単だと…。 全部聞いたら何十時間かかるんだ…。

 説明が終わると同時に、後ろから声がきこえた。



「やっと終わったか。お前が説明するといつも長いんだよ」

「あなたが説明すると端折りすぎて解りにくいんですよ、ギルド長」



 その男は筋肉モリモリでボディビルダーのような男だった。腰には使い込まれている刀がぶら下げられている。

 話からするとこの人がギルド長か。なかなか豪気な人みたいだな。



「大体、何で十分で終わる説明が一時間もかかるんだよ。ほとんどマニュアルに書かれてない事じゃねえか」

「冒険者としてあるべき姿を説いていただけです。それに、あなたが説明すると解りづらいってクレームが来るんですよ」

「お前の説明は長いってクレームも来てるんだよ。そんなんだから、ろくに彼氏も出来ないんだよ」

「そんなこと言ったら、ギルド長も最近奥さんと上手くいってないそうじゃないですか」

「それとこれとは関係ないだろ!」



 あ、これまた時間がかかる奴だ。というか、説明終わったし、帰っていいよな?



「あのー、もう帰って良いですか?」

「あ?なに言ってやがる?おまえ達まだ試験が終わってないだろ?」



 ギルドでは登録した時にどのくらいの腕があるか試験をする。その結果によってランクを決める。拒否してもいいが、その場合Fランクからになってしまうらしい。



「で、どうする?やるか?」



 手早くランク上げられるかもしれないな。一応やっておくか。



「はい、受けます」

「わしも受けるぞ」

「OK。それじゃあ、少し待っててくれ」



 そう言うと、ギルド長は酒を飲んでいる冒険者達へ声をかけた。



「おーい!今から登録の為のテストをするから戦ってくれる奴を募集する!報酬は弾むぞ!」



 すると、何人かの冒険者がやって来た。ローブを着けて杖を持っている奴が三人、腰に剣を着けている男が二人だ。

 ローブを着けている奴らはローブで顔を隠していた。



「俺たちがやろう」

「ほう、銀の閃光か。全員Aランクだが、まあいいだろう。それじゃあ、試合場に行くぞ。ついてこい」



 ギルド長がそう言うとカウンターの奥の扉に入っていった。すると、何故かギルドにいた全員が付いてきた。こいつらとも試合するの?



「ギルド長、何故皆付いてくるんですか?」

「ん?ああ、人が試合をするとなるといつもこうなんだよ。冒険者は血の気が多い奴が大半だからな。戦っているのを見るのが好きなんだよ。それを見て賭けをするの事も多いな」



 スポーツみたいなものか。戦いが娯楽とか異世界っぽいな。

 ギルド長と話していると、ローブを着けた銀の閃光の一人が話かけてきた。



「はぁ、こんな奴らまでギルドに登録するようになったか。冒険者の質も下がってきたな」

「どういう意味ですか?」

「ここはお前らみたいな雑魚が来る所じゃないって事だよ。最近じゃ登録だけして何もしない腐った奴も増えてきたが、実力も無いくせに登録するような雑魚も増えてきた。特にそこの女、お前の実力じゃゴブリンにも殺されるだろうよ」



