EP72【出撃、聖なる傭兵団!】

 新設した私たちの聖騎士大隊。


 だが新設したばかりでは、まだ実践に使う事は現実的では無い。


 何しろ全体の半分以上の人員は、基本的能力不足だし、各中隊における連携訓練もまだ出来ていないのだ。


 なので、新設して約3ヶ月は訓練に費やさなければならない。


 聖騎士を始めとする、何名かの素質ある兵士達が指導教官を担当する。


 少なくともこの大隊に志願した時点で、皆んなやる気は十分だったので、1人の脱落者も出る事なく3ヶ月の訓練期間が終わった。


 訓練の結果全体の7割以上の兵士達は、一等聖補いっとうせいほの階級に上がる事が出来た。


 残りの3割は二等聖補にとうせいほのままではあるが、大隊へ迎え入れられた時と比べれば、圧倒的にマシになった様だ。


 もしほとんどの兵士が一等聖補に昇格出来たなら、もう1つぐらい中隊を作って追加人員を募集するのもやぶさかでは無い。


 帝国軍の基準で大隊とは、3〜5個の中隊まで保有する事が認められているから、もう1つ作っても、問題は無いのだ。


 その場合は隊長格に、現在私の副官を務めている最強の毒使い薬師のニーナさんを就任させて、支援特化型中隊とするのも良い考えだ。


 そうなれば私の第一中隊も、役割分散にて負担が軽減されるだろう。


 まぁ、その構想の実現はまた半年から1年ぐらい後の事になりそうだがね。


 そんな感じで日々、聖騎士大隊の運営をしていた私達の元へ、皇帝陛下より依頼書が届けられた。


 命令書では無く依頼書であるのは、私達の聖騎士大隊が完全独立組織として分類されている事が関係している。


 私達はカイヌ帝国軍の扱いでは無く、カイヌ帝国を根城としているだけの、神様の軍隊という扱いになっている為だ。


 まぁ、例の自称神様からの御信託を受けている訳だから、一概に民衆やカイヌ帝国を騙している訳では無い。


 神様の軍隊へ対して、カイヌ帝国が上から目線で命令を下す事は、信条的に抵抗があった様だ。


 なので、皇帝陛下は私達の軍をご利用する際には、普段の活動維持費に加えて、別途依頼料を支払って我が大隊を派遣してもらう形となるのだ。


 ちなみに、私達の大隊をご利用する権利を持つのは聖騎士大隊の活動維持費を支払っている国家や有力貴族のみとなっている。


 実質私達は派遣社員型の軍隊であり、神様の名を使わせてもらっている傭兵団組織になるのだ。


 そしてこの仕組みを考えると、規定の大隊活動資金を普段から払う事で、他国からの依頼も受け付ける事も出来る。


 ただし、大々的には宣伝していないから、今のところ他国の顧客はいない。


 さて、では皇帝陛下からの依頼内容の確認と行こうかな。


 内容次第で、依頼を受けるか受けないかはこちらが判断する事になる。


 でも、活動維持費の大半を拠出してくれているカイヌ帝国の依頼を断る事は、滅多な事ではしないけどね。


 気になる依頼内容は?


 数ヶ月前より領民の反乱が発生して、不当に占拠されたドギーマ子爵領の奪還作戦に協力して欲しい。


 現在、カイヌ帝国軍が奪還を試みたものの、返り討ちにあい、大きな被害を被ってしまった。


 どうやら敵方の背後にはブリード王国軍が何らかの形で介入している様子があり、明らかにただの民衆ではなく、訓練された軍隊の動きを見せている。


 このままいたずらに兵の損耗をさせる訳にも行かないから、聖騎士大隊にはドギーマ子爵領の早期制圧を依頼したい。


 依頼料は出来るだけ弾ませてもらうから、張り切ってお願いね!


 と、要約すれば以上の内容の依頼内容だった。


 断る理由も特に無いが、一応は即決せずに、聖人様ことご主人様、聖騎士4人組、各中隊の副官連中を交えた会議が開かれた。


 副官連中は聖騎士大隊発足後、初の軍事作戦の為、とても緊張していたが、聖騎士4人組は『あ〜、ハイハイ、かしこまり〜! 軽く捻ってあげましょう!』という感じでノリノリであった。


 だが、この大隊の最終決定権は聖人様ことご主人様にある。


 部隊の大多数が賛成していても、ご主人様1人の反対意見があれば、その依頼はお断りする仕組みになっている。


 でもまぁ、あのご主人様が皇帝陛下のお願いを無碍むげに断る訳も無く、大型スポンサーであるカイヌ帝国を見限る判断もする訳が無かった。


 なので、聖騎士大隊発足後、初めての軍事作戦の依頼は引き受けられる事が決定されたのであった。


 ちなみに私は、この依頼書が届くまでドギーマ子爵領の事をすっかり忘れていた。


 聖騎士大隊結成で色々ゴダついていたとは言え、将来の中立国構想の有力拠点候補となるドギーマ子爵領の事を忘れてしまうとは、私とした事が、なんたる不覚。


 お陰でブリード王国軍の息のかかった武装勢力に、実効支配されてしまった。


 早めに手を打っておけば、簡単に落とせたかもしれない拠点が、しっかりと備えを堅められてしまった様だ。


 情報によると敵の規模は一個師団相当。


 約1,000人前後の武装勢力がいるらしい。


 それに対してカイヌ帝国軍は三個師団と言う3倍の兵力を差し向けた様だ。


 しかし地政学的不利な戦いとなったり、部隊を展開する前に妨害工作を受けたりと、色々な攻撃を受けてしまい、あっさりと3割の兵を返り討ちにされたそうだ。


 軍隊の3割の損耗は継戦困難の為『全滅』判定を下されて、撤退を余儀なくされる事になる。


 現在カイヌ帝国軍は防備を堅めて、ドギーマ子爵領からこれ以上の敵の流入を防ぐ為に、防衛陣地を敷くので精一杯となっている状況らしい。


 まぁ、あの社会人的常識の成っていない集団にしては、よくやったと褒めてあげても良い働きと言える。


 それ以上の働きを求めるのは、酷と言うものだ。


 後は私達、聖なる傭兵団、聖騎士大隊に任せていただこう!


 皇帝陛下からのご依頼を受けてから約1週間後、私達聖騎士大隊はドギーマ子爵領の目前。


 味方であるカイヌ帝国軍、防衛陣地へと到着していた。


 到着後、カイヌ帝国軍現場指揮官から現状の引き継ぎを受ける、聖騎士大隊の幹部陣営。


 話によると、ドギーマ子爵領は小高い標高の領地であり、向かって右側には険しい山脈。


 左手側から後方にかけて、深い森に囲まれている。


 通常、この地形へ攻め込む為には広く開けられている正面しか無い。


 攻め手側はやや傾斜があり、進軍速度を中々出し辛く、守り手は坂の上からの弓矢や投石の打ち放題。


 坂の上には即席とはいえ中々立派な木製の大きな壁と城門が設けられていた。


 これはどう考えても守り手有利、攻め手不利。


 自然を活かした難攻不落要塞と言っても過言では無い。


 実に見事な物だった。


 これは私達の聖騎士大隊でも、正面からぶつかれば速攻で全滅させられてしまう事だろう。


 これまでカイヌ帝国軍はこの不利な地形でどの様に戦っていたのか訊いてみた。


 「そんなの地形が不利と言えど、圧倒的多数の我が軍が、数で圧倒しようと正面から突撃を敢行したに決まっているではありませんか?」


 「うんうん、それで?」


 カイヌ帝国軍の指揮官は胸を張りながら続きを述べる。


 「最初の突撃は武運が味方せず、敢えなく返り討ちに会いましが、その次は更に勢力を増やして突撃を敢行いたしました!」


 あぁ、何か察した気がする。


 「しかし、不思議な事に、これでも敵方へ決定的な損害を与える事は出来ませんでした。 それどころか我等の損害が増えるばかりなのです。 どうやら奴らは優秀な軍師を雇っているか、密かに軍の力を底上げする兵器を使っているのでしょう! そうで無ければ我等がここまで一方的にやられる等ありえませぬ」


 「分かりました。 もう貴方達はここで大人しく守りを堅めておいてください。 以降は私達聖騎士大隊だけで攻撃を担当させていただきます。 決して手出し無用でお願いしますね」


 私は呆れた様にこの指揮官へ釘を刺し、聖騎士大隊の作戦司令部とさせてもらったテントへ戻って行ったのだった。


 結論、やはりカイヌ帝国軍は終わっている模様。


 まず指揮官から無能なのだ。


 『攻めてダメなら、また攻めろ! 上手く行くまで諦めなければ、きっと上手く行く!』の精神論は無能の考え方である。


 まず初めに、不利な地形に対して、何も策を練らずに突撃する時点で有り得ない。


 最悪、その突撃が失敗した時点で、攻め方を変える工夫をすべきであったが、その工夫の仕方が物量を増やすだけ。


 仮に全方位を囲んで圧倒的に大多数で攻め込めるなら、勝機はあるだろうが、ここドギーマ子爵領は大軍を攻め込ませられる経路が一方位しか無い。


 守り側は、攻め側がどこから攻めて来るのかが分かりきっているのだから、そこを重点的に守ればそれで簡単に勝利する事が出来る。


 そんな簡単な事も理解出来無い無能が、カイヌ帝国軍では、三個師団の指揮官にまで出世出来てしまうのだ。


 これを終わっていると評価せずに何と評価すれば良いのか、私には分からない。


 ならば話は簡単だ。


 私は始めての聖騎士大隊の実戦に対して、とても簡単な作戦を立案するのであった。

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