EP77【聖人の哀愁】
「『それだ!』じゃあねぇだろ! 何カエデに
私がご主人様へ、可哀想な囚人奴隷となったドギーマ子爵(元)領の領民達を救ける為に『バレない様に連れ出せばOK!』みたいな方法を提示した。
その方法に、ご主人様が意外にも乗り気な反応を示された為、ライルさんから激しいツッコミが入ったのだ。
ライルさんたら『唆されて』などと、何を人聞きの悪い事を言っているのやら。
私はただ、選択肢の1つを提案したに過ぎないというのにね。
「はっ! 僕とした事が、うっかり皇帝陛下への忠誠を裏切るところだった!」
ライルさんからのツッコミを聴いて、正気に戻った様子のご主人様。
これだとまるで私がご主人様を悪い道へ誘おうとしている、悪者みたいじゃん!
そんな風に思われるのは、とても心外である。
「それにだ、今聴いた話はこいつらが用意してきた作り話で、ロイ、聖人様から同情を得て利用しようとしている企みかも知れない。 簡単に他人の言う事を信じるな!」
ライルさんからご主人様へ、愛のあるお説教がお客人の前で行われていた。
「聖騎士ライル様、我々は神に誓って嘘など付いてはおりません! そして聖人様を利用しようだなどと、聖騎士カエデ様に救われた身として、その様な恥ずべき行いなど、出来ようはずもございません!」
ブリード王国兵の1人が慌てて言い繕ってくるが、ライルさんは未だに疑いの目を向けている。
仕方ないねぇ〜。
人を中々信用出来ないライルさんの為に、私が良い物を出してあげよう!
「それではこれを使いましょう。 パラパパッパパーン!『嘘発見石〜』」
私は懐から、拳ぐらいの畜魔鉱の塊を取り出していた。
「カエデ、何だ、その石?」
「そして何だ、その
ご主人様とライルさんが、それぞれ疑問を私へと投げかけてくる。
一応、秘密道具的アイテムなので、前世の国民的アニメ、自称ネコ型ロボットのモノマネをするのは、お約束事なのだ。
この世界で元ネタをわかる人が1人も居ないのは、とても寂しく思うが仕方ない。
この畜魔鉱の塊へは、赤い魔光石を埋め込んである。
このアイテムには『手を持った者が偽りの発言をした場合、埋め込まれた魔光石が輝きを放つ』という条件を魔力で込めてある。
赤い魔光石は奴隷の首輪から外して、その後使い道が無かったから、取り敢えず埋め込んでおいた物だ。
私はこのアイテムの使用方法を2人へ説明した。
「これを使って、この兵が話している事が事実か偽りかを判断いたしましょう!」
「すごい道具だ! さすがカエデだね!」
私の出したアイテムに対して、ご主人様はベタ褒めだった。
「そんな物、どこで手に入れたんだ?」
ライルさんが鋭い指摘を飛ばしてくる。
「えっ!?、、、え〜と、、、お店で、買い、、ました」
目線を逸らしながら私がそう応えると、手に持っている嘘発見石が輝き出した。
「あっ、やべっ!」
私は慌てて石を身体の陰へ隠し、笑って誤魔化そうと試みたが、時すでに遅し。
「「「「「、、、、、、、、、」」」」」
何も言わないジト目による視線が5つ。
いや、むしろ何か言って欲しいな、無言だと私、傷付くよ!
無言の圧力で自白を待っているのか、それとも厄介事を知らないでおきたいだけか?
聖人、聖騎士、一等聖補、ブリード王国兵2人の視線がとても冷たい。
「まぁ、カエデだしね」
「そうだな、カエデだから今更だな」
久しぶりに出たな、その『カエデだから』と言う、諦めた様な理由付け!
