EP68【聖騎士様のお目覚め、そして謎の群衆】

 私はカイヌ帝国の宮殿にて、優雅に3度寝を決め込んでいた。


 その後、目が覚めて、さすがに寝ているのにも飽きたので行動を開始する事にした。


 まずは今までの習慣的に、魔力感知により周囲1kmの探索を行う事にするとしよう。


 今は真夜中の様であり、宮殿内では一部の見張りの兵士達を除き、皆寝静まっていた。


 気になるのは宮殿建物の外の光景だ。


 宮殿正面の広場に群衆が出来ていた。


 何だ、この人だかりは?


 いち、にぃ、さん、よん、、、。


 とでも数え切れない。


 宮殿正面広場は、東京ドームや帝都エサバの闘技場の約1.5倍の広さはある。


 どこかの軍団かと思ってヒヤリとしたが、どうやら非武装の老若男女だった。


 何の集まりだ?


 何かのお祭りなのか?


 しかし、皆んなどこか表情が暗い。


 何人かは両手を組んで祈りを捧げている人もいる。


 うん、分からん。


 仕方ないから直接確認に行こうかな?


 私の部屋には付き添いで、近くにカトレアちゃんが椅子に座って寝こけている。


 たぶん心配をかけてしまったのだろうね。


 私の寝ていたベッドに寄りかかっている。


 私が3度寝を開始した時にはいなかったから、きっと夜に寝ずの番をしてくれていたのだろう。


 寝ずの番が寝てるのは矛盾してるとは思うが、そこはカトレアちゃんだし、仕方ない。


 私の看病でカトレアちゃんが風邪を引いてしまっては申し訳ない。


 私はカトレアちゃんの肩へ毛布を掛けてあげ、そして部屋を出た。


 そのまま群衆のいる広場へ向かう。


 広場の人達の多くは近づいてみると、目をつぶって両手を組み、何やらブツブツ言いながら祈りを捧げていた。


 今日は何かミサ的な集まりでもあるのだろうか?


 だがカイヌ帝国で、ここまで大多数の人数が共通して入信している宗教は存在していないはずだ。


 私が知る限り、本日は講演会的なイベントも予定されていなかったはず。


 考えれば考えるほど理解できない集まりである。


 結論、考えても意味がないので直接聴いてみる事にした。


 手前にいる比較的若い女性の服の裾をクイクイと引いて、こちらを向いてもらった。


 「あのぉ、ちょっとお伺いします。 これはいったい何の集まりなんですか?」


 どことなく悲壮感の漂っていた女性は、ゆっくり私へ振り返り、一瞬硬直し、目を見開いて私を見てくる。


 「カ!」


 「か?」


 「カエデ様!? 聖騎士カエデ様!? 聖騎士カエデ様が、お目覚めになられた〜!!!」


 「えっ!?」


 私が声をかけた女性は、それまでお通夜かと思うぐらい暗い表情だったのに、いきなりテンション爆上がりして叫び出した。


 これが世に言うテンション0、100と言うやつだろう。


 生で初めて見た。


 女性のテンション0、100に引きつられ、それを聴いた群衆も一斉にテンション0、100が発生し、私の鼓膜は大きくダメージを受ける事になった。


 深夜なのだから皆んな、近所迷惑を考えて欲しいものである。


 理由は分からないが、とてつも無い騒ぎになってしまった為、私は慌てて宮殿内に逃げ帰った。


 宮殿内に逃げ帰った後、すぐに見張りの兵士を1人捕まえて、この騒ぎの理由を訊き出した。


 兵士も驚いて私を見ていたが、こちらはテンション10、60ぐらいだから外の連中と比べれば、まだ話が出来た。


 兵士に訊いた話によると、外の群衆は皆、私の身を案じて集まってくれた様だ。


 パレードで起きた民衆大パニック、その時の重傷者全てをの命を懸命に救い、後に私が意識を失った事実が広がり、今に至ると。


 なるほど、皆んな暇だね〜。


 説明してくれた兵士も、それまで我慢していた様だが、とうとう涙腺が崩壊し大泣きを始めてしまった。


 その兵士をあやしながら涙の理由を訊くと、どうやら彼のお兄さんも大パニックに巻き込まれ、一時的に心停止までしていた。


 そこへ私が駆けつけて、奇跡の御技(と言う事になっている)で瞬く間に息を吹き返したと言う事らしい。


 あぁ、いたね、1人心停止まで行っていた兵士。


 あの時は心停止してから間もなかったから、何とか体内の血流を強制的に動かして助ける事が出来た。


 今目の前で泣いているこの兵士は、戦争や病で両親を亡くし、身よりはそのお兄さんだけだったから、尚更助かった事に対して嬉しかったそうだ。


 そもそも、私が仕組んだ大パニックの被害者である為、私はとでも居た堪れない気持ちになった。


 彼曰く、『この身、この命、兄弟揃って聖騎士様への忠誠を誓います!』などと大泣きしながら叫んでいる。


 「よしてください! 私はただ勝手に(罪悪感により)皆さんの治療をしたに過ぎません! 御礼を言われる様な立派な事をしたつもりもありません! だから私の為に命を賭けないでください!!」


 今の言葉はゾロゾロ集まって来た他の兵士や、宮殿関係者にもハッキリ聴かれてしまい、更に大歓声が上げられてしまった。


 「やはり慈悲深いお人だ〜!!」


 「何と謙虚な! 聖騎士様どころか、もはや聖女様だ!!」


 「俺も命を賭けるぞ〜!!」


 「俺もだ〜!! 家族を救ってくれたカエデ様の為なら何でも出来る〜!!」


 「私の折れた腕を繋げてくれた聖騎士カエデ様〜、私の忠誠もお受け取りください!!」


 もうこの国、逃げようかな?