 フードの男はフランを指差した。確かに、見た目は普通の女の子なんだよな。魔王とは普通は思わないよな。

 すると、もう一人のフードの男がたしなめた。


「おいナップ、少し言い過ぎだぞ」

「ミル、お前は何とも思わないのか。冒険者の質が悪くなって依頼の達成率が悪くなっている。その尻拭いをするのは俺たちなんだぞ?」

「だからってこの子達にあたる事は無いだろ。少し落ち着け」

「…ッチ」



 ナップと呼ばれた男は苛立ちげにこちらから視線を背けた。すると、今度はミルと呼ばれた男が話かけてきた。



「ごめんな、普段はこういうこと言わないんだが、最近は初心者の後始末の仕事ばかりで苛立ってるんだ。許してくれないか?」

「こういうことは慣れてるので大丈夫ですよ」

「そう言ってくれると助かる。またあいつに失礼な事を言われたら言ってくれ。すぐに注意するから」

「ありがとうございます」



 ミルという人は優しそうな人だな。何かあればこの人に頼ろう。



「よし、着いたぞ。ここが試合場だ」




 ギルド長に付いていくと、大きめの場所に出た。体育館程の大きさで中心のは一メートル程の柵で囲まれた小さなスケートリンク程のスペースがある。

 ギルド長は柵の中を指差すと言った。



「この柵の中で戦ってもらう。ルールは相手に一撃いれた方の勝ちだ。柵の中はあまり整備してないから石とか沢山落ちているが気にしないでくれ」



 整備してないのかよ。こっちには好都合だけども。

 見たところ試合場はまっ平らで障害物が無いから正面から戦うしかない。地面には石が多くて動きづらそうだ。初心者には厳しい地形だな。



「審判はギルド長である俺がやろう。それで、二人いっぺんにやるか?それとも、一人ずつやるか?」

「少し相談します」



 俺はフランと練習場の隅に移動した。



「で、どうする?」

「んー、そうじゃのう。わしはお主の実力をまだ見ておらんから一人ずつの方がよい」

「了解、フランから先にやってくれ」

「うむ、わかった」

「あと言い忘れていたけど、あまり目立つような真似はするなよ?おまえ、一応魔王なんだから」

「わかっておる。初心者らしい戦いかたをするんじゃろ?楽勝じゃ」



 こいつ本当にわかっているのか?嫌な予感がするんだけど…。



「決まったか?」

「うむ、わしが最初じゃ」

「そうか、それじゃあ対戦相手とハンデを決めてくれ」



 ハンデ?そんなのあるの?



「ハンデなんてあるんですか?」

「あまり一方的な試合になってもあれだしな。自分の実力を試したいってことでハンデを付けない奴が多いが、こちらとしては付ける事をお勧めするぞ」



 そりゃそうか。高ランクと初心者じゃ実力が違いすぎるから、どのくらいの力があるか判断出来なくなるのは困る訳だ。フランにはいらないと思うがな。



「そうか、ならハンデをいただけるかの?」



 ん?聞き間違いか?音速で動ける最強の魔王様がハンデ?何かの冗談だろ?



「まあ、賢明だな。で、どんなハンデが良い?オススメは相手の行動を制限するギブスをつけるとか、相手の武器のランクを下げるとかがあるが?」



 あ、なんか嫌な予感がする。フランが、面白い事聞いちゃったー、っていう顔してる。

 フランはニヤリと口元を上げて言った。



「銀の閃光全員でかかってこい。それがハンデの内容じゃ」



 やっぱりかよ!あれほど目立つような真似するなと言ったのに!すぐに止めないと。



「おい、フランちょっとま───」

「貴様!俺たちを誰だと思っている!Aランク最強パーティーの銀の閃光だぞ!バカにするのもいい加減にしろ!」



 顔を真っ赤にしながらナップが怒鳴ってきた。

 やっぱり、こいつが食いついて来たか。フラン、絶対こうなること判っててやっただろ。

 フランは惚けた様子でこういった。



「何を怒っている?もしかしてハンデが足りないのか?なら、わしがギブスを着けて素手で戦うぐらいしかもう無いんじゃが…」

「こ、この…!」



 あーあ、もう無理だ。相手が怒りで震えているよ。俺知ーらない。



「いいだろう、お望み通り二度と動けない体にしてやろう。お前達も全力で戦えよ」

「お、おい、そんなに熱くなるなよ。少し落ち着けって」

「あいつは冒険者だけでなく俺たちまでばかにしたんだぞ!もう我慢の限界だ!ボッコボコにして二度と舐めた口聞けなくしてやる!」



 そう言うとナップは柵を魔法で壊して入っていった。おい、物を壊すな。



「ハッハッハ。ナップは元気が良いな」

「元気が良いだけに見えるなら目を治してもらった方が良いですよ」



 何で元気で片付けるんだよ。治すのギルドだろ?

