EP32【ただの歳の差カップルじゃなかったの!?】
帝都エサバでの用事を済ませ、私達ハーネス侯爵家一行は馬車にて帰路に着いていた。
私はしばらくカトレアちゃんと談笑しながら、のどかに馬車での道中を楽しんでいた
帝都エサバを出てから約半日後、何もない街道をゆっくり進んでいた時の事だ。
1km先の岩場から10人、剣や弓矢、槍等で武装して、馬も3頭連れている集団が待ち伏せしているのが魔力感知で分かった。
あからさまに戦闘準備を整えた集団だが、まだ我々を狙った待ち伏せとは確定していないので、ギリギリまで様子を見よう。
一応、買ってもらったばかりのショートソード2本をいつでも使える様に手元に置く。
武装集団までの距離、残り800m。
岩場からこちらを覗き込み、望遠鏡の様な筒越しに我々を視認した様子だ。
私は馬車の前方へ移動して、いつでも飛び出せる様に身構える。
「えっ、何、どしたの?」
「カエデ姉さん?」
ご主人様とカトレアちゃんは、不思議そうに私へ訊いて来る。
「ちょっと、前が、気になりまして、、、」
私は武装集団から意識を逸らさない様、簡素に応えるだけに留めた。
武装集団までの距離、残り600m。
武装集団の内、3人の男達が横一列、1.5m間隔で拡がり、弓矢を構える。
ほぼ襲撃される事が確定した様だ。
私以外のハーネス侯爵家一行は、誰1人狙われている事に気が付いていない。
「カトレアちゃん、弓矢の準備を、ご主人様、樽の陰とかに隠れてください」
「えっ、何なに、怖い!」
私の指示にご主人様は狼狽え、カトレアちゃんは静かに頷き、弓矢の準備を始める。
「カエデちゃん、どうしたの? まさか敵の気配でも感じ取ったの?」
馬車に同乗していた女性の使用人が、私に訊いてくる。
この人はご主人様と違い、やけに冷静だ。
「はい、約250馬身ほど先に剣、槍、弓矢、それに馬3頭を連れた武装集団が10人、我々の存在に気づき、岩場に隠れて臨戦態勢です」
「そんなに遠くの敵を把握できてるの!? さすがは戦闘民族カエデちゃんね」
いつぞやの親方様による発言の影響で、私がどこかの戦闘民族出身者という誤解が、ハーネス侯爵家内に浸透してしまっているようだ。
実に不本意ではあるが、この状況に違和感を感じて疑われるよりは良い。
「聞いたわねキース、敵が前方で待ち伏せしているから、馬車を停めて様子を見ましょう」
「分ったクレア、我々も久しぶりに戦闘準備と行こうか」
へ〜、この女性の使用人がクレアさんで、馬車馬の手綱を引いている初老男性の使用人がキースというのか。
今更だけど初めて知った。
「二人とも息ぴったりですね、さすがはベットで乳繰り合っ、、、、」
すごい勢いでクレアさんに口を塞がれた。
「そーねー、父のように信頼しているからねー、それ以上はあまり言う必要はないわよー、じゃないとー、うっかりカエデちゃんの夕食のシチューが減っちゃうかもしれないからねー」
おっと、食べ物を人質に取られてしまった!
クレアさんの作るシチューはかなりの絶品だから、これ以上余計な事を言うわけには行かない。
私は口を塞がれながらウンウンと頷き、解放された。
武装集団までの距離、残り200mの所で馬車は停車し、キースさんは御者台から個人携行型の望遠鏡で武装集団を確認している。
武装集団は待ち伏せに気が付かれた事を悟り、何やら岩の陰で話をしている。
すると岩の陰から煙が立ち上っているのが見えた。
どうやら呑気に焚火を始めたようだ。
キャンプファイヤーでもしているのだろうか?
折角だから馬車に積んでる芋でも一緒に焼いてもらって、ランチにするのも良いね。
「いかん、狼煙だ、新手が来るぞ!」
キースさんがいきなり叫ぶと同時に私の魔力感知に反応あり。
馬車から見て右側後方と左側後方より、それぞれ5人ずつ馬で急速に接近してくる武装集団を確認した。
完全に包囲されて前方の集団も距離を詰めてきた。
武装集団の総数20人。
対する我々ハーネス侯爵家一行は5人。
1人はご主人様で、まともに戦力として見れない。
クレアさんとキースさんは雰囲気的にただ者ではない気がしてきたけど、多勢に無勢だろう。
カトレアちゃんの弓矢の腕前は大したものだが、所詮は単発での攻撃なので、距離を詰められたら限界がある。
ただの
これは完全に詰んだかな?
私が降参も視野に入れていた時、クレアさんが笑顔で声をかけてくれた。
「カエデちゃんは前方の10人をお願い、キースは右後方、私は左後方、カトレアちゃんは私たちが打ち漏らした敵が馬車に近づいたら矢で仕留めてね」
「「へ?」」
クレアさんの冷静な指示だしを聞いて、私とカトレアちゃんは、つい間抜けな声を出してしまう。
「頼んだわよ、行動開始!」
クレアさんが号令をかけた途端に、御者代のキースさんと荷台内のクレアさんが飛び出して行った。
えっ、2人とも武器は?
私が疑問に思った時には既にクレアさんがスカート内に隠していた数本のナイフを取り出し、キースさんが持っていた杖から細長い剣が抜き出されていた。
あんたら一体何者だ〜!!
そんな感想を抱きつつ、私は指示された通り、前方の10人の武装集団へ突撃して行った。
数分後、馬車の中で震えながら待っていたご主人様の元へ2人の使用人と1人の奴隷が戻って来た。
3人とも全身にたくさんの返り血を
もはや恒例となった、ご主人様の『どこでも眠ってしまう癖』が発動したのは言うまでもない。
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