EP20【奴隷にセクハラしていいとでも?】

 3日後にご主人様の成人お披露目パーティを控え、迎えた朝。


 食生活の改善、それぞれに与えられた個室、柔らかいベット、極め付けに働きに対する親方様の労いの言葉により、ここ数日のハーネス侯爵家の奴隷は皆やる気に満ち溢れていた。


 実に喜ばしい限りである。


 職場の同僚が陰鬱いんうつとした雰囲気で働いていたら、私まで陰鬱になってしまう。


 なので、私が奴隷業務を気分良くこなして行く為に、色々と手を回して、この職場を魔改造させてもらった。


 一部予想していた以上に良くなった内容もあり、驚きはしたが、そこは組織のトップである親方様の粋な計らいというやつだろう。


 さすがは私好みのイケオジだ!


 妻子持ちな事や、特殊な趣味がなければ、抱かれても良いと思えてしまう程である。


 最近は夜、一部屋に集まり女奴隷同士ガールズトークで盛り上がっているが、私を含めて1番人気はやはり親方様だった。


 聞き耳に挟んだのだが、親方様に抱かれても良いと思っているのは、女奴隷だけでなく男奴隷も同感だという話だ。


 あまり深く考えないでおこう!


 気を取り直して、本日も元気いっぱいで奴隷業務開始だ!


 いつも通り奴隷全員、中庭へ集合。


 本日の奴隷預かり係が姿を現す。


 しかし、それまでニコニコしていた女奴隷2人が、一瞬で青い顔になって震え出し、腕で自分の体を庇う様な仕草をしている。


 先日の親方様と似たような反応に、何事かと私は疑問に思う。


 本日の奴隷預かり係は、私と初顔合わせとなる中年男性だ。


 残念ながら下腹部がたるんで、下卑げびた笑みを浮かべている、生理的にタイプでない中年男性だった。


 先輩奴隷の表情から察するに、あまり心象の良くない使用人なのだろう。


 「おっ! お前は新顔だな?、、、ふ〜ん、、まだ若いが、発育の良い身体をしている」


 中年男性の言葉に、私は『鳥肌が立つ』というのを数年ぶりに経験した。


 最後に鳥肌が立ったのは、確かまだブリード王国のオーシャン伯爵家にいた頃、今世の父が私を寝室に呼び出した時だ。


 詳しくは思い出したくないが、その後、父は絶叫し、脱いだ服もそのままに、股間を押さえて泣きながら寝室を飛び出して行ったのを覚えている。


 後日、『お前のせいでもう子作りできない体になってしまった!』などと抗議の声があったが、自業自得なので諦めてもらった。


 過去の辛い思い出がフラッシュバックして来たが、すぐに現実に戻り、目の前の使用人に意識を向ける。


 「今日お前達にしてもらう仕事は、近くの小川から屋敷の貯水槽までの水汲みだ! 今から夕方まで休まず働いてもらうぞ!」


 なんだ、先輩奴隷の表情から、いやらしい命令が来るかと思っていたけど、普通の重労働じゃないか?


 転生前の日本人の感覚で言えば、あり得ない重労働だが、この世界では極一般的な奴隷の仕事だ。


 肩透かしを喰らった気になっている私に、この中年使用人は更に言葉を続けた。


 「だが、新顔のお前だけ俺と一緒に来い」


 その言葉を聞いた先輩のお姉さん奴隷が、私を庇う様に抱き寄せ、中年使用人を睨みつける。


 「奴隷の分際で、楯突くんじゃねー! とっとと水汲んでこい!!」


 感情を剥き出しにして叫ぶ中年使用人。


 その言葉に反応して、奴隷の首輪に付いている宝石が強く光だし、歯を食いしばりながら、お姉さん奴隷は他の先輩奴隷達と一緒に小川へ向けて歩き出した。


 ご主人様達から奴隷へ出されている命令は『日中は奴隷預かり係の命令に従え』である。


 よって、その日の奴隷預かり係の言葉には、ご主人様達からの命令と同等の強制力が働くのであった。


 先輩奴隷4人は皆んな、悲壮な表情で私を振り返りながら見てくるが、命令に反する事はできずに歩を進め、そして見えなくなってしまった。


 残された私は、中年使用人に邸の納屋へ連れて行かれた。


 今のところは言われた通り付いていく。


 「では、そこに服を脱いで横になれ」


 あぁ、やっぱりこの手の男だったか。


 何らかのセクハラをしてくるとは思っていたが、あまりにもストレート過ぎるね。


 女を口説きたいなら、まずはその弛んだ下腹を引っ込め、毛むくじゃらの体毛も無くせ!


