EP120【奴隷の潮時】
国内を震撼させたあの聖王宮殿襲撃、並びに崩落事件から1週間。
私は仮住まいの邸にて、軽く執務をこなしていた。
各地から上がって来る聖騎士達の活動報告の内容に目を通し、私の了承印をペッタンペッタン押していく退屈なお仕事。
これだから管理職は気持ち的に萎えてしまうね。
私はどちらかと言うと、1日中机に向かって書類仕事をこなす管理職より、元気に暴れられる現場仕事の方が割と好きなのだ。
しかし最近、各地の聖騎士が対応仕切れない様な強力な魔物は、全くと言って差し支えない程に出現しなくなっている。
人的被害もパッタリと止み、魔物とは魔力を帯びただけの野生動物的扱いになりつつあった。
それこそ魔力を保持している5〜6才の子ども達が、街に現れた巨大カエルを討伐し、皆んなで美味しく調理して食べたと報告が上がって来る程だ。
なので、私どころか他の3人の神官達も、わざわざ出向く必要のある現場が存在していないのだ。
平和な事はとても良い事だけど、何でいきなり化け物クラスの魔物の発生報告が無くなったのだろうか?
普通の魔物は魔力を持たない動物と比べ、2倍ぐらいの大きさなだけで、聖騎士や魔力持ちの人間が近くにいれば対処に困ることは無い。
そして人間を含め、哺乳類系の魔物は大きさに変化は無い為、見た目は変わらない。
カエルだけは普通のカエルとは比べられないほど大きいが、それは最初に発生した個体が、悪魔の魔力を直に受けて生まれ育っていたからだ。
それ以外なら意図的に魔力を集中し、注ぎ込み続けない限り、特別強い魔力を持って生まれて来る事は無い。
という事は、以前は何度か出現していた特に大きな魔物の個体。
あれはおそらく何者かによる、人為的に育成された魔物という事になる。
これは調べる必要がありそうだ、、、と思っていたら、例の仲良しクラブがそれを行なっていた犯人だと分かった。
どうやらカエルの卵や肉を主に餌として、他の子どもを産みそうな動物へ与えて、人為的に特別強い魔力を持つ魔物を生み出していたらしい。
強い魔物の個体が出来れば、生物兵器として人里へ向けて解き放っていたと言う事を、尋問により白状したのだ。
以前、ハーネス公爵領へ飛来し、私の愛弟子のエミリアちゃんを攫った、あの巨大怪鳥の魔物も、旧ブリード王国領の港付近に出現して漁師たちを困らせていた大王イカの魔物の出現も、奴らの解き放った生物兵器だったのであろう。
という事は、既にこの国では私の存在は必要とされていないのではないだろうか?
そして、以前私が魔物による犠牲者達の慰霊碑前にて、懺悔していた際に、あからさまに私へ向けて陰口を言っている聖騎士達がいたのを覚えている。
陰口の内容は聞き取れなかったが、おそらく、私が悪魔を使って最初に魔物をこの世へ解き放った張本人である事がバレている可能性がある。
今までは度々出現していた強力な魔物の対処を出来る人材が限られていた為、私は生かされていただけなのかもしれない。
しかし、強力な魔物の出現がなくなった今では、事の元凶である私を生かしておく理由は無い。
何しろ、今まで魔物により数多くの人命や財産が失われてきたのだ。
恨みを買っていない訳がない。
私は密かに、とある準備を始める事にした。
〜〜〜数日後〜〜〜
「カエデ様~、大神官カエデ様~、どちらにいらっしゃいますか~」
「聖騎士ニーナさん、どうしましたか?」
「これは聖王様、それが大神官カエデ様が聖騎士会議をしている最中に突如として姿をくらまされたのです」
「まぁ、あれはカエデだからね、そのぐらいしても全く不思議ではないよ。 どうせまた、会議が退屈だからって、幻影魔法で姿を消して遊びに出かけただけじゃない?」
「えぇ、私達も、初めはそう思いましたが、魔物出現と悪魔との因果関係について、聖騎士チュリィ氏より提言が出た瞬間、姿を消されてしまい、カエデ様が元居た場所へこれが置かれてありました」
「手紙? 読んでもいいかな?、、、『死にたくないので、これにて失礼します。ごめんなさい』、、、、なにこれ?」
「分かりませんが、もしかしたら大神官カエデ様は、何者かに命を狙われていて、それらから逃げ切れないと考えられ、お姿を隠されたのかもしれません」