それを言われるたびに、私は微妙な気持ちになるんだよな〜。
深く追求されないのは有り難いけど。
この後、無事にブリード王国兵2人の証言が、紛れもない真実であった事が分かった。
そして、私の心にまた1つ傷が残った。
だが、いくら同情できる境遇があったとしても、敵国兵士を秘密裏に匿い、内乱を起こし、カイヌ帝国軍へ重大な損害を与えた事に変わりはなっかった。
その為、いくら聖人であるご主人様が減刑の嘆願書を送ったとしても、囚人奴隷の解放が叶う結果には繋がらないであろう事も容易に想像が付いた。
良くて、怪我や死亡する危険性の少ない現場へ送られるぐらいしか、効果はない。
そして下手をすると聖人と敵国であるブリード王国兵との繋がりが露呈して、聖人や聖騎士大隊としての特権が剥奪されてしまう可能性すらある。
ご主人様は可哀想なドギーマ子爵(元)領の領民を助けてあげたい。
しかし、下手に動くと全てを失いかねない。
この2つの事実により、精神的に板挟み状態となってしまったようである。
「結局、聖人なんて持て
分かりやすく落ち込んでいるご主人様。
私やライルさんも、その哀愁漂うご主人様の姿を、何も言えずに見ている事しか出来なかった。
この日はそれ以上の解決策を誰も提示できずに、どんよりとした暗い雰囲気のまま話し合いはお開きとなった。
一応、カイヌ帝国の敵国にあたるブリード王国兵を領地内で泊めてあげる事は、問題になってしまいそうだったので、彼らには森の街道にて野営をしてもらう事にした。
そしてその日の夜、私達聖騎士4人組は密かに集まり、ご主人様抜きで会議を開催していた。
私達4人はそれぞれに忠誠とまではいかないまでも、皆んな大切な聖人であるご主人様の為になんでも出来る者同士の集まりなのだ。
その大切なご主人様が悲しんでいるのだから、4人とも何もせずにはいられなかったのだ。
4人でいろいろ話し合った結果、私達が大切に思っているのはご主人様だけであり、他は二の次であるという共通認識が得られた。
その為、今夜、久しぶりの暗躍が始まるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌朝、カイヌ帝国、皇帝陛下の宮殿にて事件は発生していた。
「陛下〜、皇帝陛下〜、いらっしゃいましたら、お応えくださ〜い!」
「おい、皇帝陛下はおられたか!?」
「いえ、宰相殿、宮殿内を隈なく捜索しておりますが、依然としてそのお姿は発見できておりませぬ!」
「何という事だ、この犯行声明文が真実だとしたら、前代未聞の大事件となるぞ! 捜索範囲を帝都全域へ広げよ! 何としても皇帝陛下を見つけ出すのだ!」
それは早朝、宰相が目覚めた際、彼の枕元に置かれていた1枚の犯行声明文がきっかけとなった騒動であった。
『皇帝陛下は預かった。 無事に帰して欲しいのなら、先に捕らえられたドギーマ子爵領の領民を全員、ドギーマ子爵領裏の森の街道からブリード王国へ送り出すが良い。 期限は1週間。 それまでに要求が通らなければ、これまでのカイヌ帝国が犯して来た罪を、皇帝陛下1人に背負って貰い、彼は処刑されるであろう。要求が通り次第、皇帝陛下は返してやる。 良い返事を期待している。 ブリード王国軍より』
「いったい誰だ、こんな手の込んだ悪ふざけを! 犯人は必ず囚人奴隷として、最高に過酷な現場で一生こき使って、、、」
「宰相殿! 聖ロイ・ハーネス領より緊急伝令! 皇帝陛下を発見したとのご報告!」
宰相は皇帝陛下発見の報告を聴いた事により安堵した。
しかし、その安堵感は一瞬で消え失せることになる。
何故なら、聖ロイ・ハーネス領とは、ほんの少し前まではドギーマ子爵領であった。
そして、手元にある犯行声明文にもドギーマ子爵領の文字がある。
「まさか!」
「現在、皇帝陛下は、、、聖ロイ・ハーネス領と、ブリード王国間の国境、森の街道にて、、、人質に取られているご様子との事!」
宰相は、伝令兵の報告を聴き、膝から崩れ落ちてしまった。
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