第1章、ご主人様は貴族の息子編

EP10【運命の会合】

 悪魔、魔法、首輪、筋肉などなど色々問題を何とか片付けた3日後、私のいる檻の前で人の気配がする。


 「この女を貰いたい」


 何やら父親ぽいオジ様に連れられた、あからさまに貴族の坊ちゃんが私を指さしている。


 これが例の初めて奴隷を買うという坊ちゃんの様だ。


 片眼鏡ダルマが私の首輪に鎖を取り付けて、坊ちゃんの前まで私を引っ張って行く。


 「こちらの坊ちゃんが、お前の新しいご主人様だ」


 片眼鏡ダルマが下卑げびた笑顔で説明している。


 短い説明だったが私には十分だった。


 「ご主人・・・様・・・?」


 しっかりと奴隷として弱々しい『無力ですよアピール』をしながら一言発し、目の前の坊ちゃんを見つめてみる。


 これから私は、このご主人飼い主様を上手く調教して、理想の奴隷ペットライフを実現していく事になるのだ。


 先の事を想像したら、真顔だった口端が跳ね上がり、少し目尻が垂れてしまった。


 おっといけない!


 私としたことが、まだ本契約前だ。


 契約前だと『やっぱり別のが良い』とか言われかねない。


 ここは自重しよう。


 あ、ヤバい!


 この坊ちゃん、今私の一瞬緩んだ顔を見逃さなかった様だ。


 私の顔を訝しむ様に睨み付けてる。


 失敗したか!?


 奴隷ペットとして選んでもらうには、いかにも無害な事をアピールせねばならないのに、ここで笑ってしまえば何か企んだいると勘違いされてしまう!


 まぁ、企んでるんだけどね。


 しばらく気まずい見つめ合いや、他の奴隷と私の比較を何度か繰り返している。


 そして坊ちゃんは私に改めて指をさした。


 「やっぱりこの女で良いや」


 妥協で選ばれた!?


 『この女が良い』ではなく『この女で良い』だと!


 これは女としてのプライドが許せない。


 だが、ここで私が拒否する選択肢はない。


 そもそも権利がない。


 前世の父の教えが再び頭を過ぎる。


 『ペットはご主人様を選ばない』


 だから、ここは我慢だ!


 それに、一度契約をされてしまえば、こちらのものである。


 ご主人様が奴隷ペットである私を捨てる事は、カイヌ帝国の法律により禁止されているらしい。


 そこに付け込み、しっかりご主人様を調教してやれば良いのだ。


 片眼鏡ダルマが坊ちゃんに最終確認をしてから、契約の証である主の指輪を渡している。


 それを坊ちゃんが指にはめてしまえば、正式に契約成立だ。


 一度、その指輪をはめれば、例え外したところで契約解除できない。


 既に片眼鏡ダルマから説明は受けていたらしく、坊ちゃんは恐る恐ると言った表情で、ゆっくり指輪を右手の中指にはめた。


 その瞬間、指輪に付いている小さな宝石から私の首輪へ、静電気みたいな光が走り、一瞬で消えた。


 「おめでとうございます、これにて契約は完了です、この奴隷は生涯貴方様の忠実なる下僕としてお仕えする事になります」


 片眼鏡ダルマが祝福の言葉を坊ちゃん改め、ご主人様へ贈っている中、誰にも見えない様に私はガッツポーズを決めていた。


 勝った!


 これで、このご主人様は私から逃げる事はできない。


 これからじっくり調教して、理想のご主人様へと育成して行こう。


 後、選んでくれたのは良いが、私のプライドを傷付けられた為、機会があれば憂さ晴らしに付き合ってもらおう!


 ご主人様如きが、奴隷ペットへ舐めた口を聞きいた事を後悔するが良い。


 私は契約したご主人様の後ろに付き従い、奴隷市場の出口へ向かう。


 出口には馬車が2台駐めてあり、私はご主人様と、その父親らしきイケオジと同じ先頭の馬車に乗る事になった。


 魔力感知により後方の馬車には外側に御者の男性、内側に俯いている男性2人が乗っている事が分かる。


 後方の馬車は私達が乗っている馬車に追走している事から、この2台はどちらも同じ家の所有物で間違いないだろう。


 と言う事は、このご主人様一家は相当な金持ちの可能性が高い!


 これは、ご主人様ガチャ大当たりの予感!


 前世では親ガチャに大当たりではあったが、ご主人様ガチャには恵まれなかった。


 今世は逆で、親ガチャ外れのご主人様ガチャ大当たりになる模様!


 なかなかガチャ両立は難しいけど、未来が明るいならそれに越した事はない。


 奴隷ペットは飼い主がお金持ちの方が、当然勝ち組となる。


 私も奴隷ペットとして金持ち一家に引き取られるという、勝ち組ルートに入った事を確信して、小さなガッツポーズを決めてしまう。


 その様子を怪訝そうに見ているご主人様とその父親はこの際、放っておこう。


 私はその後も道中、突発的にニヤケ顔になりながら馬車に揺られるのだった。


 『情緒不安定ですかね?』とか『変な奴隷買ってしまったか?』とか、何やら小声で話されている気がしたが、たぶん気のせいだろう。

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