EP13【奴隷の使い方、改】
昨日、13歳になった息子のロイに初めての奴隷をプレゼントしてやった。
とても喜んでいるロイの様子を見ると、逆に嬉しく思うのは父親としての本能という物なのだろうか?
一応、カイヌ帝国では法律により13歳が成人とされているが、まだ何処となく幼さの垣間見えるロイの為なら、財布の紐も緩むという物だ。
今日はそんな可愛くて仕方がないロイに、奴隷への指示の出し方について指導していく。
絶対服従を強要できる奴隷の首輪であるが、奴隷へ命令を出す際に主の指輪へ必要量の魔力を注ぎ込む必要がある。
奴隷が本来は従いたくない様な辛い命令ほど、魔力を多く注ぎ込まないと上手く操る事はできない。
逆に従う事に抵抗の少ない命令に対しては、注ぎ込む魔力量は少量で済む。
その為、命をかける必要がある命令をする場合は、主人側が全力で魔力を注ぎ込む必要が出てくる。
だが今回は、初めての命令を出す体験が目的だ。
なので内容は、主人へ果実水をコップに注いで持って来させる事。
これはほとんど魔力を必要としない、簡単な命令になるだろう。
それを成功させたら、次は果実水を樽ごと持って来させる事。
果実水入りの樽は大体成人男性の1/4ぐらいの重さがある。
男の奴隷なら対しては辛くはないだろうが、女の奴隷だと少し辛く感じるだろう。
初めて奴隷が辛く感じる命令を出す場合の体験としては、丁度良いと思われる。
朝食を終えて、ロイとその女奴隷、私の男奴隷をそれぞれ中庭にある演習場へ連れてきた。
10歩分程離れた場所にテーブルを設定し、その上に果実水の入った樽とコップをそれぞれ2つずつ用意させてある。
まずは私が自分の奴隷へ命令を出して、手本を見せる事にした。
ロイがキラキラした目で私を見てくる。
父親として威厳のある態度で、奴隷に命令を下す姿を見せねばなるまい。
「テーブルの上の果実水をコップに注ぎ、私の元へ持って来い」
軽く魔力を主の指輪へ注ぎ込み、命令を下す。
奴隷は言われた通りテーブルへ早歩きで向かい、コップに果実水を注ぎ私の元へ持って来た。
私はそれを受け取り、果実水を一気に飲み干した。
「うむ、美味い、ありがとう!」
ん!?
今、私は何を言った!?
奴隷に対して『ありがとう』だと!?
奴隷が主人の命令に従うのは当たり前だ。
当たり前の事しただけの奴隷に感謝の言葉など必要ないのだ。
これは良くない手本を見せてしまったか?
息子だけでなく、命令を聞いた奴隷までも少し驚いた様な表情で私を見ている。
気まずい。
「、、、とりあえず、お前もやってみろ」
気まずさを誤魔化す為に、ロイへ実践する様に伝えた。
「えっ、 あ、はい、やってみます!」
いつも私が奴隷へ命令する時と、今回の違いに気がついて、違和感を感じている様だ。
私とした事が、次に手本を見せる時は気を引き締めなければならないな。
息子は主の指輪に魔力を込める為か、凄く力んで腕をプルプル振るわせている様だ
「魔力を使うのに肉体の力は必要ない! 意識だけを指輪へ集中させるのだ」
「はい、父上!」
私のアドバイスにロイは返事を返した後、1度深呼吸をして、改めて魔力を指輪へ送るべく、気持ちを集中させていた。
今度は身体を力ませる事なく、指輪へ少しずつだが魔力を集められている。
「よし、今だ! 奴隷へ命令を出せ!」
私の合図にロイは頷き、女奴隷へ命令を出す。
「テーブルの上の果実水をコップに注ぎ、僕の元へ持って来い!」
息子の主の指輪が静かに発光した。
女奴隷の首輪が通常より少し遅れたタイミングに見えたが、指輪と同じ様に静かに発光した。
反応が遅いのは、首輪の個体差か?
