EP23【襲撃!そして奴隷的制圧方法】

 「我々は革命組織『ソビビアの夜明け』である! 貴様らは我らが祖国を奪った、悪しきカイヌ帝国の主要貴族の面々だ! 抵抗すれば容赦なく殺していく! この男ようにな!」


 黒覆面集団は威勢よく名乗りを挙げて、見せしめと思われる警備兵の死体をパーティ会場の中央へ投げ捨てていた。


 あ!


 こいつ、さっき敷地内で立ちしょんべんしていた奴だ。


 パンツの紐が緩々で、半ケツ状態の死体。


 哀れな姿ではあるが、真面目に仕事をしていなかったツケを、命と尊厳で払う形となったこの男に、私は同情出来そうにない。


 白けた目で男の死体を見下している私の隣で、ご主人様が親方様へ小声で話している内容が聞こえてきた。


 「父上、『ソビビアの夜明け』とは何者なのでしょうか?」


 「奴らは昨年、帝国が占領した軍事国家ソビビアの残党だろう」


 へー、帝国ってブリード王国以外とも戦争してたんだね。


 そういえば『帝国は周辺国家をドンドン占領して領土を拡大してる』みたいな話をブリード王国にいた頃、耳にした気がする。


 『ソビビア』もそんな占領された国の1つだったのかな?


 「奴ら、祖国が占領された後も、各地で貴族や軍事関係者を標的に、殺害や誘拐事件を繰り返している野蛮な奴らだ」


 あれれ?


 確か帝国も、野蛮な侵略行為を繰り返してた様な気がしたけど、自分の事は棚上げしていく国家スタイルなのかな?


 「我々の要求は3つある! それが認められないのなら、この場の人質を皆殺しにする!」


 『ソビビアの夜明け』が提示して来た要求は以下の3つだ。


・祖国ソビビアの自治権の回復


・ソビビア国内に進駐している帝国軍の即時撤退


・ソビビア人奴隷の即時解放


 「そんな無茶苦茶な要求が飲める訳が無かろう! 敗戦国の負け犬どもが、分をわきまえろ!」


 ご来賓の貴族と思われるオッサンが1人、顔を真っ赤にして前に出てきた。


 今の要求ってそこまで無茶苦茶だったかな?


 私は疑問を浮かべずにはいられなかった。


 やはりカイヌ帝国の常識は、私からすると予想の斜め上を行っている様だ。


 まあ、盗賊が立派な社会人扱いされている様な国だから、何でもありなんだろうね。


 ドスッ!


 『ソビビアの夜明け』メンバーの1人が無言でクロスボウを放ち、騒ぎ出したオッサン貴族の眉間を撃ち抜いた。


 眉間を撃ち抜かれたオッサン貴族は膝から崩れ、地面へ倒れ伏した。


 見た限り即死だろう。


 今のは中々の早技だった。


 私ではとても真似できそうにない。


 貴族が1人犠牲になった事で、この場にいたご婦人の方々の何名かが泣き叫んでいる。


 無理もない。


 普段は滅多に人死にを目の当たりにする機会はないだろう。


 「他に意見のある者はいるか?」


 『ソビビアの夜明け』のリーダー格の男が冷酷な声で告げる。


 その言葉に震え上がり、パーティー会場内の参加者は再び静かになった。


 「意見は無いようだな、よろしい、ならば話を続けよう」


 リーダー格の男が満足そうな声色で再び話し出す。


 ここの襲撃と同時に帝都へ同様の要求を伝えてある事。


 要求が1つも通らなければ、日の出、正午、日没毎に人質を1人ずつ処刑していく事。


 ここには帝国貴族の中でも有力者が多く揃っていて、極め付けに皇帝陛下の従兄弟である公爵ご夫妻も参加している事。


 さすがに公爵ご夫妻まで人質に取られていれば、要求を飲むしかないだろうという事を、人質達に向けて高らかに伝えている。


 既に複数の警備兵や、楯突いたオッサン貴族を殺害している。


 ここから更に人質を殺害していくのに、躊躇ためらいはないだろう。


 どうしたものかな?


 このまま長時間大人しく待っているのは退屈だ。


 かと言って、自由にフラフラしていたら怒られそうだ。


 私がひと暴れすれば、この程度の戦力を制圧するのは簡単だ。


 だけど、この『ソビビアの夜明け』の言い分や境遇には共感できる面もある。


 何より私の出血ショーを、直前にウヤムヤにしてくれた恩もある。


 このまま退屈を我慢して待っていても、帝都の方で要求を飲まなければ人質は次々に殺害されていく。


 ・『ソビビアの夜明け』に対する恩返し。


 ・これ以上の犠牲者を出さない。


 ・ご主人様の成人の儀式の成立。


 ・私が痛い思いをしないで済む。


 達成すべき目標が4つ、これらを無事達成するならやっぱり、、、よし、やる事は決まった!


