EP66【命の脅威】

 私は甘く見ていた。


 それは当然だよね。


 だって民衆の大パニックだもの、怪我人続出だよ。


 一応、今回の私が仕組んだイベントで、幾らかは怪我人が出る事を想定はしていた。


 それでもせいぜい10人ぐらいが軽い怪我で済むと思っていたが、完全に見積もりが甘かった。


 民衆の大パニックで押し合い圧し合いの末、重傷者27人、軽傷者69人、幸いな事に死者は出なかった。


 自分の欲望を満たす為に仕組んだ騒ぎで、死者がもし出ていたら、かなり寝覚めが悪い。


 とりあえず、重態の人を優先的に奇跡の御技に見立てただけの、ただの魔力治療にて治して回った。


 要するにいつもの繋げて、塞いで、くっ付けて、と言う感じで、今の文明では十分高度な治療をせっせとこなして行ったのだ。


 「カエデ姉さ〜ん、この人もうそろそろ死にそうだよ〜!」


 「は〜い、ただ今治しま〜す!」


 「聖騎士カエデ様、こんなにも懸命に我らを助けようとしていただけて、何と慈悲に満ち溢れたお方なのでしょう!」


 「いや、本当にそういうんじゃ無いですって、当然の事してるだけなんです!」


 「おぉ、ここまで偉大な事を為されているのに、決して驕ることなく、謙虚なその御心、実にありがたや、ありがたや〜!」


 やめてぇ〜!


 違うんですぅ〜!!


 私のせいなんですぅ〜!!!


 だから拝まないでぇ〜!!!!


 涙ながらに私を拝んでくるお婆さんに対して、私は罪悪感で潰されそうになる。


 その後も私は、骨が折れてればくっ付けて、内臓が破裂してれば繋ぎ合わせて、心臓が止まっていれば強制的に動かすと言う、荒技治療をやりまくって、何とか全員、後遺症の心配がないぐらいに回復させる事に成功していた。


 今回に限っては相当に疲れた。


 肉体的ではなく精神的の方の疲れなので、しばらく休みたい。


 あっ!


 1人治療を忘れてた!


 主の指輪へ『自律神経系の動作以外は何も出来なくなる』と言う条件を魔力で流し込んだ為、身動き1つ取れずに、馬車の椅子に座りっぱなしとなっていたご主人様だ。


 辛うじて生きているが、何時間も同じ姿勢だった為、顔が真っ青になっている。


 やっちゃった!


 その事に気づくと同時に私はご主人様の元へ戻り、主の指輪へかけた魔力の条件を解除する。


 速攻で体内の血の流れを正常化させて、事なきを得た。


 今回は完璧なプランだと思っていたのに、以外と欠陥だらけだった事が分かった。


 ご主人様は健やかなお顔になり、すやすやとお眠りになっている。


 私の苦労も知らずに、呑気なものだね。


 まぁ、私の自業自得な所も少しはあるのだけれども。


 とりあえず疲れた。


 とうとう私は、その場に崩れ落ち、ご主人様の傍らで寝てしまったのであった。



 「-------------------デ-------------エデ-------------------カエデ!」


 「は!、、、、知らない天井だ」


 「何言ってんだ、昨夜ここに泊めてもらっただろう?」


 私が眼を覚ますと、カイヌ帝国、皇帝の宮殿内。


 昨夜から私達へ貸してもらっている、客室のベットの上だった。


 ご主人様の顔が目の前で、私の顔を覗き込んでいる。


 「カエデ良かった、目を覚ました! でも無理はするなよ。 まだ具合が悪いだろ? 顔が真っ白だぞ! もう少し休んでおいた方が良い」


 ご主人様は、目尻を赤く腫らしている。


 まるで、ついさっきまで泣いていた様なお顔をしている。


 て言うか私、具合悪く見えているのか?


 だいぶぐっすり眠れたから、割と体調は良い気がしてるんだけどな〜?


 「あっ! カエデ姉さん目が覚めたの!? 良かった〜。 心配したんだよ〜、あんなに大勢の怪我人を1人で治療した後、ばったり倒れて〜」


 私達の部屋へカトレアちゃんが入ってきて、私が倒れた後の説明をしてくれている。


 「ずっと白い顔してるし、髪の毛の色も何だか薄く、と言うか明るい赤色になってるし、胸もぺったんこになってるし」


 んっ!?


 あ、やべぇ!


 「大丈夫です! すぐに調子戻します。 ほらこの通り〜!!」


 私はすぐに立ち上がり、顔色、髪色、バストなどなどを普段通りに幻影魔法で偽装した。


 つまり意識を失っている間に、うっかり常時発動させていた全身の幻影魔法を解いていたのだった。


 やっちまったな〜、誤魔化せるかな〜?


 「本当だ〜、いつもの元気なカエデ姉さんだ〜、やった〜!!」


 「いやいやいや! どういう身体してんだよ!?」


 カトレアちゃんは、あっさり私の復活を受け入れてくれている様だが、ご主人様は激しくツッコミを入れている。


 ちっ、誤魔化し失敗か。


 「ご主人様ったらぁ、お年頃ですねぇ、 全くもうぉ、女の子の身体に興味深々なんだからぁ、で〜も〜、後30年ぐらいは私の身体はお預けだゾ、てへ!」


 「いや違う! 『 どういう身体してんだ』とは聴いたが、そう言う意味じゃない!! ってか後30年って、僕オジサンじゃん!」


 「そうですよ! 男性は加齢臭が漂い出してからが魅力的なんですから、ご主人様はまだまだですよ!」


 「カエデの男性の趣味は特殊すぎだー!!」


 「親方様やキースさん並に渋さを漂わせてから、再度アプローチをお待ちしておりま〜す」


 私はご主人様をからかいまくって再度の誤魔化しを試みる事にした。


 男性の趣味は正直に話してるがね。


 「カエデちゃん、キースは渡さないわよ」


 「うわぁ、クレアさん! いつからそこに!?」


 私の背後には笑顔なのに、なんとなく怖い雰囲気をまとったクレアさんが立っていた。


 あれ?


 魔力探知は目を覚ましてからずっと発動していたのに、今までまったく気が付かなかった。


 この人本当に何者なの?


 クレアさんが本気で私を暗殺しに来たら、間違いなく亡き者にされる。


 私は絶対にキースさんへのお手出し厳禁だ!


 私は全身冷や汗をかきながら、絶対の誓いを立てたのだった。


 今回、聖騎士に新しく入った元囚人奴隷99番さんことソフィアさん。


 普段からイケオジのキースさんとイチャイチャしてる金髪美人の使用人クレアさん。


 この世界で私を殺す事が出来る存在が、身内に2人もいるこの状況。


 私は今後、下手なイタズラをしたら、うっかり亡き者とされそうな環境である事を自覚して、また震え上がった。


 「あっ、カエデ姉さん、また顔色悪くなった。 やっぱりもう少し休んだ方が良いよ」


 「ありがとう、カトレアちゃん。 そうさせてもらうね」


 私は本当に具合が悪くなった様で、カトレアちゃんの言う通り、再びベッドで休む事にしたのであった。

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