EP64【ド派手なサプライズ そして 使徒顕現!】

 本日は聖人就任祝賀パレードの当日。


 光栄な事に、聖人の称号をいただく事になった僕と、聖騎士の称号を与えられた3人の僕の奴隷達。


 この3人は僕の奴隷であり、聖騎士であり、そして大切な家族だ。


 僕だけで無く、大切な3人の家族へも一緒にカイヌ帝国の人々が祝福の声援を贈ってくれている。


 僕1人だけが主役のパレードなんかより、こっちの方が何十倍いや何百倍も嬉しい!


 でも僕は本当のところ聖人どころか、奴隷1人もまともに操れない落ちこぼれだ。


 それなのに僕の3人の奴隷は皆んな、その事を必死で隠し、必死で僕に尽くしてくれている。


 どう言う訳か、奇跡じみた現象が僕の意図しない形で何度か起こっているのは気になるところだけど、そこに不満なんてものはない。


 それどころか神様へ感謝する日々だ。


 カイヌ帝国は色んな文化が混じり合っている為、神様の像は人それぞれだ。


 よって、僕も特定の神様を信仰できている訳では無い。


 ただ漠然と、神様という存在を信じているだけの中途半端な信者に過ぎないのだ。


 そんな中途半端な信徒の僕へ、神様は驚きのサプライズを与えてくれ続けている。


 いつか神様に僕は愛想を尽かされてしまうのでは無いかと心配になり、毎朝密かに祈りと感謝を行うのが最近の日課になっている。


 だか本日、あまりにも朝が早すぎた事と、疲れが溜まってしまっていた事が原因で、日課の祈りと感謝が出来なかった。


 その影響かどうかは不明だけど、先程遠くの方で何か大きな爆発音が聞こえてビックリしてしまった。


 あれはいったい何だったのだろう?


 まぁ、おそらく花火に使う火薬の量を間違えた、人為的なミスだろう。


 でも、僕達を祝ってくれているパレードで、誰かが傷付くのはなんだか嫌な気持ちになってしまう。


 願わくば、あの爆発で怪我人が出ていない事を祈りたい。


 ん?


 なんだろう?


 爆発音のあった方角から、人々の叫び声が徐々に近づいて来る気がする。


 間違いなくパレードの歓声とは質が違う、恐怖による悲鳴や怒号だ。


 僕らの周りでも少しずつ異変に気が付く人達が、増えてきた。


 本当になんだろう?


 なんだか恐ろしい事が起きている気がする。


 そんな時、奴隷の聖騎士カエデが僕のかたわらへやって来て、軽く右手に手を重ねてくれた。


 「大丈夫ですよ、ご主人様。 どんな事が起きても、私達が貴方あなた様を守って見せますから、そこでどっしりと座って構えていてください」


 なんだかとても心強い。


 重ねられた手がとても温かく、少し震えていた身体が今では不思議と落ち着きを取り戻しているのが分かる。


 そうだったね。


 ここにいる3人は頼り無い僕を、どんな時でも守って来てくれた。


 決して奴隷の首輪で強制もされていないのに、いつも命を賭けてまで戦ってくれて、奇跡を僕へ届けてくれた。


 僕もこの3人の主人として恥ずかしく無い様に、カエデに言われた通りどっしりと構えて、事の成り行き見届けよう!


 それが僕の為に命を賭けて戦ってくれる、3人の奴隷、いや3人の聖騎士の主である、聖人ロイ・ハーネスの役目なのだから!


 「ご報告します! つい先程、囚人奴隷収容区画にて、例の魔力爆発を確認! それを皮切りに囚人奴隷達の制御が出来なくなりました!」


 「何! では、またブリード王国戦の時の様に暴動が!?」


 僕たちの乗る馬車の下で、軍幹部の人が走ってやって来た伝令兵から報告を受けている会話が聞こえて来た。


 「いえ、本日は大半の囚人奴隷達を牢屋にて閉じ込めている為、制御を失った後も拘束は出来ております!」


 「なら良かった。 こんな晴れの日に暴動を許したのでは、我々はもう2度と貴族ではいられまい。 ん? ではあの近づいてくる騒ぎは一体何なんだ?」


 良かった。


 とりあえず、あのブリード王国戦の時の様に囚人奴隷達による暴動は無いらしい。


 でも、軍幹部の人が今言った様に、何で騒ぎが広がって来ているのだろう?


 「1人牢屋を破壊して暴れている囚人奴隷がいます! 最狂の破壊神、99番が収容区画を脱出! 治安部隊を順次薙ぎ倒し、こちらへ侵攻中の模様! 今すぐに避難を開始しててください!」


 「おまっ、バカ者! こんな民衆の前でそんな事を大声で叫んだなら」


 軍幹部の人の忠告は手遅れだった。


 「逃げろー!」


 「化け物が来るー!」


 「助けてくれー!」


 「殺されるー!」


 「おい、道を開けろー!」


 民衆による大混乱が発生して、僕らの乗っている馬車の周りは、あっという間に逃げ惑う人々で溢れかえった。


 何という事だ!


 これでは僕らも逃げ道が無くなってしまった。


 民衆はお互いに押し合い圧し合い、その影響で馬車が激しく揺れている。


 先程の軍部の2人も逃げ惑う民衆へと飲み込まれ、姿が見えなくなってしまった。


 僕達も早く逃げなきゃ!


 でも、どこに?


 周りは民衆で埋め尽くされ、逃げ道は無い。


 そして激しい恐怖による緊張の為か、僕の身体はピクリとも動かない。


 これはもしかして悪魔憑現象金縛り


 聴いたことがある。


 寝ている時、悪魔に取り憑かれて身動きが一切取れなくなる現象があると!