 私はつい先ほどの自称神様から賜ったお遣いを、放棄して逃げ出したい衝動に激しく駆られるのだった。


 翌朝、宮殿内外は聖人ロイ・ハーネスならびに聖女カエデを讃える、お祭り騒ぎとなっていた。


 ご主人様も私もバツが悪くて、一緒に部屋へ閉じこもっていた。


 閉じこもりをしてる部屋には、ハーネス侯爵家のメンバーならびに、新規加入の聖騎士ソフィアさんもいる。


 昨日、軍部の囚人奴隷であるソフィアさんを勝手に聖騎士へ任命してしまい、色々と議論が為された様だ。


 結果として『神のご意志に逆らう事は恐れ多い』と言う話に纏まり、ソフィアさんの聖騎士就任がカイヌ帝国からも公式に認められた。


 その面倒な議論は、私が寝ている間に済ませてくれていた様で助かったね。


 当初は皇帝陛下の御前で、再び神様のお言葉による説明会を開いて、無理矢理納得させるつもりだったから手間が省けた。


 ご主人様は今回その身で体験した神秘的な体験を『僕はたぶん、神の言葉を伝える為の依代にされていただけに過ぎません。 ですが、とても光栄なお役目をいただけた事に感謝しております!』と語っている。


 今回の神様降臨イベントにより、ご主人様はハーネス侯爵家の跡取り息子であり、聖人であり、神の使徒であると、3つの敬称がつく事になった。


 ここまで来るとその存在は皇帝陛下に並んでしまう程の、重要人物と化していた。


 一時的に皇帝陛下自ら、聖人ロイ・ハーネス様に跪きそうになり、聖人様本人や側近さん達に慌てて止められていたそうだ。


 その光景だけ、観てみたかった。


 私は寝ていた事を後悔したが、後の祭りである。


 そして更に引き篭もりながら3日が過ぎ、ようやく落ち着きを取り戻した宮殿で私達は晴れて自由の身となった。


 私は夜間、幻影魔法で姿を消し、勝手に出歩いていたけどね。


 この日、皇帝陛下より、ご主人様並びに聖騎士4人組も呼び出された。


 いつも皇帝陛下へ謁見する際は、皇帝陛下が高い位置から見下ろす形となる謁見の間が使われる。


 だが今回は『神の使徒様を相手に上から見下ろす事など恐れ多い』という事で、同じ目線で対話の出来る議場の間、要するに会議室が使われる事となった。


 上下関係ってめんどくさいね。


 皇帝陛下や側近の人達も、神の使徒様に対して、どの立場からものを言っていいのか、判断に困っている様だ。


 「神の使徒、、、殿、この話合いの場に立ち会っていただけて感謝する」


 皇帝陛下から神の使徒様への言葉遣いはとりあえず、同列を意識する事にした様だ。


 とても言いづらそうで、お気の毒に。


 「皇帝陛下、私はただ、神に遣わされただけの1人の帝国臣民であります! どうか、今までの様に偉大な姿勢にて、わたくしめに接していただけませんか?」


 「うっ、、、わかりま、あっ、いや、、、分かった。 其方の言う事も尤もである。 それでは今まで通りの、接し方を取らせてもらうが、皆、問題ないな?」


 その場の側近や聖人様が冷や汗を掻きながら、頷いている。


 プププゥ〜、いい大人が13才のお子様に気を遣われてやんの〜、観てて愉快だわ〜。


 肩を震わせて、笑いを堪えているところへ、ライルさんが肘で小突いて、私を止めてくれた。


 さすが気遣いの人、聖騎士ライルさんだ!


 こう言う時、とても頼もしい。


 「では、本題に移ろう。 率直に言う。 聖人ロイ・ハーネスよ! 其方にカイヌ帝国から独立した軍隊、聖騎士大隊の創設並びにその部隊管理を命ずる!」


 「なっ!! 聖騎士大隊、でありますか?!」


 皇帝陛下の爆弾発言に、目を見開きご主人様は驚愕している。


 「左様、其方にはカイヌ帝国より一個大隊を預け、運用を命ずる!」


 『一個大隊』それはこの前、私達が帝都エサバへ向かう際、皇帝陛下が付けてくれた護衛の一個中隊が3〜5個より集まった集団の呼称である。


 30人の団体が3〜5個だから90〜150人の部隊創設と運営を任された事になるのだ。


 そんな人材この戦争不景気の中、どこからかき集めろと言うのかね、この皇帝陛下オッサンは?


 「そんな! 私はついこの前成人を迎えたばかりの若輩者であります! 軍務に携わった経験も無ければ、そんな大量の人員を動かす度量も人脈もありません! 陛下、どうかご再考の程を願います!」


 確かにオーバーワークも良いところだ。


 まぁ、殿を見ていないのだから、自分の人脈など知る由も無いだろうね。


 私は既に魔力探知で気が付いている。


 はその為の集まりだったんだね。


 「そこは問題無い。 付いて来れば分かる」


 皇帝陛下はおもむろに立ち上がり、ご主人様へ付いて来るように促し、歩き出した。


 向かう先は正面広場が見渡せる、2階のバルコニー。


 そこへ皇帝陛下が先に出て、ご主人様へ手招きをしている。


 ご主人様は相当ビビりながら、招かれるままにバルコニーへと出て外の光景に絶句するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る