EP22【運命のパーティー、そして不審な陰】
いきなり結論だが、何の解決策も思いつかなかった。
あの汚物処理の日から、あっという間に3日が経ってしまったのだ。
つまりご主人様の、成人お披露目パーティ当日。
私にとっての試練の日だ。
ここまで切迫詰まったのは、今世では初めてかも知れない。
前世では毎年のように、似たような試練を乗り越えてきた。
両親に『あなたの為だから、辛いでしょうけど耐えてちょうだい』と、切実に懇願されていなければ、毎回確実に逃亡していた事だろう。
あの忌々しい『予防接種』という行事には成人を迎えても、父か母に手を握っていてもらっていなければ到底耐える事は出来なかった。
でも『予防接種』に関しては私が黙って、その試練をやり過ごせば、辛うじて終わることが出来る。
しかし、今回の試練に関して言えば、同じ対処法は通用しない。
他の内容はともかく、私は自らの皮膚を食い破り出血させて、ご主人様へ血液を献上しなければいけないのだ。
その為、黙っていれば全部やってくれる『予防接種』よりも、確実に難易度は上がる。
つまり、前世を含む、私史上最大の試練に違いないのだ!
ここには前世の優しい両親などいるはずもない為、当然手を握ってくれる人はいない。
いや、お姉さん奴隷に頼めば喜んで手ぐらい握ってくれそうだが、さすがに不自然過ぎる。
やはり手詰まりな現実は変わらなかった。
そんな無駄な思考を巡らせながら、本日は使用人と奴隷が総出でパーティ会場の準備をしている。
重たいテーブルや椅子、飲み物の入ったでかい樽、大きく重い花のオブジェの運搬等、重労働は当然奴隷のお仕事。
使用人は軽いテーブルクロスや食器、お料理の準備、参加者名簿の作成管理等、軽作業や事務作業員をしている。
この準備作業自体に一切不満は感じないが、着々と私の出血大サービスの舞台が出来上がっていくのを見るのは非常に憂鬱だ。
でも、決して逃げ出す訳にはいかない。
既にご褒美を受け取ってしまっている事もあるし、ハーネス侯爵家の1人息子のご主人様が爵位を継げないと、お家お取り潰しとなり、私は貧乏人の
いい加減、覚悟を決めよう!
私がそう決心したのは、既にパーティ会場の準備が整い、来賓の方々がほぼ揃っている頃、優しいお姉さん奴隷に抱擁されている時だった。
だって仕方ないじゃん!
痛いの怖いもん!
普段は避けまくるお姉さん奴隷の抱擁も、今回に限っては私から飛び込まざる終えなかったんだよ!
「ほら、頑張って、坊ちゃんがもうすぐ壇上に登るから付いて行かないと」
お姉さん奴隷はどこまでも、優しく私へ声をかけてくれる。
「、、、うん、、、頑張る、、、」
私は渋々、ご主人様の後ろに控えて、一緒にステージへ進んでいく。
ステージ上で親方様が元気良く、1人息子である私のご主人様の紹介をご来賓の方々へしている。
私が緊張しているせいか、内容はあまり頭へ入ってこないが、どことなく親バカ発言がちらほら聞こえる気がする。
ご主人様もその内容に赤面されているご様子だ。
お気の毒に。
親バカ様、もとい親方様の痛々しい息子自慢スピーチが終わり、いよいよ本日の主役、私のご主人様がお話しする番だ。
先程の親バカスピーチで相当やり辛いだろうが、どんな自己紹介をみせてくれるのかな?
「今宵は、ぼく、、私の為にお集まりいただき誠に有難うございます、ただいまご紹介に預かりました、ロイ・ハーネスです、どうかお見知りおきの程、よろしくお願いします」
ご主人様、普段の一人称である『僕』が出かかってたご様子だ。
人が緊張しているのを見ると、不思議と自分の緊張は和らぐ様で、お陰で私は少し落ち着く事が出来た。
てか、今更だけど、ご主人様『ロイ様』って言うんだね。
「皇帝陛下のご意向に添えるよう、全てを捧げる覚悟で、カイヌ帝国の貴族として、勤めに
あまり13歳らしくないね。
たぶん事前に用意されていたであろう台本通りのコメントだと分かる。
もっと、年相応のあどけないコメントを期待していただけに残念だ。
「これより、私が帝国貴族として相応しい事の証明をお見せ致します、我が忠実なる奴隷よ、側に寄れ!」
とうとう始まってしまった、最大の試練!
心の準備は追いついていないが、仕方がない。
『なるようになれ』である。
「我がグラスへ果実水を注げ!」
命令を下し、ご主人様は手にグラスを持ち、それを前に付き出す。
この命令には特に不満は無いので、私は小さな樽を傾け、ご主人様のグラスへ果実水を注ぎ込む。
私達の様子を見ていたご来賓の方々は、微笑ましい表情で軽い拍手を送っている。
その時、先日の反省で常時発動する様に意識している魔力感知に反応があった。
顔を黒覆面で隠した怪しい集団が、屋敷裏の塀を越えて、敷地内へ侵入したようだ。
あからさまな不法侵入ではあるが、今私はこの場を離れる事は出来ず、誰かに不審者が侵入した事を伝える事も出来ない。
そんな事をすれば、この儀式は中断して、最悪な場合、ハーネス侯爵家は将来お取り潰しになる可能性ものある。
今は魔力感知にて動向を監視するとしよう。
不審者は8人で、ただの物取りにしては物騒なナイフやクロスボウを持ち、異様に殺気だっている雰囲気がある。
「次に我の靴に、忠誠の誓いとして、口づけせよ!」
不審者の事など知るはずもないご主人様は、
今回も特に不満は無いので、ご主人様の前にかがみ込み、靴の爪先へ口づけをする。
あれ!?
もしかして、今世での私のファーストキスってこれか?
いやいやいやいやいやいやいやいや、コレは物だからノーカウントだよね?
そうだよね!?
今のやり取りを見ていたご来賓の方々は、先程よりやや大きめの拍手をされていた。
「素晴らしい!」
「あんな屈辱的な命令を、一切の拒絶反応を出させる事なく遂行させるなんて、さすがですな!」
「ひょっとするとロイ様は、かなり優秀な貴族になるかもしれないぞ!」
何なだか所々盛り上がっているご来賓の方々だが、不法侵入者達がすぐそこまで近づいているという事には気がついていないようだ。
この盛り上がりの陰では、3人の日雇い警備兵が、静かに無力化されている。
あくびをしたり、他人様の家の庭で立ちしょんべんしてる間にあっさりやられてる様子だ。
こいつらは自業自得だな。
でもこの警備の意識レベルの低さは、今世の実家を思い出すので、少し懐かしく感じる。
決してあの頃に戻りたいとは思わないけどね。
「最後に、このグラスへ生き血を捧げ、究極の忠誠を示せ!」
お!?
ご主人様、『指を噛み切り』という台詞が抜け落ちてるよ!?
私が、ご主人様のうっかりに気が付いたとほぼ同時に、パーティー会場の雰囲気がガラリと変化する事件が起こった。
「全員動くな!!!」
先程の黒覆面8人がパーティー会場を包囲し、ご婦人1人の喉元へナイフを突き付けていた。
黒覆面集団のいきなりの襲撃により、パーティー参加者全員が驚愕し、硬直していた。
当然私も驚いていた。
『何とも都合のいいゲストが登場してくれた』という奇跡に対してね。
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