EP36【初陣、ご主人様の覚悟!】
とうとうこの日が来た。
私のご主人様こと、ロイ・ハーネス様の、初めての
自分自身の初陣の時より、よっぽど緊張感があるとは変な話だ。
今回の戦争相手はブリード王国。
今世の私が生まれ育った国だ。
何の因果か、かつて味方同士だった私達が殺し合いをしなければならないなんて、何とも悲劇的すぎる〜、、、などと考える事は特にない。
過去に参加した戦では、今回の味方であるカイヌ帝国兵の多くを、元人間だった肉の塊へと加工していく作業を淡々と行っていた。
前回と今回の違いはブリード王国兵が相手か、カイヌ帝国兵が相手かの違いでしかない。
つまりどちらも人間だ。
特別な違いは感じない。
さらに、今回私には本気でやらねばならない理由が2つある。
1つはご主人様が、もし命を落とすようなことがあれば、私がせっかく手に入れた
もう1つは、ブリード王国兵の間に伝わっていると思われる、私の黒歴史の抹消だ。
以前、私達を襲った、ブリード王国兵の生き残りが勝手に私を『大天使カエデ様』と崇め立てていたり、幼少期に本気で『カメ○メ波』や『波○拳』等の技名を、山中でひたすら叫んでいたところを目撃した奴がいる。
顔と名前は覚えてないが、そいつらや、その情報を知っている者達には消えてもらわなければならない。
何より私の心の平穏の為に!
しかし、2つ目の目的は可能ならば実行するというだけで、正直どうすれば達成出来るのか検討も付かない。
まさか無関係の何も知らないブリード王国兵も含めて、皆殺しにする訳にも行かない。
前世の時もそうだったが、私はどうにも人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。
不可能というわけでは無いが、意識的に脳内反復確認しないと、自己紹介された数分後には記憶から消えている。
なのでこういう特定のターゲットを選定する時に不都合が生じてしまうが、それは仕方のない事だ。
あくまでも優先すべき目的は、ご主人様の命を何としても守り切る事にある。
たぶんこの非力なご主人様が乱戦に巻き込まれたなら、ほぼ間違いなくアッサリ死んでしまうだろう。
以前の帝都エサバ旅行の際に付いてきてくれたクレアさんとキースさんは、今回の戦には不参加だ。
つまりは私とカトレアちゃんの2人の奴隷だけで、この非力なご主人様を守り切る必要がある。
2人だけと言ったものの、実際にはご主人様達貴族の元へ敵が近づく為には、最前線の職業軍人部隊や平民徴兵部隊、囚人奴隷部隊を突破する必要がある為、滅多な事では戦闘に巻き込まれる事はない。
普通の戦なら、その通りである。
しかし、今回の戦へは皇帝陛下が観戦に来られている。
皇帝陛下の観戦の目的は、とあるパーティーがきっかけで評判となった私のご主人様による、見事な奴隷使いの腕前をご覧になる事だ。
その為、例外中の例外として開戦後、しばらくしたらご主人様へ最前線への攻撃命令が下される事となっている。
まぁ、攻撃命令と言っても、実際に攻撃を仕掛けるのは奴隷の私とカトレアちゃんになる。
ご主人様は後方からの指示出しが役割となる。
私達の主従関係上、実質命令は気が向かなければ従う必要はない。
しかし、皇帝陛下がご覧になっている前で奴隷を制御できない場面を披露してしまえば、当然ハーネス侯爵家は貴族位の資格を失い、お家取り潰しとなる。
それすなわち、私が最も恐れている、貧乏ご主人様の
そのリスクはカトレアちゃんにも説明済みである。
カトレアちゃんも私の2ヶ月間の教育により、考え方は共有できるようになっている。
戦場での立ち回り方は、ご主人様、カトレアちゃん、そして私とで打ち合わせも出来ている。
既に最前線同士がぶつかり合い出してから、体感で15分程が経過している。
両陣営、盾で敵の攻撃を防ぎつつ、槍で敵の盾の隙間を狙って突いたり叩いたりしている。
この時点ではどちらも一進一退。
負傷した兵は後退して、そこに補充要員が直ぐに入るので、あまり状況に変化は起きない。
ご主人様に与えられた任務は、この均衡状態を破り、カイヌ帝国軍に勢いを付けさせる事。
プァーーーープァーーーープァーーーー
指揮陣営よりラッパの音色で、ご主人様の出陣の合図が鳴らされた。
案の定、緊張感と重たい装備品で身動きの遅いご主人様に付き添って、敵の的になるのはゴメンである。
その為に私考案の木製装甲板を貼り付けた馬車を作製してあるのだ。
ご主人様を馬車の中に放り込み、6頭の馬車馬で引っ張り高速で移動する事にした。
馬車馬にも木製の甲冑で頭部と胴体を守らせている。
馬車馬の操作はキースさんから指導を受けたカトレアちゃんが担当している。
私も指導を受けたのだが、キースさん曰く私には素質がないらしい。
何故か私が手綱を握るだけで、馬達が暴れ始めてしまい、とんでもない勢いであらぬ方向へ突っ込んでしまうのだ。
飛び道具だけじゃなく、馬車の扱いも私はご主人様より使用禁止命令を出されてしまった。
何だよ〜、ちょっと屋敷の壁に3箇所、突っ込んで穴を開けただけなのに〜。
何でもかんでもダメダメ言っていては人は育たないぞ〜。
全く、ご主人様にはもっと広い心を持った御仁になって欲しい。
いくら壁に突っ込んでも、青い顔で黙って見ていてくれた親方様を見習うべきだろう!
何故かその後、親方様が寝込んでしまったが、それは以前から体調不良なご様子があったから仕方のない事だ。
たぶん、私とは関係ない。
そのままの勢いで最前線へ突っ込んで行く。
「カ、カエデー! こわいこわいこわいー! えっ! 前線の直前で止まる手筈じゃぁ無かったのー!?」
「カトレアちゃん、ご主人様からの伝令『このまま敵陣に突っ込め』だってさー」
「さすがご主人様です〜、勇ましい事この上ないそのご覚悟〜、尊敬しま〜す!」
「2人とも僕の声聞こえてるよねー!? 僕は聞こえてるから、2人も聞こえてるよねー!? 絶対ワザとだよねー!?」
私の隣でご主人様が泣きながら何か騒いでる。
しかし、馬車が激しく揺れるから、上手く口頭での会話できないのは仕方のない事なのだ。
決して私に馬車の使用禁止命令を出した事に対する、腹いせ行為などでは断じて無い。
そこからカイヌ帝国軍が次々と敵陣営へ流れ込み、敵は大混乱に陥った。
その日は敵陣営のど真ん中まで突き進み、数えきれないブリード王国兵を馬車で弾き飛ばし、程なくしてUターン。
味方陣営方面まで同様の方法で帰っていった。
馬車での特攻中、カトレアちゃんは馬車の操作にのみ集中。
私はご主人様の指示をカトレアちゃんへ伝令(改ざん済み)謙、敵の攻撃から2人を防御。
ご主人様は馬車の中で震えながら、敵からのヘイトを買う。
見事な3人の連携により、この日は大戦果を挙げて、無事帰還する事が出来たのであった。
味方陣営へ帰還した私達は大歓声の元、迎え入れられた。
青い顔をしてはいるが、ご主人様は手を振って歓声に応えている。
そこは貴族の勤めとして、無理矢理にでも応えている様だ。
この日の戦で、ご主人様を唯一褒められるポイントはここだろうね。
他は
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