第二話 まおうがあらわれた
頬に涼しげな風を感じ俺は目を開けた。視界には地平線まで生えている草が風でたなびいている。どうやら本当に異世界に来たらしい。
「神の知り合いは……まだか」
辺りを見渡しても草以外何も見えない。
すぐに襲われる心配はなさそうだ。今のうちに持ち物の確認を確認しておくとしよう。
「えーっと、アイテムボックスは……、出た出た」
アイテムボックスと念じると、光の板のような物が目の前に表示された。上段と下段に5マスずつに区切られており、アイテムの画像と名前が載っている。
俺は拳銃の画像に触れてみると、手に光の粒が集まっていき拳銃が現れた。
「グロッグか。期待通りだな」
ずしりとした重みと手になじむ感覚が心地よい。武器は色々と使っているが、何だかんだでグロッグを一番使っている気がする。
慣れていない世界で慣れている武器が傍にある事に安堵する。そう言えば、伝説の剣があったんだっけか。だが、それらしい物は無いな。
「ん?何だこれ?」
色々と準備をしていると、アイテムボックスの中に頼んだ覚えのない物が目に留まった。
「これは……木刀?」
取り出してみると、それは何の変哲もない木刀だった。なんなら旅館のお土産屋に置いてあっても違和感はない。
「まさか、これが伝説の剣か?」
伝説の剣だったらステータスが100倍になるはずだ。だが、跳んでみてもジャンプ力は上がってないし、地面を蹴っても抉れとんだりしない。
試しに木刀を振ってみるがビームは出ない。ステータスも上がらずビームも出ないとなると……。
「あの野郎騙しやがったな!」
大声で怒鳴りながら木刀を叩きつける。何が伝説の剣だ!薄汚い木刀じゃねぇか!
俺は木刀をアイテムボックスに仕舞って、手に持ったグロッグを見つめる。
「保険掛けといてよかった~」
これでグロッグもなかったら悲惨だったな。素手で魔物と戦のは勘弁してほしい。
とりあえず戦闘に備えてナイフも出しておくか。
「お、ナイフは足に着けるカバー付きか。弾薬もナイフもすぐに取り出せるしアイテムボックスって便利だな」
ナイフのカバーを足に付ける。そして、一通り渡されたアイテムを確認する。
さてと、そろそろ神の知り合いって奴が来てもいいころ何だが────
「ん?」
辺りを見渡すと遠くの空で黒い点のような物が見えることに気がついた。黒い点を見ていると徐々に大きくなっている。
「なんだあれ?」
念のためグロッグを構えながら黒い点を注視する。しばらく観察してみると、黒い点は輪郭がはっきりしだす。えーっと、あれは人か?
飾り気の全くない鉄仮面を被り、ものすごい勢いでこちらに向かってきている。撃つべきか?いや、敵じゃなかったら厄介だし、始めは様子を見よう。
鉄仮面は速度を落とさないまま俺へと向かってきて、轟音を上げながら俺の目の前に着地した。俺は油断なくグロッグを鉄仮面に向ける。
着地した鉄仮面は俺に向かって悠然と歩いてくる。目だけ開いている無骨な鉄仮面に杖という不格好な姿をしており、杖には血のように赤い宝石が太陽の光で輝いている。体型は俺より一回り小さく、髪は宝石に負けないほどの鮮やかな赤色をしておりツインテールでまとめてある。かなり異様な雰囲気を醸し出している。
何よりあれだけ高速で着地したのに、ダメージを受けている様子が無い。只者ではない証拠だ。
俺はグロッグを向けながら鉄仮面に話しかける。
「敵意が無いなら仮面を取って姿を見せろ」
「………………」
鉄仮面俺の言葉に反応せず、杖を地面に打ち付けた。すると、杖を中心に光の円が広がっていき地面に半径100mくらいのの光の円が表れた。何をする気だ?
銃を向けられても反応が無かった鉄仮面は円が広がりきった瞬間に、少し高めの可愛らしいこえで話し始めた。
「死なずに円の中より脱出して見せよ」
「つまり敵なんだな」
言い終わるや否や、俺は鉄仮面の腕に弾丸を撃ち込む。命中したとしても重症にはならないはず───
「何かしたか?」
「な!?」
無傷だと!?外したのか!?いや、服に穴が開いているから命中はしているはず。ということは、命中したが全く効いていないということか!?
