EP26【仲直り、そしてまたご褒美(恥)】

 15分ほどご主人様をらしめて差し上げた後、お互いに落ち着くのを待って、親方様仲裁の元、仲直りが執り行われた。


 何故か他の奴隷や使用人達、奥方様までニコニコしながら見物している。


 そんな衆人環視しゅうじんかんしの元、仲直りの握手をする羽目になったご主人様と私。


 何だコレ、公開処刑か?


 見せもんじゃねーぞ!


 「続いて、今回の成人の儀式成功と、襲撃者撃退の功績を称えて、異例ではあるが、この女奴隷へ褒美を与える事とする!」


 ん!?


 何、この展開の早さ?


 とても付いていけない。


 「実はもう知っている者もいると思うが、我が息子、ロイは上手く奴隷を扱う事ができていない」


 親方様における衝撃の告白に、ほとんどの使用人と先輩奴隷達は驚きの表情を浮かべていた。


 「だがこの女奴隷は、奴隷の首輪の影響をほぼ受けていないにも関わらず、ロイの命令を聞き入れ、襲撃者撃退までも成し遂げてくれた」


 あぁ、もう奴隷の首輪が効いていない事は周知の事実にしてしまうのね。


 「世間的にはロイの『見事な奴隷使い』として認知される事となるだろうが、今回の件はこの女奴隷が機転を効かせた行動によってもたらされた結果だ」


 やめろ〜!


 超がつくほど恥ずかしい〜!!!


 「それに加えて、武器も持たずに1人で襲撃者全員を制圧してみせた、その腕前、おそらくどこかの戦闘民族の出身なのであろう!」


 いえ、至って普通の貴族家出身ですよ!


 素性バラしたくないから言わないけど。


 「それほどの腕前を持ちながら、奴隷の首輪も効いていないのにも関わらず、我が息子ロイの奴隷でい続けてくれて、命まで救い出したその功績、いくら感謝しても足りる事はないだろう!」


 何か、変に熱のこもった演説に、ただただ困惑する私だが、そこである事に気がついた。


 親方様の装着している主の指輪の宝石が光を放っている。


 それが原因か〜!!!!!


 親方様が装着している『主の指輪』には、以前、暇つぶしで私により魔改造が施された品だった。


 魔改造の内容は『この指輪を装着している者は、自分に対して都合の良い行いや、自分の為に行動をした者に対して、慰労や感謝の言動を強制的に行う』という条件の付与である。


 今回の成人お披露目パーティーにて、私が行った行動は、どちらかというとご主人様の為に近かった気がする。


 だが、この行動はハーネス侯爵家存続に繋がり、それは間接的に親方様の為の行動でもあった事になる。


 よって私が魔改造を施した主の指輪の効果が発動し、『慰労や感謝の言動』が行われたという事だった。


 つまり、この誉め殺しという名の公開処刑の原因を作ったのは、紛れもなく私自身だったのだ!


 痛いのは嫌だけど、今だけは過去の私を殴り飛ばしたい!


 「という事で、何か希望する褒美はあるかな? 対外的に知られる訳にいかないから、出来たら我が侯爵家の中だけで完結する希望だとありがたいのだが」


 そうか、特に決まったご褒美がある訳ではないのか。


 はて、何が良いかな?


 成人お披露目パーティーでの、命令に従う事によるご褒美は、別の形で既に受け取っているんだよね〜。


 コレだとご褒美の2重取りになってしまう。


 たぶん親方様は想定外の事態に対応した事による、追加報酬が必要と判断したから、この提案を出されたのだろう。


 くれると言うなら貰うけど、もう満足いく食事、快適な1人部屋は貰っている。


 オシャレは特に興味がない。


 これは困ってしまった。


 私はここまで無欲だったっけ?


 「私達にできる事ならば何でも良いぞ、女奴隷のしたい事や欲しい物、何かないか?」


 「帝国貴族の仲間入りができた事も、命を救われた事も僕は凄く感謝しているんだ、お前に何か報いたい」


 親方様もご主人様も、それぞれに『女奴隷』だの『お前』だのと雑に呼んでくる。


 私にはれっきとした名前があるのだが、、、あっ!


 「やってもらいたい事、ありました!」


 みんなが微笑ましく私を見てくる。


 その顔やめい!


 「あの〜、『女奴隷』とか『お前』じゃなくて、名前で呼んでもらっても良いですか?」


 「ん、名前、褒美ではなく?」


 私の希望に対して親方様が疑問の声をかけてくる。


 「ですから〜、その〜、名前で呼んでもらうのが、ご褒美というか、希望というか、やっぱり親からもらった名前の方が、呼ばれてて嬉しいですし、、、」


 お姉さん奴隷を始め、複数の使用人、奥方様まで、今のやり取りを聞いて、何故か泣き顔になってきた。


 え!?


 ここ泣きどころだったかな?


 「そうか、それが希望なら叶えよう! で、お前の名は何というのだ?」


 親方様が了承の意を示してくれたので、名乗らせてもらおう。


 ここで呼んでもらう名は、今世のオーシャン伯爵家令嬢の名前ではなく、前世の愛する両親からもらった名が良い。


 「私の名は『カエデ』です、改めて以後よろしくお願い申し上げます」


 大事な名なので、出来るだけ丁寧に自己紹介をさせてもらった。


 「こちらこそよろしくな『カエデ』」

 「変わっているが良い響きだな『カエデ』」

 「これからもよろしくねー『カエデちゃ〜ん』」

 「可愛いよ『カエデちゃん』すごく可愛いよ〜」

 「『カエデちゃ〜ん』ぎゅっとさせてー!」

 「ナデナデさせてー『カエデちゃ〜ん』!』

 「『カエデ』は俺の妹!」


 もう、どれが誰の言葉なのか分からないが、問題発言がいくつか混じっていた気がした。


 気のせいだろうか?


 その日以降、使用人達や先輩奴隷達、奥方様から特に用もなく名を呼ばれる様になって少し困っている。


 なんだか最近、私の行動が次々と裏目に出まくっている気がしてならない。


 不思議だね。

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