EP25【不意打ちの追加報酬】

 ご主人様の成人お披露目パーティは、予想外のトラブルが発生したが、結果的に大成功で幕を閉じた。


 パーティの主役のご主人様は、また『どこでも寝てしまう癖』が発生してしまったので、私がお部屋のベットまでお連れし、ゆっくり寝てもらった。


 さっきまで白目を剥いていたが、今は安らかな寝顔になっている。


 カイヌ帝国では13才が成人で大人扱いとなるらしいが、この寝顔を見ると、やはりまだ子供だ。


 周りの大人がしっかり守ってあげる必要があるだろう。


 私は10才なので、本当は他の大人に頑張ってもらうべきだけどね。


 さて、魔力感知でパーティ会場を確認してみよう。


 今回の『ソビビアの夜明け』の襲撃により、日雇い警備兵3人、帝国憲兵2人、ご来賓の貴族男性1人の合計6人が犠牲となった様だ。


 対する襲撃犯の『ソビビアの夜明け』メンバー8人は、私が手加減した事もあり、重症ではあるものの、漏れなく全員生きている。


 今は増援に駆けつけた他の憲兵に拘束されて、まとめて馬車へ乗せられいる。


 彼らも自分たちの祖国が占領されて、怒りに駆られてのテロ行為だったのだろうが、他に良い方法は無かったのだろうか?


 私には分からない。


 多分、彼らは極刑に処させるだろうから、私の恩返しは他のソビビア人に対して何か考えておこう。


 ご来賓の貴族の皆様は順次、自前の馬車へ乗り込んで、帰路に就かれている。


 本当は朝までご歓談されてから、自然解散となる予定だったが、事件発生を受けて予定が早まったみたいだ。


 パーティ会場の片付けは翌昼頃を予定していたが、既に使用人と奴隷により始められていた。


 あんな事があったのに、皆んな働き者だね。


 私も片付け作業に合流しなくては、せっかくの残飯がなくなってしまう!


 「あれ、パーティは、どうなった?」


 私がお部屋を出ようとしたタイミングで、ご主人様がお目覚めになられた。


 まだ寝ぼけ眼だが、先程までパーティ会場にいた事は理解しているご様子だ。


 「パーティは無事に終了致しました」


 私はその後ご主人様へ、ざっくりとパーティの結果を説明した。


・ご主人様が貴族の皆様より帝国貴族として、高く評価され認められた事


・事件によりパーティが早めに終わった事


・襲撃犯は全員拘束されたが、犠牲者も出てしまった事


 報告を聞いてホッとしたご様子のご主人様は、再びベットへ倒れてしまった。


 また『どこでも寝てしまう癖』が出たのかと思ったが、どうやら意識は普通にある様だ。


 「うまく貴族として認めて貰えたのは良かったけど、我が家主催のパーティで犠牲者がたくさん出たのは、やっぱり辛いな」


 何と!


 他の帝国貴族の面々は、『犠牲者は出たけど良いパーティだった』的な、お気楽発言をしていた。


 なのに私のご主人様は、貴族以外の警備兵も含む犠牲となった全ての者に対し悲しんでおられる。


 同じ帝国貴族とは思えない、人命を尊ぶお考えの持ち主の様だ。


 これはご主人様の奴隷として誇らしい限りだ!


 親方様に引き続き、ご主人様にも他者に対する思いやりの精神が身に付いてきたのかもしれない。


 奴隷として、陰ながら調教してきた甲斐があったという物だ。


 親方様に関しては、最近は人に感謝する事が快感に思えてきたらしく、自分から率先して感謝や労いの言葉をかけて回っている。


 そのお陰か、倦怠期だったであろう奥方様とのドライな関係が、ずいぶんとウェットな関係になっている。


 簡単に言うとラブラブだったりする。


 夫婦仲が良いのは素晴らしい事だ。


 でも前世と今世、合わせて異性と交際した事のない私から見ると、『見せつけてんじゃねー!!』という心境である。


 「お前には助けられたね、ありがとう」


 私が感動にふけっていると、不意にご主人様からの感謝の言葉が浴びせられた。


 それは以前の心がこもっていなかった、演習場での感謝の言葉とは別物。


 とても柔らかな表情で、心がしっかり込められた『ありがとう』だった。


 決してご主人様ラブな私では無いが、その言葉が、この上ないご褒美の様に錯覚してしまいそうになる。


 気をしっかり持て、私!


 私は決してショタコンなどでは無い!


 たかが13才のお子様にうつつを抜かしてどうする!


 あっ!


 今私は10才だから、ご主人様の方が年上か。


 「耳赤いよ」


 「うるすうぁいでぶょうやよ!」


 「えっ! 何語?」


 私はテンパって『うるさいですよ!』すら上手く発音できていなかった。


 「う〜」


 唸ることしかできない。


 「ぷっ! お前もそんな顔するんだな」


 吹き出しおったよ、このご主人様!


 その後、腹を抱えて失笑を続けている。


 私は堪らず、その場にしゃがみ込み、顔を手で覆っていた。


 「こんなに笑ったのは久しぶりだよ! 本当にありがとうなー!」


 うおー!


 人想いに殺せー!!!


 私がご主人様の言葉責めを受けていると、部屋の扉が開けられて、親方様が入室してきた。


 また魔力感知が疎かになってた。


 私、さっきから絶不調だ!


 「これは、どういう状況だ! まさか、この女奴隷を屈服させたというのか!?」


 断じて違う!


 ご主人様如きに私が屈服などされてたまるか〜!


 私はまだ赤い顔のまま、親方様を睨みつけた。


 親方様は自分の失言に気付いたのか、すぐに縮こまる。


 「違いますよ父上、ただ、コイツが予想外に可愛く見えて、つい笑いが、ぷっ!」


 また吹き出しおった!


 私を辱めるとは、良い度胸だな、ご主人様よ!


 「ロ、ロイ、その辺にしておいた方が、、良いのでは、無いか?」


 引き攣った笑みを浮かべながら、ご主人様へ忠告を出している親方様。


 親方様へは私の恐ろしさを『お仕置き』として、その身に刻みつけた事がある。


 当然の反応だった。


 「え?、、、あっ!」


 「うがぁー!!!」


 親方様の忠告はギリギリ間に合わず、私はご主人様へ飛び掛かっていた。


 「いやいや照れるなよ〜はっはっはっ、、って、いや力強っ!、、、というか、これは洒落しゃれにならない、、、ごめん、、、謝るから、、助けて〜!!!」


 残念ながら、今回のご主人様のご命令『助けて〜』は私の気が向かなかったので、無効となったのは、言うまでも無い事である。

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