まあ良い。
女奴隷は命令通り果実水をコップ注ぎ込み、ロイの元に持ってきて手渡した。
「はい、どうぞ」
笑顔だと?
奴隷は命令を強要されているはずなのに、笑顔でいるとは不自然だ。
しかし、無事に初めての奴隷への命令は成功した様だ。
細かい事はどうでも良いか。
「ありがとう、ご馳走様」
あ〜、いかん!
最も良くないところを手本として真似てしまった!
よりにもよって奴隷に対して、感謝をしてしまうとは!
奴隷は
奴隷に舐められたら主人としてお終いだ!
だがこれは、先に私が悪い手本を見せてしまった事が原因だ。
何としても次の手本は基本に忠実に、毅然とした態度のまま、命令の行程を見せねばならぬ。
同じ失敗をしては、父親の威厳が損なわれる。
私は次の手本の命令を奴隷へ出した。
「今度は果実水を樽ごと持って来い!」
慌てた為か、必要以上に大声になってしまった。
通常通り指輪と首輪は反応して、奴隷はすぐに果実水の樽を私の目の前に持ってきた。
今度こそは主人としてあるべき言動を見せよう!
「よくやった! 昨日、馬車を持ち上げて痛めた手で、さぞ苦労した事だろう、あ〜、手が血で滲んでしまっているではないか、うむ! 大義である! おい、誰かこの奴隷の手を治療してやってくれ」
!!!!!!!!?????
今の発言は誰のものだ!?
錯覚で無ければ、私の口から紡がれた言葉ではなかったか!?
まさか私が奴隷如きに感謝、労い、更に治療の指示を使用人に出した!?
私はいったいどうしてしまったというのだ?
「えっ!?、あ、、た、ただいま治療致します!」
呆気にとらえていた使用人が、慌てて奴隷の手を治療しに近づいて来る。
違う!
何かの間違いだ!
止めねば、私の威厳が地の底に堕ちる!!
「ありがとう! 君ら使用人にも、いつも感謝しているよ、私達家族が快適に生活できるのは君ら使用人や奴隷の皆んなの活躍があってこそだ、これからもよろしく頼む」
やーめーろー!
私は本当にどうしてしまったのだー!!!???
一瞬の沈黙の後、その場にいた使用人、奴隷達が一斉に私の前へ
ある者は信じられない奇跡を目の当たりにしている様に、目を輝かせて私を見ている。
ある者は感動した様に涙を浮かべている。
先ほど命令に従った奴隷は、大粒の涙を浮かべて私の前にて跪いている。
おかしい!
私は『跪け』などとは一言も命令していない!
「親方様、もったいなきお言葉痛み入ります!」
「この命、尽きるまでお仕えさせていただきます!」
「何と慈悲深きお言葉! 我ら帝国一の幸せ者であります!」
「我らの親愛なる主君よ、何なりとご命令くださいませ! 喜んで従わせていただきます!」
「我が命、親方様の為に!!
その場にいなかったはずの使用人や奴隷まで、ゾロゾロ集まって来てとんでもない騒ぎになってしまった!
もう訳が分からない。
私は耐えられなくなり、その場を逃げ出した。
その後も『親方万歳』を連呼する使用人と奴隷達は、泣き笑いしながらしばらく騒いでいた。
その日を境に、邸の使用人達が以前にも増してテキパキ仕事に性を出す様になった。
奴隷達も辛いはずの命令を活気のある表情で聞き入れる様になり、主の指輪へ送り込む魔力もかなり少なくて済むようになった。
そこまでは良いのだが、何故か私は、私の為に働いている者達への感謝や労いの言葉を言わずにはいられないと言う、謎の症状に悩まされる事になった。
その謎の症状が出ている時、主の指輪が静かに発光している事に気がつく者は、とある少女奴隷を除いて誰もいなかった。
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