EP34【そして私は大天使へ】

 ご主人様が不思議な事を私へ問いかけて来た。


 自分を殺そうと、襲撃して来た者の命を助けられないか、だと?


 「しょ、正気ですか? この者達はご主人様の命を狙った敵国の兵ですよ!? いくら何でも、お人好し過ぎではありません?」


 あまりにも予想外なご主人様のご要望に、私は困惑してしまう。


 というか、この状況で何故私がどうにかできると思ったのだ?


 まぁ、できるけど、、、。


 「いや〜、だって、このままだと後味が悪すぎて、、、助けられる命は助けたい、というか、、、カエデなら何とかできるんじゃないかな? って、何となく思っちゃって、、、ダメ、、かな?」


 この人はいきなり、とんでもない感の良さを発揮されるな〜。


 思わず感心してしまう。


 そして、屈みながら上目遣いで私を見つめて来る。


 やめろ〜!!


 男のくせに、キラキラウルウルした目で可愛子ぶるな〜!!


 何故かご主人様の事を、可愛く思えてしまった自分を殴りたい!


 全く、私のご主人様は人の調子を崩すのがお好きなお方だ。


 仕方がない。


 「魔法の使用許可を頂ければ、助ける事ができるかもしれません」


 「えっ!?」


 私の返答が予想外だったのだろう。


 ご主人様は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


 自分から頼んでおいてそれはないだろうよ、ご主人様。


 「ですから、傷ついた体内の血管と皮膚の接合ぐらいなら、魔法さえ使えれば私でもできるかも知れません。 その為に奴隷の首輪の効果で制限されている魔法の使用を、ご主人様が許可していただければ、それが叶います」


 私は淡々と説明するが、本当は許可など必要としていない。


 あくまでも奴隷の首輪の魔改造を誤魔化すための口実に過ぎないが、堂々と魔法を使うには必要な行程だった。


 「わっ、わかった、魔法の使用を許可する。 お願いだから助けてあげて」


 「はぁ〜、、、かしこまりました、でもその優しさはいずれ命取りになりますよ。 今後、気を付けてくださいね」


 「あぁ、ありがとう、カエデ」


 ご主人様は泣き笑いしながら私に礼を言って来る。


 本当にこの人はよく分からない人だ。


 ご主人様から魔法の使用許可が降りたので、私は目の前の重傷人2人に手を当てる。


 魔力感知で、体内の傷ついた血管を確認、細胞を動かして繋ぎ合わせる。


 そのまましばらくすれば血液内の血小板が蓋をしてくれるので、暴れなければ時間をかけて治す事が出来る。


 それと平行して皮膚も同様の措置で塞ぐ。


 そのまま30分ぐらい魔力を流し続け、血流も調整する事で何とか2人とも命を救う事ができた。


 これにてミッションコンプリート。


 「嘘だろ!? さっきまで死にかけていたのに、顔色が良くなって来た!」


 「これが人間に許された力なのか?」


 「彼女は天使なのか?」


 「何と慈愛に満ちた人なんだ!」


 「女神様〜!!」


 さっきからブリード王国兵の生き残りより『慈愛』だの『天使』だの『女神』だのと、クレアさんと一緒になって生き残りを始末しようとしていたはずの私を、何故かあがめている。


 こいつら、頭お花畑なのかな?


 ご主人様も泣いて喜んでいる。


 カトレアちゃんは寝てる。

 

 って、おい!


 カトレアちゃんは『殺すの可哀想』派の人間だっただろうが!


 もう少し興味を持っておこうよ!


 クレアさんとキースさんは、野営の準備を終えている様だ。


 この2人は常に冷静な人達だな〜。


 その日の晩はキースさんとクレアさんが交代でブリード王国兵の生き残りを見張り、ご主人様は馬車の中で眠り、私とカトレアちゃんは馬車の隣で眠った。


 翌朝、私が目覚めたら重傷だった2人も意識を取り戻しているのが分かった。


 念の為、激しく動くと傷口が開くから『絶対安静』を言いつけておいた。


 「深く感謝いたします、天女てんにょ様」


 こいつら『天使』なのか『女神』なのか『天女』なのか、呼び方を統一したらどうなのだろうか?


 ちなみに私は『奴隷ペット』だ!


 「お礼なら、私のご主人様へ言ってください、私は1度、あなた達を見殺しにしようとしていました。 ですが、ご主人様があなた方を救う事を望まれたので、助けただけの話です」


 私は勝手にヒートアップしてるブリード王国兵を、少しクールダウンさせる為に敢えて冷たくあしらってみた。


 「何と! 天女様のご主人様という事は、まさか神が我らの生存を望まれたという事ですか!?」


 「おぉ、主よ! 慈悲深き我等が創造主よ!」


 「罪深き我等をお救になる為に、天女様をお使いになられた事、心の底より感謝いたします!」


 ダメだこりゃ、何言っても逆効果にしかならない。


 私はもう放置する方針で行こうと結論付ける事にした。


 「カエデちゃ〜ん、終わった〜? もう出発するよ〜」


 「は〜い、もう良いで〜す」


 クレアさんの呼び声に元気よくお返事する私の後ろで『なるほど、使カエデ様か!』とか聞こえた気がしたが、もうどうでも良い。


 この後ブリード王国兵の生き残り達で、元気な者は馬車の後ろを歩かせる事にした。


 当然ただ歩かせるだけでは逃げられてしまうので、全員ロープで首と手を結び、その先を馬車に括り付けてある。


 妙な動きをしたらカトレアちゃんの矢とか、クレアさんの投げナイフが飛んでくる事を説明済み。


 彼らの連れていた馬達も有効活用して、全部で14頭の馬車馬として4頭ずつローテーションで楽々馬車を引いてもらっている。


 あり得ない馬の数をキースさんは何事もない様子で操っている。


 相当優秀なイケオジである。


 クレアさんのお手付きで無ければ、私が手を出していた逸材いつざいだ。


 私とご主人様は馬車の中で、重傷人2人の見張り兼、看病役だ。


 馬車の揺れで傷が開きそうになったら、即座に私が魔力を流し、正常化している。


 ご主人様はただそこにいるだけだ。


 重傷の2人ではあるが、普通に会話をできるぐらいには回復しているようだ。


 「重ね重ね感謝いたします、大天使カエデ様」


 「その呼び方やめてもらえません?」


 涙目で何度もお礼を言ってくるのが鬱陶うっとうしい。


 「何でカエデが大天使なんだ?」


 「誰のせいでこうなったと思ってるんですか!?」


 私は軽くひじでご主人様の脇腹を小突く。


 しばらくうずくまって静かになるご主人様。


 私の言いたい事が伝わったようで何よりだ。


 「カエデ様はどこか、以前お仕えしていた邸のご令嬢に似ている気がします」


 重傷人の1人が何やら気になる事を言って来た。

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