 そう言う時は『神に祈りを捧げる事で、いずれ悪魔から解放される』と、確か父上から教わったんだ!


 しかし、今から神に祈りを捧げていても、解放されるまで時間がかかり過ぎてしまう!


 それに何で、生まれて初めての悪魔憑き現象金縛りが今起こったんだ!?


 別に寝てる訳でも無いのに!


 そうか、分かった!


 これは神様の意思だ。


 神様は信仰心が足りない僕の事を、とうとう見捨てられる決定を下されたのだ!


 それなら仕方ない。


 今まで起きていた奇跡の数々は、きっと神様が気まぐれで僕へ与えてくれていただけに過ぎなかったんだ。


 受け入れよう。


 そして、僕は神様の元へ、、、、、、。


 「狼狽うろたえるな民衆よ!」


 んっ、僕の声!?


 えっ、僕今何も喋って無いよね!?


 しかも何、この普通より強く大きく響く声は?


 何だか反響して遠くまで届きそうな声だ。


 「我は神の使徒、聖人ロイ・ハーネスである! 民衆よ、鎮まれ!!」


 えっ何、僕っていつから神の使徒になったの!?


 聴いてないんだけど!?


 「この場は我が収める! 民衆よ、まずは落ち着き道を開けよ! 混乱に巻き込まれ、倒れた者には手を差し伸べよ! 我に従えば皆救われる事を約束する!」


 おぉ!


 何だか僕、今凄くかっこよく無い!?


 あ!


 皆んなが僕を見上げて、落ち着きを取り戻していく。


 徐々に大通りの中央が開けていく。


 なんかよく分からないけど、今凄い奇跡が起こっている!


 ひょっとして、さっきの悪魔憑現象金縛りだと思ったのは、神様が僕の身体を使って民衆へと呼び掛ける下準備だったのでは無いだろうか?


 えっ!?


 だとすると、僕って本当に聖人で、神様の使徒だったの!!


 今まで驚きの連続だったけど、それを遥かに上回る驚きが今正に起こっている。


 「聖騎士カトレア、並びに聖騎士ライルよ、馬車の下へ降り、負傷者を安全な所へ纏めて保護せよ! 民衆よ、2人の聖騎士へ協力し、負傷者を運べ! 誰も死なせるな!」


 神様の意思と思われる僕の声により、歓声が巻き起こり、混乱に巻き込まれ、怪我をした人々が僕らの馬車の後方へどんどん集められていくのが分かった。


 カトレアとライルさんが僕を振り返り『ご立派です、ご主人様』『御心のままに、我が主よ』と、それぞれ言って馬車を降りて行った。


 あれ?


 今2人が着けていた奴隷の首輪。


 今まで赤い宝石が埋め込まれていたのに、今は緑色の宝石じゃ無かったかな?


 よく見ると僕の着けている主の指輪も、3つとも埋め込まれている宝石が緑色に変わっている。


 まさかこれも神様からの奇跡なのか?


 「綺麗ですよねこの色。 ご主人様の瞳の色と同じですね」


 そう言うカエデが装着している奴隷の首輪にも、緑色の宝石が輝いていた。


 そうか、神様は中々に粋なサプライズをしてくださる。


 これは使徒となった僕達へ、神様からのサプライズプレゼントなのだろう。


 こうなれば是非応えて見せましょう!


 それが神様に選ばれた、僕達の定めならば!


 「奴が来たぞー! 最恐の破壊神、囚人奴隷99番だー!!」


 軍人さんか、はたまた民衆の誰かかは分からないが叫び声が聴こえた。


 見ると大通りの突き当たりに、治安部隊を蹴散らして、息荒く僕らを睨みつけている囚人奴隷が立っていた。


 皇帝陛下の御前試合で対戦相手となった、あの99番と呼ばれていた奴隷だ。


 試合の後、カエデ達と和やかな雰囲気で友情を分かち合っていた時とは違い、いかにも野獣の様な迫力を感じる。


 そして真っ直ぐ僕達へ向けて駆け寄って来た。


 その突撃を阻止するべく前に立ち塞がる治安部隊の人達をまた蹴散らしながら、さらに僕らへ接近する。


 「聖人様ー! どうか御救いをー!!」


 「貴方様だけが頼りです!」


 「我らを導いてください!」


 「神の使徒様ー!」


 悲鳴にも似た民衆の祈りの叫びが、たくさん僕の耳へと届けられる。


 でも一体あんな化け物をどうしろと言うのだ!?


 僕も叫びたい。


 神様助けて〜!!!


 「荒ぶる哀れな奴隷よ、神の使徒、聖人ロイ・ハーネスの名において命ずる! 直ちに停まれ!!」


 再び神様の御言葉らしき僕の声が響き渡った。


 それと同時に、あの99番と呼ばれていた囚人奴隷は大通りの中央、僕らの馬車から7馬身ほどの距離でいきなり停止したのだ。


 人々はその光景に目を疑い、驚愕していた。


 そして当然僕も、民衆と同じ反応をしていた。


 「それで良い。 聖騎士カエデよ、後は任せた。 行け、我が意をかの者へ届けよ!」


 「全ては、主のお導きのままに」


 あれだけ僕の命令を聞かなかったカエデが、まるで僕の奴隷の様に言う事を聴き、命令に従っている。


 あっ、カエデはそもそも僕の奴隷だった!


 そしてカエデは勢いよく馬車から飛び降りて、ゆっくり囚人奴隷99番の元へ歩いて向かって行ったのだった。

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