第2章、戦乱突入にする、ご主人様編
EP31【帝都旅行! そして不審な蠢き】
やって参りました、帝都エサバ!
ここへはハーネス侯爵領より、馬車で丸1日の距離だった。
旅のメンバーは私のご主人様こと、ロイ・ハーネス様。
使用人メンバーより、初老(私好み)の男性と20代後半の女性の2人。
奴隷メンバーより、私ことカエデと、後輩奴隷のカトレアちゃんの2人。
全部で5人の帝都旅行だ!
だが当然、観光目的などではない。
開戦まで2ヶ月を切っている中、急いで戦支度をしなければならない為、帝都までわざわざやってきたのだ。
ここ帝都エサバには腕の良い
その技師達を頼りに、ご主人様の鎧の仕立てや武器の購入にやって来たのだ。
もちろんカイヌ帝国の貴族は、基本的には自分で戦わない。
あくまでも遠距離からの狙撃や、奇襲攻撃に対応する為の装備品である。
実際に前線で戦うのは我々の様な奴隷達や、平民の徴兵された人達、そして職業軍人達だ。
そして、ご主人様の装備品の仕立てのついでに、私とカトレアちゃんの装備品も購入する様だ。
つまり、ご主人様だけの参戦ではなく、私やカトレアちゃんも戦の巻き添えを食うことになるという事だ。
奴隷の装備品はご主人様と違って、既にある店頭の中古品の中からサイズの近い物があてがわれる。
正直に言うと、私は自前の魔力で高出力バリアや魔力刃、物の射出(ノーコン)等が使えるので必要ないのだが、買ってもらえる物は貰っておこう。
カトレアちゃんは、お兄さんに似てクロスボウや弓矢等の飛び道具が割と得意だと言っていた。
止まっている
50m離れても人体のどこかは射抜く自信があるとの事。
羨ましい限りである。
だが、実際にその実力を見たわけではないので、本当かどうかは疑わしい。
ちなみにこの世界では何mという長さの単位は存在していない為、何
だからかなりの誤差はある。
カトレアちゃんの証言により「25馬身先」という表現だから、大体50mぐらいと私が想像しただけの事だ。
この世界の馬は、日本にいた頃に見た馬と比べ少し小さめな印象だ。
栄養状態や育成環境で変わるのだろう。
私自身も何故か10才にしては発育が遅い気がするが、関係あるのかな?
私が自分の身体的コンプレックスに若干気落ちしていたら、防具屋へ到着した。
そこで、ご主人様の鎧の採寸をしてもらっている間に、私とカトレアちゃんの防具を女使用人に付き添ってもらいながら、中古品を物色している。
程よい胸当てや小手、脛当て、額当て等を2人分購入してもらった。
ご主人様は全身鎧をご購入される予定だそうだけど、あの貧弱な身体で扱えるのだろうか?
戦場で私が身動きの取れないご主人様を、お姫様抱っこで移動する光景が今から目に浮かぶ。
続いて武器屋に到着!
ここではそれぞれに自分の身体に合った武器を選ぶ事になった。
ご主人様は自身の半分くらいの長さの両刃刀を選んで購入されていた。
構えている所を見させてもらったが、プルプル剣先が震えている。
これは緊張しているのではなく、剣が重くて安定感がない為の震えである事は、誰の目から見ても明らかだった。
しかし、本人は相当気に入っている様なので、誰も意見は言わない。
はたして、これは優しさという物なのだろうか?
