EP14【暇つぶしに調教でもしとくか】

 私がハーネス侯爵家の一人息子である、ご主人様と契約を果たした、その日の夜の事。


 奴隷部屋に押し込められ、退屈を弄んでいた際に、良い暇つぶしを思いついた。


 それは職場の雰囲気を良くする事だった。


 私の職場、すなわちこのハーネス侯爵邸である。


 ハーネス侯爵邸の主人である親方様の部下に対する態度が、私の目から見たら大変不快だったのだ。


 組織のトップが腐っていると、組織全体が腐るのは当たり前だ。


 このハーネス侯爵邸と言う名の組織のトップ、つまり親方様の調教を今夜の暇つぶしにする事が、たった今決定したのだ!


 とは言え、普通にこの奴隷部屋を脱出することは難しい。


 鍵を壊しても、元に戻せない。


 扉を壊わしても、元に戻せない。


 何とか出られても私がいなくなれば、他の先輩奴隷にバレて騒がれるかもしれない。


 常識的に考えて、バレずに脱出は不可能と思われる。


 だが、私は常識などに興味はない。


 そっと2人の先輩へ近づき、装着している奴隷の首輪に触れる。


 この奴隷の首輪には畜魔鉱ちくまこう』という素材が使われていて、この素材には魔力を条件付きで流し込む事ができる。


 奴隷の首輪に新たな条件を魔力に乗せて流し込んだ。


 『この首輪を装着している者は、赤毛の女性が不審な行動をしている時に、違和感を感じなくなる』


 自分で条件を指定してみたが、あからさまに無理がないだろうか?


 試しに先輩の真上で手を叩いてみたり、耳をふーふー吹いてみたり、パラパラ踊ってみたりした。


 結論、全く気が付かない。


 「マジか!?」


 畜魔鉱、半端ないな!


 だが、必要な時以外はこの効果は解除する事にしよう。


 仲良くなった時に私がボケをかました際、先輩達がツッコミをしてくれないと、とても寂しい。


 とりあえず、先輩達にバレる心配は無くなった!


 次は脱出手段だが、これは算段が付いている。


 家主専用脱出通路が石壁一枚を隔てただけで、奴隷部屋に隣接しているのだ。


 石壁の四辺に魔力を流し込み、目立たない様に破壊。


 家主専用脱出通路へ綺麗に石壁を押し出して外す。


 これで奴隷部屋から脱出完了!


 外にも繋がっているから、外に遊びに出ることもできる。


 だが、遊びに出るのはまた後日だ。


 今日の目的地は親方様の部屋だ。


 そのまま家主専用脱出通路から階段を登り、3階の親方様の部屋の書斎に出る事ができた。


 避難用出入口から親方様のベットが見える。


 今のところ私の接近には気がついていない様だ。


 ここからは慎重に行かねばならない。


 私の姿が見えない様に、幻影魔法を全身に施した。


 足裏には究極魔法『クッション精製』を発動して足音も消す。


 準備完了!


 そっと親方様へ近づき、その私好みのイケオジボディーに夜這い、、、じゃなかった!


 親方様の右手に付いている主の指輪を目視する。


 よく見ると、主の指輪を3つも付けている。


 という事は、本日命令していた男性奴隷2人の他に、私と同室の女奴隷1人とも主従契約している様だ。


 私のご主人様が親方様の息子だから、消去法で奥方様の奴隷は女性奴隷1人という事になるね。


 奥方様は親方様に女奴隷がいる事に対して、嫉妬とかしてそうだな〜。


 さて親方様の顔を見ながら、色々考えていると、いくら偽装していても気配を悟られるかも知れない。


 さっさと目的を果たそう!


 親方様の装着している主の指輪全てに、私は条件を付けた魔力を流し込む。


 『この指輪を装着している者は、自分に対して都合の良い行いや、自分の為に行動をした者に対して、慰労や感謝の言動を強制的に行う』


 これまた無理やりな条件付けである。


 だが、先輩達への実験により、畜魔鉱の効果は絶大だと分かっているので、これで大丈夫だろう。


 これで明日の奴隷へ命令を出す訓練の準備、並びに職場環境の改善化への仕込みは完了だ。


 後は元来た道通り、奴隷部屋へ帰るだけだ。


 奴隷部屋と脱出通路を隔てていた壁を奴隷部屋内側より、魔力で牽引して元に戻す。


 綺麗な断面だった為、完全に元通りの壁に見える。


 もし数人係でタックルしたら外れてしまうだろうけど、たぶん大丈夫。


 先輩達の奴隷の首輪の条件を元に戻し、先ほどの寝床スペースへ静か戻る。


 これにてミッションコンプリート!


 後は朝まで待機だ。


  〜〜〜〜〜〜


 翌日、想像以上の効果だった。


 親方様は命令に従った奴隷や、使用人に感謝や、慰労の言葉をかけていた。


 そこまでは私の狙い通りだったが、奴隷や使用人の反応は予想外だった。


 ちょっと優しい言葉をかけられただけなのに、親方様へ跪き、号泣、忠誠の誓い、命を捧げる宣言をする者までいた。


 その感動的な場面を目の当たりにした私は、心の中で叫ばずにはいられなかった。


 いやいや、あんたらチョロすぎるだろう!!

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