EP65【新たなる聖騎士】

 何だか面白い様に、上手く事が運んでいる。


 ドギーマ子爵が装着させられていた奴隷の首輪を10分の1サイズカットし、それを囚人奴隷99番さんへと渡しておいた。


 その10分の1サイズの畜魔鉱ちくまこうへは『衝撃を与えてたら盛大に爆発し飛散する』と魔力で条件を付与済みである。


 名付けて、魔力爆弾だ!


 貴重な畜魔鉱を使い捨てにする、実にもったいない使い方であるが、今回はこれしか用意出来なかった。


 何しろ今回の騒ぎは、以前のブリード王国との戦中、私がうっかり引き起こした魔力爆発に似せて、ブリード王国の工作員によるテロだと思わせる必要があったのだ。


 これにより、囚人奴隷99番さんが自由に暴れられる理由付けが出来た。


 手筈てはず通り、99番さんは治安部隊を殺さない程度に手加減しながら蹴散らしつつ、こちらへ向かって来ている。


 そしてご主人様の『神の使徒しと化作戦』も順調に進行中だ。


 昨夜の内に私達奴隷3人組が装着している奴隷の首輪、それに埋め込まれた赤い宝石を取り除き、事前に仕入れておいた緑色の宝石へと入れ替えておいた。


 ご主人様の装着している3つの主の指輪へも同様の細工をして、準備完了!


 ちなみにこの緑色の宝石は、奴隷の首輪へ埋め込まれている赤い宝石と同じく、魔力を通すと発光する鉱石、通称『魔光石』で出来ている。


 これはカイヌ帝国特産品の1つで、お金を払えば誰でも購入可能だ。


 何故お金を払ってまで、こんな小細工をしたかと言うと、その方が特別感が出てカッコいいと思ったからだ!


 それ以上の理由は特に無い!


 私にはその理由だけで十分だったのだ!


 前回帝都エサバへ来た際に宝石屋で、ご主人様の瞳と同じ色をした魔光石があった事を、私は覚えていた。


 今回使ったの魔光石は、ハーネス侯爵家へたまに来る行商人さんへ、お金を掴ませて用意してもらった品物だ。


 旅に出る直前に届いて本当に良かった。


 お陰で今回の演出に間に合わせる事が出来たのだから、行商人さんへは大感謝だね!


 今後も是非ご贔屓ひいきとさせて頂こう!


 さて、緑色の魔光石は残り1つ。


 使用目的は決まっている。


 私はこっそりその魔光石を隠し持ちながら、99番さんの元へ向かう。


 99番さんは私の指定した通り、私がご主人様の声で命令を出した後、険しい表情を保ったままピクリとも動かずに静止している。


 ここまで台本通り出来るとは、正に99番さんは名女優だね!


 これなら全てがヤラセだとは誰も気がつくまい!


 では、ここで更に演出を加えて真実味を上げておこう!


 楽しくなってきた〜!!


 私は99番さんの目の前で立ち止まり、自分の装着している奴隷の首輪へ魔力を流し込んで、新しく埋め込んだ緑色の魔光石を強く輝かせた。


 「緑色の輝き! あれは何なんだ!?」


 「奴隷の首輪の宝石は赤い色のはずだ! まさかこれも神の奇跡なのか!?」


 「何と神秘的な光何だ!」


 「あの輝き、そんじょそこらの魔光石では再現出来まい!」


 んっ!?


 いやいや、これ、そんじょそこらの市販品の魔光石ですよ!


 そこの貴族のおっさん、目利き大丈夫かな?


 たぶん安物の壺を高額で買わされるタイプの、なんちゃって貴族では無いかな?


 さて、私は99番さんへ緑色の光をたっぷり照射し、お次はショートソードを1本腰から抜き放った。


 そして幻影魔法発動!


 私の両眼をご主人様の瞳と同じ緑色に変え、輝かせてみる。


 そして先程やっていた拡声魔法とでも言うべき、お手製のメガホンで周囲の人間に聞こえる様に大声を発する。


 その際、魔力を用いてご主人様の声帯模写も実施する。


 この瞬間、私は幻影魔法、拡声魔法、声帯模写魔法の3種の魔法を同時展開している。


 「荒ぶる哀れな奴隷よ、神の使徒、聖人ロイ・ハーネスの名において命ずる! 我の前に控えよ!」


 私がご主人様の声を模写して、命令を下し、事前の手筈通りに99番さんはそれへ従い、跪き、伝統的な忠誠のポーズを取ってもらった。


 「あれは聖人様のお声だ! まさか聖人様の魂があの少女の奴隷へと乗り移り、命令を出していると言う事か!」


 「いや、それだけでは無い! あの野獣の様な奴隷は確か軍部所有の囚人奴隷だ! まさか聖人様は、他者の奴隷までも聖なる力により、操る事が出来るのか!」


 「これこそ正に神の御技だ! 我らは奇跡の瞬間を目の当たりにしているのではないか!?」


 うんうん、台本も打ち合わせも無いのに、ギャラリーがいい感じで盛り上げてくれている。


 やはりこう言う演出は客の反応があると女優魂が刺激されて、より張り切ってしまうね〜!


 あっ、私は女優じゃなくて奴隷ペットだった!


 最近うっかり自分の在り方を見失いがちだから、気をつけよう!


 私は持っているショートソードの切先を、ゆっくり99番さんの両肩へ軽く当てがい、再び鞘へ戻す。


 そして右手のひらで99番さんの奴隷の首輪に触れる。


 その際、隠し持っていた緑色の魔光石と埋め込まれている赤い魔光石を魔力を用いて入れ換えた。


 一連の流れを終えて、私は手を引いた。


 「これより其方を聖人の名の下、聖騎士に任命する。 今より其方そなたの名は、聖騎士。 我に忠誠を誓い、我に付き従え!」


 「感謝致します。 この身、この魂、全ては主の御心のままに」


 99番さん改め、聖騎士ソフィアさんは右手を胸に当て、忠誠の誓いを口にしたのであった。


 「「「「おぉぉぉぉぉー!!!」」」」


 その光景を目の当たりにした民衆は、今日1番の大歓声を上げていた。


 「聖人様、バンザ〜イ!」


 「神は我らを御見捨てにならなかった!」


 「あの野獣まで聖騎士として手駒になされるとは!」


 「やはり神はおられたー!」


 よしよし、これで民衆の心はご主人様の元集まり、かなりの勢力となるだろう!


 私の野望の実現の為には、多くの民衆の力が必要なのだ!


 全ては、飽食豊かな私の奴隷ペットライフの為に!

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