 後はもっと良い雰囲気作りも意識して欲しい。


 これでは全く、うっとりした気分になれない。


 せっかくの中年男性なのに、この男は私好みのイケオジとはかけ離れた存在なのだ。


 少しは親方様や前世の私の父に近づく努力をしてから、口説いてもらいたい。


 私が黙って評価をしていたら、いつのまにか下着姿になって汚い体を晒していた中年使用人がまた声をかけてくる。


 「おい! 聞こえなかったのか!? 服を脱いでそこに横になれと命令しただろう!!」


 「激しくお断りします」


 「はぁ!?」


 当然だが、この中年使用人も私とご主人様の主従関係について把握している訳もない。


 気の乗らない命令に従わない事に対して、理解できないと言った表情を浮かべている。


 「ちっ、坊ちゃんが上手く奴隷を扱えていないっていう噂話は本当だったのかよ! あのクソガキめ、自分の奴隷ぐらいまともに調教しとけよ!」


 今度は私のご主人様に対して悪態をつき始めた。


 何と失礼な!


 ご主人様だって努力しているのだ!


 ほんのちょっと奴隷の使い方が下手くそなだけで、使用人如きに悪態を付かれていいはずがない!


 あっ!


 ご主人様が上手く奴隷に命令できないの、私のせいだった。


 だが、今はそんな些細な事はどうでも良いのだ。


 問題はこの中年使用人は、私のご主人様を侮辱し、恐らく先輩奴隷のお姉さん達に酷いことをして来たのだろう。


 到底許せる事ではない。


 もはや存在しているだけで、ハーネス侯爵家にとって有害であろう。


 よし、この後の行動は決まった!


 「良いからテメェは黙って俺に抱かれとけば良いんだよ!」


 命令が無効と悟ったのか、今度は実力行使で私へ飛びかかって来た。


 これは正当防衛が必要だよね?


 私は久しぶりに両手に魔力刃を展開し、飛びかかって来た中年使用人をかわした。


 そして背後に回り、この中年使用人改めの両足をくるぶしから切断した。


 「えっ!?、、、ぎ、ぎゃぁあああ! 足がぁああああ! 俺の足がぁあああ!!!!」


 両足をなくし、バランスが取れず床に崩れ落ち、自分の足が切断されている事に気が付いた汚物がうるさく叫んでいる。


 何とかうつ伏せの体勢から、両手を使って仰向けになり、状態を起こした。


 目や口から汚い液を垂らして、私へ人差し指を向けてくる。


 「お、おい、お前、すぐに医師を呼んでこい、命令だ! 早くしろこのクソ女っ、、って、、ぎゃぁあああああああ!」


 人間様に向けて人差し指を向けてくる失礼な汚物は、私にその人差し指を切り飛ばされ、更に煩く騒いでいる。


 あまりに煩いから、近くにあったわらを汚物の口に突っ込んで静かにしてやった。


 残っている指で、慌てて口の中から藁を取り出そうとしてるが、そんな事をされては、また煩くなる。


 「むごぉおおおおおおお!!!!」


 汚物の両手を切り落とす。


 藁を突っ込んであるので、さっきよりマシだけど、まだ煩い。


 あっ、そうだ!


 私とした事が、この汚物が何故こんな仕打ちを受けているのか説明していなかった。


 そりゃあこんなに文句を言おうとするのも、仕方がない事だったね。


 そこは私が悪かったね、この反省は今後に活かさないといけない。


 さっそく私は涙目になっている汚物へ向けて、この仕打ちの訳を説明する。


 ご主人様への悪態。


 先輩奴隷のお姉さん達への仕打ち。


 私への強姦未遂。


 これらの行いにより、この汚物を元人間の肉塊へ加工されると決定済みである事。


 ここまで丁寧に、笑顔を添えて教えてあげた。


 少し優しすぎる気がするが、いくら汚物でも一応加工が完了するまでは人間なのだ。


 自分が何故命を断たれるのか、知る権利はあるだろう。


 私の前世では、いつ、何故、どこで死んでしまったのかも分からないのだ。


 それに比べて、この汚物は幸せ者だ。


 感謝されてもおかしくない筈である。


 「むごぉーおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 藁を口に突っ込んであるのに、先ほどより煩く騒ぎ、のたうち回っている。


 人が親切で説明してあげたのに、未だに納得していない様子の汚物が鬱陶しい。


 「うるさい」


 グチャ


 私は汚物の下腹部を踏み潰し、ようやくその場が静かになった。


 そんな時、騒ぎを聞き付けたと思われる人の足音が納屋の入り口から1人分聞こえた。


 目の前の作業に夢中で、周囲の魔力感知がおろそかになっていたようだ。


 これもまた反省点だね。


 振り返ると、そこにいたのはご主人様だった。


 あっ、これはマズイかな?

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