「そんな! あのカエデが命の危険を感じる脅威が、存在しているというのか!? しかも、聖騎士会議の場で姿を消したという事は、、、」
「はい、おそらくカエデ様のお命を狙っている者は、聖騎士の中に、、、」
「そんな!!、、、仲間を疑うだなんて、、、」
「しかし、カエデ様は以前、仲良しクラブのママに瀕死の重傷を負わされた経緯もあります。 常識外れなお方ではありますが、決して無敵な存在ではありません。 もし仲間の中に、自分の命を狙う者が紛れていて、それが誰なのかが分かっていないのだとしたら、姿を隠す以外に身を守る術が無かったのかも知れません」
「分かった。 仲間を疑う事は心苦しいが、カエデが安心して戻ってこれるように、聖騎士の皆に事情を聴こう! 確か、カエデの秘密道具の中に、嘘発見石があったよね? あれを使えば、誰が裏切者なのかがはっきりするはずだ!」
「残念ですが、聖王様。 カエデ様の秘密道具の数々のほとんどは、例の聖王宮殿崩落時に消失してしまいました。 現在我らの手元には、噓発見石は1つ残っておりません」
「なんて事だ、、、、、、聖騎士ニーナさん、1つ、我儘を言っていいかな?」
「聖王様のご命令とあらば、何なりと」
「僕はカエデが大好きだ。 カエデには常にそばにいて欲しい。 今まで僕はカエデにいつも助けられてきた。 次は僕がカエデを助ける番だ! 僕はカエデを探し出し、連れ戻す旅に出るよ。 聖騎士ニーナさん、貴方にはカエデの命を狙った不届き者を見つけ出し、拘束し、再びカエデがこの場所へ戻ってこれるようにしておいて欲しい」
「聖王様、、、、かしこまりました。 このニーナ・グリフ、聖騎士の名誉職、並びに身命にかけまして、そのお役目、必ずや遂行して見せましょう!!」
「あぁ、頼りにしてる、、、面倒をかけて、ごめんね」
「めっそうもございません。 いつまでも、我らロイス聖王連邦国の英雄お2人の帰還を心待ちにしております。 どうか無事、カエデ様を連れ帰ってきていくださいませ」
「うん、行ってくる。 だって逃げ出した
~~~~~~
やばかった。
聖騎士チュリィさんから、まさかの魔物と悪魔を関連する議題を持ち上げられた。
これは完全にバレていて、私の断罪の議題だったのだろうと判断したので、いざという時の為に用意していた、逃亡策を実行した。
今まで築き上げてきたものを全て投げ出すのは惜しいが、今のロイス聖王連邦国には私を殺すことの出来る能力を持っている者が多くなりすぎた。
仮に言い訳や命乞いにより抹殺を逃れたとしても、今までの魔物による犠牲となってきた人達の関係者から間違いなく恨まれているだろうから、絶対に闇討ちとかで殺される。
私は簡単な置手紙を後に残し、会議場から幻影魔法を駆使して姿を消し、逃亡したのであった。
逃亡は成功し、私は旧ブリード王国の港町へとやって来て、一艘の小型船を購入する。
もはや、この大陸にいては命が危うい。
ほとんど交易などは無いものの、海の向こうにはロイス聖王連邦国以外の国家も存在しているらしい。
そこまで逃亡出来れば、流石に追ってはこれまい。
仮に追ってこられても、外国だから、大々的に軍隊で私を捜索する事も出来ないはずだ。
そこで私は新たな
あとがき
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
初作品という事もあり、読者様がいなくなった時点で終了と考えていたので、正直完結まで話を続けられるとは思っておりませんでした。
ここまでお付き合いして頂けた、読者の皆様には感謝の気持ちでいっぱいでございます。
今回で、このお話は完結しましたが、場合によっては、国外逃亡後のカエデの物語、もしくは魔王エミリア誕生の物語、などを書くかも知れません。
あくまでも今の段階ではまだ未定ですが、もしその時が来ましたら、再びお付き合い頂ければ幸いです。
それではまたいつか、お会いできる日を楽しみにしております。
お相手は、猫舌ノほがらん でした。
ご主人様如きが奴隷に逆らうとは何事ですか? 〜理想のペットライフ目指して積極的、成り下がりストーリー!〜 猫舌ノほがらん @cisutori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます