EP08【初めての主従契約】
よ〜く寝た!
こんなに寝たのはいつ振りだろうか?
ところで何故、私は寝ていた?
私は常日頃、寝る間も惜しんで自分磨きに励んでいる。
ここ数年は成長ホルモン分泌と疲労物質排出を魔力任せにして、睡眠不要な身体を保っていた。
そんな私が眠っていた?
そんなバカな!
とりあえず落ち着こう。
こういう時は最後の記憶を、ゆっくり思い出すのだ。
確か、カイヌ帝国の街にやって来て、奴隷商人の所に来て、片眼鏡ダルマに首輪を付けてもらって、脅かそうとして、逆にムキムキで驚いて、気絶した。
思い出せた様だが、未だに何に驚いたのかイマイチ分からない。
何だムキムキって?
寝起きのせいか、未だに頭がぼんやりしている様だ。
「誰か現状を教えてくれないかな?」
私はまともな判断能力が回復していない様で、誰もいない空間に話しかけていた。
「かしこまりました」
誰もいないはずの空間から声が聞こえる。
あぁ、分かった。
魔法でズルしてまで睡眠時間を節約したツケが、ここにきて脳の異常として現れた様だ。
その証拠に、とうとう幻聴が聞こえている。
やはり単純に『成長ホルモンと疲労物質を何とかすれば睡眠不要』だなんて、簡単に考えるべきではなかった。
今後はもっと睡眠を大切にしよう。
「さっそく二度寝だ、おやすみなさ〜い」
「えっ、ちょっと! ご主人様!? 何故にまた寝ようとされてるのですか!? 起きてください、説明しますから寝ないでください!!」
「何だよ幻聴のくせに、やけにクリアに聞こえるな〜、寝れないでしょ、、、、、、てか今、ご主人様って言った!?」
聞き捨てならない単語を聞いて、私は飛び起きた。
「よかった、起きて頂けましたね」
声の主は何もない私の足元の影からスーと身体を出現させた。
何だこの燕尾服姿のイケメンは?
私はイケメンよりイケオジ派だぞ!
「お初にお目にかかります、この度、ご主人様の従者として契約させて頂きました悪魔にございます。 以後、お見知り置きを」
「は?」
えっ、悪魔?契約?従者?
どういう事?
混乱している様子の私の事を察してくれた様で、悪魔を名乗るイケメンは『やれやれ』という仕草の後に、どこからともなく黒板とチョークの様な物を取り出した。
手早く時系列から契約に至ったまでの流れを書きながら説明してくれた。
要約すると以下の通りである。
・王立図書館から持ち出した悪魔召喚の書に、私が魔力を無意識に注ぎ込んでいた事。
・私が切り刻んだ盗賊団の遺体と、盗賊団が殺した我が家の家族や使用人達の遺体を依代に、悪魔が受肉できた事。
・私が今まで刈り取って来た魂を供物(報酬)の先払いとして悪魔が受け取っている事。
・受け取った報酬の分、私の従者として働かなくてはならない事。
ここまで説明を受けて何とか悪魔の存在を理解できた。
正直、全て偶然の産物で、私は一切意図して契約していない。
だが、一度契約をしたら、受け取った報酬の分だけ働かなければならないそうだ。
前世の日本ではこういった、一方的な契約は無効申請できそうな物だが、生憎この世界でその様な制度はないそうだ。
「そういう訳で、これから末永くお仕えさせていただきます。 何卒よろしくお願い致します」
深々と綺麗なおじきをする悪魔だ。
これ、どう考えても執事的な見た目と仕草を意識しているよね?
「そういう事ね。 貴方の存在は分かったわ」
私の言葉で悪魔が安心した様子になり、こちらを見てくる。
「だが断る!」
「えっ!?」
笑顔のまま硬直している悪魔。
私の放った言葉を理解するのに時間がかかっているのかな?