主力のグロッグが効かない。つまりは倒す事は絶望的という訳だ。
「いつも通りだな」
こいつの言う通りなら円から出れば助かるはずだ。倒すことは考えずに円から出ることだけを考えるべきだな。
踵を返して円の外へと駆け出しながら牽制のために走りながら鉄仮面に弾丸を撃ち込む。
俺の脚の速さだと円の外までは9秒はかかる。だが、こいつが何もしてこないとは思えない。
「どこから来る?」
走りながら鉄仮面の方を警戒する。
鉄仮面が杖を上に向けると赤い宝石が輝きだし、奴の周りに火の玉が無数に表れた。
「貴様の力を見せてみよ」
そう言うと鉄仮面は杖を俺に向ける。杖の動きと同調するかのように火の玉が俺に殺到する。
「……クッ!」
走りながら火の玉に向けてグロッグ発砲する。弾丸は火の玉に命中すると、火の玉をかき消した。
グロッグで火の玉を打ち消すことは出来る。問題は……
「数が多すぎる……」
ざっと見ても200、しかも増え続けている。グロッグの残弾数が100くらいだから打ち続けると1分しか持たない。しかも、撃ちながらだとどうしても速度が落ちてしまうし、全部撃ち落とすのは無理だ。
「撃ちながらだと円から出るまでにやられる。だったら!」
無数の火の玉が殺到している中、俺はあえて立ち止まった。
正面に鉄仮面を見据えながらグロッグを構える。この際、多少のダメージはどうでもいい。狙うは一点のみ!
「うおぉぉぉぉぉ!」
無数に飛んでくる火の玉を紙一重で避けながらグロッグを発砲する。避けきれない火の玉が四肢に直撃し火傷を作る。それでも、グロッグだけには火の玉が当たらないように注意しながら発砲を続ける。
全部撃ち落さなくてもいい。あのラインだけ撃ち落せれば……よし、俺と鉄仮面の間に火の玉が無いラインが出来た!
アイテムボックスから手榴弾を取り出して火の玉が無いラインを狙って投げる。
(ドガァァァァン!)
手榴弾は鉄仮面に命中し火の玉の猛攻が止む。流石に死なないまでの無事ではないだろう。今のうちに円の外へ急ごう。
ここぞとばかりに俺は一目散に円の外へと駆けだす。だが、円の外までもう少しという所で異変に気が付き足を止める。
「……これはマズイな」
円と外の境目にシャボン玉のような膜が張っていた。
膜へ手を伸ばすと硬い感触が伝わってくる。あの野郎、俺をここから出す気がないな?
試しに後ろ蹴りをしたり発砲したりするが、壊れる気配がない。
「時間を掛ければ壊せそうだが、その時間も無さそうだな」
俺はグロッグを構えて後ろに発砲する。すると、背後に迫っていた鉄仮面が弾丸をつかみ取っていた。1分も足止め出来なかったか。距離も近いし状況はかなり悪い。
俺はグロッグを構えなおすと、鉄仮面は俺に手を向けた。
瞬間、俺の背筋に冷たい何かが走る。
マズイ、何がマズイのかは分からないが、とにかくマズイ!そう直感が告げている!
引き金を引こうとした瞬間、手にしてたグロッグがいつの間にか鉄仮面の手に渡っていた。鉄仮面は手にしたグロッグを握りつぶして破壊し、後ろへと投げ捨てる。
武器を破壊されたか……状況がどんどん悪くなっていくな。
武器を破壊した鉄仮面は少し距離を取り、手の平を上に向ける。すると、空から赤の光が降り注ぎ草原が燃えるような紅蓮に染まる。俺は上を向くとそこには信じられない光景が広がっていた。
「……これ死ぬんじゃねぇか?」
そこには直径が50mぐらいの火の玉がゆっくりと落ちてくる光景がそこにあった。こんなのが落ちてきたら確実に死んでしまう。
状況を整理しよう。あの火の玉が落ちてくる前に目の前の奴を何とかして、膜まで破らないといけないと。
「……なんとかするしかないか」
俺はあえて鉄仮面に向けてまっすぐ走る。肝心の鉄仮面は身じろぎ一つせず俺を見据えている。余裕の表れだろうが、その余裕が命取りだ。
俺は鉄仮面の肩を取り移動できないようにする。そして、首にかけていたアイテムを咥えていたワイヤーで起動する。
「!?」
すると、鉄仮面の肩が一瞬震えて同様の色を見せた。俺が起動したアイテム、それは強力な音と光を放つ閃光手榴弾だ。
鉄仮面が目を覆う暇もなく、閃光手榴弾が爆破する。この閃光手榴弾は目をつぶっていても目が眩むほど強力だ。勿論、俺も無事では済まないが、そこは問題ない。
すかさず、気配で鉄仮面が前傾姿勢になった事を把握し、腹に切り札────コルトパイソンを全弾打ち尽くす。
「かふっ!」
鉄仮面の口から空気が漏れた音が聞こえる。流石にコルトパイソン全弾を腹に受けたら死なないまでもダメージはあるみたいだ。コルトパイソンを腹で受けてダメージだけで済むのがおかしいけどな!
