EP29【後輩奴隷にご案内】

 自称『ソビビアの夜明け』の残党であるカトレアちゃんを奴隷とすべく、私へ新しい奴隷の首輪を手渡してきたご主人様。


 その奴隷の首輪をカトレアちゃんへ装着する役目を私へ託したのが、ご主人様の敗因だった。


 私は受け取った奴隷の首輪に魔力で込められた条件『強制的に服従する』を『気が向いたら言う事を聞くだけは聞く』へと書き換えたのだ。


 要するに私の着けている奴隷の首輪とほぼ同じ仕様に魔改造したのだ!


 ほぼ同じなだけで『主の許可なく魔法を使えない』という条件だけはそのままだ。


 カトレアちゃんが魔法を使えるかどうかは知らないが、もし魔法が使えて暴れられると面倒なので、このままという事にした。


 これで、ご主人様は私とカトレアちゃん、2人の奴隷の主となったのだ!


 だが、2人とも自由にさせていただく事になるのだがね。


 未だに床へ崩れたままのご主人様が少し不憫ふびんなので、私はなぐさめるべく声かけを行う事にした。


 「ご主人様、おめでとうございます。新しい奴隷の獲得ですね! まぁ、ご主人様は奴隷の扱いが超が付くほど下手くそだから、命令に奴隷が従わないのは仕方のない事です! だから気にしな〜い気にしない!」


 私が優しくご主人様の肩をポンポン叩くと、いきなり立ち上がり、泣きながら3階の自室まで走って行かれてしまった。


 そんなに強く叩いたつもりは無かったけど、痛かったのかな?


 「って! これ奴隷の首輪じゃないですか〜!? えっ! 何で? 何で私、奴隷の首輪着けてるの!?」


 今ごろになって、ようやく自分が奴隷にされている事に気がついたカトレアちゃん。


 分かりやすく動揺している。


 可愛いね。


 私はカトレアちゃんへ簡単に経緯を説明した。


・『ソビビアの夜明け』の残党を名乗った以上、自由の身にはできない事。


・憲兵へ引き渡すと一生鉱山奴隷となってしまうから、侯爵家ロイ・ハーネス様がご主人様となり奴隷という形で保護する事。


・奴隷とはいえ、ご主人様は命令が下手くそだから、本当に嫌な命令には従う必要がない事。


・お兄さんは貴族を殺害しちゃった罪があるけど、鉱山で奴隷として元気にやっているであろう事。


・カトレアちゃんの方が背は高いが、私の方が歳上でお姉さんである事。


 一気に色々と伝えたので、カトレアちゃんは少し困惑顔だが、理解してくれた様だ。


 分からなくなったら、また聞いてもらおう。


 その為の先輩として私がいるのだから!


 本日2回目となる胸を張るポーズを取る。


 しかし、その張っている胸の実物部分とカトレアちゃんの物と比べてしまい、少し落ち込む。


 気を取り直して、続いてハーネス侯爵邸の案内がてら家主である親方様へ、新任の挨拶へ行こう!


 私達の直属の上司はご主人様だが、その上には組織のボス? 社長? 経営者? CEO? 的なポジションの親方様がいるのである。


 よって親方様への挨拶は、新入社員の勤めなのだ。


 という事でやってまいりました、3階の親方様のお部屋!


 部屋には鍵がかかっている様だが、合鍵は既に作ってある(勝手に)ので、問題なく入れる。


 ドアをノックして返事を待つ。


 「誰だ?」


 「カエデとカトレアちゃんで〜す! 新人奴隷の挨拶あいさつに参りました〜!」


 言うと同時に入室した私に親方様びっくり!


 「え!? 鍵かけて無かったっけ?」


 「大丈夫です。鍵かかっていました」


 「何故入れた?」


 「お返事して頂けたので」


 「意味が分からない」


 「『鍵が閉まっていると入れない』という常識に対して私が興味無かっただけの事です」


 親方様と私による会話のキャッチボールをカトレアちゃんへ披露し、組織のトップと末端の人間との仲の良さをアピールしておく。


 何かを諦めた表情の親方様が、私からカトレアちゃんへ視線を向け直す。


 「カトレアだったね、無事ロイの奴隷となれたらようで何よりだ。これで鉱山奴隷にならずに済むな、ところでロイは一緒じゃないのか?」


 「ご主人様はカトレアちゃんへの命令まで上手く出来なかったので、泣いて自室にこもっています」


 私の言葉により親方様は片手で両目をおおい、天井を向いている。


 これが世に言う『あちゃー』のポーズだ。


 カトレアちゃんも面白そうに見ている。


 さすがは親方様、奴隷に対してもユーモアのセンスを披露している様だ。


 組織のトップの鏡と言えよう!


 親方様への挨拶も終えたので、今日はもうお部屋へ案内する事にした。


 幸い空室がまだあったので、そこに案内してゆっくり休んでもらう。


 奴隷業務や同僚への紹介がまだできていないが、それはまた明日にしよう。


 今夜はもう遅い。


 良い子は寝る時間である。


 明日の朝、起こしに来てあげよう。


 一応、魔力感知で逃げ出さないかどうか、監視はしていたが全くその様子は無かった。


 順応、早すぎないだろうか?


 この子は本当に放っておくと、悪い人に直ぐ騙されそうだ。


 私達がしっかり守って行こう。


 これは多分、ハーネス侯爵家一同の暗黙のルールとなると思う。

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