 まずはご主人様へ奴隷として、お伺いを立てよう。


 「ご主人様、大丈夫ですか?」


 「あぁ、今のところ大丈夫だ、でもどうしよう、死にたくない、誰か助けて〜」


 「かしこまりました!!」


 「へっ?」


 ご主人様からの命令『助けて〜』を受領したので、奴隷として堂々と行動開始だ!


 では、手始めにナイフを突きつけられているご婦人の救出からだね。


 私は足元に転がっている石を拾い上げ、右手に当てがう。


 ご婦人を拘束中の黒覆面を第1ターゲットにして、魔力により石を射出した。


 ガッシャーン!!!!


 「な、何だ!!!」


 その場の全員がパーティー会場横に置いてある、大きくて重たい花のオブジェが入った花瓶が突然粉砕した事に驚き振り向いた。


 あれれ!?


 私の放った石が第1ターゲットより2メートルほど外れて、花のオブジェに着弾したようだ。


 でも結果オーライで、第1ターゲットもそちらに注意を持って行かれた様だ。


 この隙に第1ターゲットへ一瞬で距離を詰めて、ナイフを持っている手を捻り上げる。


 「うっ、ぎゃぁ〜ああああ! 俺の手首がぁ、うっ!」


 手首を捻った後、うめき声を上げた第1ターゲットの溝落へ、やや深めに拳を打ち込んだ。


 堪らず第1ターゲットは意識を失い、地面に崩れ落ちて行く。


 第1ターゲットの体が地面に着く前に、次なるターゲットを選定する。


 第2ターゲットは、先程オッサン貴族へ向けて、見事な早撃ちを披露したクロスボウを持った黒覆面だ。


 第1ターゲットのうめき声を聞き、こちらに振り向く第2ターゲット。


 私は再び高速で距離を詰めるが、何とこの第2ターゲットは躊躇う事なく私の眉間に向けてクロスボウを放った。


 キーン!


 放たれた矢が私の眉間に着弾する瞬間に、眉間に展開された高出力バリアにより、甲高い音を立てて弾き飛ばされた。


 「はっ!?、って、うぎゃ!」


 いきなりの放たれた矢に私はびっくりして、つい手加減できずに、驚き変な声をあげた第2ターゲットを殴り飛ばしてしまう。


 文字通り殴り飛ばしたので、第2ターゲットは殴られた位置から5メートル程飛んでしまい、背後にいた太めの黒覆面に衝突してしまう。


 第2ターゲットは太めの黒覆面と共に沈黙した。


 あっ!


 今の太めの黒覆面は、第3ターゲットという事でよろしく。


 第2ターゲットは殴られた拍子に黒服面が脱げて、なかなかのイケメンフェイスが露わになった。


 だが、私はイケメンよりイケオジ派なので、ここは捨ておこう。


 私の正確で迅速な行動により、順調に3人のターゲットを仕留めた。


 私が『正確』と認識しているのだから、それは『正確』で間違い無い。


 細かい事は気にせず、第4ターゲットの選定を行う。


 残るターゲットは5人。


 さすがにここまで来れば抵抗をされている事に気が付き、近場にいる人質の殺害を試みる者もいた。


 最も早く人質に向けてナイフを振り下ろそうとしている黒覆面を、第4ターゲットにして距離を詰める。


 ナイフの切先が人質へ届く前に、第4ターゲットを掴み引き寄せて、そのままの勢いで会場の上空へ放り投げた。


 「うわぁ〜ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 パーティー会場の5メートル程の上空で叫び声を上げる第4ターゲットによって、残りの4人のターゲットの視界が一瞬上へと向く。


 その隙に新たに選定した第5、第6ターゲットの顔面を掴み、そのまま移動する。


 「うそだろ?」


 顔面を鷲掴みにした第5、第6ターゲットを、第7ターゲットへ向け、上から叩き付ける。


 余りにも現実離れしていた光景に、第7ターゲットは呆然としながら、第5、第6ターゲットと共に無力化された。


 第7ターゲットの無力化と上空に飛んでいた、第4ターゲットが地面に堕ちたのはほぼ同時だった。


 幸い第4ターゲットの落下地点には誰もいなかったから、2次被害はなし。


 落下地点まで考えていなかった為、一安心だ。


 残るターゲットはリーダー格の第8ターゲットだ。


 「そこの女、動くな!!」


 声のする方へ私が振り向くと、先程まで私がいたステージ上で、リーダー格の第8ターゲットがご主人様を腕で締め上げ、ナイフを突き付けている。


 あっちゃ〜、捕まっちゃったか〜す。

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