EP11【見本とは何だっけ?】

 今回めでたく私のご主人様となったのは、カイヌ帝国のハーネス侯爵家の一人息子だ。


 私より背が頭1つ分高く、金髪、明るめの緑色の瞳。


 たぶん将来的にイケメンに育ちそうな雰囲気を醸し出しているが、私のタイプになる事はないだろう。


 私はイケメンよりイケオジ派だ。


 基準は前世の父である。


 私に憑き従う悪魔も、私のご主人様も、何故イケオジではないのだ!


 むしろ親方(ご主人様のお父上)様の方が良い線を行っている。


 まぁ、私のタイプはどうでも良い。


 今回、13歳の誕生日プレゼントとして、奴隷である私が与えられたようだ。


 前世が日本人の私としては、誕生日プレゼントが奴隷とは感覚がぶっ飛んでいる気がする。


 しかし、ここは異世界で、更には他国と交易などほぼ行われないカイヌ帝国だ。


 前世の日本や今世のブリード王国の常識は、一切通用しない様だ。


 ただ、そのおかげで、私の『ステキな奴隷ペットライフ』の実現が早まったのだから悪い話だけではない。


 ある意味、カイヌ帝国万歳である。


 このカイヌ帝国の奴隷制度はフル活用ならぬフル悪用させて頂こう!

 

 おっと、また顔が緩んでいた様だ。


 ご主人様がまた私の事を訝しむ表情を浮かべている。


 だが、もう契約済みだ!


 残念だが、ご主人様よ、もう私から逃げる事はできないのだよ。


 ダメだ、笑いが止まらない。


 ご主人様の警戒心が上がりまくっている中、一行を乗せた馬車はハーネス侯爵邸へ向かうのだった。



 奴隷市場を出てから約2時間ほど経ち、馬車の御者から後30分ほどでハーネス侯爵邸に着く事を報せられた。


 ハーネス侯爵家の馬車は盗賊団の馬車と比べて割と快適だった。


 私の究極魔法『クッション精製』を使うまでもない程だ。


 侯爵家と言えばブリード王国で私の実家だった伯爵家より、一つ格上だ。


 爵位としては上から2番目だし、中々の贅沢も期待できる。


 まぁ、期待を下回っていたら暴れて、処遇改善を強せ・・・丁寧に願い出れば良いだけの話だ。


 問題ない。


 今後の計画を緩んだ顔のまま立てていると、突然馬車が激しく揺れて急停車した。


 私は思いっきり舌を噛んだ。


 向かい側に座っている、ご主人様と親方様は驚いてはいたが、すぐに体勢を整えて現状確認をしている。


 さすがというか、私が気持ちゆるんでいたというべきか?


 私は常に全方位へ感知魔法を展開していたが、敵性存在の接近はなかったはず。


 それ故に油断していたのではあるがね、、、。


 どうやら、馬車の車輪が道の溝に落ちてしまった様だ。


 これはそんなに珍しい事ではない。


 日本ではほとんどの道路をコンクリートで舗装されていたが、ここは異世界、さらに街の外である。


 コンクリートどころか石畳すらない。


 人の往来があるから草木が刈られていて、道になっているだけだ。


 なので、親方様も慣れた様子ですぐに対応を始めた。


 「ここは私に任せて、お前達は待ってなさい」


 颯爽と馬車から飛び降りた。


 おぉ〜!


 親方様かっこえ〜!!


 やっぱりイケオジは良いね。


 いくら偉くなっても男は率先して問題に取り掛かるものだ!


 ヤバい、妻帯者だろうけど親方様に惚れそうだ。


 「よし! お前ら出てこい!」


 ん!?


 チャチャっと作業に取り掛かると思ったら、併走していたもう一台の馬車の中へ声をかけた。


 すると馬車から2人の男性が降りてきて、親方様の前に並ぶ。


 この2人の首には私が装着している奴隷の首輪と同じ物を装着していた。


 つまりこの2人の男性も、私と同じ奴隷なのだろう。


 「すぐに馬車の車輪を道に戻せ」


 親方様は男性奴隷2人に向けて威圧的な態度で命じた。


 親方様の右手中指に着けている、指輪が鈍く赤い光を放つ。


 同時に男性奴隷2人の着けている、首輪も同様に光を放つ。


 すると男性奴隷2人はすぐに動き出し、馬車を持ち上げ車輪を元の道に戻した。


 顔を真っ赤にし、歯を喰いしばってのキツい作業で、終わった後は両手に血がにじんでいる様子が見てとれた。


 作業を終えた男性奴隷2人は、荒い息を荒げながら、無言で元の馬車へ戻って行った。


 親方様は腕を組んで、その様子をただ見ていた。


 そこに、男性奴隷2人への労いの言葉は一切なかった。


 親方様が私とご主人様の乗っている馬車へ戻ってきた。


 「流石は父上ですね!」


 え!?


 親方様は偉そうに指示しただけで、何もしてないのでは?


 ご主人様の親方様に対しての賞賛に、私は困惑してしまう。


 「ありがとう、お前にも丁度良い見本が見せられた様だな」


 見本とは一体何の見本だ?


 決して人の扱いではなかった。


 仮に前世の日本で今の様な態度で従業員に接していたら、労働基準監督署へチクられるぞ。


 実際、私は労働基準監督署へ、しっかり証拠を揃えて弁護士と協力してブラック企業の上司どもを密告していた。


 パワハラやセクハラをする奴らだったから、当然の報いだろう。


 何故か派遣社員だった私は契約更新はされず、同じ業種には二度と採用されなかったがね。


 弁護士を通して慰謝料をしっかりもらっていたから、少しの間無収入でも問題なしだ。


 しかし、ここは異世界だ。


 ブリード王国でも労働基準監督署なる機関はなく、弁護士を雇うなど王族や貴族にしか認められない。


 おそらくカイヌ帝国も似たようなものだろう。


 つまり、奴隷は非人道的扱いをされても何処にも訴え出る事はできないのだ。


 これは私が求めていた奴隷ペットライフとは全く異なっている。


 私は同じてつを絶対に踏まない!


 その為の準備は整っている。


 「明日は奴隷へ命令する練習をするぞ、朝食を終えたら邸裏の演習場へ一緒に行こう」


 「はい、父上! 僕、頑張ります! よろしくお願いします!」


 まるで初めて自転車を買ってもらった子供と、子煩悩の父親の微笑ましい会話だ。


 内容が内容なだけに、そんな穏やかな気持ちでは見ていられないがね。


 「明日が楽しみです!」


 ご主人様は純真な少年の笑顔だ。


 ご主人様、私も楽しみだよ。


 たぶん、違う意味でね。

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