EP09【牢屋deトーク】

 この度、念願の奴隷ペットライフの登竜門として、奴隷デビューを果たしたところまでは良かった。


 このまま私は無事ご主人様に飼ってもらうはずが、その前に私自身がご主人様になってしまった。


 『何を意味の分からない事を?』と思われるだろうが、私もそう思う。


 私に付き従う、もとい、憑き従う事になった悪魔が今、私の影に控えている。


 何の警戒もせず着けてもらった、奴隷の首輪にまさかの魔法を自由に使えなくなる効果を付与されていたのだ。


 魔法が使えないという事は、幻影魔法も使えない。


 幻影魔法が使えないと筋肉質な身体と貧にゅ、、、、色々と誤魔化していたのに、それがバレバレとなってしまうのだ。


 こんな身体の女奴隷など、誰も選んでくれるはずもない。


 選ばれなければ売れ残ったペットの如く、悲惨な末路を迎える事になる。


 仕方なく、悪魔の力により首輪に付与された『許可なく魔法を使えない』という効果を無くしてもらう事にした。


 これにより私は自由に魔法を使える様になった。


 さっそく今まで通り幻影魔法を用いて、滑らかでスレンダーな肉体を取り戻し、貧にゅ、、、肝心な所を誤魔化して、ご主人様に選んでもらいやすい私に戻る事ができた。


 その代償として、私は悪魔のご主人様となる事を、了承せざるを得なくなった。


 魔法が使える様になったので、この奴隷の首輪の効果は自由に書き換える事ができる。


 奴隷ペットとしてご主人様如きに絶対服従などあり得ないので、『強制的に服従する』を『気が向いたら言う事を聞くだけは聞く』に書き換えた。


 その他の効果は敢えてそのままにした。


 その方が奴隷ペットの私には都合が良いのだ。


 紆余曲折あったが、これにて夢の奴隷ペットライフに入る準備は整った。


 後は、ご主人様が私を選びに来るのを待つだけだ。


 しばらくして奴隷商人の下っ端だと思う筋肉男が私の食事を持って来た。


 筋肉男は私を見て、驚きの目を向けて来た。


 「嬢ちゃん首輪をつける前の貧弱な身体に戻っちまったのか!?」


 貧弱とは何だ!?


 これはスレンダーでグラマラスな魅惑的ボディーと言うのだぞ!


 言葉は正しく使いたまえ!


 「やはりオーナーの言う通り、奴隷の首輪の不具合だったか、魔力の込められたアイテムだから、一時的に魔力が暴走して肉体強化され、精神が耐えられず、失神しちまったんだな」


 何だか都合の良い勘違いをされている様だ。


 特に訂正する必要もないので、そのままにしておこう。


 「一時的にあの理想の肉体を手に入れたと思うが、やはりズルはいけない、今は元の貧弱な身体に戻っちまったが、諦めずに自分を鍛えてりゃぁ、またあのナイスな筋肉を得られるはずだぜ! 気長に頑張ろうな!」


 得られてたまるか!!


 イヤ、実はもう得ているが、、、。


 「えへへへ、、頑張り、、ます」


 とりあえず苦笑いでも返しておこう。


 筋肉男は私の食事に若干、肉を多めに入れてくれて、笑顔で去っていった。


 この世界でも筋肉作りにタンパク質が有効な事は知られている様だ。


 美容の為にもタンパク質は必要なので、ありがたく食べるけどね。


 決して筋肉のためではない!


 「そうそう嬢ちゃんって、ブリード王国の、オーシャン伯爵家の令嬢だよな?」


 食事をしていたら、筋肉男が戻って来て、今世の私の実家の事を聞いて来た。


 何故知っているのだ?


 「その赤髪赤目は帝国でも有名になっているからな」


 意外にも我がオーシャン伯爵家はカイヌ帝国でも名が知れ渡っている様だ。


 少し戦場で頑張りすぎたからだろうか?


 もう少し手を抜くべきだったか?


 今更だね。


 「ブリード王国には戦に連戦連勝しているオーシャン伯爵家があって、そこの2番目の令嬢が赤髪赤目の美少女だと評判だって言う話だ、もし、そうならば嬢ちゃんは買われた後、高値の身代金と引き換えにブリード王国に帰れる事になるだろうな。 良かったな〜、不幸にも奴隷になっちまった様だけど、無事に母国へ戻れれば、また自由な身になれるんだ」


 その話を聞いて私は凍りつく。


 そうだった。


 奴隷といえば、戦争捕虜みたいな扱いされる事もある。


 戦争捕虜は人質交換や身代金との引き換えの道具にされるのが、主な使い方だ。


 そうなれば、せっかく手に入れた奴隷としての立場を、速攻で失う事になってしまう!


 それだけは何としても避けねばならない。


 ならば!


 「って、あれ! 嬢ちゃん思っていたより赤髪はそこまで濃くはなかったか? よく見ると肌も薄く小麦色でとても貴族の令嬢には見えないな」


 私は幻影魔法を調整して明るめだった赤髪を暗めの赤髪へ変更し、箱入り娘特有の日焼けのない肌から、健康的に日焼けした薄い小麦色へ変更した。


 余りにも激しい外見の変化は、誤魔化しが効かないが、この程度の変化なら記憶違いで済むはずだ。


 「悪い、どうやら人違いだった様だな、まっ、気を落とさずに頑張りなよ」


 フォローの言葉をかけてくれた後、筋肉男は再び去っていた。


 しかし、早いうちに教えてくれて助かった。


 危うく捕虜として身代金交換で、ブリード王国に戻される所だった。


 ブリード王国に戻されたらオーシャン伯爵家唯一の生き残りとして、女伯爵家当主となり、奴隷は愚か政略結婚で嫁ぐ事も叶わなくなる。


 ただでさえ悪魔のご主人様になってしまったのに、さらに領民や使用人のご主人様にまでなってはたまらない。


 本人は気が付いていないだろうが、あの筋肉男は貴重な情報提供により、私の恩人となった。


 いずれ何かの恩返しができれば良いなと、静かに考えながら私は冷め切った食事を続ける事にした。


 「、、、不味い、、、」




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