意外と悪魔の情報処理能力はそこまで高くない様だ。
なので、前世の両親に似て優しい私は、悪魔にその理由を教えてあげる事にした。
「私がなりたいのは飼い主の立場ではなくて、ペットの立場なの! これから晴れてペットになれるところなのに、何故私が悪魔をペットにしなければいけないのか!? そんなの絶対にお断りよ!」
私の優しい説明を聞いた悪魔はイケメンの顔のままだが、あからさまに動揺した様子だった。
「えっと、、、お考えは理解いたしました、、、でも、、あの、、、えっと、、きっと何かのお役に立てる、、、はずで、、えっと、、」
悪魔はしどろもどろだった。
どうして良いのかわからず、目が左右に泳いでいる。
「あ、そうです! 貴方様の首につけていらっしゃる、その首輪をどうにかする事もできますよ!」
「は?」
せっかく手に入れた
この悪魔は本当に頭が悪いのではないかと、私が思い始めていたところ。
「お見受けしたところ、そちらの首輪は『
ちくまこう?
初めて聴く。
何じゃそりゃ?
私の知らない知識であると判断した悪魔は、改めて黒板にチョークで書きながら説明してくれた。
本来、この世界では身体から離れた魔力は触れている物体以外は、魔力を保持できない。
しかし、畜魔鉱というカイヌ帝国のとある鉱山でしか採掘できない素材には、手から離れても込めた魔力が蓄積されるそうだ。
畜魔鉱に魔力を込める際、魔術師が魔法の効果を指定して付与する事もできる。
私が着けたこの畜魔鉱製の首輪には以下の効果が付与されているそうだ。
・この首輪を装着した物は、主の指輪を着けた者に対して強制的に服従する事になる。
・『主の指輪』とは首輪と同じ素材の畜魔鉱にてセットで作られる。
・この奴隷の首輪と主の指輪はそれぞれ装着者には破壊できず、破壊を実行しようとすれば、全身の力が抜けてしばらく動けなくなる。
・奴隷の首輪の装着者は主の指輪を着けた者の命令以外で魔法を使用できない。
「以上がご主人様の着けられている首輪に付与された魔法の効果になります」
通りで睡眠不要の私が寝ていた訳か。
ん!?
魔法が使えなくなっているという事は、常時発動していた幻影魔法も消えている?
そして、私が気絶する直前の『ムキムキ』の記憶ってもしかして。
私は恐る恐る、自分の身体を見下ろした。
ムキムキだった。
鍛え抜かれた肉体だった。
「ご主人様、、、ナイスバルク!」
私は悪魔に飛び掛かった。
「ご主人様、私は悪くありませ〜ん! ダメ、骨、折れる〜! ってほんとに人間!?」
悪魔は危うく私に狩られかけたが、身体能力だけでは仕留めきれず未遂に終わった。
「落ち着かれましたね、そんなにご心配される事はありません、ご主人様のその首輪の効果をすぐに無力化致します」
「必要ないわ。自分で効果を書き換えちゃうから」
「えっ!?」
当然である、私は肉体強化だけでなく魔法にも精通しているのだ。
畜魔鉱という素材には驚いたが、ネタが分かってしまえば効果の書き換えなど簡単だ。
こんな事で悪魔を役に立たせて、私がご主人様ポジションにさせられてたまるものか!
それではさっそく、、、、、できない?
魔法が使えない!?
「ご主人様? ひょっとして、ご主人様は、バ」
私が一睨みして悪魔の台詞を強制ストップさせる。
当然だった。
魔法を封じられているのに、魔法の効果を魔法で書き換えるなど出来るはずもなかった。
力無く崩れ落ちる私を見て、悪魔が笑顔で語りかけてくる。
「改めてまして、末永く、よろしく、お願いします、ご主人様」
「、、、こちらこそ、よろしく、、、お願いします、こんちくしょう!」
ここに新たな主従関係が成立してしまった。
実に不本意な事、この上ない。
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