EP28【後輩奴隷ゲットだぜ!】

 「んな! いつの間に!? まさか、会話で私の注意を逸らしている間に、密かに包囲を完成させていたというの!? 騙したわねカエデ!!」


 「「「「いや、気づけよ!!!」」」」


 私を含め、複数名から一斉にカトレアさんへ激しいツッコミが入った。


 ハーネス侯爵邸からは焚き火の灯りと煙により、ここで私達がキャンプファイヤーをしているのは直ぐにバレていた。


 何事かと『侯爵家男子会』メンバーが堂々と私達の周りを取り囲んで来ていたが、鈍感過ぎるカトレアさんはそれに気が付かず、そのまま重要な事をペラペラと話していたのだ。


 「いや、その、決して『密かに包囲』した訳では無いのだが、、、気づいてなかったのかい?」


 親方様は、何故かバツの悪そうな表情でカトレアさんに話しかけている。


 「へ?」


 間抜けなリアクションをするカトレアさん。


 私はこの子の将来が心配になってきたよ。


 「え〜と、とりあえず『ソビビアの夜明け』の残党という事だから、拘束させてもらう事になるのだけれども、、、、何か食べる?」


 親方様は最近、他人へ親切にするのが癖になっているのかな?


 特に役に立っていない者にまで、色々と優しくしているご様子がよく見受けられている。


 まさか襲撃犯の残党にまで優しさを振り撒くとは、逆に恐ろしい人である。


 対するカトレアさんは力強く『ウンウン』と頷いている。


 お兄さんから『知らない人から物を貰ってはいけません』とか、教わらなかったのかな?


 重ね重ね、カトレアさんの将来が心配だ。


 カトレアさんは『侯爵家男子会』メンバーに囲まれて、侯爵邸の中へ連れて行かれた。


 私はご主人様から焚き火の後始末を命令されたので、とりあえず従っておいた。


 焚き火の後始末を終えた私は侯爵邸へ戻り、食堂にて女使用人達に囲まれ、笑顔で食事しているカトレアさんを目撃した。


 「餌付えづけけされてる」


 「やっぱりそう見えるよな、あれ」


 私の呟きに、ご主人様も隣に立って同意している様だ。


 カトレアさんは食事しながら、女使用人達にから時々頭をなでなでされてたり、口周りに付いたソースを拭き取られたりしている。


 お子様かよ。


 「さっき聞いたけど、あいつまだ9歳だってさ」


 「え!?」


 ご主人様から衝撃の情報が提供された。


 まさかの歳下だと!


 背は私とご主人様の中間ぐらい。


 胸は私の(偽装)と同じぐらいだし。


 だからてっきり少し歳上かと思っていたのに、何か負けた気分になった。


 「ふふっ、お前より少し大っきいな」


 ご主人様は私を横目で見て、からかって来るが私が睨み返すと直ぐに視線外した。


 ご主人様如きが奴隷に舐めた事を言うとは、後でお仕置きが必要だな。


 「それでな、父上からカトレアを奴隷にしてみる事を勧められたんだよ」


 「え、奴隷に!? 憲兵に引き渡すのではなくて?」


 ご主人様によると、カイヌ帝国にてテロリストが憲兵に捕まれば、裁判なしで鉱山奴隷にされてしまい、一生鉱石を掘ったり運んだりの重労働をさせられる事になるそうだ。


 先の襲撃犯『ソビビアの夜明け』のメンバーも例外なく鉱山へ送られているであろう事も、教えてくれた。


 カトレアちゃんを鉱山奴隷にするのは可哀そうだ。


 でも『ソビビアの夜明け』のメンバーであると自白している彼女を、自由の身にする訳にもいかない。


 どうせ奴隷になるなら我が侯爵家の奴隷として、預かってあげようという話になったそうだ。


 「私はてっきり『ソビビアの夜明け』メンバーは、皆さん死刑になったと思っていました」


 「恐ろしい事を言うなよ! カイヌ帝国はそんな野蛮な事をする国家では無い! 隣国のブリード王国みたいなのと一緒にしないでくれよ!」


 え、そうなの!?


 前世の日本や今世のブリード王国では、重犯罪者には死刑制度が適応される事が多々あった。


 だけど、カイヌ帝国には死刑制度はなく、その代わり一生鉱山奴隷になる刑があるそうだ。


 盗賊が立派な社会人扱いだったり、奴隷制度があったりする野蛮な国家だと思っていたけど、カイヌ帝国では死刑制度のある国の方が野蛮な国家扱いになる価値観らしい。


 また出たよカルチャーショック。


 これで何度目だろうか?


