EP70【さぁ、面接の時間だ!】

 カイヌ帝国軍には変人しか居ないのか?


 あれだけ私にののしられて、何故心が折れない?


 宰相さいしょうさんの言う通り、あの扱いが軍人にとってのリップサービスとでも言うのか?


 私はまだまだ、軍人の思想を理解出来る境地には達していないみたいだ。


 あの日、私が自らの評価を下げる為に行った、口汚い演説をしてから今日で3日。


 宮殿の正面広場にはあの時集まっていた兵士の人数を上回る、約1,500人の兵士達が勢揃いしていた。


 とりあえず選考時に際し、事前通達している事がいくつかある。


・経歴書を書き持参する事。


・服装は自由である事。


・聖騎士カエデの事を聖女様と呼ばない事。


・得意な兵科、または特殊技能の実演が出来る様に準備しておく事。


 以上


 まずは社会人なら出来て当たり前の事を、聖騎士大隊選考会の参加条件とした。


 まずはこの条件を理解出来ない、頭の悪い兵士はお断り。


 『服装は自由』としているが、実際はのところはTPO

・Time(時)

・Place(場所)

・Occasion(機会)

 これらを弁えた格好を出来る常識のある者と、それ以外を振り分ける為の罠表記である。


 ちなみに私は前世で、この『服装は自由』の表記に騙された事を、今でも根に持っている。


 それらをクリアした上で、初めて実力を評価するシステムにしたのだ。


 そして何と、この社会人なら出来て当たり前の条件を達成出来たのは、約1,500人の志願兵の内、たったの375人しかいなかった。


 中にはキレイな字で経歴書を書いて持参し、真っ当な騎士の風格をした好青年の兵士が、私を前にした途端に『、本日は、よろしくお願いします!』と威勢よく自爆していった馬鹿もいた。


 軍人のくせに、言われた命令もまともに守る事の出来ない無能はお断りだ。


 では、いきなり志願兵が7割削れたところで、聖騎士大隊選考会を開始する事にした。


 まだ途中経過、どころか入口の段階でこの惨状である。


 一部始終を観ていた宰相さんも、思わず頭を抱え込んでいた。


 御気の毒にね。


 ただ、これは軍隊の選考会なのだ。


 これが戦であれば、壊滅どころの騒ぎでは無い。


 これを機にカイヌ帝国軍の教育方針を見直す、良い機会となった事であろう!


 また良い仕事をしてしまった。


 あまり評価を上げ過ぎない様に気を付けている私に、これ以上表だって活躍させないでほしい。


 私から奴隷ペットの称号を剥奪なんてされたら、私は暴れるぞ!


 続いては面接だ。


 ここでは自分の情報を、正確に伝えられるかどうかを見る場面である。


 これがまともに出来ない様では、戦場で誤った情報を流しまくり、味方の犠牲を増やす結果に繋がる。


 やる気や志望動機は、この際ついでに確認するだけに過ぎない。


 そしてここでも落選者続出で、残り270人。


 カイヌ帝国軍はよくぞ、今まで軍隊としてやって来れたね。


 私は今までカイヌ帝国軍の中で起きていたであろう奇跡に、むしろ感動していた。


 もちろん悪い意味でね。


 最後は得意兵科や、特殊技能の実演だ。


 正直今までの過程を観ていると、余り期待できないかも知れない。


 長テーブルにご主人様を始め、私達聖騎士4人組が両サイドに2人ずつ座って、志願兵の実演を見て行く。


 私達聖騎士は1人につき、一個中隊を指揮する事になる為、それぞれ気に入った志願兵がいたら合格を通達する事になる。


 つまり私達の中の誰かに気に入られれば、晴れて聖騎士大隊の仲間入りとなる。


 「では次の志願兵、前へ!」


 案内係の兵が合図し、1人ずつ実技を披露して行く。


 既に3人の志願兵が特技を披露したが、敢えて仲間にする必要も無いと判断して、合格は誰も言い渡さなかった。


 しかし、これで彼らは不合格というわけでは無い。


 合格者が少な過ぎたら、補欠合格の可能性もあるのだ。


 この最終面接である特技の実演まで来れただけで、カイヌ帝国軍の中では比較的優秀な部類なのだ。


 だからパシリとしてなら役に立つだろう。


 つまり、1,500人中、1,230人はパシリとしても要らない人員だと言う事が分かった。


 「カイヌ帝国軍、もう終わってるね」


 宰相さんは私の一言を聴いて、顔を覆って耳を赤くしている。


 オッサンがそれやっても、皆んな白けた反応しか出来ないよ。


 せっかくイケオジだと思っていたのに、彼は私的に言わせれば、無しだな。


 「志願番号 0090番 ニーナ・グリフです! よろしくお願いします!」


 緊張した表情ではあるが、自分の情報を的確に述べている、このニーナさん21歳の女性兵士。


 なかなかに見どころがありそうだ。


 あくまでも社会人としては及第点。


 さて軍人としてはどうかな?


 「それではニーナさん、得意の技能を披露してください」


 私は目の前のニーナさんに、得意な技能を訊いたが、特に武器の様な物は持っていない様だ。


 「申し訳ありません。 この場では私の技能の披露が難しく存じます!」


 難しい?


 軍人とはどんな環境でも、自らの特技を活かして、過酷な任務に耐えられるべきである。


 なのに、技能の披露が難しいとは、これはハズレの兵士だったかな?


 ならばとっとと補欠要員に合流してもらおう。


 そこまで私が考えていると、ニーナさんは再び言葉を繋いで来た。


 「私は薬師くすしであります。 あらゆる薬学や栄養学に精通しております。 戦闘では主に毒針による暗殺、仲間への矢に塗る毒物等の提供で補佐を行います。 その他に仲間の健康管理や診断、必要な栄養分や薬を提供できます!」


 私は持っている羽ペンを取り落として固まっていた。


 「ニーナさん、、、でしたね? あの、毒を使えるという事は、敵から毒殺されかけた、仲間の治療も、もしかして、出来たり、する?」


 私はニーナさんへ恐る恐る、重要な事を確認する。


 「はい聖騎士カエデ様。 現在確認されている毒物の情報は全ては、私の頭の中にあります。 当然それらに対応する為の薬品の常備に、適切な対応方法も熟知しております。即死でない限り助ける事が可能であると自負しております!」


 そう言ってニーナさんは持参した多種多様な血清剤や解毒剤の入った鞄を見せて来た。


 毒針はこの場の誰も気付いていないだろうが、両腕の袖の中と、履いている靴に飛び出す仕込み針が用意されているのが、魔力感知にで私には分かった。


 「ニーナさん、もらったー!!!」


 「うわ! えっ、何! どうしたのカエデ姉さん?」


 隣でいきなり大声を上げた私に驚き、カトレアちゃんは椅子から転げ落ち、驚きの声を上げていた。


 こうしてニーナさんは正式に、私の指揮する聖騎士大隊、第一中隊の一員となる事が決定したのであった。

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