 試合前にフランを呼び止めて話しかける。



「おい、分かってるよな?」

「分かっておる、あの生け簀かない奴ををボッコボコにしてくるんじゃろ?」

「分かってねぇよ!今すぐに謝って一対一にしてもらうんだよ!あれほど目立つような真似するなって言っただろ!」

「そうじゃったか?」

「こいつ、忘れてやがる!」



 さっきの会話は何だったんだよ…。もう、こいつの事信用しないでおこう。



「まあ、大丈夫じゃって。では、行ってくるぞ」



 あーあ、行っちゃったよ。もう嫌だ、胃が痛い。




☆   ☆   ☆   ☆




 試合前の試合場は沢山の冒険者で沸いていた。



「それでは、『銀の閃光』対『フラン・アロス』の試合を行う。ルールは一撃入れられた者は脱落し、全滅したら負けというルールで行う。それでは試合開始!」



 試合開始の合図が出されると、フランの元に二人の剣士が詰めよりフランに剣撃を浴びせた。



「はぁっ!」

「ふんっ!」



 二人の剣撃をフランは紙一重でかわしていく。ある程度剣撃を浴びせると二人はフランから距離をとった。



「全てを焦がせ!『炎の息吹き』!」

「大地を切り裂け!『風の息吹き』!」



 次の瞬間、フランに二人の魔法使いの風と炎の魔法が襲いかかった。フランは横に避けようとしたが、



「スキル、チェーンロック!」

「なぬ!?」

 


 もう一人の魔法使いのスキルでフランの足が鎖の様なもので縛り付けられている。

 

────スキル チェーンロック────

対象に鎖を巻きつけ、動きを制限する。鎖の強度は使用者の魔力に依存する。消費MP20


 フランは回避しようとも藻掻くが中々外れない。フランがモタモタしている間に敵の攻撃が迫る。



「くらえ!俺たちの最大の攻撃だ!」



 炎の渦が風の渦を巻きこみ巨大な渦へと変貌する。巨大な炎の渦は動けないフランを安々と飲み込んだ。



「勝負あったな。俺の『炎の息吹き』とミルの『風の息吹き』の魔法を食らって生きていたものはいない」



 ナップは勝ち誇ったように言った。しかし、



「ほー、なかなか威力が高いのう。剣と魔法のコンボも流石じゃった。流石はAクラス最強パーティーと言ったところか。」

「なっ!?いつの間に!?」



 ナップの後ろには魔法に巻き込まれたはずのフランが立っていた。服には焦げあと一つ見当たらない。



「あの状況をどうやって突破した!?」

「簡単じゃよ。お主らが相手をしていたわしは幻術だっただけじゃ」



 ────スキル 水月────

指定した相手に幻術を見せる。幻術のリアリティーは使用者の魔力に依存する。

MP消費 5000



「一体いつから幻術だったんだ!?」

「逆に聞くが…」



 フランは顔をキリッとさせるとこう言った。



「一体いつから───水月を使っていないと錯覚していた?」

「なん…だと…。ま、まさか最初から!?」



 そう言うと、ナップはその場から飛び退いて距離をとった。



「くそっ、もう一度だ!ボローネ、パンク、時間を稼げ!」

「「了解!!」」



 二人の剣士が再度フランに剣撃を浴びせる。フランはさっきとは違い剣をよけようとしない。



「お主たちの攻撃は素晴らしかった!コンビネーションも戦略も!」



 フランは剣を腕で受け止めて、そのままへし折った。


 

「なんだと!?」

「すぐに離れろ!」



 剣士が後ろに飛びのいてフランから距離をとる。



「全てを焦がせ!『炎の息吹き』!」

「大地を切り裂け!『風の息吹き』!」

「スキル、チェーンロック!」



 再度フランに鎖と巨大化した炎の魔法が襲いかかる。



「だが、しかし、全然!」



 フランは襲い掛かる攻撃を物ともせず不敵に笑う。



「このわしを倒すには程遠いんだよねぇ!」



 そう言うと、フランの杖が光り、魔法とチェーンロックが吸い込まれていった。


────スキル マジックマグネット────

物理系以外の攻撃を吸収し自信のMPに変換する。吸収出来る攻撃は使用者の魔力に依存する。消費MP1000



「なっ、何だと!?」



 呆気にとられているナップ達にフランは杖を向けた。



「次はわしの番じゃな。『流星群』!」



 

 フランが杖を掲げると、頭上に無数の隕石が現れた。

 


「ミル!シース!急いで結界を張るぞ!」

「「わかってる!」」



 ナップとミルが叫ぶと透明なガラスのように透明な結界が銀の閃光を包んだ。



「足掻け足掻け!己の無力さを思い知るがいい!」


 

 悪役みたいな台詞と共に杖を降り下ろすと隕石が銀の閃光に落ちていき、轟音と共に砂ぼこりが舞った。 

 砂ぼこりが晴れると、辺りには満身創痍の銀の閃光のメンバーと勝ち誇ったように左手を付き出したフランがいた。



「勝者、フラン・アロス!」

「はっはっは!このわしに勝つなど百年は早いわ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る