EP75【感動の再開、、、誰だっけ?】
「ご報告します。 ブリード王国軍、森の街道を進行中。 規模、約1個中隊。 このままの進行速度ですと、1度森の中で野営し、翌日正午前には聖ロイ・ハーネス領に到着するものと思われます!」
私は森の街道入り口に設置した関所にて、第2中隊の兵より、詳しい報告を受けている。
まぁ、ブリード王国側からしたら、自分らで切り拓いた訳だし、この街道の事は把握していて当たり前である。
なのに反乱事件収束後、ブリード王国側からの街道を使用している気配は無かった。
支援物資を輸送していた部隊は全て私らが襲い、始末してしまった。
私達が始末した輸送部隊は、合計4個中隊分。
つまり約1個大隊が、ブリード王国側からしたら行方不明となった訳だ。
恐らくその時点で、支援物資を送る作戦は中止を余儀なくされたのであろう。
今回、約1ヶ月半ぶりにブリード王国軍が、この街道を使用して現れた事になる。
今更になって何の用だろう?
ドギーマ子爵(元)領を防衛するにしては遅すぎだし、部隊の規模が小さ過ぎる。
まるで戦闘の意思を感じられないとすら思える。
念の為、敵の武装レベルも確認しておこう。
私は第2中隊へ確認したい内容を高速伝達してもらった。
等間隔に距離を取った第2中隊の連絡網により、遥か遠くの偵察している兵士へメッセージを素早く届けられる。
魔力を使える兵士には、魔光石による点滅で、メッセージを伝えて、魔力を使えない者は矢文にて内容を伝える。
それぞれ自分に適した連絡方法を部隊内で使用している。
この方法で、30分もあれば、20キロ先の情報も本部へ届けることができるのだ。
私のメッセージを送ってもらってから、約20分後、返事が返ってきた。
『弓矢使い、剣使い、槍使いそれぞれ10人ずつ。 盾持ちは確認できず。 鎧は軽装。 馬6頭、馬車2台』
ふむふむ、街から街への中規模行商人を護衛をするぐらいの兵力だ。
だが、敵が支配している拠点奪還の為の兵力としては、やはり不足している。
もしかしたら少数精鋭かも知れないが、聖騎士大隊の敵にはなり得ないだろう。
とりあえず明日の正午、聖騎士大隊の戦闘準備を整えて、お出迎えするとしようかな。
私は第2中隊へ『監視のみ継続、手出し無用』と命令を出す。
他の中隊へは明日の正午に備えて戦闘準備の命令。
あまり戦いに備えている集団では無さそうなので、戦闘にならないなら目的を平和的に訊き出す事もありだ。
もし、戦闘になるなら、貴重な実戦訓練の機会の為、二等聖捕と一等聖捕だけで戦わせでみるのもありだ。
どちらにしても、このまま聖ロイ・ハーネス領まで来てもらった方が都合が良いと私は判断した。
何しろ元ドギーマ子爵領制圧時は兵糧攻めをした為、戦闘らしい戦闘は発生しなかった。
だからまだ聖騎士大隊の下っ端兵士達には、実戦経験が無いのだ。
彼らも聖騎士大隊へ選ばれて、3ヶ月もの訓練期間を乗り越えて来たのだ。
訓練の成果を存分に活かす場を欲っしているに違い無い。
ここはぜひ戦闘が起こる流れになってくれると、ありがたい。
色々準備を進めていき、翌日の正午を迎える。
私の魔力感知にも、例のブリード王国軍1個中隊を認識出来る様になった。
報告通り、戦をする様な兵装はしていない。
私達の設置した関所を視認できるまでブリード王国軍は近づき、進行を停止した。
関所を設置したのは、戦が終わってからだから、見慣れない物を目にして困惑しているのかも知れない。
程なくしてブリード王国軍側から2人、騎乗した兵が関所へ近づいて来た。
どうやら戦意は無く、中隊のメッセンジャー的な役割だろう。
ここは一応話だけば聴いてみようかな?
「我々はブリード王国軍、第7師団の別働隊である。 折行ってお話ししたい事がある。 是非とも代表者と対談の場を設けていただきたい!」
どうやら話し合いが目的だったらしい。
だが気を抜く訳には行かないので、聖騎士大隊へは即応待機を命令しておいた。
相手の言うところの、こちらの代表者と言えば私達のご主人様を指すのだろう。
だが要求通りにご主人様と敵軍の兵を無防備に対面させるのは、リスクが高過ぎる。
私とライルさんの2人の聖騎士を側に控えさせて、会話のできるギリギリの距離を空けつつ、ブリード王国兵2人のみの対談を許すとしよう。
その条件を相手に伝え、森の街道入り口の関所へ、即席で対談の出来る椅子とテーブルを設置する。
残念ながらスペース的な問題で対談は屋外にするしか無いが、贅沢な事は言っていられない。
対談スペースにブリード王国軍側の代表者と、その副官らしい人物が座った事を確認し、ご主人様、ライルさん、そして私もそこへ登場する。
「お待たせいたしました、ブリード王国軍のお客人。こちらにおわしますは、聖人ロイ・ハーネス様、並びに聖騎士大隊第1中隊隊長カエデ様、同じく第3中隊隊長ライル様であらせられます」
一等聖補の兵士が私達を紹介している。
すると、私達の姿を見たブリード王国軍の代表者と、その副官がいきなり眼を潤ませ始めて椅子から地面に降り、跪いて来た。
はぁ!?
いきなりのブリード王国兵の奇行に対し、私達は困惑してしまう。
まさか聖人ロイ・ハーネス様のご威光が、国を超えてブリード王国まで広がっているのだろうか?
「お久しゅうございます、大天使カエデ様!」
、、、、、、、、、誰?!
誰だこいつら?
私の事を大天使と?
聖騎士様でも聖女様でも無く大天使?
訳が分からない。
「あの時、死ぬのを待つだけだった我々を、奇跡の御技によりお救い下ったさった、大天使カエデ様へのご恩、決して忘れてはおりませぬ!」
私の事を大天使とか、言ってきた頭の可笑しなブリード王国兵2人組は、大粒の涙を浮かべながら言葉を続けてくる。
未だに頭の上へ『?』を浮かばせている私へ、ご主人様がチョイチョイと指で肩を突き、耳打ち際で何か言って来た。
「僕らが初めて帝都エサバへ行った帰りに遭遇した、襲撃犯のブリード王国兵だよ。 ほら、カエデが魔法で治療した、重傷を負っていた2人、いたでしょう?」
、、、、、、、、、、、、あっ!
そう言えば、そんな事もあった様な、なかった様な?
ご主人様は貴族の生まれだからだろうか、私と違って人の顔を記憶するのは得意なのかもしれない。
あれ?
私も一応、ブリード王国の貴族家の生まれだけど、人の顔は中々覚えられない。
貴族関係ないじゃん!
まぁ、細かい事はどうでも良いから、話の続きを聞こうかな。
その後もしばらく感涙の為、
この時点で、私は何だか大事な事をもう1つ忘れている気がしていたが、どうにも思い出せない。
その事は、このブリード王国兵に関連した内容だと思うのだけど、何だったかな〜?
まぁ、話を進めていけば思い出すかも知れないので、あまり気にする事では無いね。
私はこの時、この違和感の正体を、すっかり失念していた。
消し去りたい、過去の黒歴史。
その生き証人が今、目の前にいると言う事を。
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