薬莢を捨てて弾丸を込め直し、再度腹部に発砲する。合計12発、これだけ受けたら痛みでしばらく動けない筈だ。火の玉が落ちてくるまで想定では約10秒、いい時間だ。
俺は全力疾走で円の反対側へと向かう。走っている間にもコルトパイソンのリロードをして、鉄仮面に向けて発砲する。音がしているから命中はしている筈。牽制がてら撃つのは無駄じゃないだろう。そして、俺の予想が当たれば……
(ドガァァァァァン!)
後方で手榴弾とは比べ物にならない程の爆音が響き渡り、俺は爆風で数メートル飛ばされる。受け身を取るが威力を殺しきれず、うつ伏せで倒れる。爆音に混ざってかすかにガラスが割れた音がしていたから壁は壊れた筈。後はどこに吹き飛ばされたかだが……。
「ぐうぅ……」
視界が回復してくると大きな円と燃えている草原が見えた。どうやら、円の中から脱出は出来たみたいだ。
今回の作戦は俺に目掛けて迫っている火の玉を使って壁を破壊、爆風で円の外へと吹き飛ぶという物。この作戦の障害は鉄仮面をどうするか。閃光手榴弾だけでは足止めには不十分。ということはダメージを与えて怯ませるしかないがグロッグと手榴弾は効かない。となると、コルトパイソンで至近距離から打ち込むしかないという事になる。
この作戦の欠点は2つ、1つはダメージを負いすぎて立ち上がれない事。そして2つ目は────
「ふむ、あの状況から脱出してくるか」
脱出後に打つ手が無くなる事だ。
燃え盛っている草原から悠々と歩いてくる鉄仮面。コルトパイソンが最高威力の今、俺が鉄仮面に対抗できる手段はない。鉄仮面が俺を殺そうとしたら俺は抵抗出来ない。
俺の心情を知ってか知らずか鉄仮面が俺を見下しながら話す。
「なるほどのう、確かにみっちゃんが推薦するほどの男じゃな」
面白そうに呟く鉄仮面。ここは情報を少しでも集めて助かる道を探るしかない。
「……いきなり襲ってきた理由を聞いていいか?」
「別に良いがその前に」
鉄仮面が俺に手を向けると、手榴弾やコルトパイソンといった武器が現れた。さっきと同じように全てを握りつぶし後ろに投げ捨てる。
これで俺が抵抗できる手段は無くなってしまった。全部使っても倒せるとは思えないけどな。
「これでよい。それで、なぜいきなり襲ったかじゃったか」
「そうだ。聞かせてくれ」
「簡単に言えばお主の能力を見るためじゃな」
「もう少し穏便な方法があったと思うが?」
「おもしろいじゃろ?」
この野郎!
「ちなみに、脱出出来なかった場合はどうなったんだ?」
「普通に殺してた」
スナック感覚で人殺しをしないでほしい。
「とりあえず、その鉄仮面を外さないか?無機質で怖いんだよ」
「それもそうじゃな」
そう言うと鉄仮面を外し素顔を見せる。
そいつは全身が皮で出来ている装備を身に付け、マントを羽織った勝ち気な感じの女の子だった。髪は赤色ツインテールで、赤いリボンで留められている。年は中学生位か?
「うむ、やはり素顔はよいな。息苦しくない」
「なんで鉄仮面付けてたんだ?」
「それっぽいかなと思って」
こいつ適当過ぎないか?
「うむ、そのままだと話し辛いのう。ほれ、『ヒール』」
女の子が俺に手をかざすと、俺の体が光に包まれた。痛みが取れ動けるようになるまで回復するのを感じる。俺は女の子を警戒しながら立ち上がる。
「おお、立てるようになったか。これで一安心じゃのう」
「いや、お前のせいでこうなったんだけど。まあいい、とりあえず色々と聞きたいことがある」
「なんじゃ?わしの答えられる範囲なら何でも答えるぞ?」
「お前は何者なんだ?」
「?」
「いや、なに不思議そうな顔してんの?」
「さっきも言ったであろう?わしは魔王じゃ」
「いやいや、お前みたいな小さい魔王がいるわけないじゃん」
「なるほどのう、お主はまた火の玉を浴びたい訳じゃな」
「すみません、言い過ぎました」
目が本気だった。
「というか、お主みっちゃんから何も聞いておらんのか?」
「みっちゃん?ああ、あの
「それがわしじゃ」
なるほど、知り合いってこいつか。ん?
