第三話 草原の街『オダリム』
───草原の街『オダリム』───
草原に囲まれおり、強い魔物もいないため、初心者の冒険者が多く滞在している。北は住民が住む住民エリア、東は宿が並んでいる宿エリア、南は商店が並んでいる商店エリア、西は冒険者がよく利用する店が並ぶ冒険者エリアの4つのエリアにわかれている。街に続く道も整備されており、周辺には強い魔物も出ないため貿易がさかんで、王都についで発達している国である。冒険者になるには、まずここで活動すると良い。─────────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
やっとたどり着いたオダリムの街は高さが10mのかべに覆われていて、街に入るための門から馬車に乗った商人らしき人から剣や槍を装備した冒険者らしき人まで色々な人が長い列を作っていた。門では門番らしき人が二人で列の人をさばいている。
「これは、結構かかりそうだな」
「そうじゃのう。そうじゃ、お主にみっちゃんから渡してくれと言われている物があったんじゃった」
そう言うと、フランは金色の硬貨を2枚取り出した。
「それは、金貨じゃ。2枚で20000G、これで必要なものを買うとよい」
フランいわく、1Gで鉄貨、100Gで銅貨、1000Gで銀貨、10000Gで金貨らしい。20000Gなら色々と装備が整えられるとのこと。
「神なんだから、もう少し多くくれればいいのに…」
「文句を言うでない。貰えただけましだと思え」
そうこうしているうちに俺達の番になった。甲冑を着た門番らしき人が俺たちを呼んだ。
「はーい、次の人どうぞ」
「よろしくおねがいします」
門番らしき人は全身を甲冑に身を包み、手には槍を持っていた。
こういうときって身分証とか要求されるよな?俺、身分証持ってないんだけど時間かかったりしないかな?歩き疲れたから早く宿で休みたいんだけど…。
「君、見たところ冒険者だよね?身分証とか持ってる?」
やっぱりか。これはギルドに行くのは明日になりそうだな。
「いえ、持ってません」
「じゃあ、君は犯罪とか起こしたことある?」
犯罪はしたこと無いな。犯罪は。
「無いです」
「この街で犯罪をするつもりはある?」
「無いです」
「じゃあ通って良いよ」
は?今ので終わり?身元を詳しく聞いたりとか色々と無いのか?
「どうした?後がつっかえてるから早く行ってくれよ」
「あ、すみません」
こんな適当で大丈夫か?街に犯罪者とか紛れ込んでいないか心配になってきた。
「お主も終わったか。思ったより早かったのう。…何を微妙な顔をしておる?さっさと宿を決めてギルドに向かうぞ」
「いや、あんな適当な感じで変なやつが紛れ込まないかって思ってな」
「それなら心配いらん。あの門番は特別なスキルを覚えておるからな」
「特別なスキル?」
「『看破』というスキルじゃ。これは『はい』か『いいえ』限定で相手が嘘をついているかがわかるというスキルじゃ」
「便利なスキルだな」
「その分、修得するのが難しいがな。ところで、お主は元の世界で犯罪を犯していそうじゃったから、門番に止められると思ったんじゃが、意外に早かったのう」
「嫌だなー。さすがに犯罪はしたこと無いぞ」
犯罪はな。
「まあ、問題無かったんだからいいだろう?それより、宿を探そうぜ。さすがに歩き疲れたぜ」
「それもそうじゃのう。適当な宿を探すとするか」
門を抜けるとそこは商店がところ狭しと並んでいた。
「ここは商店が並ぶ『商店エリア』じゃ。観光客なんかが多く集まる」
フランの言葉の通り家族連れや旅行者と思わしき人たちが大半を占めている。中には獣の耳や尻尾がある人や、肌が黒く角が生えている人もいる。
商店からは客引きの声などの声が聞こえて通りを賑わせている。
「安いよー!安いよー!今ならリンの実がなんと100Gだよー!」
「今朝入った取れたてのサンマーの塩焼き!旨いから是非とも食べて行ってくれ!」
「王都で話題のオリの実から作られた美容液ですよー!是非お試して下さい!」
そう言えば、この世界に来てから何も食べてないな。
「おばさーん、この串焼き下さーい」
「はいよ、200Gね」
俺の鼻孔をたれの香りがくすぐる。早く何か食べておきたいがまずは宿からだな。早くしないと空きが無くなるかもしれない。
そう思って俺は売店から視線を外す。瞬間、横でフランの腹の虫が鳴いた。フランへ視線を向けると、焼きおにぎりの屋台へ視線が釘付けになっていた。
「あのおにぎり、美味しそうじゃな?」
「わかっているとは思うがまずは宿からだ。買い食いはそれからだぞ?」
