第26話 ゼティアとの出会い
ターラモアを発ってから早数日。
ベンゼル達はアイリーシュ王国の王都――ブッシュミラーに到着した。
「おおー! これがこの国の王都!」
リディーが目を輝かせながら辺りを見回す。
所狭しと立ち並ぶ店の数々に、道を行き交う多くの人々。先のほうには高くそびえる立派な城。
さすが王都だけあって栄えている。
その賑わいぶりはハーヴィーン王国の王都シャントリューゼ以上だ。
しばらくすると街並みに満足したのか、リディーがこちらに顔を向けてくる。
「確かお兄ちゃんとルゼフさんは、この王都でゼティアさんと出会ったんですよね?」
「ああ、陛下にゼティアを紹介してもらってな。その時のこと、聞きたいか?」
「あっ、はい! ちょうど聞こうとしていたところで!」
「そうか。なら話してやろう。ゼティアとの出会いはな――」
◆
ブッシュミラーの中央にそびえ立つ城の二階。
玉座の間にて、ルキウス達は
ターラモアの件について深く感謝された後、各国への報告と物資の補給を頼み終えたところでルキウスが切り出す。
「それで陛下。魔法使いの件ですが」
これまでの情報から、魔族は最低でも二等以上、中でも魔王は特等相応の強力な魔法を使うことがわかっている。
そんな軍勢に対抗するには勇者一人の魔法だけではやや苦しく、最低でもあと一人は特等魔法を使える強力な魔法使いの協力がほしいところだった。
それ故、ハーヴィーン王は魔法の研究が進んでいるこのアイリーシュ王国の王に、勇者のお供として優秀な魔法使いを貸すよう頼んでいた。
そのことをルキウスとベンゼルは旅立つ前に聞いており、『必ずブッシュミラーで魔法使いを仲間にするように』と言われていた。
「ああ、それについては軍筆頭魔法使いであるゼティアを考えていたのですが……」
「ですが?」
「ハーヴィーン王の要請を受けた翌日、勇者様に同行するよう頼んだところ、どうするか悩んでおりまして。まだ答えを聞けていないのです」
「……そうですか。確かに危険な旅になりますもんね」
「いえ、ゼティアは何も怖気づいている訳ではありません。むしろ、本当は勇者様に同行して一緒に戦いたいと思っているはずなんです」
その言葉にルキウスとベンゼルは首を捻る。
「えっ? それはまたどうして?」
「ルキウス様は、前に魔族が現れた時のアブサルの戦いについてご存じですか?」
「はい、それは学校の授業で。確かハーヴィーン王国軍と各国からの援軍で、魔族の侵攻を食い止めたって」
「その援軍にゼティアの両親も参加していたんです。彼らはこの国でトップクラスの魔法使いでしてね。その才で多くの魔族を
「「……なるほど」」
ルキウスとベンゼルは同時に呟いた。
つまりはそのゼティアにとって魔族は両親の仇という訳だ。
それなら仇を討つために、勇者に同行したいと思ってもおかしくはない。
仮にそうだとしたら、なぜゼティアは悩んでいるのか。
ベンゼルがそんな疑問を抱き始めたところ――
「あの、だったらなぜ?」
ルキウスも不思議に思ったのだろう。
自分が口を開く前に、王に理由を尋ねた。
「ここ数年、南の森でモンスターが異常発生しておりまして。ゼティアは軍筆頭魔法使いとして日夜モンスターと戦い、我々や街の人々をその脅威から守ってくれています。だから自分がこの王都を離れる訳にはいかないと考えているのではないかと、私は思っています」
それを聞いてベンゼルは納得した。
ベンゼルはあくまで少佐という立場であり、総合的な能力では自分よりも強く頼りになる将校達が大勢いた。
だからこそ自分が抜けても大きな問題はなく、安心してハーヴィーン王国を離れられた。
対し、そのゼティアという魔法使いは自分が一番強く、立場も上だ。
そんな中でモンスターの異常発生。
自分が国を守らないと、という責任感から国を離れられないというのは理解できる。
もしも自分がその立場だったら、きっと同じように悩むだろうとベンゼルは思った。
「……その異常発生したモンスターというのは、それほどまでに脅威なんですか?」
「ええ。突然変異を起こす数も増えておりましてな。……とはいえ、ゼティアがいなくても対処はできます。もちろん苦しくはありますが。だから私としては、彼女には国のことより自分の気持ちを優先してほしいと考えているのです」
「…………」
ルキウスは言葉を詰まらせた。
賛成する訳にも反対する訳にもいかないからだろう。
同じようにベンゼルも口を閉ざしていると、アイリーシュ王が「よし」と呟く。
「ゼティアを呼んできてくれ」
そして大臣にそう告げた。
数十分後。
王と話していると、玉座の間の扉が開かれた。
大臣と一緒に入ってきたのは、ルキウスと同年代であろうピンク髪の可憐な少女。