「お前は誰なんだっけ?」
「魔王じゃな」
「お前は誰を倒しに行くんだっけ?」
「
「何で魔王が勇者のサポートをするの?」
「面白そうじゃから」
魔王も適当すぎる!
「まあ真面目な話、わしが鍛えていった方が早く育つからのう。それに、お主はこの世界のこと解らないじゃろう?わしが案内してやろう。早くに死なれても困るからのう」
そっちを先に言って欲しかった。
「どうじゃ?わしとおると良いことあるぞ?今ならなんと、魔王による戦闘指南付きじゃ!しかも、今申し込むと入会金が無料になる!」
どこのテレビショッピングだ。
「でも、お高いんでしょう?(裏声)」
おい、なんか小芝居が始まったぞ。
「いやいや、今なら通常価格10万ペリカのところを、今回限り、先着1名様に限り、なんと!100%OFFでのご案内です!ご連絡は今すぐお近くの魔王まで!」
近くに魔王がいる状況なんてそうそうないだろ。
うわぁ、なんか期待に満ちた目をしている。魔王が仲間になりたそうな目でこちらを見ているよ。どういう状況だよ、これ。
でも、魔王と勇者が一緒にいるのはマズイよな?手の内とか知られたくないし、何か妨害してくるかもしれないし。
よし、時間がかかってもいいから1人で頑張ろう。この子には悪いけど断ろう。
「えっと、お断りしま「死にたいらしいな?」これからよろしくお願いします」
「うむ、よろしくのう」
こうして、魔王が仲間になった。
☆ ☆ ☆ ☆
「まずは自己紹介からじゃの。わしの名前はフラン・アロス。気軽にフランと呼ぶが良い」
「俺の名前は木村鳳梨。キムラでも、ホウリでも好きな方で呼んでくれ」
「うむ、よろしくなホウリ」
「ああ、よろしくフラン」
フランが出した手を握り握手をする。フランは嬉しそうにニカッっと笑うと後ろを振り向き、歩いていく。俺は遅れないように小走りでついていった。
「それじゃ、街に向かいながら基本的なことを説明するかのう。まずはステータスについて話そうかの。ステータスと念じると出せる。一度出してみるのじゃ」
念じるとステータス画面がでてきた。何かゲームみたいで分かりやすいな。どれどれ、俺のステータスは
キムラ ホウリ ♂ 職業 なし
LV 2 経験値 12/100
HP 35/35
MP 15/15
攻撃力 11
魔法力 11
防御力 11
魔防御 11
敏捷性 11
武器 木刀『新月』(呪)
盾 無し
防具 皮の鎧
アクセサリー 無し
スキル 強撃 神の加護
魔法 無し
ん?この新月の横に書いてある(呪)ってなんだ?
「フラン、この(呪)ってなんだ?」
「文字通り呪われた装備じゃな。この装備意外の攻撃力があるものでダメージを与えるとお主は死ぬ」
あの野郎!なんてものよこしやがって!今度会ったらぶっ飛ばしてやる!
それは置いといて、この『神の加護』ってなんだ?
───神の加護───
とっても優しい神様がくれた贈り物。取得する経験値が2倍になる。
MP消費無し
説明文が納得いかないけが、これは便利だな。2倍の早さで成長できるの助かる。
「それがステータスじゃ。こまめに確認すると良いぞ」
RPGでのお約束だな。俺のステータスって実際どのくらいなんだろうか?