「わかっておる。東の宿エリアじゃな。宿を決めたら冒険者ギルドへ向かうぞ」
「その前に、屋台から釘つけな目を何とかしろ」
「……果物くらいは買ってもよいのではないか?」
「バカな事言ってないで行くぞ」
俺が買い食いの誘惑に負けそうなフランが止めるということを何度か繰り返して宿エリアに向かった。
☆ ☆ ☆ ☆
宿エリアはさっきの商店エリアとは違い非常に静かだ。同じ街でこんなにも違うのか。
「まあ、基本的に全員がゆっくり休んでいるからの。騒ぎたくなったら冒険者エリアに向かうしここはわりと静かじゃよ」
「それはありがたいな。静かに休めそうだ」
それから、俺たちは適当な宿にはいった。
宿に入ると宿の主人らしき人が冒険者らしき人を接客をしていた。
「一部屋いくらだ?」
「一部屋なら1000Gでございます。夕食付きだと1500Gになります」
「じゃあ、夕食付きで一週間頼むよ」
「はい、10500Gですが、おまけして10000Gで良いですよ」
「お、ラッキー。じゃあ、これ10000Gね」
「ありがとうございます。夕食は一階の食堂で好きな時間に言って下さればお作りします」
「わかった。ありがとな」
ふーん、なるほどね。
「この宿は当たりじゃな。値段も高くなくて主人も人が良い。この宿にするぞ」
「本当にそうならな」
「うむ?どういうことじゃ?」
「まあ、見てなって」
俺はニヤリと笑ってカウンターへ向かった。
☆ ☆ ☆ ☆
ふぁー。そろそろ昼か。娘に接客任せて昼飯でも食べるか。そう思い大きく伸びをすると、気配を顔を上げる。そこには革の鎧に木刀を腰に吊った男がいた。
「おっさん、1部屋いくらだ?」
ふーむ、なるほど。装備から見て、こいつは冒険者に成り立てってところか。少しぼるか。
「一部屋なら1500Gでございます。夕食付きだと2000Gになります」
「おっさん、さっきの客には一部屋1000Gって言ってたよな?何で俺は1500Gなんだ?」
チッ、聞いてやがったのか。
「先ほどの方はこの宿の常連でして、特別価格だったんですよ」
「んー?それはおかしいな?さっきの客は値段を聞いていた。割引される程の常連なら値段なんて聞かないよな?」
「そ、それは…」
「しかも、俺はあの人と門で少し話したんだけが、この街に来たのは初めてっていってたぞ?」
しまった!さっきの客と顔見知りだったか!
「…わかりました。一部屋1000Gでございます。夕食付きで1500Gになります」
「え?高くない?」
「へ?」
「俺たちさ、見ての通り冒険者に成り立てなんだよ。お金も少なくてさ。一部屋500Gにならない?」
は?こいつは何を言ってるんだ?
「お客様、それは無理でございます。それではこちらは赤字でございます」
「いや、500Gにしといた方がいいぞ?じゃないと赤字じゃすまなくなるから」
「どういう意味でしょうか?」
「俺たちが出ていった後にこの宿のあることないこと噂が流れて誰も来なくなるだけだ」
こいつ!何てことを!そんなことしたらこの宿は終わりだ!
「お客様それだけはどうかご勘弁を」
「言っただろう?俺たちが出ていったらの話だよ」
「…わかりました。一部屋500Gでございます。夕食付きだと1000Gになります」
「二部屋で一週間、夕食付きで」
「14000Gになります」
「じゃあ、これ14000Gね」
「はい、ありがとうございました。」
くそっ、今日は何て厄日だ!
☆ ☆ ☆ ☆
「…いともたやすく行われるえげつない行為を見たぞ。まさか、500Gにするとはの。それに、お主さっきの客とは会った事など無いじゃろ」
「んー?そうだっけ?俺の記憶違いかなー?」
「白々しいの…。それにしてもあの主人がぼったくるとよく気づいたのう?わしは全く気がつかなかったぞ」
「あー、あれか。あの主人、さっきの客と話してた時にチラッと武器見てたからな。客を見定めてる可能性があると思ったんだよ」
「武器?」
「さっきの客の武器はかなり使い込まれていた。だから、そこそこの冒険者だと判断したんだろ。だが、俺は木刀を装備していた。木刀を装備している冒険者なんていないだろ?初心者だと思われたんだよ。だから、宿代の相場も知らないと思ったんだよ」
「なるほどのう。しかしお主、妙になれているのう?元の世界で何があったか本格的に気になるのう」
「それは聞かない約束だろ?早くギルドに行こうぜ」
「末恐ろしい奴じゃ。本当に犯罪を犯したことはないんじゃよな?」
「犯罪はしたこと無いな」
犯罪はな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます