EP71【結成!聖騎士大隊】

 私は今回、大満足していた。


 まさかこんな社会人の基本すら、まともに出来ていない集団の中に、こんな逸材が眠っていたとは!


 今まで、私の唯一の弱点であった毒物。


 何しろ毒物が1度でも体内に入り込んで、血液と混ざり込んでしまったら、いくら私の魔力感知でも血液と毒物の分別は難しい。


 もし私が無理矢理にでも毒物を盛られた人間の治療をしようと思ったのなら、患者と同じ血液型の健康的な人間を用意して、体内の血液を総入れ替えする必要がある。


 その場合、血液を提供してくれた人間は、患者の身代わりとなって、お亡くなりとなる。


 なので余り現実的な方法では無かった。


 以前私とカトレアちゃんが盛られた腹下し薬は、胃袋内を全て強制排出すれば事済んだので楽だったのに、毒物にはそれが通用しない。


 弱点克服の為、時間を見つけては薬学書に目を通し、毒物に関するお勉強をしていたが、この学問は私の頭脳と相性が悪かった様で、中々理解に苦労していた。


 そして、無理矢理内容を頭に叩き込んだとしても、実際の毒物混入現場に遭遇したら、その膨大な勉強内容を思い出し、適切な処置が何なのかを瞬時に判断しなければならない。


 うん、無理だね。


 ゲームの様に毒消し草や、解毒魔法の様な都合の良い物があれば、話は別である。


 しかし、残念ながらこの世界にも、前世の世界同様に多種多様な毒物が存在している。


 その時どんな毒物を使用されたかにより、適切な対処が変わってくるから、全てを把握するのは至難の業であったのだ。


 そんな毒物対策でお困りの私!


 でも、もうその心配は不要!


 今回、我が聖騎士大隊に新規加入してくれた、最強の薬師くすしことニーナさんがいれば、いつでもどこでも毒物治療が可能なのだ!!


 そして毒物以外にも、健康管理全般も任せられる万能型内科医とでも言えるニーナさん。


 単純な切り傷、骨折、内臓破裂等の外科的医療は私が魔力でチョチョイと治せるし、複雑な毒物や病気に関してはニーナさんが治せる。


 つまり、私とニーナさんが聖騎士大隊にいれば、もはや死角はない!


 そして近接戦では私以上の強さを誇る、聖騎士ソフィアさん。


 彼女が率いる聖騎士大隊、第4中隊は隊長のソフィアさんに倣って、近接戦が得意な兵士を主に集めた強襲特化型。


 純粋なる戦闘能力では、この世界最強の中隊だろう。


 更に、動体視力の化け物こと、聖騎士ライルさん率いる第3中隊。


 動く標的への弓矢による攻撃、またナイフやショートソードによる素早さを活かした機動戦闘特化型のメンバーを揃えた。


 ちょこちょこと動き回る敵に対しては、彼の中隊が相手となる。


 誰も彼の中隊からは逃げられない。


 お次は聖騎士カトレアちゃん率いる第2中隊。


 彼女の中隊の役割は主に観測や長距離偵察、そして精密射撃となる。


 私の魔力感知では半径1kmしか索敵をカバー出来ない。


 そこで彼女の中隊の出番だ!


 綿密な情報共有ができる偵察特化型の兵士と、弓矢による精密射撃特化型の兵士のペアで、広範囲での索敵および撃滅が可能となる。


 その有効索敵範囲は私の索敵範囲の約5倍だ!


 お互いの死角を補い合う、その中隊に索敵された敵は必ず見つけ出されて、聖なる精密射撃を喰らう事になるだろう!


 そして、この第2中隊には部隊内の高速情報伝達の役割も担ってもらう。


 お互いが等間隔の距離を保ち、状況によりハンドサイン、魔光石による光の点滅サイン、矢文など、様々な情報のリレーをする事により、わざわざ遠くから伝令を走らせるよりも圧倒的に早い情報伝達が可能となるのだ。


 最後に聖騎士カエデこと私が率いて、副官のニーナさんが補佐する第1中隊の役目は、拠点防衛並びに大隊統括任務である。


 私のご主人様こと聖人ロイ・ハーネス様の身辺警護と、各中隊への総司令役である。


 私の中隊が各々の中隊へ適正のある任務を割り当てる、言わば聖騎士大隊の頭脳となる重要な役目だ。


 いくら手足が優秀でも、そこへ指示を出す頭脳が無能だと全てが台無しだ。


 その為、第1中隊の存在は重要となってくる。


 まぁ、最終的な責任はこの大隊の最高責任者である、私のご主人様が取ってくれるので、私は思いっきりやらせてもらうつもりだ。


 以上、各中隊、聖騎士1名、配属兵士29名。


 聖騎士大隊全体で計120名の一個大隊が完成したのだ!


 、、、、、っと、まぁそれらしく精鋭部隊っぽく表現してみたが、実情は基幹要員以外は対して優秀とは呼べず、ほとんどパシリぐらいにしか使えない兵士の寄せ集めである。


 これから実践の無い時のほとんどを訓練に充てて、私達の理想の聖騎士大隊を作り上げていく。


 それでも今回選抜した兵士達は、カイヌ帝国軍全体の中で、比較的まともな人員を取り揃えたつもりだ。


 とりあえず全員、報告、連絡、相談のホウレンソウは出来て、言い付けた命令は守れる。


 嘆かわしい事に、この社会人として出来て当たり前の事、それを出来る人材がカイヌ帝国軍の中では2割にも満たない事が、今回の選抜試験で発覚してしまったのだ。


 残り8割の兵士は正直いると邪魔。


 おそらく、2割の常識人チームと、8割のその他チームとで、実戦を想定した模擬戦闘を実施しても十分対等に戦えるだろう。


 なんなら2割の常識人チームの方が、勝つ確率が高いのでは無いだろうか?


 1対1のタイマン戦闘なら分からないが、軍隊として動く戦闘なら間違いなく、負ける事は無いだろう。


 それだけ社会人的常識は重要なのだ。


 また、聖騎士大隊内では既存の軍隊の階級は採用しない。


 皇帝陛下より『自由に使っていい大隊』と言質を頂いている為、聖騎士大隊内における新たな階級制度を設けた。


 まずは各中隊の隊長となる私達4人の『聖騎士』。


 次に各中隊毎に1人ずついる『副官』。


 そして比較的、各中隊の持ち味を活かせる技能を持っている兵士達を『一等聖補せいほ』。


 最後に凡人だが、ある程度の常識を携えている兵士達パシリ要員が『二等聖補』。


 この4つの階級に分けさせてもらった。


 厳密に言えば最高位責任者『聖人』となるご主人様を含めれば、全部で5階級になるが、正直言ってご主人様はただのお飾りだ。


 聖人様ことご主人様の役割は、民衆からの支持を集める広告塔、それ以外の役割は期待していない。


 新しい階級制度導入に対して、配属先次第で今まで自分より格下だった兵士が、上官になる事態も多々あった。


 その事に不満を訴えている兵士もいるが、私達の聖騎士大隊は、完全実力至上主義だ。


 今までの家柄や年功序列、上官への媚びへつらい、裏金による昇進をしていただけの無能には、最下層の階級で十分なのだ。


 今回与えられた階級や配属に、不満をしつこく訴える者へはとっとと辞めてもらう事になる。


 何しろ今回は定員の関係で採用されなかったが、まだまだ社会人的常識を携えていると評価した兵士は150人程残っている。


 彼らには『聖騎士大隊、予備役』として元いたカイヌ帝国軍の配属先へ戻ってもらった。


 なので、無能な上に不満だけを訴えてくるやからへは、速攻で予備役と交代人事を発令してあげる手筈てはずになっている。


 そこまで説明したら、不満を訴えていた兵士達も納得してくれた様だ。


 まぁ、出世したいなら実力を示せば、いつでも昇進させてあげるつもりだから、ぜひ頑張って自らを鍛え上げて欲しい。


 この聖騎士大隊では、実力さえあれば、仮に奴隷であったとしても、一個中隊の隊長にまでなれるのだから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る