EP73【戦争は美食と共に!】

 「やっぱり魚料理は美味しいですね〜」


 「そうだな〜、カイヌ帝国では滅多に味わえない塩味が、中々に絶妙だ!」


 「これがカエデちゃんが言っていた魚料理なのね? 本当に美味しいです。 ブリード王国の人達は毎日こんなに美味しい物を食べているのですね。 羨ましい」


 「でしょう! これだから戦は辞められないよね〜」


 「これは僕の知ってる戦とは違う気がするのだけど、でも本当に美味いね」


 カトレアちゃん、ライルさん、ソフィアさん、私、そしてご主人様と、それぞれに今回の戦の戦利品である魚料理を満喫していた。


 何故ここに魚料理はが並んでいて、私達がそれを美味しく頂いているかと言うと、これはブリード王国軍が、ドギーマ子爵領の武装集団へせっせと送っていた支援物資だからだ。


 私達聖騎士大隊が、今回の戦で行ったのは、俗に言う兵糧ひょうろう攻めと呼ばれる戦法だ。


 カイヌ帝国側からドギーマ子爵領の武装集団へ、食料や医薬品等の消耗品が送られる事は当然あり得ない。


 でも、人間が大人数戦闘並びに生活していく為には、どうしても食料や医薬品の補給が必要となる。


 私達、聖騎士大隊が到着するまではドギーマ子爵領の武装集団は、背後の深い森の中に密かに作られていたブリード王国へと繋がる秘密の抜け道があり、そこから支援物資が次々に送り込まれていたのだ。


 ドギーマ子爵領からブリード王国の間には、深い森があり、最短の直線距離で繋いでも20kmぐらいはあるのだ。


 おそらく長い月日をかけてブリード王国からドギーマ子爵領へと森の中を切り開き、密かに道を繋げたのであろう。


 カイヌ帝国側からの補給が無いなら、考えられる補給先はそれしか無い。


 私には司令官の話から、その事実が容易に想像が付いた。


 その為、聖騎士大隊のカトレアちゃん率いる第2中隊へ、ブリード王国軍からの支援物資の輸送ルートの割り出しを命令した。


 森の中をドギーマ子爵領に向かって左側の森から背後まで密かに侵攻し、長距離索敵部隊によりブリード王国軍の支援物資輸送部隊を見つけ次第急襲。


 その支援物資を私達の陣営まで運び入れ、代わりに私達が美味しくいただいてあげていると言う事だ。

 

 私達がいただいた魚の保存食は大隊だけで食べるには量が多過ぎるので、カイヌ帝国軍の皆さんへも、お裾分けする事にした。


 最初は彼らも怪しんでいたものの、少し味見してみてから、次々と食が進み、1人また1人と食べる兵士が広がり、あっという間に売り切れとなった。


 やはり魚の塩漬けの味は、カイヌ帝国人に新鮮な刺激を与えていた様である。


 しばらく監視を続けていたら、ブリード王国軍からの補給物資は2日に1回のペースで届けられている事が分かった。


 その都度私達が馬車ごと貰い受け、美味しく頂かせてもらった。


 毎度、支援物資は余るので、カイヌ帝国軍へのお裾分けも継続。


 皆んな、戦=戦利品パーティーの様な感覚に成り変わりつつあった。


 一方、ブリード王国軍からの支援物資が一切届かなくなったドギーマ子爵領の武装集団は、備蓄していた食料を食べ尽くしてしまい、井戸水のみで飢えを凌いでいた。


 この情報は、退屈していた私が単身忍び込んで確認して来た内容だ。


 ついでに領内も見て周り地形を把握してから、のんびりと歩いて帰還したのだ。


 私達、聖騎士大隊が到着してから8日後、ドギーマ子爵領の防衛線となっている大きな壁からこちらを見張る兵士の表情が、あからさまにやつれているのが見て取れた。


 そろそろ頃合いかな?


 私は聖騎士ライルさん率いる第3中隊と、聖騎士ソフィアさん率いる第4中隊へと命令を下した。


 念の為、盾で守りを堅めながら、敵防衛線である壁までの攻撃命令だ。


 命令を受けた両中隊は意気揚々と突撃を敢行して行った。


 敵防衛線からは弓矢による迎撃が飛んでくるが、全然狙いが定まっておらず、突撃していく両中隊へは擦りもしていなかった。


 守り手は数発弓矢を放っただけで、体力を使い切った様で、両中隊の攻撃を受ける事なくバタバタ倒れていく。


 あっという間に防衛線の壁の前まで制圧を完了し、聖騎士ソフィアの強烈な拳3発により、あっさり正門を破り、ドギーマ子爵領内へ侵攻して行った。


 その数分後、ドギーマ子爵領の武装集団は皆んな武器を捨てて、次々と投降を開始して行った。


 中には朦朧もうろうとする意識の中、最後まで投降拒否をしていた者もいた。


 そう言う者へは聖騎士ソフィアにより、愛ある抱擁が施される。


 すると、それまで意固地にも投降拒否をしていた者も、涙して『ギャァァァァー、分かったからぁー、降参しますからぁー!!』と心を開き、私達の気持ちに応えてくれた。


 とても感動的な光景なはずなのに、私は何故か身震いしていた。


 こうして私達、聖騎士大隊が到着してから8日で、味方に1人の損害を出す事なくドギーマ子爵領の完全制圧が完了したのであった。


 彼らの敗因はただ1つ。


 安定的にブリード王国軍から支援物資を受け取れると過信して、備蓄をほとんどしていなかった事である。


 備蓄をしていれば、もっと長く籠城ろうじょうできたかも知れない。


 まぁ、長く籠城できたとしても勝つ事は出来ないんだから、早く終わって良かったね。


 捉えた武装集団は皆んな腹を空かせていた様なので、カイヌ帝国軍により餓死しない程度の食料を提供されてから、無事連行されて行った。


 彼らは今後、囚人奴隷となる者、軽い刑罰で済む者、それぞれであろうが、皆犯罪者として裁かれる事になるだろう。


 幸い、カイヌ帝国では法律により、どんな重犯罪者であっても死刑になる事はないから、安心して罪を償って欲しい。


 以降、空っぽになったドギーマ子爵領は、しばらくの間、私達の聖騎士大隊大隊が統治する事になった。


 ここの地理関係は帝都エサバ、ハーネス侯爵領、ブリード王国と、3箇所へのアクセスに都合の良い場所なので、このまま私達が実効支配させていただこう!


 カイヌ帝国側もその方が、兵力の分散を避けられるので都合が良いそうで、私達の提案は無事に受理された。


 こうして元ドギーマ子爵領は、聖ロイ・ハーネス領と名称を変更された。


 今のところ、カイヌ帝国内の1つの領地ではあるが、いずれこの場合は、中立国として、仲の悪い2国間の貿易拠点として発展させて行こう!


 また1つ、私の理想の奴隷ペットライフの実現へと近づいたのだ。


 ただ、元ドギーマ子爵領の暴動が鎮圧された事により、ブリード王国軍からの支援物資が届かなくなった事により、しばらく魚料理はお預けとなった事だけが残念だ。

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