「まあ、平均的じゃな。普通はLVが上がると全てのステータスが1上がる。職業に就くとステータスの上がり方も変わる」
ちなみに、HPとMPはレベルごとに5上がるらしい。まあ、俺には神の加護があるし、魔王を倒す日も近いな。希望が見えてきたな。
「ちなみに、お前を倒すにはどれくらいのレベルが必要なんだ?」
「普通にやって2000~3000くらいかの」
希望が壊れる音がした。それ、何十年かかるんだよ…。
「大丈夫じゃ。毎日戦いに明け暮れる日々を送って30年で終わるぞ」
「何の慰めにもなってねえよ」
戦いに明け暮れるってなんだよ。絶対にやらないからな。
「次は魔法じゃ。魔法はMPを消費して発動するものじゃ。魔法には火、水、木、風、雷の五つの属性があって、皆それぞれ適正を持っておる。魔法の威力は魔法力と使う魔法のレベルに依存する」
「魔法にもレベルがあるのか?」
「魔法のレベルは1~5まであって高いと威力が高い。その代わり、消費するMPも多くなるがの。普通の魔法使いには死ぬまでにレベル3を覚えるかどうからしいがの」
魔法か。せっかく異世界に来たんだから魔法は使ってみたいな。
「俺にも魔法って使えるのか?」
「10人に1人が適正を持っておるというが、お主にもあるようじゃ。それも、結構強いようじゃ」
マジで?まさか、俺が魔法を使って魔物相手に無双するかんじになるの?よっしゃ、何か異世界での旅が楽しみになってきたな。
「……にやけてるところ悪いが、説明しても良いか?」
「いいよいいよ、どんどん続けちゃって」
「…まあよい。次はスキルじゃ。スキルはMPを消費して発動出来る技じゃ。魔法との違いは5つの属性を使っているかということじゃな。お主が持っておる強撃は物理攻撃の威力を少し上げるものじゃ。威力的は上がるがあまり当てにはせんほうがいいのう。そういえば、さっきの戦いではスキルを使っておらんかったんじゃろ?中々やるのう?」
「元の世界での経験と勘だ」
「一体元の世界で何があったんじゃ?」
「色々とな」
地球での記憶か。ハハッ、思い出したくもない。
大群で追いかけてくる蠍
後ろからものすごい速さで転がってくる岩
ホワイトハウスへの侵入
素手で何頭もの虎と戦闘
なんでこんな事して生きてるんだろうな?
「お主大丈夫か?遠い目をしておるが?」
「別に何でもない。よく今まで生きていたなと思っているだけだ」
「?」
「まあ、元の世界の事は聞かないでくれ」
「うむ、無理には聞かんが」
「そうしてくれると助かる」
俺の人生、どこで間違ったんだろうな……。
「ちなみに、攻撃系以外のスキルもある。例えば『鑑定』というスキル、これは指定したものの詳細な情報を入手することが出来る。お主がステータスを確認したときに、わしもこのスキルを使ってお主のステータスを確認した」
マジかよ。あっちの情報は解らないのにこっちの情報は筒抜けなのかよ。これ、本格的に勝てる見込みが無いな?
「安心するが良い。これからは『鑑定』は使わん。相手の手札がわかっている勝負など面白くないからの」
良かった。本格的に詰んだかと思った。
「まあ、このようにスキルには色々とある。他にも味方を回復させたり、相手を異常状態にするスキルがある」
色々なスキルがあるのか。あ、そうだ。
「お前ってどんなスキルが使えるんだ?」
「基本的に全部使えるぞ?」
どんなチートだ。いやいや、今はそんなことはどうでも良い。
「じゃあ、呪いを解くスキルとか無いか?」
「あるが、それがどうした?」
よっしゃ!これでこの呪われた木刀とはおさらばだ!
「それじゃあ、この木刀の呪いを解く事は出来るか?」
「わしを誰だと思っておる?魔王だぞ?出来ぬことなど無い!その木刀を見せてみろ」
「これなんだが……」
フランに木刀を渡す。フランは木刀を色々触ったり、叩いたりして得意気に微笑んだ。
「出来るのか?」
「すまん、これは無理だ。呪いが強すぎる」
じゃあ、何で得意気なんだよ。
それにしても、こいつに解けないならどうすれば良いんだよ。
「お主、これをどこで手に入れた?」
「神(笑)からだけど?」
「ふむ、みっちゃんからか。道理で強いわけじゃ。この呪いはみっちゃんにしか解けん」
あの野郎!なんて面倒なもの押し付けやがったんだ!これじゃ、魔王を倒すどころじゃねぇ!普通の戦闘もきつくなるじゃねえか!
「この木刀を処理する事は出来ないのか?壊すとか?」
「無理じゃな。呪いがかかっているものは壊れにくくなるんじゃが、これほど強い呪いがかけられておると何があっても壊れんじゃろうな」
ちくしょう、どうしようも出来ないのか…。木刀で魔王に挑む勇者、かなりシュールだな。
「ちなみに、呪われた武器が壊れると装備しておる奴も死ぬから気を付けるんじゃぞ」
「え?マジで?」
「まあ、それほど強い呪いなら壊れる心配はない」
どっちにしろこの世界での武器は木刀で固定なんだな。
一体、いつになったら帰れるんだ……。
「今落ち込んでてもしょうがないじゃろう。ほれ、街が見えてきたぞ」
前を見ると高い壁に囲まれた街が見えてきた。
「あれが最初の街の『オダリム』じゃ」
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