EP12【奴隷の勝手にお宅拝見】

 めでたく奴隷として、ご主人様と契約を果たした日の夜。


 ご主人様の家、つまりハーネス侯爵邸へ到着した。


 到着して、すぐにこの狭い奴隷部屋へ案内された。


 1人当あたりシングルベッドの面積しか認められない程の狭いスペースの部屋だ。


 当然、ベッドなどは無い。


 同性の奴隷同士の相部屋で、床に雑魚寝だ。


 この屋敷には私を入れて、女性奴隷3人、男性奴隷2人が在籍しているらしい。


 私以外の4人は親方様と奥方様(ご主人様の母上)の奴隷だ。


 部屋へ私が入るとすぐに扉を閉められ、外から鍵が掛けられた。


 奴隷としてのお勤めは翌日からという事で、呼び出しがない限り寝ている様にと指示された。


 中には既に女奴隷2人が寝ていた。


 気配で私に気が付いている様であったが、2人とまも反応してくれない。


 疲れ切っている様だ。


 とりあえず、何とか1人分空いているスペースを見つけて、身体を休める事にした。


 「隣、失礼します」


 隣の人に声をかけたが、反応してくれない。


 この人も気配的に意識はあると思うのだけどね。


 空いている床に身体を横たえると少し、温もりが残っているのが分かった。


 おそらく、この隣の女奴隷さんが私が来る事に気が付いて、スペースを開けてくれたばかりなのだろう。

 

 今のところ無口だが、たぶんこの人は優しい人だ。


 「スペースありがとうございます」


 私は小声でお礼を言った。


 隣の女奴隷さんは、一瞬ピクって動いたが、やはり返事はなかった。


 シャイなんだね。


 さっそく私はその場で身体を休めるが、当然初めてのお邸でぐっすり眠るつもりはない。


 いつものように魔法で強制的に成長ホルモン分泌と疲労物質の排出を行うのみだ。


 あと、床は板の間なのでまともに寝てると身体を痛めそうだ。


 ガッツリ寝るわけではないが、究極魔法『クッション精製』で身体の下に柔らかい層を作る。


 他の先輩奴隷さん達には申し訳ないが、身体を痛めてまで前に倣えまえにならえをするつもりはない。


 あくまでも個人では快適に過ごさせてもらう。


 身体を横たえながら、私は魔力感知で意識的に邸内をスキャンしてみた。


 ご主人様、親方様、奥方様は3階建ての最上階にそれぞれ広めの部屋が1つずつあり、皆んな高価そうなベッドで休んでいる。

 

 2階には使用人5名分個室がある。


 それぞれシングルベッドとクローゼット、机が用意されている。


 1階には使用人10名分個室が2階と同等のグレードであった。


 その他、大浴場、食堂、キッチン、トイレ、倉庫、納屋、中庭、演習場などがある。


 ちなみに私たち奴隷は地下の男女2部屋だけ。


 建物はカタカナの『コ』の字型だ。


 周辺1km以内に他の建物は感知できない。


 建物の周りには3m程の柵や塀で囲まれている。


 柵にはツタ系の植物が絡み付いていた。


 正門は5m程の高さで、守衛が2人小屋に詰めている。


 私の実家と違って、とても真面目そうに守衛の仕事をしている様だ。


 裏門はない様だが、3階から外壁沿いに地下へ繋がる小さな螺旋階段がコッソリ設置されている。


 襲撃時の緊急脱出通路だろう。


 外からは全く分からない造りだ。


 地下から500m程離れた森の中に出口がある様だ。


 こちらも上手く森に溶け込む様に隠されている。


 匠の技が見て取れるね。


 他にも細々した造りが、お屋敷の所々に見て取れるが、今は省略しておこう。


 今度暇があれば、改造して遊んでみようかな?


 他所は知らないが、ご主人様の物は奴隷ペットの物同然だ。


 『他所は他所、ウチはウチ』理論である。


 さて、お家拝見は大体完了だ。


 でもまだまだ夜は長い。


 いつもなら身体を鍛えたり、近場の図書館とかに訪問(無断で)して情報収集するところだ。


 しかし、至近距離に先輩奴隷がいるから筋トレは迷惑だろう。


 図書館に行こうにも土地感がない。


 そもそも出口には外から鍵が掛けられている。


 破壊するのは容易だけど、元通りにするのは自信がない。


 そうなると、やれる事がない。


 普通の奴隷はこういう時、どうやって時間を潰すのだろうか?


 魔力感知にてを先輩奴隷達を確認する。


 何と私がこの部屋に来て30分ぐらいしか経っていないのに、男女とも熟睡している!?


 そうか!


 失念していたが夜は眠るのが当たり前だった!


 ていうか、よくこんな硬い床の上で熟睡できるね。


 それだけ日中は活動しているのだろうか?


 私も寝るべき?


 でも必要ないし〜


 でも暇だし〜


 ん!?


 考えながら、男の先輩奴隷の寝顔を見てみた。


 2人とも涙の流れた跡が見て取れた。


 男泣きでもしたのかな?


 そういえばこの2人は、この邸に着く直前、親方様の命令で脱輪した馬車の復旧という大変な仕事をさせられていた。


 その際、両手に血が滲んでいる様子があったのに、親方様は奴隷へ労いの言葉を何一つかけていなかった。


 その光景は私から見て、気持ちの良い物ではなかった。


 そして私は奴隷部屋と家主専用脱出通路が壁越しに隣接しているのを思い出した。


 暇つぶしが決まった!

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