カトレアちゃんはやはり弓矢を選択していた。
武器屋の裏に広場があるので、そこで弓矢の試射ができる。
さっそくカトレアちゃんの腕前を確認する事になった。
ターゲットとして、人間の胴体より少し太めの樽が、20mぐらい離れた所に置かれてある。
そこに向けて、カトレアちゃんは綺麗な姿勢で矢を放った。
矢は樽のど真ん中に命中する。
本当に弓矢が得意の様だ。
次に先程のターゲットの上に置かれてある、欠けた陶器のコップへ向けて矢を放つ。
今度も見事に命中してコップは砕け散った。
だが、本人曰く動いているターゲットへ当てるのは苦手らしい。
それでも中々の腕前なので、その場にいた店の関係者や他の客から大絶賛の嵐だった。
カトレアちゃんはその褒め言葉に対し、元気な笑顔で応えて手を振っていた。
私と違って褒め耐性が強い様だ。
私だったら、つい赤面してしまうので、そこもまた羨ましい。
試しに私も弓矢を試射させてもらったが、ターゲットから大きく外れて場外ホームランを決めてしまったり、矢を放った瞬間に何故か真上に飛び、勢いを失った矢が戻って来て、ご主人様の足元に突き刺さった。
たったの2回のミスショットなのに、速攻で私から弓矢を取り上げられた。
私はご主人様より『二度と飛び道具に触れるな』と命令を受けたが、それは今後の気分次第だ。
結果的に私の武器はショートソード2本となった。
『1本あれば充分だろう』とご主人様が言ってきたが、飛び道具禁止令を出された腹いせに、もう1本買ってもらうまで、ダダをこねてみた。
店員や他の客の目を気にした為か、私の見事な交渉の効果によりすんなり買ってもらえたのだった。
「あんた、主人として、それで良いのかい?」
武器屋の店主さんが冷めた目をしながら訊いてくるが、ご主人様は苦笑いだけして何も応えられずにいた。
そんなこんなで、本日の帝都でのショッピングは終わり、みんなで宿屋にやって来た。
宿屋では貴族用の豪華な部屋、使用人用の簡素な部屋、奴隷用のな小汚い部屋があった。
ご主人様と使用人2人はそれぞれのランクの個室が割り当てられ、私とカトレアちゃんは奴隷用の小汚い部屋にて同室となった。
奴隷部屋の鍵はご主人様が預かるが、特に閉じ込められる事はなかった。
日頃からの信用の現れなのだろうと思っていたら『どうせ閉じ込めても無駄だろう』と、なんだか諦めた様な表情で説明された。
うん、無駄だね!
信用はされてないが、理解はされている様なので、なんだか誇らしい気分だ。
それぞれに食事を終えて、もう就寝の時間となった。
カトレアちゃんは速攻で眠りに就く。
私も就寝しても良いのだが、せっかくの帝都なのだから、少し夜の散歩に行こうと思い、こっそりと宿を抜け出してみた。
もちろん幻影魔法で姿を消すのは忘れない。
まず最初にやって来たのは帝都図書館。
既に閉館時間なので、中は真っ暗だ。
慣れた手つきで裏の扉の鍵を開けて侵入。
帝都にいるのは明日の朝までだから、今夜中しか図書館を物色できない。
こんな時に瞬間記憶能力とかあれば、多くのページを視界に入れるだけで、いつでもその内容を思い出して脳内読書ができるのだが、私にはそんな特殊能力はない。
なので、特に重要な書物だけを重点的に読み込んでいく。
帝国全土の地理。
物の相場。
帝国の軍事力並びに、近隣諸国との兵力差。
等など、ほとんど禁書保管庫にて閲覧していった。
もう直ぐ日の出なので、私はこの辺で撤収する事にした。
宿に戻ると魔力感知にて、ほとんどの者は寝静まっているのが分かった。
しかし、一部屋だけモゾモゾ
そこは使用人の初老男性に割り当てられた個室だ。
よく見ると1人ではない。
もう1人は、、、女使用人!?
あれ、絡み合っている!?
あっ、これ見ちゃいけない奴だ!
そういえば、普段からこの2人の使用人は距離感が近かったが、まさかこういう関係だったとは!
親方様&奥方様のペアだけでなく、こんなにも盛んなペアがいたとは!
前世を含め、異性との付き合いのない私に対して、どいつもこいつも見せつけやがって!
こうなったらやる事は1つだ!
翌朝食時、やけに距離感の近い使用人2人の背後に私はそっと忍び寄り、あの有名な一言を囁いてみる。
「ゆうべはお楽しみでしたね♪」
2人は盛大に吹き出して、ご主人様とカトレアちゃんから思いっきり非難を受けていた。
そして私は口止め料として、メインの厚切りベーコンを一切れず2人から渡されたのであった。
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