EP37【カエデの暗躍と、それぞれの思惑】
ご主人様の初陣は大成功の内に終わった。
私達が最前線を越えて暴れ回ったお陰で、敵のブリード王国は乱れに乱れ、後退を余儀なくされた。
結果的に本日の戦いにより、最前線は1kmほどブリード王国側へ押し出す形になった。
この世界では戦による最前線の変更は、そのまま国境線の変更を意味する。
ご主人様の働きは、たった1日でカイヌ帝国の国土をその分増やすという大変な偉業を成し遂げた事になる。
味方陣営からは英雄扱い。
皇帝陛下からは最高の賞賛の御言葉を、使いの者伝ではあるが頂けたそうだ。
直接言ってあげれば良いのにね。
さて、まるでお祭り騒ぎの様な賑やかな1日だったが、私の活動はまだこれからが本番だ。
私の恒例、夜遊びタイム改め、夜の暗躍タイムが始まるのだった。
まずは敵情視察。
初日を大敗で終わり、いきなり大きく後退を余儀なくされたブリード王国。
その指揮所らしき野営地を魔力感知で探し出し、こっそり潜入してみる。
もちろん幻影魔法で周りから私は見えなくなっている。
「今日は災難でしたね。 まさか帝国側があんな最新兵器を用意していたとは」
「全くだ! 馬車を荷物の輸送だけでなく、戦闘で使うなど聴いた事がない」
へぇ、この世界ではこの戦法は未知の部類だったのか〜?
前世では古代ローマや古代中国とかで使われていた戦法だと思ったけど、この世界では思い付いた人がいなかったのかな?
この分だと、戦場にゾウなんか登場させたらもっと効果が出そうだ。
ゾウなんてどこにいるのか分からんがね。
「今回の損害は大きいぞ! 国境線の後退だけでなく、大量の兵を捕虜に取られてしまった」
そうか、あのどさくさ紛れにカイヌ帝国側は捕虜獲得も行っていたのか。
抜け目ないね。
今回の捕虜は、おそらくほとんど鉱山奴隷にされるか捕虜交換の取引材料にされるのだろう。
「明日もあの兵器を使われたら厄介だ。 すぐにでも対策を講じなければならない」
ご丁寧に私考案の兵器に、何か対策を考えるそうだ。
だが悪いね、あの馬車は相当な荒い使い方をした為、既にボロボロで使い物にならなくなっている。
無事に帰還するのがやっとの状態だったから、もう新しい物を作り直さないと、同じ戦法は使えないのだ。
なので、明日は明日で別の戦法を用意している。
「こんな時にオーシャン伯爵がいてくれたならな」
「全くだ、開戦前に夜襲を受けて、オーシャン伯爵家は全員行方不明になってしまった。 これは極秘な情報だが、現場には魔力の抜けた悪魔召喚の書が落ちていたらしい。 王立図書館の禁書保管庫にあった物だ」
おっと、『王立図書館、禁書保管庫』というワードが出てきたね。
あそこにはちょくちょく読書に行っていたから、非常に懐かしい。
「おそらく帝国の間者が悪魔の力を使って、無敵で名高いオーシャン伯爵家を全員消し去ってしまったものと推測されている。 悪魔の力でも借りない限り、オーシャン伯爵家を排するのは不可能だったのだろう」
おや?
オーシャン伯爵家は盗賊団&帝国軍囚人奴隷部隊によりアッサリ皆殺しにされていたけど?
過大評価も良いところだね。
「今いないお方を頼りにするのはよそう。 とりあえず明日は例の最新兵器を警戒して、馬防柵を複数用意しておこう! 兵に今夜中にできる限り作成を命じておく」
何と無駄な事を!
明日は馬車による突撃の予定は無いのに。
敵とはいえ、無駄な労力をかけさせてしまうのは心が痛むね。
こちらとしては都合が良いから、止めさせたりはしないけど。
さてと、ブリード王国側の敵情視察はこれぐらいで十分だ。
続いて味方の指揮所にて、どの様な話がなされているか確認しておこう。
という事でやって参りました、カイヌ帝国軍、指揮官詰所!