軍筆頭魔法使いと聞いていたこともあって、若くとも自分と同年代か少し上だろうと思っていたベンゼルは目を丸くした。
隣に立っているルキウスも驚いたような顔をしている。
そんな二人に気付いた少女は首を傾げながら玉座まで歩いてくると、片膝を突いた。
「お呼びでしょうか、陛下」
「ああ。休んでいたところすまないな、ゼティア。さあ、立ってくれ。紹介したい人がいる」
その少女――ゼティアは言われた通りに立ち上がる。
よっこいしょ、と王も起立すると、玉座の横に立つルキウスに手を向けた。
「こちらは勇者ルキウス様。そして隣に立ってらっしゃるのがベンゼル様だ」
「……勇者」
ゼティアは二人に顔を向けると、ポツリと呟いた。
やがて顔をハッとさせ、もの凄い勢いで再び跪く。
ゴンッと鈍い音がした後、「いてっ」という声が聞こえてきて、ベンゼル達は思わず苦笑する。
「ゆ、勇者様だとは気付かずご無礼を! あ、あたしはゼティア! ゼティア・シャムロウっていいます!」
「あっ、はい、初めまして。その、すみませんが、話しにくいので普通にしてもらえると……」
ルキウスが遠慮がちに言うと、ゼティアは慌てた様子で「し、失礼しました!」と立ち上がる。
その反応にルキウスは困ったように笑った後、一歩踏み出しゼティアに近づいた。
「改めまして、僕はルキウス。ルキウス・スプモーニアと申します。女神様から力を授けてもらい、勇者となりました。そしてこっちが――」
「ベンゼル・アルディランと申します。ハーヴィーン王国にて軍人をしており、少佐の位置に就いておりました。どうぞよろしく」
「は、はい! よろしくお願いします!」
ゼティアがペコリと頭を下げてくる。
そうしてとりあえずの挨拶を終えたところで、王がルキウスの名を呼んだ。
それに頷くと、ルキウスは真剣な表情でゼティアを見つめる。
「単刀直入に言います。魔族を、そして魔王を倒すためにゼティアさん、貴女の力が必要なんです。僕達と一緒に来てくれませんか?」
ゼティアの顔つきが先ほどまでの
そして彼女は目を伏せた。
悩んでいるのか中々答えを口にしない。
「……ゼティア」
名前を呼ばれたゼティアはゆっくりと王に顔を向ける。
「本当は勇者様達についていきたいと思っているのだろう? それなら我慢する必要はない。……いや、むしろそうするべきだ。お前の魔法は凄い。その力、今こそ世界のために役立ててほしい」
王の言葉にゼティアは再び俯いてしまう。
葛藤しているようで、ギュッと拳を握り締めている。
そこで王がさらに話を続けた。
「ゼティアよ。もしもモンスターのことで悩んでいるのなら、その必要はない。お前抜きでもモンスターには十分対処できる」
「……えっ? で、でも――」
「安心しろ。お前が思っている以上に我が兵士達は強い。何せあの天才魔法使い、ゼティアが教育を施した兵士達なのだからな。それに私の腕もまだまだ鈍っちゃいない」
王が笑みを向けると、ゼティアはほんの少しだけ表情を明るくさせた。
それを見てベンゼルが声を掛ける。
「ゼティアさん、実は私はナッツィシード王国の生まれなのです」
「えっ? ナッツィシード王国って……」
「ええ、魔族に滅ぼされた国です。私は奴らに全てを奪われました。ですから、あなたが魔族に対して抱いているものは痛いほどわかります。その復讐を果たすため、そしてこれ以上私達と同じ思いをする人を出さないためにも、貴女の力を貸してくださいませんか?」
ベンゼルが言い終えると、ルキウスが優しい笑みを浮かべて右手を差し出す。
すると、ゼティアはルキウスとベンゼルの顔を交互に見て、最後にアイリーシュ王に目を向けた。
「ゼティア、世界を頼んだぞ」
その言葉を受け、ゼティアは大きく頷く。
そしてルキウスの手を取った。
「はい! これからよろしくお願いします!」
◆
「――っと、これが俺達とゼティアの出会いだ」
「なるほど……。ゼティアさんにも色々とあったんですね……」
「ああ。でも、それを感じさせないくらいゼティアはいつも明るくてな。おかげで馬車の中が賑やかになった」
その言葉に、それまで暗い表情をしていたリディーの表情が和らぐ。
「ゼティアさん、強いんですね」
「そうだな、あいつは強かった。まあ、子供らしい部分もあったがな」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、好き嫌いは多いわ、寝起きは悪いわで色々と苦労させられたものだ」
ベンゼルが苦笑いを浮かべると、釣られてリディーも口元を緩める。
「そんな一面もあったんですね! あの、よかったらもっとゼティアさんのこと教えてください!」
「もちろんだ。そうだな、あいつは――」
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