 これが母国を離れた人間が味わう『洗礼』というやつなのだろうね。


 しかしながら、お探しのカトレアちゃんのお兄さんは、鉱山で元気に奴隷のお仕事を頑張っているのだろう事が分かり、一安心である。


 まさか貴族を殺害しても死刑にはならないとは、カイヌ帝国は仁徳が厚いのか、それとも出来るだけ多くの奴隷が欲しいのか、どちらだろうね?


 試しに皇帝陛下を殺害してみる実験も面白そうだ。


 やらないけどね。


 たぶん考えただけで、不敬罪ふけいざいかな?


 バレない様にしよう。


 「それで、この奴隷の首輪をあの子に着けて来てくれないか?」


 「え、私が着けて来るんですか?」


 奴隷の首輪がハーネス侯爵邸に用意されていた事にも驚きだが、何故私がその役を担わされる事になるのかが疑問だ。


 「歳の近いカエデなら警戒もされにくいだろうし、抵抗されても軽く対応できるでしょ?」


 「なるほど、、、とはなりませんよ! 私を何だと思っているのですか!? か弱い女の子ですよ! 出来たとしても、その後恨まれそうじゃないですか! そんなの自らの手で、、、、、あっ!」


 そこまで言って私はある事に気が付き、反論を止めた。


 私は黙って、ご主人様から奴隷の首輪を受け取り、カトレアちゃんの元へ向かう。


 「え? いきなりどうして言うことを聞いてるの? 何か怖いんだけど?」


 「イヤ〜、どうやら私の奴隷の首輪が反応しちゃったみたいで〜、逆らえないですね〜、はっはっは〜」


 私は訝しむご主人様に対し白々しく笑って行動の理由を説明する。


 当然嘘だけどね。


 時には嘘も必要なのだよ!


 「嘘だ! その顔絶対に嘘だ! 何企んでるんだ、一度戻れー!!!」


 おっ!


 意外にも良い感してますね〜、ご主人様よ。


 残念ながらその命令は気が向かないので従えませんな。


 私は先程、からかってきたご主人様への良い仕返しを思い付いてしまったので、もう止まる事は出来ないのであった。


 さっそくカトレアちゃんの背後に到着。


 カトレアちゃんは相変わらず鈍感なので、後方に人が立つ程度では全く気が付かない。


 今はたくさんの食事に満足して、うっすら眠そうにしている。


 可愛いね〜カトレアちゃん。


 私はカトレアちゃんの首へ、奴隷の首輪を抵抗される事もなく装着する事に成功した。


 首輪を付けられたのに、全くのノーリアクションのカトレアちゃん。


 ひょっとして寝てる?


 「あれ!? 普通に首輪着けただけなの? 何かイタズラされると思ってたのに、ひょっとして本当に命令が聞いたのか?」


 おめでたい頭のご主人様は、私を不思議そうに見ている。


 とりあえず怪しまれないように笑顔で応えとこう。


 って、おい!


 ご主人様よ!


 今、私の笑顔を見て、背筋を震え上がらせていなかったか?


 全く失礼な人だ。


 そんなやり取りをした後、ご主人様は思い出したかのように、主の指輪を自身へ装着する。


 その瞬間、奴隷の首輪と主の首輪の間に静電気の様な光が走り、直ぐに消えた。


 これで、主従の強制契約は完了された。


 私には初となる、後輩奴隷カトレアちゃんの完成である。


 もちろん、先程思い付いたのは『初めての後輩ができる』なんて事に浮かれた訳ではない。


 既に私の手によって仕込みが行われているのだ。


 「よし! さっそく命令を試してみよう」


 ご主人様は、主の指輪を装着している右手を前に突き出し、命令を発する。


 「僕の新たなる奴隷カトレアよ、僕の前まで来て、跪け!」


 その言葉に反応したカトレアちゃんは、ゆっくり食卓から立ち上がり、ご主人様の前まで歩いて来る。


 そして、ご主人様の前で立ち止まった。


 「空腹のとのろ、美味しいご飯をたくさん食べさせてくれて、ありがとうございました」


 その場でペコリとお辞儀をするカトレアちゃん。


 礼儀正しくはあるが、それはご主人様の命令の『跪け』の体制とは違う。


 「ん?、、、そうじゃなくて、床に跪いて頭を下げろ!」


 その事に疑問を持ったご主人様は、改めて命令を発した。


 「何で?」


 カトレアちゃんは少し寝ぼけ眼で聞き返している。


 私はご主人様の真横で笑い声を出さない様にするのが精一杯だった。


 「また、ダメなのかぁぁぁぁぁぁ〜!!!」


 ご主人様は愕然がくぜんとして、両手両膝を床に付けて項垂うなだれてしまった。


 自から奴隷へ跪くとは、さすがは私の自慢のご主人様だ!


 私はとうとう腹を抱えて大笑いをしてしまい、カトレアちゃんは今、何が起きているのか分からずポカーンとしていたのだった。

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