ここではどの様なお話がされているのかな?
さっそく高級将校の方達のお話を伺おうじゃないか。
「いや〜、めでたいですな〜! まさか初日からこんな快進撃が観れるとは!」
「全くだ、皇帝陛下も大変喜ばれていたと聞くぞ」
うんうん、当然の反応だね。
色々画策した私の労力も報われるという物だ。
「しかしながら、あのハーネス侯爵家の
「だな、我々の計画ではあの目障りなハーネス侯爵家に痛い目を見てもらう為、わざわざ最前線へ送る様に仕向けてみたのに、まさかの活躍で傷1つ負わずに帰ってくるとは思いもせなんだ」
んっ!?
今、聞き捨てならない会話が聞こえた気がしたぞ!
これはいったいどういう事だ?
「ハーネス侯爵家は最近、軍事費増額に反対して、代わりに平民なんぞの暮らしの向上などに金を使おうとする、帝国貴族の風上にも置けぬ輩ですからね。 とても貴族位を預けておく訳にはいきますまい」
おぉ!
親方様ったら、最近は身近な者だけでなく、平民にまで心遣いをされているのか!
衝撃と感動の事実だ!
やはりあのお方は、人の上に立つべくして立っているお方なのだ!
そんな人徳的な親方様を、ハーネス侯爵家を、こいつらは侮辱しているというのか!?
決して許してはならない。
こいつらこそ、その高級将校の地位に相応しくない!
この会話を聴いてしまったら、私の取る行動は当然決まってくる。
私は指揮官詰所を後にして、向かったのは囚人奴隷部隊の収容テントが並ぶ区画へとやって来た。
ここにいるのはカイヌ帝国の定める法律に違反した者や、戦争捕虜達だ。
彼らは奴隷の首輪にて自由を奪われて、強制的に戦へ参加させられている。
彼らの奴隷の首輪へ、例の魔改造を施してやるのだ。
ここの囚人部隊の総数は職業軍人部隊の3倍になる。
それをやればどうなるかは、想像に難くない。
ふっふっふっ、人を見る目のない高級将校どもに地獄見せてやろうではないか。
私は寝ている囚人部隊の人達の元へ、音を立てずに忍び寄り、次々と奴隷の首輪へ魔改造を施していく。
その途中、何処かで見たことのある様な顔を、1人見つけた。
誰だったかな〜?
人の顔を覚えるのが苦手な私だが、一応どこかで見た気がする程度には記憶に残っている様だ。
でも、思い出せない。
もしかして、私の黒歴史を知っている奴か?
いや、確かあいつはブリード王国の尖兵の助けにより、開戦前に逃げ出しているはずだ。
じゃあ、こいつはいったい?
う〜ん、まぁいいや。
私は思い出せない事を無理に思い出す事を諦め、他の皆んなと同じ内容の魔改造を、こいつの奴隷の首輪にも施した。
作業はまだまだあるのだ。
こんなところで止まっていられない。
体感で2時間ぐらいかけて作業を終えた。
そこで私は『契約している悪魔と作業分担すれば、半分くらいの労力で事足りたのではないか?』という事に気がついた。
その事実に気が付き、しばし硬直する。
そして呼んでもないのに悪魔が私の背後に立ち、私を笑顔で見下ろしてくる。
「な、なんだよ?」
「いえ、大した事ではないのですが〜、ご主人様は、やっぱり、ば」
「言わせるかー!!!!」
私はその言葉を遮るべく、地面へ大量の魔力わ流し込み、大爆発を起こし、悪魔を吹き飛ばしたのであった。
その日、真夜中に囚人奴隷部隊収容所の端にて、謎の大爆発が起きた事で、辺りは騒然となった。
軍上層部は、これをブリード王国側の破壊工作があったと結論づけた。
私は自分のご主人様の元へ戻り、朝まで一休みしていたので、その騒ぎには興味を持つ事はなかったのであった。
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