EP21【後始末のあとは、人の温もりを】
ハーネス侯爵家に相応しくない汚物こと、中年使用人を始末した直後の現場をご主人様に見られてしまった。
先ほどまで人間だった汚物の姿や、大量の飛び散った血液だらけの納屋を目の当たりにして、ご主人様は白目を剥き気を失ってしまった。
「あらま、こんなところで寝てしまうと風邪を引いてしまいますよ〜」
私はお姫様抱っこにて、ご主人様をご自身の部屋のベットへご案内してから納屋に戻った。
あれ、デジャヴかな?
汚物まみれになってしまった納屋は、以前契約していた悪魔を呼び出し、血液一滴残らずキレイにしてもらった。
悪魔は何やらブツブツと『また供物ですか?あぁ、私の負債が更に増えてしまう〜』等と訳の分からない事を言っていたが、どうでもいい事である。
後始末が終わったので、私も先輩奴隷の皆さんと合流した。
私の姿を見たお姉さん奴隷は、一目散に私へ駆け寄り抱きしめてくれた。
「大丈夫!? ごめんね、守ってあげられなくて! 本当にごめんなさい!!」
お姉さん奴隷は大粒の涙をこぼして、わんわん泣きながら私に謝り続けている。
「あの〜、お姉さん、大丈夫です、私は何ともないですから、泣き止んでください」
泣き謝りをひたすら続けるお姉さんに困り果て、私は説得してみるけど、更に強く抱きしめられた。
「強がらないで大丈夫だからね、泣いて良いんだよ、辛かったよね、怖かったよね、悔しかったよね!」
ダメだこれ、ぜんぜん話が通じない。
でも、何年かぶりに感じる人の温もりは、そんなに悪い気はしなかった。
つい、前世の最後の記憶で、両親に抱擁されている自分を思い出してしまう。
もう戻らない懐かしい記憶が蘇り、私は思わず涙を流してしまっていた。
お姉さんに引き続き、私まで涙を流した事により、その場にいた他の先輩奴隷全員が泣きじゃくっていた。
そのまま体感時間30分ほど泣き続けて、私はお姉さんより解放された。
その後は、あの人間だった汚物から指示された通り、小川から屋敷の貯水槽までの水運びを夕方になるまで続けた。
私の働きを見て、『強がって仕事へ逃避している』と勝手に勘違いし、何度か泣きながら抱き付こうとするお姉さんを避けながらの作業だった。
普段の重労働ならほとんど疲れない私だが、本日はお姉さんの抱擁回避にて、余計疲れてしまった気がする。
お姉さんも仕事しようね。
邸に帰ると、ご主人様はもうお目覚めになっていた。
ご主人様は、また悪夢を見ていたそうで、納屋での一件は全く覚えていないそうだ。
とりあえず一安心である。
あれ、やっぱりデジャヴかな?
その後、奴隷だけが屋敷に戻ってきて、奴隷預かり係がいない事が問題となった。
お屋敷中を使用人達によって捜索されたが、手掛かり1つ見つからなかった。
最後にあの汚物と接触していたと思われる私へ事情聴取があったが、『あまり思い出したくない』と私が言った事と、以前からのあの汚物に対する悪い噂があった事もあり、それ以上深く聴かれなかった。
それどころか、女性使用人から夕食でもないのに温かいスープを振る舞われ、毛布まで貸してくれた。
何だか今日は皆んなが優しい気がする。
お姉さん奴隷の時もそうだったが、人の優しさに触れると前世の両親を思いだすので、またホロリと涙が出てしまう。
ここでも泣き出した私の様子を見て、今度は何人かの使用人達がもらい泣きしている。
またこのパターンなのか?
とりあえず、行方不明の
私には、あの汚物が再び出てくる事はないと分かっている。
しかし、聴かれてないのだから、答えられる訳もない。
決して嘘は付いていないから、私の良心が傷つく事は全くない。
それに、こんなどうでも良い事で、私の時間を消費する訳にはいかないのだ。
私にはもっと重要な懸案事項がある。
3日後に控えた、ご主人様の成人お披露目パーティー。
そこで予定されている、私の文字通りの出血大サービスについてだ。
悪人や戦場の兵士相手なら、切り刻んで相手に出血させるのは
だが、自分で自分の体を傷つけて血を出すのは、正直言って勇気が出ない。
でも既にご褒美を受け取ってしまっているから、今更『できません』なんて言えるはずがない。
ヤバい、私史上最大の手詰まり感に、どうして良いか分からず頭を抱えてしまう。
その様子を見て、またお姉さん奴隷が泣きながら抱きついてきた。
たくさん頭を撫で撫でしてくれている。
たぶん全くの見当違いな事で、慰めを受けているんだろうな。
今日は何だかもう疲れてしまった。
主にお姉さん奴隷による疲れだけどね。
普段は疲労物質の排出と成長ホルモンの分泌を魔力任せに行っているが、今日はベットで普通に眠りたい気分だ。
特に根拠はないが、明日の私が解決策を見つけてくれると信じて、夕食後、今日は眠る事にした。
ていうか当然のように私のベットに入って来ないで欲しいな、お姉さん。
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